016、公爵家とご挨拶です
「シルフィー、明日はクロード公爵家に行くから準備しておいてね」
「くろーどこうしゃくけ?」
「そう。ちょっと、当主に用事があるんだ。それで、向こうがシルフィーにも会いたいと言ってきてね」
「わたしにですか?」
「シルフィーはもう少し小さい頃に一度会っただけだったかな。シルフィーが元気になってからは会ったことが無かったしね。それに、向こうの令嬢はスティラの婚約者だから、未来の義妹に会いたいそうだ」
「おにーしゃまのおよめしゃま! あいたいです!」
というのが昨日の朝のお父様との会話です。という訳で、今日はお父様とお兄様とクロード公爵家へ行くことになりました。もちろん馬車で。その中で、だれが私を膝に乗せるか争い、結果、お父様が勝利しました。勝負については、どちらがより多く私の愛らしいところを言えるか、というものだったので、割愛します。聞いてる方が恥ずかしかった。膝に乗れるのは嬉しいけど、この時ばかりは椅子に座りたかった。
クロード家に着くと、私達の屋敷と同じくらい大きな建物と、広いお庭が目に入った。思えば、他の人のお家にお邪魔するのは初めてかもしれない。あ、でもお城も一応王族のお城だから、二回目かな?
私達が門に近づくと。門番さんが連絡をしてくれたのか、すぐにお屋敷から人が出てきた。
知らない人だよ……。よくよく考えれば、私は人見知り予備軍です。……嘘です。完全なる人見知りです。
だ、大丈夫、アル様とだって普通……、かは分からないけれどお話は出来たんだから、きっと初めて会う人でもなんとかなるよね。
それにしても、お兄様の婚約者かぁ。どうやって決まったんだろう。私達みたいに政略結婚かな?恋愛結婚だったらとっても素敵。小説にお兄様の婚約者なんて出てきたかな?私が覚えていないだけかも。そういえば小説にクロード家って出てきたかなぁ?
「やぁ、待っていたよ」
片手を上げながら私達に挨拶をするのは多分クロード公爵だ。お父様とは親しいらしく、とてもフレンドリー。お父様も「呼び出しやがって」と、笑いながら返している。
とってもいい人なんだろうなとは思う。でも、顔が怖い……。何度も言うけど、いい人なんだろうというのは分かる。でも、体が大きくて、目つきも鋭い。
「ふぇ……」
しかも目付き鋭い!私の背が小さいから威圧を感じるよぅ……。泣こうと思って無くても涙が出ちゃう。そんな私の姿を見て、公爵様が慌てている。
「え、あっ、ロイド! ど、どうすればいいんだ?」
「まぁ、お前顔怖いからなぁ」
「しみじみと言うなよ……」
本当にごめんね、公爵様……。泣きたくて泣いているわけじゃないんだ…。
「すまない、怖がらせたな」
しゃがんで目線を合わせながら、そう言っててくれる。やっぱりいい人だった!ついでに頭も撫でてくれる。うん。間違いなくいい人。怖いけど、正面から間近でみると、格好いい。
「あれ?」
ふと、疑問ができた。公爵様、誰かに似てる気がするんだけど……。そう、何だかずっと前に見た何かに……。多分今世ではない。前世で見た……、ふわふわの……。クマの……、ぬいぐるみだ!
「ふぁる!」
前世で大切にしていたクマのぬいぐるみ。夜寝るのが寂しかった時に、養護施設にいた年上のお兄ちゃんがくれたやつ!なつかしいなぁ。気に入って、直ぐにファルって名前をつけたんだ。焦げ茶の毛並みがそっくり。目が黄色いところも。
「ファルって何だ、ロイド?」
「いや、私もわからん」
クロード公爵様がお父様に疑問をぶつける。が、お父様も分からない。分かるわけもない。何故なら私の前世の友達のようなものだから。
「おっきいふぁる!」
しかしながら、私にはもう、公爵様はファルにしか見えていない。
「おっきいファル?小さいファルがいるのだろうか?ところでファルって何だ?」
「まぁ、シルフィーにはそう見えたんだろう。」
「そ、そうか。まぁ、泣かれるよりは……」
そう。私はもう、公爵様はファルにしか見えない。そう思うと、クマみたいに厳ついところも怖い顔も大好きになってきた。
「ふぁる、だっこ!」
そういった途端、公爵様は目を見開いていて、お父様は公爵様に嫉妬の目線を向けていた。けれど、今の私には関係ない。大きいファルに会えたことに何より興奮していたから。今のシルフィーには、後で行動を見返して羞恥でおかしくなるという事を考える暇も無かった。
「ちょっと高いが我慢してくれよ?」
公爵様は幼子に抱っこを強請られるなんて、何年ぶりか……。と、感動しながら私を抱き上げた。その手つきは顔に反してとても優しかった。あ、顔に反しては失礼だったね。
「高いです! 楽しいです!」
楽しくて首にぎゅっと掴まる。本当は肩車もして欲しい気分になったけど、流石にそれは令嬢としてマズイ気がする。例え、公爵様の背が高くて肩車をやったら絶対楽しそうだと思っても、「肩車してください」という言葉は言ってはいけない気がする。意地でも我慢しなさい。抱っこで我慢しなさい。そして、お父様とお兄様が恨めしい顔で公爵様を見ていたけど、気にしない。
「あら、ルシファー様が可愛らしい子を抱いているわ。ルシファー様が子どもに怖がられていないなんて……、幻覚かしら?」
そう言いながらこちらに歩いてきたのは美しい女性だった。その後ろから女の子2人と、男の子が歩いてくる。先程言葉を発したのは恐らく公爵夫人だろう。というか、公爵様ってルシファーって、名前なんだね。ファルって名前なら良かったのに……。でも、名前にファとルが入ってるから間違いではないかな?そして、自己紹介してない事に今気がついたよ。する前に私が泣いちゃったから。
「ルシファー様、これは幻覚かしら?それとも現実?」
「驚くことに現実だよ、ダイアナ」
「まあ!」
ルシファー様の自信満々な返答に、公爵夫人のダイアナ様は大袈裟に驚いた顔をする。
「まぁ、最初は泣いていたがな」
「おい、それを言うな!」
お父様の言葉に素早く公爵様が突っ込む。というか、ルシファー様の顔は怖いのに、ダイアナ様はとても美しい。これぞ正に『美女と野獣』。2人の出会いとかを脚色して、演劇とかにしたら人気出るんじゃないかなぁ。と、ついつい思考が明後日に行ってしまう。
あ、自己紹介……。今してもいいかな?ルシファー様に抱っこされた状態だけど……。いっか!
「あの、わたし、シルフィー・ミル・フィオーネです!」
「あぁ、そういえば自己紹介をしていなかったな」
はい、そうです。何故ならする前に私が泣いたから。
「私はルシファー・ミル・クロード。よろしく頼む、シルフィー嬢」
「はい、るしふぁーしゃま!」
「……」
私が挨拶して名前を呼ぶと、ルシファー様は黙ってしまった。何か不味かったかな?
「ダイアナ、この子うちで育てないか?」
「あら、いいですわね!」
ルシファー様の冗談にダイアナ様も乗っていく。
「「よくない!」」
お父様とお兄様が勢いよく否定する。よかった。これで「どうぞ」なんて言われてら家出する所だった。
そして、ルシファー様の腕から降りたところで、女の子と男の子がいることを思い出した。ごめんなさい、本気で忘れてました。
「あの、えっと……」
どうしよう、私、人見知り発揮してる。もしかしたら私の人見知りって同年代に特に発揮するのかも。どう話したらいいか分からない。思わずルシファー様の足に隠れる。お父様とお兄様は「何故私の足じゃないんだ!」と言っていたけど、ルシファー様の足が1番近かったから仕方ない。抱っこから降ろされたばかりだからね。
「シルフィー嬢、私の子ども達だ。怖がらなくていい」
そう言いながら頭を撫でてくれる。この手は素晴らしい。安心感がやばい。
「私は長女のディアナよ。こっちは妹のマリー。よろしくね。」
綺麗な笑顔で自身と妹を紹介してくれたのはディアナ様。ディアナ様もマリー様も笑顔が美しい。優しそうな笑顔と言葉遣いに、警戒心がほぐれていく。
「はい! おねがいします!」
ところで、どっちがお兄様のお嫁さんなんだろう?ディアナ様?それともマリー様かな?私がお兄様とディアナ様とマリー様を交互に見ていたからだろうか、マリー様が気づいたように発言してくれた。
「私がスティラ様の婚約者なの。だから、姉と呼んでくれると嬉しいわ」
「あら、ずるいわマリー。シルフィー、私の事も姉と呼んでくださいな?」
スティラお兄様のお嫁さんはマリー様だったんだ!
「マリーおねーしゃまと、ディアナおねーしゃま?」
そう呼ぶと、ルシファー様と同じように固まって……、
「ねぇ、スティラ様。やっぱりシルフィーをくださらない?」
「そうよね。お父様、お母様、シルフィーをうちで育てましょう。」
「「賛成」」
と言った。それに対して、お父様とお兄様は
「「ダメ!」」
と即答した。なんか、デジャブ……。
そういえば、男の子もいたんだった。皆でフル無視してたよ……。そう思って男の子に目を向けると、それに気がついたルシファー様が紹介してくれる。
「息子のリシュハルトだ。シルフィー嬢と同い年だから、仲良くしてやってくれ」
リシュハルト様は私に手を差し伸べてくれる。私もそれに手を伸ばし握手をする。
「ぼくはリシュハルト。シルフィー、よろしくね!」
「はい! おねがいします!」
「ねぇ、シルフィーって呼んでもいい?」
「はい!」
「ぼくのことはリシューでいいよ」
「りしゅー?」
「うん!」
わたし的には短い方が呼びやすいから助かるけど。それに、同い年の友達って初めてかも。遊びたいなぁ。私の中の子ども心が疼きまくってる。でも、リシューは遊んでくれるかな?この世界の男の子ってどのくらい大人びてるんだろう?でも、お兄様はいつも遊んでくれるし……。リシューがダメだったらお兄様に遊んでもらおう!
「リシュー、あそぼ……?」
リシューの服の裾をつかみ、首を傾げて聞いてみる。
「うん!」
それに対してリシューは直ぐに返事をしてくれた。それから追いかけっこをしたり、かくれんぼをしたり、花冠を作ってみたり思いつく遊びを何でもやった。途中、スティラお兄様達も混ざって子ども全員で遊んだりした。もちろん皆鬼ごっこの時は私にだけ手加減してくれました……。だって、リシュー足早いんだもん!同い年なのに!同い年の子と遊ぶ機会なんてそうないから、とにかく思いっきり遊んだ。
昼食を食べた後、また皆で遊ぼうと思ったけど、マリーお姉様はスティラお兄様とお話中。本当はお兄様ともっと一緒に遊びたいけど、邪魔したらダメだよね。お兄様とはお家で遊べるし。……だったら、
「ディアナおねーしゃま、えほんよんでください!」
ディアナお姉様に遊んでもらうしかないよね!
「ふふ、もちろんいいわよ。リシューも一緒に聞く?」
「はい! ぼくも、あねうえと、シルフィーといっしょします!」
ディアナお姉様とリシューと一緒に書庫へ向かう。
「何の絵本がいい?」
「おひめさまのえほんがいいです!」
「ぼくはきしがでてくるのがいいです!」
私がお姫様の絵本で、リシューが騎士の絵本。見事に分かれたなぁ。
「なら、『ルルの花束』って絵本はどう?昨日書庫に入ったばかりなのだけど、とても面白かったのよ?お姫様も騎士様もでてくるわよ?」
「「それにします!」」
天気がいいから、外の芝生にシートを敷いて読むことにした。ディアナお姉様の両サイドから私とリシューが絵本を覗き込んでいる。そして、優しい口調でディアナお姉様が語り始める。
「ある所にルルというお姫様がおりました。ルルはとても美しく、国中の人気者です。しかし、ルルは悩みを抱えていました。それは、王様が結婚を急かしてくることです。早く決めないと、王様が決めた人と結婚することになっています。結婚相手は自分で決めたい。好きな人と結婚したい。その為、ルルは必死に結婚相手を探しますが、結婚したい人は中々見つかりません。何故なら、ルルは好きという感情を理解出来なかったからです。」
結婚はやっぱり好きな人としたいよね?……私はどうなんだろう。私とアル様の結婚は王家と公爵家の繋がりを持つための結婚だと思うけど。でも、貴族の結婚なんて、大体が政略結婚だと思う。アル様はお兄様みたいな存在だけど、とりあえず物語が始まる15歳までは、いい関係を築いていけるといいな。
「ふわぁ~」
ついあくびが出てしまった。
「ごめんなしゃい……」
「ふふ、今日は暖かいものね。一緒にお昼寝しましょうか。リシューも眠たいでしょう?」
ディアナお姉様の言葉を聞いてリシュー様を見てみると、リシュー様も目を擦っていた。
「ぼくもねむいです」
「でも、えほん……」
続きが気になるのも本当。それに折角楽しい時間なのに寝てしまうのは勿体ない気がする。
「大丈夫よ。起きたら絵本を読みましょう?それに、これから何度も遊びに来てもいいのよ?そう考えたら時間はたっぷりあるわ」
「!」
そっか、何度も来ていいんだ。嬉しくてついディアナお姉様に抱きつく。
「あらあら」
そう言いながら頭と背中を一定のペースで撫でてくれる。だ、ダメです。そんなことされたら……。記憶はそこで途切れました。
「ふふ、よく眠っていますね」
「ええ、そうなのよ。私達の未来の義妹は可愛いでしょう?」
「それはもう。ところでリシュハルトは?」
「リシューなら、起きてマリー達と遊んでいると思うわ。あの子、スティラ様とマリーも大好きだから」
夢の中でレオンお兄様とディアナお姉様の声が聞こえる。レオンお兄様はここにいないはずだから、夢で間違いない。ところで2人には可愛い義妹がいるの?誰だろう?マリーお姉様の事かな?だって、ディアナお姉様の妹のマリーお姉様はスティラお兄様のお嫁様で、スティラお兄様は私のお兄様で、私はアル様のお嫁様で、アル様はレオンお兄様の弟で……、何だか難しい……。取り敢えず、私にはお兄様とお姉様がいっぱいって事!……あれ?何か話がズレたような……?
「2人とも静かにしてください。シルフィーが起きてしまうでしょう?」
「「はーい」」
アル様の声も聞こえてきた。アル様がここにいるはずないから、やっぱり夢だよね?
「だいたい、シルフィーと一緒に寝るなんて、いくら幼くても許せない」
「私も一緒にいたのよ?」
「ディアナ義姉上は女性だから構いません。でも、男は許せない」
あれ、夢だよね……?本当に?皆の声がなんだか鮮明に聞こえる。
目を開けると、まず1番にアル様の顔が飛び込んできた。でもすぐに瞼がくっつきそうになるから、ごしごしと目を擦る。
「ほら、起きてしまったじゃないですか」
「「すみません……」」
なんで、アル様がいるんだろう?レオンお兄様とディアナお姉様がアル様に怒られてる?アル様も2人以上に話してた気が……。
「ありゅ、しゃま……?」
「おはよう、シルフィー。まだ眠たそうだね?」
「あい……」
アル様がいるわけないし、まだ、夢見てるのかな?夢ならもっと甘えてもいいかな?
「ありゅしゃま、だっこ……」
そう言って、アル様に向けて両手を広げる。でも、アル様は、顔を覆って上を向いたまま固まって、中々私を抱っこしてくれない。夢でも甘えちゃダメなのかな?そう思うと泣きそうになる。
「……め?」
「!! だ、ダメじゃないよ!」
アル様は慌てたようにそう言いながら、ゆっくりと私を抱っこしてくれる。はぁ、幸せ。
「今日のシルフィーは甘えん坊だね」
「め?」
「ううん、全然。」
「じゃあ、あたまもなでなで、して…?」
「あぁ、もう。本当に可愛い」
そう言いながら、ゆっくりと頭を撫でてくれる。幸せ。あれ、でも何か撫でられている感覚がリアルだぞ?これって夢だよね?現実だったら恥ずかしいよ……。
「ありゅしゃま、ほんもの?」
「えっと、夢か現実かっていう意味なら現実だよ?」
げ、現実だったんだぁ!やけに感覚がリアルだと思ったよ……。アル様、怒ってないといいなぁ。
「ごめんなしゃい、ゆめだとおもって、いっぱいあまえちゃいました…」
「寧ろ、もっと甘えてくれてもいいんだよ?……可愛かったし」
アル様が最後にボソッと呟いたけどよく聞こえなかった。でも、甘えていいんだ。嬉しい。
私が起きたから皆でお菓子を食べることにした。そこで、私は疑問をぶつける。
「どうしてここに、アルしゃまと、レオンおにーしゃまが?」
だけど、私の疑問には答えて貰えなかった。何故なら、
「なんでシルフィーはレオンハルト殿下のことをお兄様と呼んでいるの?」
お兄様が笑顔で聞いてくる。けど、笑顔が怖いよぅ……。
「レオンおにーしゃまが、そう呼んでもいいよって……、だめですか?」
涙で潤んだ目でスティラお兄様を見つめる。
「何故だろう。姉が増えるのは一向に構わないんだけど、兄が私以外にいるのは……」
な、なるほど。でも、
「あのね、レオンおにーしゃまは、アルしゃまのおにーしゃまだからおにーしゃまなの。でもね、スティラおにーしゃまは、わたしのおにーしゃまだからおにーしゃまです!」
うん。自分で言っといてよく分からない。でも、スティラお兄様はなんか感動してるみたいだから良しとしよう。
「それで、どうして殿下方がいるんですか?」
お兄様、それ私がさっき聞いた質問……。答えて貰えなかったけど……。お兄様、何か王子様たちと親しげ?……あ、そういえば、お兄様って、レオンお兄様の側近だったっけ?次期宰相だしね。たしか、レオンお兄様が王様になるタイミングで側近から宰相になってレオンお兄様を支えていくんだったかな?お兄様の他にもレオンお兄様の側近は何人かいるそうだから、問題は無いみたい。
「執務が早く終わったので、ディアナに会いに行こうとしたんのですが、それを聞いたアルが一緒に行くと言うものですから」
「アルしゃまは、ディアナおねーしゃまとなかよしですか?」
「仲良くない訳では無いけど、どちらかと言えば、ディアナ嬢と仲が良いのは兄上の方かな。私はシルフィーに会う為に着いて来たから」
私の疑問にアル様が答えてくれる。アル様とディアナお姉様が仲良しならもっと嬉しいのに。でも、アル様は私には会いに来てくれたんだ。そう思うと心がほわ~って、暖かくなる。でも、どうしてレオンお兄様はディアナお姉様に会いに来たんだろう?
「レオンおにーしゃまは、ディアナおねーしゃまとなかよしですか?」
「そういえば、シルフィーは知りませんでしたか。ディアナは私の婚約者なんですよ」
「え! じゃあ、レオンおにーしゃまも、おにーしゃまになるんですか?」
「うん、そういうことになるね。」
ディアナ様もマリー様もお姉様、レオン様もお兄様。
「ふふ、おにーしゃまとおねーしゃまがいっぱいで嬉しいです!」
思わず両頬に手を当て、笑いをこぼしてしまう。そんなシルフィーの姿はどこからどう見ても愛らしく……
「「「可愛い、尊い。」」」
そう言って多数倒れ込んだ。なんだか、久しぶりな光景?
それにしても、
「いいなぁ」
思わず私が呟いた言葉に、レオンお兄様はどうしたのか聞いてきた。
「何が羨ましいのですか?」
「おにーしゃまと、まりーおねーしゃま、なかよしなの。おたがいをだいすきなの、うらやましいです。レオンおにいさまとディアナおねえさまも」
「シルフィーもアルと仲良しですよね?」
私が本当に羨ましそうにしていたのが分かったのか、レオンお兄様はそう言ってくれる。
「わたし、うれしいときにからだがほわぁってなります! あるしゃまといっしょにいると、いつもふわぁってなるから、わたし、あるしゃまだいすきです!」
シルフィーの言葉にその場にいた全員が癒される。宰相の仕事が忙して中々家族との時間が取れ無い為陛下に八つ当たりしようとしたロイドも、娘の愛らしさに陛下への怒りが全部飛んでいった。例え、その言葉が自分に向けられた言葉でなくても……。
アル様と一緒にいると、本当のお兄様と一緒にいるような安心感がある。
「あるしゃまはね、これからさき、もっとすてきなひととあって、そのひとのことがすきになっちゃうかもしれないの」
私がそういった途端、場が凍りついた気がした。
「ねえ、シルフィー。それ誰かから言われたの?」
アル様が笑顔で聞いてきた。なんだろう、笑顔なんだけど怖い。有無を言わさぬ笑顔ってこういう事なのかな?
「い、いわれてないです!」
「なら、どうして、そう思ったのかな? 私が他の人の所に行ってしまうって」
ふぇ~、アル様がなんか怖いよぉ。私、こういう顔に弱いのよ。しかもなんか怒られてる感じがして泣いちゃいそう。本当に言われて慣れてないんです!
「だ、だって、ほかにもいっぱい、きれいなひといます! あるしゃま、そっちにいっちゃうの……。わたしのこときらいになっちゃうの!」
やっぱり泣いちゃった。しかも、これって小説の話だった。言ったらダメなのに。アル様が他の人の所に行ってしまうのも、私の事を嫌いになるのも全部小説の中の話。今、私の目の前にいるアル様の事じゃないのに。やっぱり私の中で割り切れていなかったのかなぁ。私が泣いているのを見て、アル様は慌てている。早く泣きやまないといけないと思い、必死に目を擦る。
「大丈夫だよ、私はシルフィーの事を嫌いになんかならないよ」
「……ほんとうですか?」
「うん。もしそんな事があったら、シルフィーの兄姉に殺されそうだし」
「ころ?」
「ううん、間違えた。怒られそうだしね」
「おにーしゃまと、おねーしゃまはおこりませんよ?」
お兄様もお姉様も私に怒ったことないもん。2人が喧嘩しているのはよく見るけど、私に対して怒鳴ったことは無い。そんな事を考えていた私は、アル様が「まぁ、可愛い妹には怒らないよね。でも、シルフィーを泣かすと私は本当に命が危ないんだ……。今もスティラに睨まれてる気がする」と呟いたことを知らなかった。そして、私を泣かしたことで、アル様が皆から冷ややかな目線を向けられていることに、必死に泣きやもうとしている私は気づかなかった。
「アルしゃまが、ほかのひとのところにいっちゃうのは、とってもさびしいです。だからね、いまはわたしがアルしゃまをひとりじめするの」
少なくとも、今は誰にもアル様を譲ってあげない。そんな気持ちを込めてアル様に抱きつく。なのに、周りの目はとても生暖かくて、何となく恥ずかしくなった。