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158、強いけれど弱い人でした


 ソフィアは結局夕食の時間になっても起きなかった。


「どこか、体調が悪かったりするのかなぁ?」

「そうじゃないといけれど」


 ただの寝不足だったらまだいいのだけれど。でも、こんなに起きないものだろうか。

 体調不良だった場合、ソフィアは自分自身に光の魔法を使えるのだろうか。もし使えるのだったら自分に使ってほしいな。もし出来ないのだったら、私が全力で看病する。何が出来るか分からないけれど、全力で。私が苦しかった時にはソフィアが楽にしてくれたから、私もソフィアの力になりたい。


 ルートお兄様はいつも通り、私達と一緒に夕食を食べたけれど、その後はずっとルートお兄様の部屋で寝ているソフィアの様子を見ているらしい。ソフィアのお部屋じゃなくてルートお兄様の部屋で寝かせているところがルートお兄様らしい。


 きっとただの寝不足だよね。ソフィアのうたた寝なんて本当に初めて見て、びっくりしちゃった。私は15歳になっても、うたた寝は良くしちゃうけれど、ソフィアは授業中だってちゃんと起きて真面目に授業聞いてるもんね。わ、私だって授業はちゃんと聞いてるよ?ただ、アル様とのお茶会とかって、だいたい昼食の後とかが多いから、お昼に加えて、お菓子を食べちゃうとどうしても天気の良さも相まって眠たくなっちゃうんだよね。仕方がないよね。





 私はいつも通り、アル様と一緒にアル様の布団に一緒に潜り込む。アル様にぎゅーって抱きつくと、アル様ももっとぎゅーって抱きしめてくれる。


「ふにゃあ」


 頭まで撫でられると、幸せでしかない。


 もっともっと近づきたい。もっともっと幸せになりたい。


 私とアル様が一緒に寝ても、もう誰も何も言わない。前からだけどね。だってみんな私達の間に何もないことを知っているから。いつも通り、アル様が用意してくれていたふわふわのうさぎの着ぐるみパジャマを着て小さくまるまる。どうせならアルも様同じものを着てくれれば、私もふわふわのアル様に抱きしめてもらえて幸せなのにね。でもアル様は着てくれそうにない。1度一緒にお揃いにしようってお願いしたのだけれど、苦渋の決断に迫られたような顔をして、挙句断ったのだ。きっとアル様が来ても可愛いと思うんだけれどね。





「ねぇ、アル様。リヒト様……、リヒトから見てリーアはどんな人でしたか?」

「リーア……?」

 

 アル様は悩んだように手を口元にあてる。私自身が感じているリーアと、リヒトが感じているリーアは違うかもしれない。これはただの興味本位。


 夢を見る。リーアの夢。それは私のようで私ではない。けれど、どこか悲しくなってくる。まるであの夢のよう。あの悪夢のよう。とても幸せで優しい夢なのに怖い。


『お前はもう逃げられない。お前は誰からも愛されない、お前は誰も愛せない』


 なぜかこの言葉が浮かんでくる。

 悪夢は懐かしいけれど、これは悪夢といえるのだろうか。本当に悪夢なのだろうか。優しいリーアの夢なのに、なぜ怖いと感じるのだろうか。

 どうしてこの言葉を思い出すのだろうか理由はわからない。


 あぁ、怖い。


「彼女はとても強い女性だけれど、弱い。それがリヒトから見たリーアかな」

「弱い?」


 自分で言うのもどうかと思うけれど、リーアは強かったと思う。正直、あの時はリヒトより剣は強かった。


「弱いと言っても物理的な力じゃないよ。彼女は戦う力は強かったけれど、いつも寂しそうだったから。」

「寂しそう?」

「その寂しさはリヒトでは理由は分からなかったけれど、でも、ふとした時に少し寂しそうな表情をしている時があったんだ。」


 ………。


「何かに怯えているような姿も見られたから、僕がそう勝手に感じただけだけれどね。」

「そう、なんですね」









 夢を見た。みんながいて笑って手を取って。

 争って泣いて悲しんで。

 抱き締め合って笑い合って。



『お前はもう逃げられない。お前は誰からも愛されない、お前は誰も愛せない』



 でも、そこに私はいない。



『お前はもう逃げられない。お前は誰からも愛されない、お前は誰も愛せない』



 人間は愚かだ。愚かだから争う。

 人間が争うのは、それが定められたものだから。



『お前はもう逃げられない。お前は誰からも愛されない、お前は誰も愛せない』



 光になって消えていく人々。大地となって落ちていく人々。たくさんのそんな人を見てきた。 でも、そこに私はいない。誰も私の最後を知らない。私の最後は神しか知らない。



『お前はもう逃げられない。お前は誰からも愛されない、お前は誰も愛せない』



 私は一体誰だろうか。

 いや、これはきっと、リーアの記憶。

 かつてのリーアの記憶。



『お前はもう逃げられない。お前は誰からも愛されない、お前は誰も愛せない』



 リーアもこの夢を見たのだろうか。





「シルフィー!」


 慌てたようなアル様の声で目が覚める。


「ある、さま……」


 私が目を覚ますと、アル様は私の頬に手をあて、そのまま私の顔を覗き込んだ。

 アル様の手がひんやりしていて気持ち良い。



『お前はもう逃げられない。お前は誰からも愛されない、お前は誰も愛せない』



 また、この夢を見た。怖い。

 けれど、あの頃とは違う。あの頃はただ悪夢というだけで怖かった。けれど、その夢に慣れてしまった今、怖いけれど、そこまで恐れることはないと気づいた。だって意味が分かるから。


 恐れる事はない。だって、愛なんてなくても、私は生きていけるから。


「私は、私だ。」


 アル様がそう言ったから。だから私は大丈夫。その言葉を胸に、心配そうなアル様をよそに、もう一度眠りについた。





 そして朝、私はソフィアを見て思わず呟いた。


「なに…、これ……」



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