157、珍しい事です
可愛い。でも意地悪。
それがソフィア。
いつも格好良くて綺麗で礼儀正しい。
それがソフィア。
そんなソフィアを見て、私達3人は目を丸くする。そして、こそこそと小声で話をする。
「珍しいですね」
「珍しいね」
「シルフィーじゃあるまいし。」
ちょっとルートお兄様。「シルフィーじゃあるまいし」って、失礼じゃありませんか?
思わず頬を膨らませてルートお兄様を見た私は悪くないと思う。
で、一体何が言いたいかというと。
いつも背筋を伸ばして美しい姿でしゃきっと座っているソフィアは今、フォークを片手に持ったまま、こくりこくりと船を漕いでいるではありませんか。
「昨日眠れなかったのかな?」
「レッスンが忙しかっただろうか」
私達が小声で話しているとはいえ、こんなに近くで話してるのに。ソフィアはだんだんと瞼が閉じていっている。
「ソフィア?」
「?!、ごめっ、すみません!」
小さい声で呼びかけてみると、ソフィアははっと驚いたように目を開けた。
それでもまだ眠たそうだ。
「昨日眠れなかったの?」
「ん……、なんか変な夢見て…」
まだ話してる途中なのに、ソフィアは眠たそうで、話すスピードがゆっくりになっているし目も閉じてきている。
本当に眠たかったのだろう。だってソフィアが人前で、特に今なんて王族の前なのにこんな姿になっているなんて。私は小さい頃から皆の前でお昼寝をよくやっちゃっていたけれど、ソフィアは初めてだろう。
でもそれだけ気を許しているって考えたらソフィアにとってはいい傾向かもしれない。この世界でソフィアがこんなに気を許せる人が目の前にいるっていう事だもの。
そしてとうとう、完全に目を閉じて、手に持っていたフォークを落としてしまった。
「ルートお兄様、」
私はお願いするように問いかけると、ルートお兄様も私の意思を汲んでくれたのか、一つ頷いてソフィアのところに動いた。
ソフィアは本格的に瞼が閉じてしまい、段々と体が傾いていっていた。そんなソフィアを横から支え、お姫様抱っこにしたルートお兄様は、メイドさんが急遽敷いてくれたシートにソフィアを寝かせた。
ルートお兄様は、そんなソフィアの枕になるべく、シートにあぐらをかいて座る。
こんなに動かされて起きないソフィアは珍しいと思う。
ルートお兄様とソフィアがシートにいるのに、私とアル様だけ椅子に座っているというのもなんだか変なので、私とアル様も一緒にシートに座る。幸いシートは広かったから、私達4人が座って、そこにケーキや紅茶などを置いても全く問題はない。
ルートお兄様はソフィアの手を握りながらゆっくりと頭を撫でる。
ルートお兄様に盗られちゃうのは悔しいけれど、ソフィアはすごく可愛い。
だって、ルートお兄様に頭を撫でられて、表情が緩んでるんだもん。だってほら、握ってるルートお兄様の手に頬を擦り付けてるんだもん!可愛いの暴力!寝ててもなお可愛い!
あっ!ルートお兄様がやばい!すっごく悶えてる!
たぶん、ソフィアの枕になっていなければ、すっごく暴れてそう!
分かる!わかりますよ、ルートお兄様!可愛いですよね!
アル様だけはなんだか微笑ましそうに微笑んでいるけれど、その余裕をルートお兄様に分けてあげて欲しい。
私たち3人はソフィア起こさないように小声で話を続ける。
「それにしても、ソフィア嬢がこんなになるなんて、本当に珍しいね」
アル様も口元に手を当てながら考え込んでいる。
「私もソフィアが人前で寝る姿なんて初めて見ました。」
「変な夢と言っていたけれど、少し気になるね」
「はい」
あっ、ルートお兄様、私達と会話をしながらもソフィアの方を見て癒されてる。ソフィアの事好きすぎません?いい事だけれど。
あ、今更ですけど、私はちゃんと座っていますよ?アル様のお膝の上じゃありせんよ?
アル様が凄く残念そうな顔してるのは気にしませんよ?気にしないったら気にしない。
「これから、ソフィアと一緒にいる時間が減るのは少し寂しいなぁ」
ルートお兄様が珍しくポツリと呟く。ルートお兄様が自分の気持ちを言うなんて珍しい。
でもそうだよね。ルートお兄様は3年生で、もう学園を卒業しちゃう。そうしたら、学園に来ることなんて滅多にないから、ソフィアに会えるのはソフィアがお城に来た時とかお出かけする時とかだと思う。
でもそれを言っちゃうと、私とアル様だってそうなのですよ。私とアル様は、学園に通う時期が1年も被らなかったから一緒にいられるのは今日みたいに私が学園がない時だけ。そう思ったらルートお兄様はソフィアと1年間一緒にいられたんだからいいと思うのです!
でも、今まで会えていたからこそ、会えなくなるのは寂しいっていうのはちょっとわかるかもしれない。私だって、今ソフィアと離れるってなったら少し悲しいもん。少しじゃなくてすごくだけれど。もちろん、ルートお兄様が卒業するのだってすごく寂しい。
卒業したら、どうなるのだろうか。このまま、何もせずにアル様と結婚するのだろうか。それとも私にしか出来ない何かを見つけられるだろうか。
私に出来る事ってなんだろう。お菓子の爆食いとか……。いやいやそれはさすがにダメだよ。私が言ってる事はそういうことじゃないのです!なんかもっとこう、国民の役に立てることみたいな…。
だめだ、私には何も思い出せない。まあ、あと2年あるから、もう少しゆっくり考えたらいいか……。いいよね?
「でも、そろそろ起こさないとね。」
アル様がそういった時、時刻は既に夕方だった。
「そうですね」
私とルートお兄様もアル様の言葉に同意し、ソフィアを起こそうとするけれど、揺すっても声をかけても、ソフィアは全く起きる気配がなかった。
「本当に眠たかったんだね。」
ルートお兄様はそのままソフィアを横抱きにし、馬車の方まで歩いていく。……のかと思いきや
「ソフィアはこのまま城に泊めることにするよ。起きそうにないしね」
と言った。
いいなぁ!
ずるいずるい!私も寝たふりをしておけば泊まれたりしたかな。
「シルフィも泊まる?」
そしてアル様は、私の心を読んだようにそう言ってくれた。
「いいんですか!」
「もちろん」
「やったあ!」
みんなとお泊まり!何だかお泊まりすることに抵抗がなくなってきているな。
いいこと、かな?




