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リーア・ライ・ドマールpart1


 頭痛を伴う、この感覚を知ってる、『桜』を思い出した時と似ている。


 ふと、記憶を思い出した。約1000年前の記憶。私はフロイアン国の王都チャペルに住んでいた。





 リーア・ライ・ドマール。


 それが私の名前だった。私は世界最強の騎士と呼ばれていた。そして、私が剣を振るう姿をみたものは皆、揃ってこう言った。





『氷の美剣士』





 そう呼ばれるようになったのは私が騎士になった年。おそらく18歳の時だろう。肌も白く、髪も薄水色をしていたため、このように呼ばれたのだと思う。誤解の無いように言っておくけれど、私は別に剣を振るう事が好きだった訳ではない。ただ、生きるために、民を、王を守るために剣を覚えただけだ。





 今から1000年前のフロイアン国と言えば、隣国のヘイン国との争いが絶えなかった。ヘイン国は、気候変動が激しく経済状況が困難であった。それにも関わらず、フロイアン国は、いつでも気候がよく作物を作るのにも適していた。加えて鉱山では豊富な資源がとれたりと、ヘイン国から侵略を受けるのには十分な条件を持っていた。もちろんその時のフロイアン国王リヒトは、資源をヘイン国に分け与えようとした。フロイアン国の貴族もリヒトの考え方に賛同していた。もし戦争で勝利したとしても、フロイアン国ほど資源が豊富な国はなく、フロイアン国にはほとんど利益はないため、戦争を進めようとする貴族もフロイアン国にはいなかった。なにより、戦争になれば、一番に傷つくのは国民だと理解していた。


 国民は王族や貴族の考えを理解し、資源をヘイン国に分け与える準備をしていた。国民が、あっさりと、このように自分たちの資源をヘイン国に分け与えようとするのには理由があった。それはリヒト自身の力が大きいからだろう。





 先代の国王はひどいものだった。豊富な資源を生かそうともせず、それどころか自身の為のみに使い、民をかえりみない政治を行う。多くの国民が病で倒れ、助けを求めても、国王は臭いものには蓋をしろとでも言うように、一切目もくれなかった。国民のほとんどが生きることを諦めていた。

 それを救ったのがリヒトだった。リヒトは国王毒殺という、一見許されないような罪を負いながらも、民の為、と寝る間も惜しんで働いた。国民に、城に蓄えてあった作物を分け与え、土地を与え、農業技術を与えた。


 時間はかかったが、結果、多くの民が一日三回、十分な食事を取る事が出来るようになるまで回復した。さらに生活水準を上げるために、仕事場、学校制度、他にも多くの政策を行った。民の、リヒトへの感謝は言い表せないほどだった。実際に私、リーアもリヒトにはとても感謝していた。リヒトのお陰で奴隷身分だった私は解放され、自由に生きることをゆるされた。


 私がリヒトに出来る恩返しはリヒトの望み通りに、農作物をヘイン国に分け与えることだけ。そう考えている民は多く、実際、多くの資源が集まった。後はこれをヘイン国に送るだけだった。





 しかし、そこで問題が起こった。ヘイン国は資源供給では満足しなかった。あろうことか、ヘイン国は侵略を宣言してきた。どうしてもフロイアン国の恵まれた土地が欲しいのだろう。リヒトはヘイン国に交渉し、戦争を回避しようとした。しかし、ヘイン国は聞き入れなかった。そして、多くの民が徴兵された。唯一の救いは、王の為に戦おうという志が民にあったことだ。男性は戦士として、女性は食事係や治療係として動員された。私も、食事係として動員された。


 また、ちょうど民から資源が集められたこともあり、それらも戦争のために使われた。





 戦争は優勢だった。フロイアン国は、リヒトや宰相が軍師としてよく機能しており、民に無理のない、かつ効果的な作戦を立てた。しかしヘイン国は、兵士の数はフロイアン国よりも倍近く多かったのに対し、それをうまく生かしきれず、追い込まれていた。そうなってくると、フロイアン国は少しばかりの余裕が生まれる。



 しかし、この余裕が油断を招いた。





 食事の時間になり、私達は食事の配膳をしていた。今日は治療の方で人手が足りなくなったらしく、いつもの人の代わりに私はリヒトに食事を届けに行った。私は、リヒトの姿を見たことはあれど、話すのは初めてだった。憧れの王に、緊張しながら食事を届ける。リヒトが優しい声で私に礼を言う。その声で私の緊張も幾分かほぐれた。私はリヒトに、自分が奴隷身分であったにも関わらず、今、このように幸せに暮らせていることへの感謝を述べた。


 リヒトもその感謝が嬉しく、話に花を咲かせている頃だった。急に女性の高い悲鳴が聞こえた。振り返ってみると、見覚えのない顔の、フロイアン国の武装をしている男が銃で一人の男性を撃っていた。後から知ったのだが、彼はフロイアン国の兵の武装を奪ったヘイン国の兵士だった。自分達が劣勢になった為、何とかしようと思ったのだろう。撃たれた男性は大量の血を流しながら蹲っている。女性は治療しようとしたが、動くと男に銃を向けられてしまい、ただ立ちすくんでいた。


 その時だった。


 男はリヒトに気付き、銃をリヒトに向けた。男は顔に笑みを浮かべていた。

 その銃口はリヒトの側にいた私にも向けられており、恐怖で足が動かなかった。





 パンっ





 という、銃を撃つ音に頭が真っ白になった。その弾は徐々にリヒトに近づいていた。何故か私には全てがスローモーションのように見えた。驚いて避けようにも間に合わないリヒト。悲鳴をあげる女性。もうダメだと顔を伏せる男性。私は恐怖で動けないはずなのに、


 足が、手が勝手に動いた。


 リヒトの前に出て、手に持っていたおぼんを使い弾をはじく。おぼんが鉄製だったことが幸いした。銃を打った男も、リヒトも、民衆も、皆が驚いた顔で私を見つめる。我に返った男は、更に銃を撃った。次々と、休む暇なく撃ち込まれる弾を私は全てはじいた。最後の方には、おぼんが耐えられなくなってしまうと思ったため、おぼんの側面を使い、軌道をずらす。全ての弾を使いきった男はフロイアン国の兵士になすすべもなく捕まり、殺された。静まり返った場で、皆の視線は私に向いていた。私も自身に驚いた。今まで銃を向けられたことはおろか、持った事すらない。私は自分の手とおぼんを見つめた。なんの変哲もない普通の手。最近は料理ばかりしていた為、多少のあかぎれはあるが、他人より少し白い私の手。その手にはボロボロのおぼんが握られていた。もう一度でも弾が打ち込まれればきっと穴が空いてしまうだろう。


 リヒトを守りたい。


 その一心で動いた。全てがスローモーションのように見えた。初めての経験だった。自身の体験に驚いていると、後ろからリヒトに抱き締められ、そして、怒られた。お前が死んだらどうする、俺ならどうにかなった、と。


 私はそれを聞いてつい、反論を言ってしまった。あなたは王だから死ぬわけにはいかない。民が王を守るのは当たり前だ。あなたがいなくなったらこの国はどうするのか、と。

 それに、どう考えてもリヒトは一人ではどうにかならなかった。明らかに間に合いそうに無かったから。私はそれを何度もリヒトに訴えた。分かってほしかった。リヒトを大切に思っているのは私だけではなくフロイアン国の国民全員である事。皆は王だからではなくリヒトだから慕っている事を。そのリヒトが死んだら国民が悲しむ。その場にいた国民も一緒になって訴えた。その結果、リヒトは涙を耐えるような表情をしたあとに、優しい顔で「ありがとう」と言った。それに対し国民も安心したような表情をした。





 結果、フロイアン国は勝利した。差し出せるものが殆ど無かったヘイン国は、最終的に地図上から消えた。戦争に動員された兵士や、女性は金銭的な恩賞が与えられた。中でも、敵の弾から王を直接守った私には自由に恩賞を望む事が許された。初めは金銭を望もうと思ったが、リヒトのお陰で私達は余程の散財をしない限りは普通に暮らしていける。

 ならば私の望む事は騎士となる事。今回の動員でそう思った。現在この国では、騎士は男性しか認められていない。別に差別から来るものではない。ただ、安全面を考えてだ。しかし、私は騎士になりたかった。私は奴隷時代によく走りまわらされていたから体力にはかなり自信がある。銃は持ったことないが、棒を振り回して魔物と戦っていたので、剣の扱いにはすぐとはいかないが慣れるだろう。なにより、近くでリヒトをお守りできる。これ以上の幸せが他にあるわけがない。すぐには頷かれなかったが、必死に訴え、何とか承認を得た。





 訓練を開始する前は、女の癖に、と私を蔑んでいたり侮っていたりした男性も多かった。しかし、実際訓練を開始すると、男顔負けの体力と度胸を披露した。剣術はまだまだだったけれど、女という特徴を生かした素早い動きで相手を翻弄した。男性達は私を認めだした。そのうち訓練では私の事を女だと侮るのではなく、越えるべきライバルと認識してくれていた。18歳で騎士になってから、仲間と鍛えあい、一番に王のことを守り続けてきた。そして呼ばれるようになったのは、





『氷の美剣士』





 23歳の頃には、副団長になっていた。その結果、王の近衛騎士という、願ってもない機会が訪れた。いつもリヒトの側にいて、お守りする。充実していた。その際、二人きりの時は陛下ではなく、リヒトと呼ぶように、と言われた。初めは畏れ多く、断ったが、何故か、呼んでくれないとしばらく口をきかないと言われてしまった。正直、私は護衛である為、本来は口をきくどころか、黙って後ろからついていったり、壁際でじっと黙っていなければならない。故に名前で呼ぶ機会はないから必要ない。という理由でさらにお断りした。しかし、その瞬間、分かりやすく落ち込まれた。そして、「皆が私このとを陛下と呼ぶから、一人くらい名前で呼んでくれる人が欲しい。」そう呟いた。リヒトは王になってからずっと一人だったのだ。だから、私が心を揺れ動かされたのは仕方がなかったと思う。これが私がリヒトのことを、このように名前で呼んでいる理由だ。


 25歳になった。リヒトの護衛をすることも慣れ、いまだに少し緊張するが会話をすることにも慣れてきた。名前も二人きりの時は普通に呼べるようになってきた。「敬語で話すな、普通に喋れ」と言われた時は全力で回避した。リヒトはまた拗ねて色々と言ってきたが、これだけは譲れなかった。いくらリヒトからの許可があったとしても、私は護衛だ。それ以上は踏み込んではいけない。リヒトは毎朝会うたびに言ってきたが、こればかりは無礼を承知で何度もお断りした。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 結局のところリーアがお盆で防いだのは《銃弾》なのか《矢》なのかどちらなんでしょう? 誘拐された時の状況とリンクしているなら《矢》で、歴史的に過去に銃があって現在は出てこないことにすごく…
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