152、不思議な感じです
その後、私とアル様は、バラ園に来ていた。
今日の私とアル様は、準備万端なのです。なぜなら、お茶とお菓子と敷物を持ってきています。えっ、さっきまでお茶会をしていただろうって?気のせいですよ?
私とアル様が敷物を広げた所はよく馴染みのある場所。薄水色のアネモネがあるところ。
そしてなんと、このバラ園に合わせてお城の料理人達がバラのアップルパイを用意してくれたのです。バラのアップルパイっていうのは、リンゴのコンポートをバラみたいに並べたやつの事です。とってもお洒落でとっても可愛いし、とっても美味しい。こんな風にアル様と一緒にゴロゴロしたり、お菓子を食べたり、お茶飲んだりする時間はとっても幸せ。ずっとずっとこんな幸せな日が続けばいいのに。
「やっぱりシルフィーは食べてる時が一番幸せそうだよね」
何だかそれって、私が食い意地が張ってるみたいじゃないですか?間違ってはいないけれど。
だって、食べてる時って幸せになるものじゃない?おいしいものは嬉しいじゃないですか。
前世ではあまり甘いものが食べられなかった反動で、今世では思い切り食べているけれど、本当に食べすぎな気がしてきた。まぁ、だからといって減らすなんて事はしないけれど。食べられる時に食べる事が大切なんだもん。
でもやっぱりお菓子を食べる時は誰かと一緒に食べる方がいい。味は変わらないはずなのだけれど、やっぱり1人で食べると寂しいし。美味しいには美味しいのだけれど、なんだか物足りない。誰かと食べる時の方がなんだかすごく美味しく感じる。まるで魔法みたいだよね。料理を作っている人がスパイスは愛情って言うけれど、間違いないと思う。それに加えて、誰と食べるかだよね。
所で先程も言いましたが、今日は敷物を持ってきているのですよ。ということはゴロゴロできますよね?そうなったらする事は一つ。
「アル様、膝枕しましょう」
「いいけれど、ちなみに私がしてあげる方だよね」
「もちろん私がしてあげる側ですよ!」
「やっぱりそうくるか」
「もちろんそうきますよ!」
「また、シルフィーの足を痺れさせるのは嫌だなぁ」
「そうなる前に言います」
私も足が痺れるのは少ししんどいですけど、でもやっぱりアル様に膝枕をしたいっていう気持ちの方が勝ちます。
「じゃあ、ちょっとだけね」
アル様はそう言って私が正座をしている膝に頭を乗せてくれました。でもアル様はちっとも私の方を見てくれません。
「アル様、どうしてこっちを見てくれないのですか?」
せめて上を向いてくれれば、目が合うのに…。
「いや、だってそっちを見たらシルフィーの顔より別のものが視界に入ってくるから」
「別のもの?」
一体何のことだろうか?
「それよりも、シルフィーはどうして膝枕が好きなの?」
話をそらしましたね。まあいいですけれど。
どうして膝枕が好きなのか、確かにそれは自分でも分からない。難しいけれど一言で表すなら「憧れ」が一番近い感情かもしれない。
「憧れ?」
私の言葉にアル様は不思議そうに言葉を繰り返す。
そのアル様の疑問に答える言葉を持っていなかった私は、サラサラのアル様の髪の毛を撫でる。その時のアル様の顔が好きだ。恥ずかしそうにしながらも気持ち良さそうに目を瞑っている。このまま寝てくれてもいいのになと思う。だってそうしたら、アル様は私の事を好きって言っているみたいでしょう?私といる事に安心してくれてるみたいでしょう?それならとっても嬉しい。
——どうして私はこんなに幸せでいられるのだろう——
私の足がもう少しで痺れるだろうというところで、アル様は私の膝から頭を上げた。それからもう一度お茶をしたり、周りをウロウロしたりした。
本当にこのバラ園は何度来ても不思議だと思う。この薄水色のアネモネは私が小さい時から全然変わっていない。普通は枯れたりするのに、今まで枯れた様子はない。このアネモネはずっとこのアネモネだ。
ちょんちょんと薄水色のアネモネを触ってみる。思えば初めて触ったかもしれない。小さい頃から周りにあるバラのトゲに刺さるのが怖くてなかなか触ってなかったんだよね。あとなんだか恐れ多くて触れなかった。じゃあ、なんで今日は触ったのかって?なんとなく触りたくなったからとしか言いようがないのです。
——どうして私はここにいるんだろう——
「アル様、今日はあっちの方に行ってみましょう!」
「うんいいよ。あっちの方には行ったことがないしね」
敷物を畳んで2人で手を繋いで再び歩き出す。
——どうして私はあの人と手を繋いでいるのだろう——
「こっちのバラはなんだか元気がなさそうですね」
「本当だ、珍しいね」
うーん、なんだかこの辺りは好きじゃないなぁ。バラが嫌とか雰囲気が嫌とかじゃない。ただ、本当にこの辺りはなんとなく好きじゃないなって感じる。
——どうして私はあの人のそばにいられるのだろう——
「アル様やっぱり戻りましょう」
なんだか不思議。
ここは一面バラだらけだから、さっきの薄水色のアネモネがあるところ以外は代わり映えもしないのに。
「どうしたの?」
「うーん、なんかここは、好きじゃない……?」
自分で言っててもよく分からないけど、アル様は納得したみたいに「なるほどねと」呟いて、私の手を引いた。
「じゃあ、あっちの方かな?こっちはシルフィーも好きだと思うよ。」
「はい!」
——どうして私はあの人に守られているのだろう——
「あっ、鳥さんがいますよ、珍しいですね!」
「本当だ、どこから入ってきたんだろう」
銀色の毛並みで、黒い瞳。なんだかアル様みたい。アル様が鳥になったらあんな感じなんだろうな。
アル様と手を繋いだまま、思わず空を眺める。太陽が眩しくて、雲が白くて空が青い。
当たり前の風景なのに、綺麗な風景なのに
——私はあの時…——
何故か怖くなった。
突然、視界が暗くなった。
「シルフィー!!!」
——やっと、繋がった——