014、王妃様は温かいです
「おちゃかいですか?」
「そうだ。と言っても、いつものようにアルフォンス殿下とだから、緊張する必要は無いぞ。」
私は最近、結構な頻度で王宮に招待されている。そのほとんどでケーキを食べてるけど。と言う訳で、私はまた王宮へ来た。そして、当然のようにアル様が待ち構えていた。
お父様は私をアル様の元に届けた後、お仕事に行ってしまった。
「いらっしゃい、シルフィー」
「ごしょうたい、ありがとうございます!」
「ふふ、さぁ、こっちへおいで。今日も美味しいケーキを食べよう。」
「はい!」
私はちゃんと挨拶ができる良い子です。そして、何だか本当にケーキ目当てで来ているみたい。そして、またまたケーキでございます。最近ケーキばっかり食べてるなぁ。……まだ、太ってないよね?だ、大丈夫。まだ子どもだから、横じゃなくて縦に栄養がいってるはず。寝る子は育つ。食べる子は育つ。
遠慮なく、今日も美味しいケーキを食べますよ。
しかし、テーブルを見た瞬間驚いた。
今までは、お店に売ってるように、ホールケーキを6等分したような、よくある形のケーキだったけど、今日はそうじゃない。ケーキはどれも1口サイズになっている。
「前回、種類を食べたくても、あまり食べられなかったでしょ?」
「でも、つくるの、たいへんです…」
「そうでもないよ?実は今、料理人の中でスイーツ作りが流行っているらしくて、皆で色んな種類のケーキを作ったみたいなんだ。それで、今城には食べきれないくらいのケーキ達があるんだ。だから、シルフィーが食べてくれるなら皆も喜ぶよ?」
そういうことなら……、遠慮無く頂くしかないよね!いちごタルトも、アップルパイも、ショートケーキも、何でもって言っていいくらいの種類がある。
しかし、シルフィーは知らない。料理人達がお菓子を作っているのは、美味しそうに食べてくれるシルフィーを見たいからだということを……。
「ふにゃぁ、しあわせすぎます……」
そして、どれも美味しい。これを幸せと言わず、なんと言う。そして、温かい紅茶も文句が出ないほど美味しいです。………もちろんミルクをいっぱい入れましたが何か?ストレートはまだ苦いような感じがするんです。所詮子ども舌ですよ!
「それでね、実は今日シルフィーに来てもらったのはお茶会の為だけじゃなくて、お願いがあるんだ」
ある程度ケーキを食べ尽くした所でアル様がそう言った。
「おねがいですか?」
「母上がシルフィーに会いたがってるんだ。母上に会ってやってくれないか?」
「ははうえ……?」
母上……、アル様の母上……。…………王妃様!?
「おうひさまが、ですか?」
「うん、未来の娘に会いたいそうだよ。たぶん、そろそろ来ると思うけど。………あ、来た」
王妃様のお願いって、私に断る権利ないですよね!?そして、もう来たんですか!?………こ、心の準備をさせて下さい!
アル様の目線の方向へ目を向けると、薄紫のドレスを纏った美しい女性が現れた。この国では珍しい黒髪黒目。まるで日本人みたい。でも、身長は高くて美人。前世の私もこんな風に成長出来たら良かったのになぁ。……小学5年生で死んじゃったからどうしようもないけど。今世こそ頑張るもん!
私の目の前の椅子に王妃様は座る。というか私、最初から椅子が3つあったことに気付こうよ、疑問を持とうよ!
「はじめまして、シルフィー。アルフォンスの母のティリアよ。これからもうちの息子をよろしくね?」
「は、はじめまして! シルフィー・ミル・フィオーネです!わたしのほうが、いっぱいおせわになってます!」
「まあ、やっぱり可愛らしいわぁ!」
そう言って、急に王妃様に抱きしめられた。あらら?私はお椅子に座っていたはずなのに、いつの間にか王妃様のお膝の上に居ますよ?
「あ、あの?!」
「あら、ごめんなさいね、思ったよりも可愛らしいものだから、つい。」
そう言って王妃様はふふっと笑う。なんでだろう、びっくりしてるはずなのにとっても懐かしいような、涙が出そうな。なんだか安心する。そして、王妃様の笑顔はとても美しいです。でも抱きしめられた腕は緩みません。ついでに頭も撫でられてます。気持ちが良すぎて、王妃様に抱きつき返そうになったのは内緒。
「母上、シルフィーが驚いていますのでその辺で。」
「だって、私だって娘が欲しかったんですもの。それなのに、息子しか生まれないものだから。ちょっとくらい未来の娘を抱きしめたっていいじゃない!」
「シルフィーが可愛いので抱きしめたくなるのは当然ですが、私の婚約者なので返してください」
そう言いながら、アル様は王妃様から私を取り返す。そしてそのままアル様の腕から抜け出せそうにありません。でも、王妃様にもアル様にも抱きしめられたけど、どちらも全然嫌じゃなかった。子どもを癒す能力でも持ってるのかな?
「ごめんなさいね、この所体調が良くなくて、中々会えなかったのよね……」
「てぃりあおうひしゃま、もうたいちょうは、だいじょうぶですか?」
「……」
「あ、あの、おうひしゃま?」
「やっぱり違うわね……」
え、何が違うのかな?も、もしかして、私はアル様のお嫁さんには相応しくないってこと!?ど、どうしよう!王妃様に認めて貰えないと、今後が大変だよぉ!どうしよう、涙がぁ………!
「あ、あの! おうひしゃま、」
「それよ!」
「えっと?」
「私はあなたの母になるのよ? だったら呼び方はひとつしかないじゃない! 王妃様なんて他人行儀な呼び方は許さないわよ!」
「は、はい!」
本当に呼んでいいのかな?でも、呼ばないと許さないって言ってるし……。さ、逆らったらダメな気がするよぉ……!
「お、おかあしゃま?」
さっき、ちょっと泣いてしまった為、涙目。しかも、王妃様…、お義母様より大分身長が下だから、自然と上目遣いになる訳で……、
「~~~!!」
どうやら、お義母様の心をノックアウトしたようです!
「もう! 本当に可愛いわ! アル、よくやったわね!! 逃がしたらダメよ!」
「はい、ありがとうございます。シルフィーは本当に可愛いので私も誰にもやるつもりはありませんしね。」
なんだか、この親子怖いよぉ………。でも、私は権力には逆らいません。命、大事に。お義母様は本当に私の顔を見に来ただけのようで、すぐに、来客があるからとメイドに呼ばれ帰っていった。
「ふにゃぁ…」
「よく頑張ったね」
「はい」
正直、とても緊張した。でも、やっぱり
「おかあしゃま、すきです」
温かくて、懐かしくて。あまり覚えてないけど、前世の母親のようだった。そして、お義母様の腕を思い出して癒されていた私は、アル様がお義母様に対抗心を燃やしていたことを知らない。




