149、私より器用です
「ゆめ……?」
変な夢を見た気がして一度目が覚めたけれど、アル様の優しい手に引き込まれて、気が付いたらもう一度眠っていた。
『私が騎士として戦う事なんてある訳がないのにね』
「あるさま、おはよぉございます………」
朝、アル様に頭を撫でられる感覚がして、ゆっくり目を開けるとアル様がものすごくいい顔で私の事を見ていた。
「シルフィー、目、空いてないよ?」
だって眠たいのですもの。1度目を開けたけど、だんだんと閉じていくのは朝だから仕方ないと思う。やっぱり朝は睡魔が私の事を大好きなんだよね。
学校に行かないといけない事は分かっているけれど、まだ起きたくないから、アル様の胸にぐりぐりと頭を押し付けてみる。そんな事をしていると、もう一度寝てしまいそうになるけれど、アル様がなんだか嬉しそうだからもう一度ぐりぐりと頭押し付けてみる。
でも、こんなアル様と一緒に過ごす朝が当分来ないと思うと少し残念。
だからといって、お父様達がお家を留守にするのはものすごく寂しいから、それは嫌だ。
「ぅう、おきるぅ」
それでも起きないと朝ごはんを食べる時間がなくなっちゃう。あと、学園に遅刻しちゃう。
アル様に手を伸ばすと、アル様は私の脇を持って立ち上がらせてくれた。なんだか子どもに戻ったみたい。やっぱり私を軽々と持ち上げるアル様はどんな力してるんだろうか。そして、アル様はまだ目が開かない私の手を握りながらメイドさんのところに連れていってくれる。お着替えですね。
「あ、そうだ。今日はシルフィーの髪、私が結んでもいい?」
「え?」
予想外の言葉に思わず目がすっかり覚めてしまいました。勿論いいのですけれど……。
「アル様、髪結べるのですか?」
「うーん、たぶん?」
たぶんですか?そこは自信を持って言いましょうよ!アル様の事だから、変な髪型にはしないと思うけれど、なんだか不安になってきましたよ。でもまぁ、今日が最後だからせっかくだからお願いしとこうかな。
「じゃあ、お願いします」
「うん、任せて」
アル様は私みたいに拳を握って頷いた。なんだか可愛いです。
「それじゃあ、着替えておいで」
「はーい!」
メイドさん達と一緒に制服に着替えた後、アル様の所に戻ってくると、アル様は私が見た事がないような髪飾りを持って待ち構えていた。
「アル様、その髪飾りは?」
「ん、ああこれ?これはいつかシルフィーの髪につけてみたいなと思って買ってたんだ」
わざわざ買ってくれたんだ。それでもとっても可愛い。なんだか子どもっぽいなぁとは思うけど、私の好みにぴったりだ。だって、髪ゴムは2つあって一つには苺とチョコレートが付いている。もう1つには美味しそうなショートケーキ!
「かわいいです!」
「ふふ、こういうこどもっぽ…、可愛いのはシルフィーらしいなぁと思って」
「今子どもっぽいっていいませんでした?」
「気のせい」
「………」
まあいいです、そういうことにしといてあげます。
「どんな髪型にしようかなぁ」
アル様は私の髪をいじりながら考え込んでいる。
「やっぱりシルフィーはふたつ結びが似合うからふたつかな…。でも、やっぱり…、うーん…、うん。」
アル様は決まったみたいで、今度こそ、私の髪の毛をいじり始めた。
んっ?これはもしかしなくてもふたつくくりでしょうか?だって、アル様も昨日のメイドさんみたいに私の髪を後ろで2つに分けましたよ?
と思ったら、編み込んでます!昨日のメイドさんと同じく!
で、そこで結んで終わり!…じゃない?
そこから三つ編みを編み編みと、これはおさげですか?
2つとも同じ感じで三つ編みをして結んで。
「で、ここから」
「お団子!」
「正解」
アル様は三つ編みにしたものをくるんと巻いて、お団子にしてしまった。つまり、ツインのお団子です!とっても可愛い!
しかもガチガチのお団子じゃなくて、なんだかふんわりしてるお団子でそこに最後に可愛い髪ゴムをつけたら。
完成!
やっぱりアル様はすごい。私は自分では絶対こんな髪型出来ない。アル様は人の髪型を結ぶなんてした事が無いだろうにね。とっても上手。
…っは!もしかしてアル様、自分の髪で練習したとか?ま、まさかね?
「「本当に本当にお世話になりました」」
ソフィアと一緒に王家の皆に挨拶をすると、「また来てね」と微笑まれる。アル様とルートお兄様だけ寂しそうだけれど。ルートお兄様はこれから一緒に学校行くでしょう?
それにしても、本当に自分の家のようにくつろいでしまった。私とソフィアは将来ここで暮らすことになると思うからいい予行演習になった。「もう少し泊まっていってもいいのよ」と言ってくれているけれど、やっぱり今はお家に帰りたい。皆と一緒にご飯を食べられなくなるのは残念だけれど、それでも残りわずかな時間の家族との時間も大切にしておきたいから。
「また来ます」
それでも遊びに来る事は当然ながら沢山あると思うから、そこまで寂しがる必要もないなと感じた。