141、お城はきらきらです
やっぱりあれからはぐっすりと眠れたので寝不足になる心配もなく、朝もスッキリ起きる事が出来た。アル様はまだなんだか心配そうな顔をしていて、「今日は学園は休むように」と促されたけれど、私は元気なので問題なくソフィアと一緒に学校に来た。
「えっ、今2人はお城に泊まっているの?」
私とソフィアが一緒に学園に来たことで、私とソフィアがお泊まりしているのかと思っていたルアちゃんに、お城でお泊まりをしていた事を知らせると、とても驚いた反応が返ってきた。
「うん、そうなの。私のお父様とお母様がお家にいないから、ソフィアと一緒にお城に泊まっているの。私が1人でお城に行くのが寂しかったから、ソフィアも一緒に来てくれたの」
「そうなんだ。皆仲がいいもんね。」
恐らく、ルアちゃんが言う皆には、私とソフィアだけではなく、アル様とルートお兄様も含まれているだろう。
「うん、仲良し。」
何よりご飯が美味しい。思うのだけれど、私の場合はご飯を食べている時が一番幸せかもしれない。正確にはご飯だけじゃなくて食べ物だけどね。ケーキとかも大好きだから。
「お城ってどんな感じなの?」
ルアちゃんが疑問を持ったように聞いてくる。そうか、貴族じゃなかったらお城に行く事もないからお城がどんな所か分からないよね。
どう言ったらいいんだろう?お城がどんな感じか。うーん、難しいなぁ。えーと一言で言うと
「キラキラしてる……?」
「な、なるほど?」
我ながら頭の悪い回答をしてしまった自信はある。でもそれ以外どう伝えたらいいのかが分からなかった。でも、本当にキラキラしてるから、この答えは間違いではないと思う。お城にいる人達は皆、笑顔でキラキラしているし、お花たちも生き生きしていてキラキラしているし、建物も綺麗に掃除されていてキラキラしている。ほら、私の答えは間違っていない。
あと、こういうのはソフィアに聞いたらいいと思うなぁ。ソフィアならきっと的確な答えを出してくれると思うから。
「ソフィアはお城ってどんな感じだと思う?」
「えっ」
ソフィアは自分に振られると思ってなかったのか、驚いたような顔をしたけど、すぐに手を口元に当てて考え始める。
「どんな感じか、確かに難しいわね」
「だよね」
「そうね一言で言うと、き、きらきら、かしら?」
おおう。まさかの私と同じ答えが返ってきたのですよ。でも、キラキラとしか言いようがないよね。
「ルアちゃんはお城に行ってみたいの?」
「ううん、別に。ただちょっと気になっただけ。」
そ、そうなんだ。別にお城に行きたいわけじゃないんだ。でも、そういえば私も最初はお城に行くのがなんだか怖かった。いくら貴族とはいえ、王族に会うのは緊張するし、何か粗相しないかが心配になる。そう思うと外から建物を眺めていたり、園庭のお花を愛でる方がいいかもしれない。今はもうすっかり王家の人達と仲良しになったから、緊張する事はほとんどないけれど、普通は緊張して言葉が出なくなったりするもんだよね。私なんか最初にアル様を見た時に泣いちゃったし。
お城の中に一般市民がいると言えばいるけれど、どちらかというと遊びに来てる訳じゃなくて、お仕事をしに来ている。おそらくだけど、メイドさんの中にも、元庶民の人とかも沢山いるんじゃないかな。この学園の生徒も中にもお城で働くために頑張って勉強してる人も沢山いる訳だし。だからこそ、今のうちに、王族であるルートお兄様に顔を覚えてもらえれば、就職に有利になる事もあると考えているんじゃないかな。まぁ、ルートお兄様が誰かを特別扱いすることはないと思うけれどね、ソフィア以外は。ルートお兄様は本当にソフィアの事が大好きなんだから。今までは全然気が付かなかったけれど、ルートお兄様とソフィアが婚約者になってから2人は本当に仲良しだった事に気がついた。だってね、ルートお兄様がソフィアを見る目がとっても優しいんだもん。こっちまで嬉しくなっちゃう。
「ルアちゃんは将来何になりたいかとか決めてるの?」
「ううん」
学園を卒業したら、皆それぞれの進路に進んでいく。まだあと2年あるとはいえ、今のうちから就職口を探しておく人も少なくはない。貴族の中にも、下級貴族の人達は今から上級貴族の人に取り入ったり、働き口を探したりしている。私も公爵令嬢で、アル様の婚約者でなければ今頃、学園卒業後の身の振る舞い方を考えていたかもしれない。それか、婚約者を探していたかもしれない。婚約者を探すのはとても大変だと聞く。私は小さい時からアル様が婚約者だったから、特に何も困らなかったけれど、今から婚約者を探している人は大変そうだ。なぜなら、上級貴族になればなるほど、もうすでに婚約者がいる人が多いからだ。そう考えるとリシューは本当に珍しいと思う。公爵家の長男であるにも関わらず、未だに婚約者を作ろうとしない。だからこそ、リシューの隣を狙った女性が今、リシューのもとに押しかけている。リシューは可愛いし格好いいし、頭もいいし、性格もいいから本当にリシューと婚約をしたがってる人は多い。もしアル様と婚約をしていなかったら、私だってリシューと婚約をしたいぐらい。本当に素敵な幼なじみだから、素敵な婚約者を見つけてほしい。
「そういえば、シルフィーってシルフィー専用の部屋が与えられているって聞いたけど、本当?」
「本当だよ、あと私だけじゃなくて、ソフィアのお部屋もあるんだよ!」
あの後、ソフィアのお部屋も見せてもらったけれど、ソフィアのお部屋もとっても素敵だった。白が基調のお部屋だったから、ソフィアの薄水色の綺麗な髪とよくマッチしていた。ベッドや机、タンスなども殆ど白かったけれど、たくさんレースの生地が使われていたから綺麗で可愛くてオシャレだった。そしてなにより大人っぽかった。
「へえ、そうなんだ。じゃあ、いつでもお泊まりできるね」
「うん、そうなの。でも、私のお部屋にはベッドがないからお昼寝する時はいつもソファーなの」
そこが問題なんだよね。そろそろ私のお部屋にベッドを置いてくれてもいいと思うのです。でも、用意したとしても私のベッドを使うのは多分お昼寝くらいかもしれない。だってアル様と寝た方が安心するし。
「そういえば、シルフィの部屋ってベッドなかったわよね?」
「うん、そうだよ」
どうして今更聞くのだろう?ソフィアは私のお部屋を見た事があるから、私のお部屋にベッドがないことを知ってると思うのに。
「じゃあ、シルフィーどこで寝てるの?」
「アル様のお部屋だよ」
「えっ」
私がそう言うとソフィアだけではなく、ルアちゃんもとても驚いた顔をした。
何にそんなに驚いているのだろう?
「アル様、私が寝るまでずっとぎゅってしてくれるの!なでなでもしてくれてね!」
「………ちょっと、まって」
「どうしたの、ソフィア?」
ソフィアは頭を押さえながら私におずおずと言葉をかけた。
「一緒に寝てるの…?」
「うん」
もちろん。だって、私のお部屋にベッドはないし、小さい頃にアル様に一緒に寝ようって言われたんだもん。寝る時はアル様のお部屋で。私はその約束を小さい時からちゃんと守ってるんだもん。
けれど、私がソフィアの言葉に肯定を示したその時、クラス中がざわめいた。
「え、っと?」
何にざわめいているんだろう
「ちょっと待って……」
ソフィアは頭を抱えて考え込んでしまった。
「夜寝る前までを一緒に過ごすだけじゃなくて一緒に寝ているの?」
「そうだよ?」
あれ?私、ソフィアにそう言ったよね?ソフィアが私と一緒に寝てくれないんだったら、私はアル様と寝ますって言ったよね?ルートお兄様とソフィアが一緒に寝るのだったら、私はアル様と寝ますよって。
「えっ?ソフィアもルートお兄様と一緒に寝てるんじゃないの?」
「さすがに寝てないわよ!」
「えっ、そうなの?」
「ええ、夜眠るまでは一緒にお話とかはしているけれど、さすがに寝室は別々よ」
「えっ、そうなの?」
むぅ。それならルートお兄様、夜は私にソフィアを返してくれてもいいのに。思わず頬を膨らませる私は悪くないと思う。ルートお兄様が夜にソフィアと一緒がいいって言うから、ソフィアを貸してあげたのに!ソフィアと一緒に寝ないんだったら私が一緒に寝たいよ。
「あなたたちって、その……、」
「?」
ソフィアは顔を赤くしながら私に質問をしてきた。
「キス、くらいはしたことがあるわよね…?」
「え、うん」
あるよ?私からもアル様も。そんなのは当たり前です。
「あのね、アル様、私のおでこにちゅってしてくれるの。そしたらね、なんだか、ここがぽかぽかなるの」
そう言いながら私は胸を押さえる。アル様からしてもらうと、胸がとても温かくて幸せな気持ちになる。
そう言うと、ソフィアは更にうなだれてしまった。
「ソフィア?」
「何度も一緒に寝て?手を出さず?朝まで?」
意味が分からない、とソフィアは叫ぶ。
「リシュハルト様はどう思う?」
ソフィアに話を振られたリシューは遠くを見ながら呟く。
「僕は、ただただ、アルにぃが凄いと思う」
「……そうね」
そして、リシューと同じように遠い目をしたソフィアがリシューの言葉に同意した。なんだかよく分からないけど、皆がアル様を凄いって言いながら肯定しているから、アル様はすごい。よく分からないけど、アル様が褒められてなんだか嬉しい。