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139、珍しい人に会いました


「アル様、お迎えに来てくれたんですか!」


 学園から出て、今日もルートお兄様とソフィアと一緒にお城に帰ろうとしたけれど、門の前にはロットに乗った、アル様が佇んでいた。


 わざわざお城から私達を迎えに来てくれたのかな。


「今日もお疲れ様」


 ロットから降りたアル様が私達にそう言ってくれるけれど、多分アル様の方がお疲れ様だと思うな。私達は学園生活を送っているだけだけれど、アル様はお仕事をしていたんだから。それなのにわざわざこんな所まで迎えに来てくれるなんて本当に大好き。


「兄上、今日はどうしたの?」


 アル様が迎えに来ている事が不思議だったルートお兄様は、アル様にそう尋ねる。でも確かにそうだよね、朝食の時もアル様は迎えに行くっていうことを言っていなかったもんね。


「ああ、執務が片付いたから、シルフィーと一緒に街に出かけようと思ってね」

「お出かけですか!」


 お迎えじゃなくてお出かけのお誘いでしたか。

 それは嬉しいサプライズなのですよ。アル様ともっと一緒にいたかったし、何より街でお買い物をしたかった。


「最近街に行っていなかったからね」

「暇な時間が出来たらシルフィ―に会いに来るなんて、兄上らしいね」


 ルートお兄様の言葉に、ソフィアも笑って同意する。

 ついでだからルートお兄様とソフィアも一緒に街に行きたいなぁ。そう思って提案するけれどソフィアには「レッスンがある」と言って断られてしまった。それはそうだよね。仕方がない。レッスンだもん。またレッスンのせいで私はソフィアに振られてしまったけど仕方ない。レッスンだもん。そしてルートお兄様は「ソフィアが行かないんだったら行かない」と振られてしまった。ルートお兄様曰く「僕が一緒に行ったんだったら二人の仲の良さに当てられてしまうからね」だそうです。

 そんな事ないのにね。私とアル様は確かに仲良しだけれど、ルートお兄様を仲間はずれにするようなことをするわけがない。寧ろ一緒に楽しく遊びたかったのに。それでもルートお兄様は首を縦に振ってくれなかった。「2人を見ていると、ソフィアに会いたくなるから、最初からソフィアの傍にいる事にするよ」って言われちゃった。どういう意味なんだろうね?私達を見ているとソフィアに会いたくなるって。っていうか、それを言うとルートお兄様とソフィアとよく一緒にいる私はどうなんだろう。2人の仲の良さに当てられてしまう事………、あったね。そういえば。馬車の中でも2人は私の存在を忘れたかのように急にイチャイチャし始める時がある。困るんだよね。私はその時どうすればいいかわからないから。もしかしてルートお兄様もこんな気持ちなのだろうか。だったら納得だ。確かに婚約者2人の中に入り込むのは少し勇気がいる。

 というか、ルートお兄様!それが分かってるのだったら、私の前でもソフィアとイチャイチャするのは自重してくれるとありがたいのですが?え、難しい?なんということでしょう!


「とりあえず2人で行っておいで」


 ルートお兄様がそう言ったので、私はロットに乗せてもらって、アル様と街にお出かけに行くことにしました。よく考えればアル様と2人だったら遠慮なく我儘を言えるからありがたい。……と思ったけれど、私は誰と行っても遠慮なく我儘を言うので、結果的にどちらでも良かったのかもしれない。


 ルートお兄様とソフィアが馬車でお城に向かったことを見届けてから、ゆっくりとアル様はロットを走らせる。


「まずはどこに行く?」

「うーん、そうだなぁ。どこに行こうかなぁ」


 ケーキを食べに行ってもいいんだけど、まずは


「また、ジェイド先生におつかいを頼まれているので、文房具屋さんによって欲しいです」

「うん、わかった」


 私が放課後にジェイド先生のおつかいに行く事にもう慣れているのか、アル様も心得たようにロットを走らせる。

 ジェイド先生のおつかいは毎回ちゃんと生徒会全体に来るんだけれど、やっぱり私が今回も行くことにした。何よりジェイド先生のおつかいに行くとご褒美は貰えるからね。

 今回のご褒美はなんだろう。この間もらったロールケーキもすっごくおいしかったなぁ。あれってスリール・ダーンジュのロールケーキだったんだよね。ジェイド先生の身内が働いてたなんて知らなかったよ。今度行った時にロールケーキもらっちゃいました!ってお礼しといた方がいいかなあ。でもジェイド先生の方から伝わっていそうな気もするなぁ。大丈夫か。


「ジェイド先生のおつかいは光るインク?」

「はい、そうです。あと剥がれない付箋が欲しいんだって」

「それならあの文房具屋さんにあった気がするな」


 ジェイド先生のおつかいは基本的に光るインクが多いけれど、たまに追加で色んなものを頼まれる。ついでだからいいんだけどね。本当に重たいものはちゃんと自分で買いに行ってるみたいだから、私にとっては帰りがけに寄り道をして、遊んで帰るついでにおつかいをするっていう感覚だから。むしろ楽しい。ソフィアには子どものおつかいみたいねって言われたけれど、楽しいからいいんです。


「えーと、光るインクはこれではがれない付箋はこれかな?」


 店の中を回っていると剥がれない付箋らしきものを見つけた。


「アル様、剝がれない付箋ってこれでいいんですか」

「んーと、うん、これだね。じゃあ、これを買って学園に届けてもらおう、僕達はまた街を回ろうか」

「はい!」


 アル様と一緒に街に行くと、何かしら美味しいものが食べられるから楽しいんだよね。でも、ご飯前だからさすがに沢山は食べられない。ちょっとおやつ程度につまむくらいしか食べられないのが残念。食べ過ぎると怒られるからね。


「アル様、この近くのクッキー屋さんによってもいいですか?」

「クッキー屋さん?うん、いいよ」


 この近くにあるクッキー屋さんは、前にソフィアと来た所。優しいおばあさんがクッキーを販売している。そのクッキーはナイア学園祭でも使わせてもらった。元々大好きなクッキーだったけれど、学園祭で使って、沢山食べてもっともっと大好きになった。だから、街に来る度に寄ってる。


「こんにちは!」


 お店に入ると、いつもはおばあさんが優しい笑顔で迎えてくれるんだけれど、今日は違う店員さんが店番をしていた。


「いらっしゃいませ」


 店員のお姉さんも綺麗な笑顔で私達を迎えてくれた。


「あの、いつものおばあさんは?」


 おばあさんがこのお店にいない事を初めて見たから、もしかしたらおばあさんに何かあったのかもしれないと不安になった。今日はたまたま休みなだけだったらいいけれど、もし、何か病気とかだったらどうしよう。


「ああ、おばあちゃんだったら今日はお休みなのよ。」

「おやすみ……、何かあったんですか?」


 おばあさんにもし何かあったらとつい眉がへにゃりと下がってしまう。そんな私を見た店員さんは少し笑いながら、おばあさんのことを教えてくれた。


「大丈夫よ、おばあちゃんは元気よ。ただ今日は私の弟……、おばあちゃんの孫が帰ってきているから、家にいるのよ。」


 おばあさんのお孫さんがこのお姉さんの弟?ということは、この店員さんはおばあさんのお孫さんだったのかな。でも、おばあさんが元気ならよかった。当たり前のように元気だった人が急にいなくなることは珍しくない。それが老人であると尚更だ。覚悟はしていたとしても、やっぱり急にいなくなると寂しいから、元気そうで本当に良かった。ただでさえ私はあまり街に来ることができないのだから、頻繁には会えない。今日会えなかったのは少し残念だけれど、お孫さんと一緒にたくさんお話できるんだったらそっちの方がいいよね。


 お姉さんの言葉に思わず安堵のため息をつくと、お姉さんも笑ってくれた。


「ここにはよくクッキーを買いに来てくれるの?」

「はい。ここのクッキー大好きなんです」

「ふふっ、嬉しいわ。おばあちゃんもとても喜ぶわね」


 やっぱりこの人はおばあさんのお孫さんだなって感じる。だって笑った笑顔がとっても優しくて、そっくりなんだもん。でもなんだか不思議。この店員のお姉さんの笑顔になんだか見覚えがある。おばあさんのお孫さんだからと言えばそうなのだけれど、でもそうじゃない。なんかもっと前に見たことがあるような。


 その時、私の横である様が呟くのが聞こえた。


「ノア……?」

「えっ」

 

 アル様が、今、ノアって言った?ノア。なんだか聞き覚えがある気がする。誰だったかなぁ。


「…………殿下?」


 すると、ノアと呼ばれた店員のお姉さんもそう呟く声が聞こえた。2人の様子を見てみると、お互いとっても目を見開いていて驚いている。


 ノア、ノア。なんだかやっぱり聴き覚えがあるなぁ。アル様と知り合いみたいだし。誰だったかなぁ。


「お久しぶりです。殿下」

「久しぶりだな、学園卒業はどうしていたんだ?」


 2人がそう話す声が聞こえた。学園卒業後?ということは2人は学園での知り合い?


 …………あっ、そうだ!ノアさんは、生徒会で劇をやっていた人だ!はぁ、スッキリした、思い出せた。


「殿下と一緒にいるということは、この方は…?」


 ノア様が私の方を見ながら呟く。


「ああ、そうだ、私の婚約者のシルフィーだよ」

「やっぱり。以前と変わらずとても可愛らしいですわね」

「だろう」


 なんだか本人の前で可愛いって言われると少し恥ずかしい。けど、やっぱりノア様だったんだ。あの演劇で見た時の可愛らしい笑顔から、全然変わっていない。


「ノア様、お久しぶりです」

「覚えてくれていたのですか?」

「はい、もちろんです!ノア様の演劇、とってもとっても素敵でした!私もノア様みたいになりたいって思ってたんです!」

「ふふっ、ありがとう」


 ノア様は笑いながら恥ずかしそうに顔を覆っている。年上にいうのもあれだけど、そんな姿も可愛い。


「シルフィー、クッキーはいいの?」


 ノア様と2人でふわふわしていたら、アル様にクッキーの方を指差して言われてしまった。そうだった。今日はクッキーを買いに来たんだった。ノア様とお話をしていたら、すっかり忘れていた。


「買います!えーと、えーと、」


 今日何のクッキーにしようかなぁ。


「オススメはナッツ入りの抹茶クッキーと、オレンジピール入りのクッキーよ。新作なの」

「じゃあ、それでお願いします!」


 こういう時に店員さんのおすすめっていいんだよね。自分では普段選ばないようなものも買えたりするし、今みたいに新作とかも教えてもらえる。自分で買う時って、ついついいつも同じものを選んでしまうんだよね。だって1度食べたものだとそれが美味しいってわかっているから。


「はい、これどうぞ」


 ノア様がクッキーを袋に詰めてくれたので、それを受け取る。


「いつも来てくれているみたいだから、おまけつけといたわよ」

「わぁ!ありがとうございます!」


 おまけって何だろう?ごそごそと中身をのぞいてみる。


「チョコレートクッキーとイチゴ味のクッキーもついてる!いいんですか?」

「ええ、勿論その代わりまた来てね」

「はい、また来ます!」


 なんだか得しちゃった気分。


「じゃあ、私達はこれで」


 私がクッキーを受け取ったことを確認したアル様が私の手を掴み、お店の中から出ていこうとする。

 あれ、もう帰るのだろうか。


「アル様、お話しなくていいんですか?」

「え?」

「久しぶりに会ったんですよね?せっかく生徒会でも一緒だったんですからお話してきたらどうですか?」


 さっき学園を卒業した後何をしていたのかと、アル様はノア様に聞いていた。ということは2人は学園を卒業して以来全然会っていないということになる。おそらく2年以上は会っていないのだろう。

 私は今まで何度もこのクッキー屋さんに来ているけど、1度もノア様を見た事がない。ということは、ノア様は今までここにいなかったのかもしれない。たまたま私がノア様がいる日にこのクッキー屋さんに来ていなかっただけの可能性もあるけれど。


 でも結局アル様もノア様も特に話すことは無いみたいで、そのままさよならをした。生徒会が一緒だったという事は、それなりに仲は良かったのだと思うけれど、そんなにあっさりした別れで良かったのだろうか。私なら同じ生徒会メンバーに街で会ったら、ついつい長話をしてしまいそう。そう考えると、アル様もノア様もあっさりした関係だったのかなぁって思った。せっかく仲良くなれたのに、いいのかなぁ?

 今、思い出したのだけれど、アル様が学園に通っていた当時、アル様とノア様が仲良かったみたいで2人は恋人同士じゃないかという噂も囁かれていた。私には特に害はなかったので放っておいたけれど、もしかしたら本当に2人は恋仲だったのかもしれない。アル様に聞いたら怒られそうだから聞かないけれど、でも2人がこんなにあっさり別れるということは本当は恋人とかじゃなかったのかなぁ?やっぱり私に恋愛は難しくてわからないや。


 帰りがけにノア様にもらったクッキーを食べようとしたのだけれど、アル様には、夕食前だから三つまでねと言われてしまった。だから、それぞれ五枚ずつ入っていた4種類のクッキーをとりあえず一枚ずつ食べた。3つまでって言われたけれど4枚食べちゃった。やっぱりおばあさんの作ったクッキーはとってもとっても美味しい。私が初めて作ったクッキーとは大違い。私が初めて作ったクッキーはチョコレートもイチゴも何も入っていないただのプレーンだったから。アル様は、それでも私が作ったものが美味しいって言ってくれるから、本当に嬉しい。でも、プロが作った方が美味しいとは思うんです。

 アル様が美味しいって言ってくれるから、今度ソフィアと一緒にお菓子でも作ってみようかな。



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