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137、暇なのでお散歩です


「あっ、そういえばアル様は今日会談があるんだっけ」


 昨日と同じように放課後、ルートお兄様とソフィアと一緒にお城に戻って来たけれど、昨日とは違ってアル様のお迎えがなかった。そこで昨日夜にアル様がワインに関しての会談があるって言ってた事を思い出した。


「ああ、そういえばそうだったね」


 ルートお兄様も思い出したように呟いた


 王子様は忙しそうだな。ルートお兄様も学園が無かったら参加していたのかな。アル様は将来、武力の方面で国を支えていくって聞いたけれど、やっぱりレオン兄様が王様になるまでは、執務とかも結構あるんだなぁ。今もきっとお義父様やレオンお兄様について一緒に執務をしているんだろうね。毎日忙しそうで大変そう。ルートお兄様だって学園から帰ったら忙しそうだし。

 それに比べて私はいつもぼけっと過ごしてるだけだけどね。でも私はこれがいい。忙しいのは好きじゃない。出来る事なら毎日お菓子を食べてダラダラしながら寝て過ごしたい。ダメ人間になりたい。でも、前世と違って自分でご飯とか家事とかをしなくてもいいから、ダメ人間には近いと思う。そう思うと転生して良かったなぁとは思う。あと身分が高くて良かったって思う。よくよく考えると、私は本当に運が良かった。勿論、公爵家で生まれた事もそうだし、家族に恵まれたこともそうだ。でもそれ以前に、転生で良かったと思う、もし小学5年生の私の体のままこの世界に転移されていたとしたら、私は一体どうなっていたんだろう。この世界の常識も何も分からない状態でいきなり知らない土地に放り出されて、私は生きていけたのだろうか。運良く優しい人が拾ってくれたとしても、その後どうなるかが分からない。本当に私は幸せなんだなと心から思う。ソフィアにも会えたしね。


「王子様達は忙しそうね」


 ソフィアが私が思ったことを呟いてくれる。「達」と言った事から、アル様だけじゃなくてレオンお兄様やルートお兄様も含まれているのだろう。


「だよね」


「隣にその王子様がいるんだけどね。」


 ルート兄様は呆れたように私とソフィアに言葉をかける。


 そうなんだけど、でもなんだかルートお兄様って、王子様っていうよりはルートお兄様っていう感じがするんだもん。きっとソフィアなら何となく分かってくれると思うな。ルートお兄様はルートお兄様なんだもん。

 でも、ルートお兄様も学園を卒業したらきっともっと忙しくなっちゃうよね。それはなんだか寂しい。何より学園からいなくなってしまう事がすごく寂しい。ルートお兄様は私からソフィアを奪っていっちゃったけれど、それでも私の大好きなお兄ちゃんみたいな人だからいなくなってしまうのは嫌だな。お城に行けばいつでも会えるといわれればそうだけれど、でも学園に通っていた頃は毎日会えていたから寂しいなぁ。多分私以上にソフィアの方が寂しがりそうな気がするけれどね。顔には出さなさそうだけれど。「いつでも会えるじゃない」とか強がりながら、時々ルートお兄様の面影を探して寂しがりそう。


「じゃあ、私はレッスンに行くわね」

「えっ」


 もうですか?

 昨日は私のお部屋に来て一緒にお茶する時間もあったのに。どうしてこんなに早くレッスンに行くんだろう、ちょっと寂しいなぁ。

 ソフィアは「早くレッスン終わらせて、後にゆっくり時間を取る方がいいじゃない」というけれど、その間私は何をすればいいのだろう。今日はアル様もいないし。私の選択肢からは一人で過ごすという事が外れているのです。


「ルートお兄様はこれからどうするの?」

「僕はこれから剣の稽古だよ」

「そっかぁ…」


 本当に私と遊んでくれる人は今いないみたい。寂しいなぁ。ソフィアもルート兄様も、アル様もダメか。他に遊んでくれそうな人と言えば……、ダメだ思いつかない。もしかしたらトーリお兄様がお城にいるかもしれないけれど、多分訓練をしている時だよね。


「どうしようかなぁ」


 ……仕方がない。とりあえず自分のお部屋に行って課題をしようかな。


「じゃあ、私はお部屋に行きますね」

「ええ」

「ああ、わかった、また夕食の時に」

「はーい」


 寂しいけれど、仕方がない。1人寂しく課題をやるとしますか。


 私の部屋に入ってソファーに座ると同時に、いつものメイドさんが、ケーキと紅茶を用意してくれた。あっ、もちろんミルクティーです。そして、メイドさんはいつも通り私の前にケーキを置くとそっと部屋を出ていった。基本的に私がこの部屋にいる時は1人にしてくれる。おかげで、遠慮なく気を抜いてダラダラすることができるのでありがたいです。なので、少しぐらい行儀が悪いことをしても大丈夫なのです。ちょっとお行儀が悪いけれど、ケーキを食べながら今日の課題を取り出す。


「今日の課題は……」


 課題の内容をざっと見てみるけれど、昨日と同じように計算問題みたい。簡単なのはありがたいんだけど、今日に限って難しい問題や頭を使う問題が良かったなぁと思う。すぐに終わってしまう課題だったらつまらない。1人だとつまらないから、むしろ時間がかかるような課題の方が良かったな。理科みたいな答えが出ない課題だったらは私に関しては調べる事が本当に多くなてしまうから面倒くさいと言われればそうなのかもしれないけれど、ここだと、資料とかもたくさん揃っているから専門家に聞いたりもできるし。


 あっ、課題で思い出した。そういえば私が書いた論文ってなんだか偉い人に読まれてるって前にリシューが言ってたよね。その偉い人って、お城に勤めている人なのかな。それとも、普通の一般市民だけれど、頭がいい研究者とか?どちらにしろ、私の拙い論文かつ、間違っている論文を見られるのは本当に恥ずかしいなぁ。今どこにあるんだろう。というか、何の論文を読まれているんだろう。不思議で仕方がない。まぁ、私に害があるわけじゃないならいいかなーとは思うけれどね。もし害があったら、お父様に怒ってもらってやるんです。


「ふぅ」


 そんなこんなで、ケーキを食べながらスラスラとペンを動かすと、あっという間に課題は終わってしまった。私が簡単に課題を終わらせてしまうっていう事は、きっとリシューとソフィアにとっても簡単だろうね。あの2人は私より頭がいいし。ソフィアに関しては前世の記憶があるし、その前世も私より長生きしてるから、頭がいいのはよく分かる。でも、リシューは本当にすごいと思う。人生1回目だけれど、公爵家ということを除いても本当に頭がいいと思う。頭の作りどうなってるんだろう。まさかリシューも人生2回目とかってないよね?


「どうしようかなぁ」


 ケーキも食べ終わったし、課題も終わってしまったし、本当にする事がなくなった。いつも通りこの部屋に用意してくれている本を読んでもいいんだけれど、もう読みつくしちゃったんだよね。この本棚の本は定期的に変えてくれるけれど、今回はまだ変わっていないみたい。私がしばらくこのお城に住む事になっているから、変えるタイミングが難しいのかもしれない。でも、わざわざ催促するまでもないし、もし催促をしたらなんだか申し訳ない。メイドさんにはメイドさんのお仕事がただでさえ多いからね。そんな事で煩わせてしまうのは申し訳ない。本も沢山あると重たいしね。

 暇だから図書館に行くのもありかな。うーん、でもなあ。今は本の気分じゃないかもしれない。


「お散歩でもしようかなぁ」


 あっ、それいいかも。小さい時は、アル様と一緒によくお城探検とかをしてたんだけど、最近はしてないからね。さすがにお仕事をしている人の邪魔はできないけれど、園庭とかそのあたりだったら大丈夫だと思う。

 べっ、別に、あわよくば知ってる人に遊んでもらおうとか思ってないよ?ただたまたま会って遊んでくれそうな人とお話をするくらいはいいよね?会えるかは分からないけど。誰か遊んでくれそうな人いないかなー……。

 よくよく考えてみたのだけれど、私が勝手に1人で行っていい所なんて、園庭ぐらいしか思い付かなかった。だって、執務室とかに行ってアル様達のお仕事の邪魔してもいけないし、料理人の所に行っちゃっても夕食を作る邪魔になっちゃう。使用人の住んでいる建物の中にも入るわけにもいかないし、ソフィアのレッスンも邪魔をする訳にもいかない。

 となると、やっぱり園庭で日向ぼっこだよね。ここにお菓子があれば最高なんだけれど、さっき食べちゃったから贅沢は言えない。言ったら用意してもらえそうな気がするんだけれど、食べ過ぎだって怒られちゃいそう。アンナとソフィアに。


「やっぱりお城の園庭は綺麗」


 なんと言っても一番キレイなのは薔薇。ここの薔薇は本当に不思議。王族による転移魔法でしか行けないバラ園もあるけれど、ここの薔薇も本当に綺麗。そして不思議なのが、どちらも年中咲いてるということ。花は基本的に咲く季節が定まっているけれど、この世界のばらはこれが普通なのだろうか。それとも、このお城のばらが特殊なだけだろうか。よく分からないけれど、お義母様が大切にしている薔薇園だからいつも綺麗で本当に嬉しい。この綺麗な薔薇を見ていたら、もう一つのバラ園の方にも行きたくなってきた。今度アル様に連れて行ってもらおうかな。あのバラ園には、ソフィアによく似た薄水色のアネモネもあるから、それも大好きなんだよね。真っ赤なバラの中に一つだけある薄水色のアネモネはとってもよく目立つし、何より懐かしくて綺麗。


 でも、どうしようかな。私はこんなんでも一応公爵令嬢でアル様の婚約者。そんな私がずっとここにいたら目立っちゃうし、何より庭師達が緊張しているみたい。私なんかに緊張しなくてもいいのにね。多少の粗相があったとしても、全然気にしないのに。むしろ、こんな綺麗な薔薇園を保っている庭師達を心から尊敬している。


「あっ、そうだ」


 桜を見に行こう。今の季節は桜は咲いていないけれど、それでもあの場所が好きだから行ってもいいかもしれない。

 私の名前と同じ薄ピンク色の綺麗なお花。年中咲いていてくれたらいいのになぁ。とは思うけれど、でも咲く季節が限定されているからこそ、綺麗っていうものもあると思う。冷たい時期に咲く桜も綺麗だとは思うけれど、やっぱり暖かい春になったら咲く桜の方が私にとって身近なものだ。





 桜の木がある場所に来てみると、やっぱり桜は咲いていなくて茶色の木がむき出しになっていた。お花がある方がより大きく見えるけれど、木だけでも本当に大きい。


「やっぱりいつ見ても大きいなぁ」


 早くもう一度花をつけた姿を見たい。出来る事なら、桜がたくさん世に出回ってほしい。欲を言うならば、桜並木を通って入学式がしたかったなぁ。もう入学式は過ぎてしまったから、どうやってもかなわないんだけれどね。初めて桜を見たのは10歳の時だけれど、それでも広まった方だとは思う。もう少ししたら、私のお家にも桜を提供できるかもしれないって言われたからね。たとえそれが何年後になったとしても、私は辛抱強く待とうと思う。桜が手元に来てくれるだけでとても嬉しい。

 そういえば、ソフィアを初めて見たのも10歳の時だったね。そして、桜のお披露目会の時に見たソフィアが2回目。あの時のソフィアは桜を見ながら泣いていた。今思えば大きなこの桜を見ながらも、前世の私を思い浮かべてくれたのかもしれない。そうだと嬉しいな。


「おや、お嬢さん」


 考え事をしていたからか、私に近寄ってきていた人に全然気付かなかった。話しかけられた方向に目を向けると、桜の木のお世話などをしている庭師のお爺さんがいた。



「あっ、おいじさんこんにちは!」


 おじいさんは私の隣に並んで桜の方を向いた。


「やっぱり花がないのは残念だなぁ」


 おじいさんも桜が大好きみたいで、咲いていない事を寂しく思っているみたい。


「ですね…」


 やっぱり桜は花をつけている姿が一番綺麗。でも、桜が花をつける時期になるということは、寒い冬が終わって、春が来るということ。春は出会いの季節であると同時に別れの季節でもある。春になるときっと沢山の別れが待っている。それを思うと、春なんて来て欲しくないとは思う。でも、永遠の別れなんてないんだから、少しの我慢は必要かもしれない。


「次も綺麗に咲いてくれますか?」

「ああ、きっと咲くよ」


 この木は一体あと何年もつのだろうか。木にはそれぞれ寿命があると聞く。私が死ぬまでこの桜は元気でいてくれるだろうか。出来る事なら、私の終わりはこの桜に見守ってほしい。この木はこの世界に落ちた私が初めて出会った桜だから。私の終わりは桜と一緒がいい。贅沢だろうか。それでも桜のそばにいたい。





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