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133、少し寂しいです




「じゃーん、ここが私のお部屋です!」


 ソフィアを案内して、私のお部屋までたどり着くと、ドーンとドア開ける。私が来ていない時でも、メイドさん達が掃除をしてくれているみたいで、いつでもピカピカふわふわのお部屋だ。


「可愛いわね」


 ソフィアが思わずそう声を漏らすのも分かる。私のお部屋は私が大好きなふわふわヒラヒラがいっぱいの可愛いお部屋。用意したのは私ではないけれど、本当に私好みで大好き。

 今ここにるぅがいないのが残念…………。なぁんて言うと思いましたか?ちゃんとお家からるぅを連れてきてもらってますよ!ほら、あのソファーに可愛くちょこんと座っているのが私の大好きなるぅ!


 ソフィアもるぅに気付いたみたいで、るぅの前まで行くと


「こんにちは、久しぶりね」


 と話しかけていた。親友と親友の対面はなんだかとっても微笑ましくて嬉しいものです。大好きなお部屋で、大好きな親友と大好きなぬいぐるみに囲まれているなんて、私は贅沢すぎます。そこに大好きなケーキも加われば……、なんて思っていたけれど、やっぱりメイドさん達が用意してくれていました。優秀すぎて怖いです。


「じゃあ、シルフィー課題するわよ」

「えっ」


 課題…、ですか?


「課題をするためにこの部屋に来たんでしょ」

「えっ、あっ、うん」


 そう、だけど……。あれは正直ただの口実だったんだよなぁ。


「それよりも、ケーキは」

「それは課題したあとね」

「そんな……」


 課題は嫌いじゃないし、どちらかと言えば楽しい部類に入るけれど、今目の前にある美味しそうなケーキを後回しにしてまでしたいわけではない。


「ソフィア先にケーキ食べようよぅ…」

「ダメよ、食べたら眠たくなるでしょ」

「ならないよ?!私もう子どもじゃないからね!」

「はいはい」


 いや、私達同じ年なんですけれど?!


 何ですか、その信用のないような目は…。


「まぁいいか、先にケーキ食べちゃおうかしら。あんまり遅くなってから食べたら夕食が入らなくなるかもしれないしね。シルフィーが」

「私は入るよ!」


 私はいくら食べても胃もたれなんてしませんからね。甘いものは甘いもの。夕食は夕食だもん。入らないわけがありません。もちろん夕食の後のデザートもちゃんといただけますよ。

 ソフィアと2人でソファに腰掛けると、メイドさん達がケーキと紅茶を用意してくれる。もちろん、私はミルクティー、ソフィアはストレートティー。甘いものは最強なのですよ。甘いものは寧ろ脳活性化させるから、課題の前に取り込むと、私は集中力がとっても増すのです。


「ふにゃあ」


 うまうまなのですよ。


「どこに猫がいるのかと思ったわ」


 私がケーキを食べた時に漏れた声にソフィアが思わず感想を漏らすけれど、ケーキを食べたら勝手に漏れる声なので気にしないでください。


「まぁ、とりあえず私はケーキだけ食べたらレッスンに行くから、シルフィーは課題をしなさいね」

「えっ」


 あっ、そっか。本当にすっかり綺麗にさっぱりに忘れていたけれど、ソフィアはレッスンをしにお城に来たんだった。私と一緒に遊んでくれる気満々だったよ……。


「私とレッスンどっちが大事なの?!」

「それはレッスンね」


 この間と同じセリフを言うと、同じ返しをされました。でもこればっかりは仕方がないのです。レッスンは受けないといけないことだし、ソフィアの将来の為だからね。ちょっとしゅんとしてしまったけれど、仕方ないものは仕方ない。せめてもの抵抗でゆっくりケーキを食べ進める。

 でも、どんなに頑張ってゆっくり食べたとしても、終わりはやってくるもので、ケーキを食べ終わったソフィアはあっさりとレッスンに行ってしまった。もう少しこう、私との別れを惜しむとかないのだろうか。まぁ夕食には会えるから、惜しむ必要がないのは分かるけれど、でも一緒にいる時間をもう少し長引かせたいっていうのは私の我儘だろうか。


 それはともかく、ソフィアが出ていってしまった私の部屋では、私は1人きり。

 1人寂しく課題をするのはなんだか悲しい。いつも1人で課題をしているのだけれど、さっきまでソフィアがいたから、1人でいるのが余計に寂しくなってきた。仕方ない、こうなったら突撃するしかないよね。









 大きいドアを前にゆっくりとノックをする。


「誰?」


 返って来たのはいつもより低い声。思わず、「シルフィーです」とおずおずと答える。すると、その声の主は慌てたように扉を開いた。


「シルフィーどうしたの?」


 私の手を取って部屋の中に招き入れたアル様はゆっくりと私に聞いた。私がここにお邪魔するのは珍しいもんね。


「あのね、ソフィアがレッスンに行っちゃって、課題しようと思ったんだけど、ひとりじゃ寂しかったから来ちゃった」


 ここは私の部屋の隣にあるアル様のお部屋じゃなくて、アル様がお仕事をする為の執務室。何度も来た事があるんだけれど、やっぱり少し緊張する。アル様とアラン様だけだったら大丈夫だけれど、たまーに知らない人が来ていたりする。そこに鉢合わせすると怒られはしないんだけど、なんだか気まずい。皆ここに仕事をしに来ているのに私は遊びに来ているから。アル様は、むしろ遠慮せずにどんどん来て欲しいって言ってくれるんだけど、なんだかする事がなくてぼーっとしてるのが申し訳なくなってくる。でも、今日は私も課題があるから、ただぼーっとしているだけじゃないからいいかなと思って、つい来てしまった。


「あのね、邪魔じゃなかったらここで課題してもいいですか?」


 私がそう聞くと、アル様はすぐ


「もちろん」


 と言ってくれた。アル様はいつもみたいに優しい顔でふわっと笑うので、本当に邪魔じゃないのだと確信が持てて安心した。


 いつも私が座ってるソファーに腰掛けると、アル様も自分の執務机についた。

 それを見ながら、私は持ってきていた課題を開いた。今回の課題は簡単そうでよかった。難しい課題が出る事はあんまりないんだけれど、この間みたいな、意見をまとめるような論文形式だとやっぱりこの部屋だけでは課題は出来ない。図書館にこもって調べたりをしないといけないからね。でも今回は数学のようなもので、計算すれば答えが出るものばかり。とても安心した。

 計算問題は楽しいので、すらすらすらっと答えを次々と書き込んでいく。その途中でチラチラと何度もアル様の方を向いてしまう。仕事をしている時のアル様は私に向ける笑顔とは全く別物の顔をしている。真剣で目が尖っていて、少し怖いような印象もするけれど、同時にすごく格好いい。仕事をしている男性が格好いいって言っていたクラスメイトの気持ちが本当によく分かる。きっと仕事をしてるお父様もかっこいいんだろうなぁ。課題が終わったらこっそりお父様の姿を見に行ってもいいかもしれない。…………あっ!ダメだ。そういえばお父様は今、領地の方に行っているんだった。お父様がお家にいないから私が今ここにいるんだった。すっかり忘れていた。なんだか寂しくなってきたなぁ……。家に帰ればお父様やお母様がいるのが当たり前だったから、いないとすごく寂しい。一週間も会えないなんて…、


「ううっ」


 なんだか寂しくなってきた…。

 お父様やお母様に会えないだけで、目に涙がにじんでくるなんて、私はまだまだ子どもだなぁって思う。でも寂しさは耐えられない。思わずソファーから立ち上がって、アル様の方に駆け足で向かう。


「アル様…」


 アル様にそっと声をかけると、アル様は「どうしたの?」と言いながら両手を広げてくれる。これは抱きついてもいいという合図ですね。私は遠慮なくアル様の腕に飛び込む。


「あのね、なんだか寂しくなってきたの…」

「そっか」


 アル様はそう言いながら、抱きしめたまま私の背中を撫でてくれる。

 これで寂しさが紛れるわけではないけれど、安心するのは本当


「あのね、アル様。もう少しこうしてもらっててもいい?」

「もちろん」


 やっぱりアル様は優しい。


「あっ、でも。アル様は遠慮なくお仕事してね?早く終わらせていっぱい構ってくれる方が嬉しいから」


 アル様の事だから、きっと私を抱きしめたままでも、お仕事は進められるはず。


「うっ、うん、わかった」


 アル様はそう言いながら、私の事をもっと抱きしめてくれる。


「ふぎゅう」


 苦しくて幸せ。


 アル様は私の背中を撫でながら、反対の手でゆっくりと一定の間隔で、私の背中を叩く。

 あっ、これダメなやつ。小さい頃からお昼寝する時はアル様がずっとこうやってしてくれていたから、眠たくなっちゃうのですよ。これも条件反射なのです。


「アル様、ダメ、眠たくなっちゃう…」

「寝てもいいよ、ちゃんとご飯の時間に起こしてあげるから」


 そうじゃないのですよ。そうじゃないんです。私はもう15歳だから、お昼寝する必要なんてないのですよ。それでもちゃんとご飯の時間になったら起こしてくれようとするアル様は私の事をよく分かっているのです。ご飯が食べられないなんてとってもとっても悲しいもんね。

 でもやっぱりアル様のとんとんには敵わない。おやすみなさい、なのですよ。





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