128、お兄様とお出かけです
「お兄様、早く!」
「分かった、分かったから落ち着け」
今日はお兄様とお出かけです!マリーお姉様も一緒に行くはずだったのだけれど、今日だけクロード公爵家に帰ってしまった。リシューはマリーお姉様が大好きだから凄く喜んでいると思う。だから代わりにディーを連れていきます。そして、私とお兄様とマリーお姉様だったら馬車を用意しないと行けないけど、マリーお姉様が来れなくなったから馬でも行ける。
お兄様が馬を連れてきてくれ、お兄様がそこに乗り込む。お兄様は上から「ほら」と言って私に手を差し出してくれるので、私もそこに手を伸ばす。お兄様もやっぱり格好いい。私と同じ金色の髪は太陽の日を浴びてきらきら輝いている。王子さまみたいでとっても素敵。
「やっぱりシルフィーは軽いな」
そう言いながら私をお兄様の前に乗せてくれる。軽いって言われると安心する。重いって言われるよりいい。でも、その後に「小さいな」って言ったのは許さない。絶対許さない。お兄様に身長が縮むおまじないをこっそりかけてやる!…そんなおまじない無いけどね。
「ディーはどうやって行くんですか?」
私はお兄様の前に乗せて貰うんだけど、流石にディーまでは乗らない。
「ディーは走っていくぞ」
「え?」
走って…、?
「ディー走るの?」
ディーに聞いてみると、どや顔で「ワン」と鳴く。どや顔可愛い。
馬の横を走る犬。何だか面白いね。じゃあ、出発です。
街につくまではゆっくり走っていたけれど、ディーは問題なくついてこれていた。
「ディー疲れてない?」
下を向いてディーに聞いてみるとディーは全然余裕そうですたすた歩きながら「ワン」と鳴く。間違いなく私より体力ありますね。今度鬼ごっこしませんか?絶対私が負けますね。私が転んでおしまいですね。
「にしてもシルフィーと2人なんて久し振りだな」
「ですね!」
だってお兄様遊んでくれないんだもん!ディーもいますけどね。
「お兄様は私よりマリーお姉様とばっかり遊ぶんだもん」
「まあ、うん」
お兄様は言い訳を見つけようとしたけれど、見つからなかったみたい。まあ、妹よりお嫁さんを大事にするのは当たり前だもんね。寧ろ妹ばっかり相手していたらマリーお姉様に申し訳ない。
「でも、私はマリーお姉様を大切にするお兄様が一番大好きです」
お兄様にそう言うと、お兄様は目を開いた後、うっすら笑って「ありがとな」と言いながら私の頭を撫でた。何だかそうするお兄様のしぐさも大好き。
実際に、お兄様とマリーお姉様は幸せだと思う。だって政略結婚が当たり前の貴族だけど、幸せそうだもん。望まない結婚をする人だっているし、好いた人と結婚出来ない人だっている。私の周りに居る人は皆素敵な人達ばかりだから、きっと大丈夫。誰と結婚しても幸せになれるはず。
そのまま馬に乗って進んでいっていたけれど、美味しそうな匂いがどこからともなく漂ってくる。
「いい匂い…」
クンクンと鼻を動かしてみるけれど、お肉の匂いとかお魚の匂いとか、ケーキの匂いとかケーキの匂いとかお菓子の匂いとかケーキの匂いとかがする。
「なんか食べるもんでも買っていくか」
「!」
買いたい!前にアル様と一緒に行った時に、買っていけばよかったなって思ったもん。お兄様ナイスアイデアなのです。
「何がいい?」
「えーっと、えっと」
何がいいだろう。ディーも一緒に食べられるようなものがいいよね。
下を向いてディーの方を見てみると、ディーはある1点を見つめていた。その方向を見つめ、その後に私を見つめ、そしてまたその方向を見つめ、私を見つめを繰り返す。こえ、これは!!
「ディーがおねだりしてる!」
可愛い!
ディーが見ているのは……、ホットドッグ屋さん?ディーは今日、パンの気分なんですね。
「お兄様、ホットドッグがいいです」
「はいはい」
お兄様は馬を止め、さっと降りる。私はどうしようか迷ったけれど、お兄様が私の両脇を掴んで降ろしてくれた。思うのだけれど、いくら力持ちだと言っても15歳の女の子をさっと抱き上げるなんてすごくないですか?これはお兄様に限らないんだけど、もしかして身体強化の魔法とか使ってるのかな?そんな魔法ある?
まあいいや。
馬を繋いで、ディーも一緒にお店に行くと、種類豊富のホットドッグが書いてあるメニューがあった。
「お兄様、私、卵がいっぱいのやつがいいです!」
「はいはい、ディーは?」
「ワン」
「ああ、これな」
え?何だか二人会話してます?お兄様ディーと会話しています?ずるい!
「ディー、お兄様だけじゃなくて私ともおしゃべりしよ?」
「ワン」
「ん、んー?」
だ、ダメだ。私には分からない。お兄様はどうしてわかったんだろう?
なにはともあれ、そこからもう少し馬を走らせて到着しました。今日の目的地の森です!正確には精霊の住処!
「到着!です!」
「おお、久しぶりだな」
「ワン」
ディーは最初から最後までずっと自分の足で走って来たけれど、本当に疲れていないみたい。その体力を私に分けて欲しい。
お兄様は馬に付けていた荷物を降ろしてシートを敷いてくれている。ありがとうお兄様。シートまで持って来てくれているなんてなんて気の利くお兄様でしょう。
ここは相変わらずきらきら光っていて綺麗。飛び交う精霊たちも楽しそうで見ているだけで幸せになる。それにしても、
「本当にディーって、精霊が見えているんだね」
前にアル様が言っていたように、ディーは本当に精霊が見えているみたい。さっきから追いかけたそうに精霊の方をロックオンしている。可愛いんだけどね。ディーは魔力を持っていないから見えないはずなのに。どうなっているのだろ?
ディーは精霊を見ていた目を私に向ける。
「ディー?」
そのまま私の所に来て私の足にすり寄る。
「どうしたの?甘えん坊なの?」
そんなディーも可愛い。一緒に草の上に寝転んでディーをわしゃわしゃと撫でると気持ちが良さそうに尻尾を振っている。
「ディーってなんだか、ファルみたい」
「クゥーン?」
思わず口から出てしまった言葉に、ディーは私が何を言っているのか気になるように鼻をこすりつける。
「ふふ、くすぐったいよ。ファルっていうのはね、私のお兄ちゃんみたいな人がくれたくまのぬいぐるみの事なの」
それは前世で育った養護施設でお兄ちゃんに貰ったぬいぐるみ。こげ茶で黄色の瞳。まるでディーみたい。……というか、本当にそっくりかも。このふわふわの毛ざわりといい、この愛くるしい顔といい。
「ディーにも会わせてあげたかったな。本当に大切なぬいぐるみだったの」
いくら悔やんでもこの世に「ファル」はいない。それは仕方がない。どうしようもない事だから。
思わず落ち込んでしまったけれど、ディーが私の顔をなめて「僕がいるじゃん!」みたいな顔をしてくるから笑っちゃった。
大丈夫。落ち込ませる要因があったとしても、同じくらい元気の素は沢山あるから。
「本当に仲いいな」
荷物を降ろし終えたお兄様はシートに寝転がりながらこっちを見ていた。
「はい、私とディーは仲良しですよ!ね、ディー」
「わん」
ディート一緒にお兄様の所に戻ると、お兄様はお昼の用意を始めている所だった。
「あ、お兄様ありがとうございます!」
「どういたしまして。ほら、手拭いて」
な、なんとおしぼりまで持って来ている?!お兄様の女子力半端ないです!
「シルフィーは卵のやつだよな」
「はい」
お兄様はそのままディーの前にもホットドッグを置くと、皆で食べ始める。こうやっていつもとは違う場所で食べられるのって楽しい。いつも食べているもののはずなのに、一段と美味しく感じる。お兄様とディーと一緒って事もあるのかな?お兄様もディーも本当に美味しそうに食べるから私も美味しく感じる。
「シルフィーはここに何回か来た事あるんだよな」
「はい、アル様と2回来ました」
前来た時は秋くらいだったから涼しかった。今は冬だけど心なしかあったかい。精霊の力だろうか。居心地が良くて、心まで少しずつあったまっていく心地がする。
「本当に仲良くなったよな」
「アル様とは仲良しですよ?」
「兄としては、妹が幸せな結婚が出来そうで嬉しいよ」
お兄様のそういう優しい笑顔が大好き。多分、マリーお姉様もそんなお兄様が好きだと思うな。
「もし、殿下の側室になりたいって人が押しかけてきたらどうするんだ?」
お兄様はにやにや笑いながら、楽しそうに聞いてくる。何がそんなに楽しいのかな…?
「うーん、さびしいけど、アル様に好きな人が出来たなら仕方ないかな?」
だって、王族は側室を持つ事が出来るんでしょ?アル様だって当然持つ権利があるし。私に子どもが出来なかったら仕方ない。
あれ、でも側室って……、小説でもそうすればよかったんじゃないかな?ヒロインの『ソフィア』が正室で『シルフィー』が側室。そうすれば『シルフィー』は婚約破棄されることもなかっただろうし。あ、もしかして小説では王族の側室制度が無かったのかもしれない。
「……は?」
ぼーっと考えていたらお兄様の抜けた声が聞こえた。
「え?」
何でそんなに怖い顔をしているんだろう?
「え、あ、いや、すまない」
なんでもない、そう言ってお兄様は話を終えた。
それから何もなかったように美味しくホットドッグを食べてゆっくり過ごしてお家に帰った。お兄様とのお出かけは楽しいけれどなかなかできないのが残念。