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126、解散は出来ないみたいです


「おはようございます!」

「おはよう!」


 いつも通り登校すると、いつも通りの風景を繰り返す。当たり前のはずなのに、どこか違和感を感じるのはきっと私の気のせいだろう。

 教室の中に入ろうとしてドアを開ける。


「シルフィー」


 教室の中から話しかけてきたのはリリーお姉様。…え、何でリリーお姉様が?さっき感じた違和感はこれですか?でも、朝から素敵なリリーお姉様のお顔が見られるなんて幸せです。


「リリーお姉様、おはようございます。どうしたのですか?」

「おはよう。突然ごめんなさいね。ジェイド先生にメモを頂いたの」

「メモ?」

「シルフィー宛てみたいなの。教室を訪ねたらいなかったから、戻ろうかと思ってたのよ。丁度良かったわ」


 な、なんと。ジェイド先生からしたらそこにいたリリーお姉様に渡しただけだと思うけれど、先輩であるリリーお姉様にわざわざここまでメモを持って来てもらったと思うと申し訳ない。幸いリリーお姉様は何とも思ってないようで良かったけれど。


「わざわざありがとうございます」

「ふふ、どういたしまして。返事も聞いてくるように言われているから今メモを見てくれると嬉しいわ」

「はい!」


 勿論、これ以上リリーお姉様をお待たせする事なんて出来ません!


 リリーお姉様が渡してくれたメモにはジェイド先生からのメッセージが書かれていた。そのメッセージを見た途端。


「!」


私の目が輝いた。それはもうきらっきらに。


「何が書いてあったの?」


 リシューとソフィアが私の横からメモを覗き込んでくる。そして、そのメモを見た途端、リシューは羨ましそうな顔、ソフィアは呆れた顔になる。


「おつかい行っててよかったぁ」

「おおげさね」


 思わずメモを握りしめて想い馳せる。ソフィアは呆れたような顔を崩さないまま私の頭を撫でる。メッセージの内容も嬉しいし、ソフィアに頭を撫でられるのも嬉しいから思わず顔が緩む。その瞬間またシャっと音がした気がした。その方向を見ても誰もいない。これだけ聞こえたら気のせいじゃないと思うけれど、嫌な気配とかは感じないから大丈夫だと思う。もし危険がある可能性があっても、多分大丈夫。アル様が守ってくれると思うから。以前、お兄様に「殿下は常にシルフィーに護衛を付けている」って言っていたし。どこにいるのかとかは全然分からないけれど。


「リシューも一緒に行く?」

「……羨ましいけど、これはシルフィーが誘われたものだから。いつもシルフィーが行ってくれるしね」


何より、一つしかないかもしれないしと呟く。


 確かに。一つしかなかったらリシューに譲れる自信が無い。独り占めしたい。


「シルフィーって公爵令嬢なのに。そのあたりが貴族に見えないんだよなぁ」


 どういう意味ですか?もしかしなくても褒められてませんね?


「リシューだって私と同類の癖に」

「シルフィーほどじゃないでしょ?」


 お互いをじーっと見つめてみるけれど決着はつかない。いや、何の勝負ですか?


「私からしたら二人とも一緒よ……」


 ソフィアの呆れた目線を頂きました。その内ソフィアも同類にするから覚悟しててね。


「じゃあ、ジェイド先生にはシルフィーが快諾しているって伝えておくわね」

「あ、ありがとうございます!」


 うっかりリリーお姉様を放置して話を進めてしまいました。ごめんなさい。本当にごめんなさい。お待たせできないなんて考えながらもすっごく待たせてしまった。


「ふふ、皆いつも通り元気そうで安心したわ」


 そう言ってリリーお姉様はご機嫌なまま教室に帰って行った。どうして私達が元気であることを確認したんだろう?

そして、リリーお姉様が教室を出た途端、教室が湧き上がった。


「?!」


 な、何事?!


「あーっ、挨拶しとけばよかった!」

「綺麗だったなぁ」

「あんなお姉様が欲しい…」


 なんて呟く声が沢山聞こえた。

 

「リリーお姉様ってすっごく人気あるんだね」

「そうね」

「……みたいだね」


 まあ、気持ちは分かるけれど。生徒会って事もあるけれど、それよりも綺麗で優しくて美味しいケーキ用意してくれて、頭も撫でてくれて抱きしめてもくれて私を抱っこするくらい力もあって。


「リリーお姉様が人気あるの、すごく分かる」


 リリー姉様の黒髪は神秘的だし、エメラルドの瞳は引き込まれる。そんな容姿に加え、いつも浮かべているあの優しい笑顔。好きにならない方がおかしい。リリーお姉様を好きな人はたぶんいっぱいいる。…はっ!


「いい事考えた!」

「いい事な気がしないけれど言ってみなさいな」


 ひどい。


「私のファンクラブを解散してリリーお姉様のファンクラブを作るのはどう?」

「「却下」」


 あらー…?お二人とも却下が早いですよ。


「どうして?」


 絶対リリーお姉様のファンクラブなら人が集まると思うのです。


「まずシルフィーのファンクラブを解散する意味が分からないわ」

「だね」

「あなたのファンクラブがどれだけの利益をもたらしているのか知らないの?」

「うんうん」


 え、っと。知りませんけど?

 リシューは相槌を打っているだけだけど知ってるの?


「シルフィーグッズを売ったお金を孤児院とかに寄付したり」


 寄付……はいい。いいことだ。でも、シルフィーグッズ?!何それ知らないんだけど! 一体何を売られているの?怖いのですけど。絵姿ならまだいい。良くないけどまだいい。でも絵姿は無理か。絵姿なんて一枚描くだけでも大変だもん。売り物にする為に何枚も何枚も描ける訳が無い。となれば…。だめだ分からない。前世ではサインの可能性も十分あったけれど、私はサインなんて持ってないし書いていない。他に可能性があるのは、ま、ますこっと、とか…?


 だ、ダメだ!何にも分からない。こうなったら今度何が売られているのか調べてみよう!


「ファンクラブ会員限定で会食をして信仰を深めたり」


 会食?!いつの間にそんなのやってたんですか?!なんで本人が呼ばれないのですか?!ずるいです!そして、「親交を深める」ものですよね?会員同士て語り合って仲を深めるんですよね?何だか、私の耳がおかしいのかな?ソフィアの言葉が「信仰を深める」って聞こえたよ?私の気のせいですか?え、気のせい?そうですか。


「広報活動の一環として技術の向上に努めたり」


 技術の向上?なんの?広報活動に必要な技術って何ですか?語彙力を増やすとか、そんなのですか?でも、それファンクラブじゃなくても出来ますよね?というか、メンバーをこれ以上増やさないでください。拡大しないでください。


「シルフィーが殿下と結婚した時にの為にシルフィーの味方を増やしておいたりね」


 そ、それはありがとうございます?何だかさっきまでの聞いてたらこれがまともに聞こえる。……気がしてきた。まともだよね?


「まあ、こんな所かしら」


 多い。多いですよ、ソフィアさん。な、何の話してたっけ?えーっと、あ、そうだ。ファンクラブのお話。


「百歩…、千歩譲って、私のファンクラブは解散しないって事は分かった…」

「しぶしぶね…」


 しぶしぶですよ…。何が楽しくて自分のファンクラブを容認しないといけないのですか?恥ずかしくて仕方がない。


「どうしてリリーお姉様のファンクラブはだめなの?」

「だめなものはだめ」


 今度はリシューが否定してきた。


「どうして?」

「どうしても」

「……」


 珍しい。リシューっていつも説明する時、ちゃんと理由まで説明してくれるのに。こんなに理由なく否定するなんて珍しい。

 じーっとリシューを見ても理由を言ってくれそうにない。顔を困った表情に変えるだけ。


「言いたくない事?」


 思い切ってリシューにそう聞いてみると、眉を下げたまま、静かに「うん……」と頷いた。


「分かった」


 流石の私もリシューが言いたくない事を無理に聞き出そうなんてしませんよ。私だって言いたくない事の一つや二つありますもん。どうしてリシューが言いたくないのか分からないけれど、それを知ろうとするのもリシューを裏切っている気がして嫌だ。

何よりリリーお姉様にファンクラブを作りたいなんて言っていないしね。リリーお姉様の許可さえあればリリーお姉様のファンクラブを作って、私から他の人の目をリリーお姉様に移せれたらなぁなんて思ってた。でも、リシューのさっきの表情を見ちゃうと、もうリリーお姉様にお願いなんて出来ない。

もう別の人のファンクラブを作るしかないな。え、ファンクラブを作るのを諦める?まっさか。怒られない限りは諦めませんよ。問題は人気があって、入りたい人が沢山あって、かつ3年生以外。三年生はまだもう少しあるけれど、すぐ卒業しちゃう。つまり、ルートお兄様のファンクラブを作っても、もう卒業してしまう。その時のことを思うと、少し、いやすごく寂しい。

止めよう。今は考えない。寂しいのは慣れてるから大丈夫。今はリシューの事。リシューの方を見ると、ふんわり素敵な笑顔をしていた。


「僕はシルフィーのそういう所が好きだよ」


 あら、褒められちゃいました?


「ありがとう。…えへへ」


 リシューに大好きだなんて言われると嬉しいな。ちょっと照れちゃう。顔緩んでないかな?両頬に手を当ててみるけれど、しっかり口角は上がってしまっていた。しっかりした顔をしようと思って気合を入れるけれど、さっきのリシューの言葉が嬉しくてまた緩んでしまう。こうなったら思い切り歪ませよう。


「私もリシューだいすき」


 嬉しい言葉を思い出しながら私も気持ちをリシューに伝える。


 聞きなれたシャッという音が聞こえ、ふと、リシューの方を見てみると…、いない。


「リシュー…?」


 わ、私は目の前に居もしないリシューに言葉を伝えたの?すっごく恥ずかしいのだけれど!


 と思ったけれど、ソフィアもいなかった。


 ふと予感がして視線を下に移すと、屍が積み重なっていた。屍がひとつ、屍がふたつ。屍がみっつ、屍がよっつ、屍がいつつ、むっつ、ななつ、やっつ、ここのつ、とお。

 ……これ以上は数えなくていいや。だって、10を数えたところでリシューの口から「かわ、とうと…」ってつぶやきが聞こえたんですもん。いつものやつです。ほっときます。「学園で周りの人が怪我とか病以外で倒れた場合以外はほっとくんだよ?近寄ったら危ないからね」って言ってたアル様の言いつけをちゃんと守ります。私はゆっくり席で予習でもしておきましょうかね。




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