125、お説教は怖いです
熱はソフィアのお陰ですっかり下がったけれど、念のため次の日は学園を休むように言われた。勉強が置いていかれる心配はしていないけれど、皆に会いないのは寂しい。もうすっかり元気になっちゃったから、ずる休みの気分。遊ぼうかと思ったのだけれど、ディーに見張られてて動けなかったのですよ。本当にディーは私のお兄ちゃんだね。
「げんき、いっぱい!」
馬車で迎えに来てくれたリシューにそう宣言すると。呆れながらもほっとしたようにため息をついた。
「うん、いつものシルフィーだね」
「うん」
「皆寂しがってたよ」
「え、本当?」
「うん、癒しが足りないって」
「……」
寂しがるってそういう事?何だか皆、アル様みたいになってないですか?私は別に、皆に癒しを提供していた訳では無いのですが。
「まあ、寂しがってたのは主にファンクラブの人達だけどね」
「ふぁんくらぶ……」
そういえばあったね、そんなもの。そして目の前に座っているリシューもその会員だ。会長はルートお兄様で、副会長はリリーお姉様。私以外の生徒会メンバーが全員入っているなんて嬉しくない。私以外の人のファンクラブってないのかな?いっその事作ったらいいと思うのよ。何なら私がファンクラブ会長とか……、はやっぱりしないけれど、作ってみたらどうかな。
「ソフィアのファンクラブでも作ったらどうかな?」
「うーん。僕はいいと思うけれど、ルートにぃが許さないと思うな」
「ああ……」
確かにルートお兄様はソフィアの事大好きだと思うから、……本当は良く知らないけれど大好き同士だと私は思いたい。好きな人を皆の前にさらすって嫌な事だった気がする。独り占めしたいもんね。
「うんうん」
思わず首を上下に振る。
「何か納得してる……」
リシューが突っ込んでくるけれど私が納得しているからいいのですよ。
「じゃあ、リシューのファンクラブとか作ってみる?」
「却下」
「えー」
拒否が早い。
「でも、リシューのファンだっていっぱいいると思うよ」
「でも嫌。」
リシューはそっぽ向いてしまった。
「……ファンクラブの人がお菓子とか貢いでくれるかもしれないのに?」
「…………………………いや」
「今考えたよね?」
リシューは今や私と同じくらいのケーキ好き。だからお菓子に釣られるのも無理はない。よし、これだ。
「色んなお菓子もらえるんだよ?」
「……」
「高級なお菓子とかももらえるんだよ?」
「……」
き、効いてる!リシューが凄く悩んでる!これはリシューのファンクラブ設立成功か?!
「並ばないと買えないようなお菓子までもらえたりするんだよ?」
「……っ」
「美味しいケーキの最新情報ももらえたりするんだよ?」
「う、うらやましい…っ」
おお!リシューがとうとう落ちました!ここで畳みかけよう。と思ってはなった次の言葉がダメだった。
「貰ってその場で食べて無くなっちゃったら、もう一つもらえたりするんだから!」
これを言った瞬間リシューの顔が怖くなった。
「ちょっと待って、」
「ふぇ?」
「前にアルにぃに、貰ったものは一度確認して貰ってからって言われたよね?」
ひっ!そ、そういえば言われた、気がする…?言われた気がしないでもない。かもしれない。
「ひぇ、え―…、と。あ、はは?」
笑ってごまかそうとしたんだけれど、私が覚えていないと分かったのか、リシューの顔が怖くなった。
「シルフィー」
「は、はい!」
思わず背筋を伸ばす。ここは馬車だから出来ないけれど正座したいくらい。アル様やルートお兄様とおんなじくらい怖い笑顔。リシューはそんな顔しないと思ってたのに。やっぱり一緒に居ると似てくるんだね?
「シルフィーは周りの人を信じすぎ」
「はい…」
「信じるな、とは言わない。でも疑う事も必要だって分かるよね?」
「はい…」
「もし、毒でも入ってたらどうするの?」
「で、でもくれたのは仲のいい人で…」
「そういう人こそ何か仕込んでくるかもしれないでしょ」
「……おっしゃる通りです」
その後もずっとお説教をされました。……お説教はいいのです。甘んじて受けます。でも、その黒い笑顔を取り外してください。怖いです。アル様やルートお兄様に怒られた時の事を思い出します。でも、普段怒らない人のお説教は新鮮……、なんて思う暇なく怖かったのをここに報告しておきます。
「おはよう、二人とも。」
「おはよう」
「おはよう…」
馬車から降りたところにソフィアが待ち構えていた。
「あら、どうしたの?シルフィーが涙目じゃない」
そして私の顔を見たソフィアが聞いてくる。
「ソフィア…、リシューが…」
「あぁ、それはシルフィーが悪いわね」
「!」
ま、まだ何も言ってないのに!
「リシュハルト様が理由なくシルフィーに怒る訳ないじゃない。シルフィーが何かしでかしたか言ったんでしょ?」
「……」
あ、当たってます。けど!
「むぅ」
少しは親友の事を信じてくれてもいいと思います。
「涙目で睨んでも可愛いだけよ」
シャッ!
「ふぇ?」
いま、何か変な音が……?前も聞こえた気がしたけれど、やっぱり気のせい?
「気のせい、かな?」
気のせいって事にしよう。
「で、結局何があったの?」
ソフィアは私ではなくリシューに問いかける。
「シルフィーがもらったお菓子を疑いもせず、確認もして貰わずに食べたんだって」
「あぁ、やっぱりシルフィーが悪いじゃない」
「でしょ」
泣いてもいいですか?
「……リシュ―だって貰ったらその場で食べるくせに」
思わずぼそっと呟いたけれど、その瞬間リシューに「もう一度お説教かな」と言われたのですぐに謝りました。リシュー怖い。本当にアル様とルートお兄様にそっくり。
「リシューはリシューでいてね」
「急にどうしたの?」
「アル様とルートお兄様みたいにならないでね」
「……」
リシューは可愛いままでいて欲しい。小さい時からリシューはすっごくすっごく可愛くて、マリーお姉様とディアナお姉様の事が大好きで、人の事を素直に「可愛い」って褒められるリシューが大好き。そう思うと、今のリシューはやっぱり可愛いけど可愛くないや。リシューは今は少しかっこいいもん。可愛い8割、かっこいい2割かな。……今は怖いが6割を占めているけど。
「意味が分からないけれど、アルにぃとルートにぃみたいに格好よくなれないなぁ」
「そうじゃない!」
「?」
確かにリシューは可愛いが大半を占めているけど、そうじゃない。
「リシューはリシューですっごく格好いいの!可愛い時もあるけど、格好いいの!」
「え、あ、うん」
「だから怖い顔で怒っちゃ、や!」
私がそう言いながらリシューを睨むと、何故か隣にいたソフィアと一緒に口元を押さえてしゃがんでしまった。ソフィアからは「あざとさの塊…っ!」という苦情のようなものを頂きましたがリシューからの了承は得られませんでした。まさか、またあの黒い笑顔で怒られるの?そんなのやぁよ?
あと、またシャッという音が聞こえたけれど、気のせいかな?気のせいって事にしておきます。