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124、お熱です


「ん、うぅ……」


 さむい。お布団をかぶっているのに、寒い。

 やっぱり今日は寒い。朝からずっと、この寒さは変わらない。


アル様の匂いがする。どうしてだろう。くんくんと鼻を動かしてみると、より一層アル様の匂いがしてくる。

 でも一つ、馴染みのない匂いがする。ふわふわ。だけど、るぅじゃない。るぅじゃないけれど、なんだかふわふわしている…。るぅとは違うふわふわでこれも好き。


「ど、こ…?」


 そっと目を開けると一瞬どこか分からなかったけれど、見覚えがあった。アル様のお部屋だ。


 というか、どうしてここに…。あ、そっか。


 私はまた眠ってしまったのか。しかもアル様の上で。わざわざお布団に運んでくれたんだね。折角アル様とお話出来る機会なのに寝てしまったという罪悪感と、いつもの事かという安堵が渦巻く。

 

でも、本当に申し訳ないけれど、今だけは、どうしてもお布団から出られる自信がない。


 アル様とのお茶会に来たのに、私がした事といえば、寒さに震えて、布団にくるまって、アル様に甘えて。

 あったかいココア飲んで。ケーキを食べ……、てない!

 これは一大事だ。でも寒かったんだもの。今日ばかりは何もしたくない。正直、今日はそこまでしてケーキを食べたい気分でもないし。


「シルフィー、目が覚めたの?」


 ドアをノックする事なく入って来たアル様は私が起きている事を確認して話しかけてくる。


「あ、…っ」


 る様と言おうとしたのに、


 だめだ。なんだか、喉が痛い。アル様が持って来てくれたお水を飲むと、喉の痛さも和らいだ。寝すぎちゃったかな。そして何より、


「さむい……」


 アル様はそっと私のおでこに手を当てる。ひんやりしてて何だか気持ちいいような気もするし、冷たくて寒い気もする。


「やっぱり熱があるね」

「ねつ…?」


 熱ってあれだよね。身体が熱くなるやつ。アル様がこの間熱を出した時にアル様を触ったら、とっても熱かったもん。


「ねつじゃないもん……」


 だから、私のは熱じゃない。だって、こんなに寒くて体の芯から凍っちゃいそうなのに。


「げんきだもん」


 元気って事を証明しようと思ってお布団から出るけれど、やっぱり寒くてまたお布団に逆戻りしてしまう。


「シルフィー……」

「…げんきだもん」


 ほんとのほんとに、寒い以外は元気だもん。


「もうすぐお医者さんもくるから」

「や!」


 私は元気なの!元気って言ってるのに!


「お熱ない」


 から、かえる。

 

「おうち、かえる」


 だってもうすぐ夕方だし。そろそろ帰らないと。お父様の所に行って一緒に帰ろう。寒いけどそこは流石に頑張らないと。今日した事を思えばアル様に本当に申し訳なくなるけれど、後日謝ります。今日は何だか疲れたからまた今度なのですよ。寝てるだけなのに、何だか疲れちゃった。


「だめだよ。体調が悪くなったらどうするの」

「わるくないもん」


 全然悪くない。寧ろ嬉しい事に気が付いてきた。さっきまで寒くて寒くて仕方がなかったのに、今は何だか、


「あったかくなってきたの」


 ふわふわ、ぽかぽか。


「いや、それ熱だから」


アル様の鋭い声が聞こえるけれど、気にしない。だってあったかいけれど、暑くはないもん。後。お熱でぽかぽかしている時って確か熱が逃げていっている時じゃなかったっけ?違ったかな?何にしろ、治りかけって事ですよね?多分。まあ、私は熱なんて出ていないけれど。


「熱なんて、ない」

「シルフィー、寝ていよう?」


 いや。熱じゃない。頭が少しぼーっとする気がするのは眠たいだけ。


「お熱出したら困るから」

「困る?」


 熱出しちゃうと、皆に移っちゃう。一緒に寝ていた子に、皆に広がっちゃうから。一人で寝ないといけないから。


「誰が困るの?」

「分からない」


 皆何も言わない。ただ、私が罪悪感を感じているだけ。皆ちゃんと看病をしてくれる。特に、


「おにいちゃん…」


 擁護施設で一番私を可愛がってくれたのはお兄ちゃん。くまのぬいぐるみの「ファル」をくれたのもお兄ちゃん。この世界には「ファル」はいないけれど。なんだか寂しくなってきた。「ファル」に会いたい。


「お兄ちゃん?」


 アル様が私の言葉を繰り返すように呟く。


「ファル、どこ?」

「ファル?だれの事?」

「ディーに会いたい…」

「え、ディー?」


 アル様はぽかんとしながら次々出る私の言葉を繰り返す。でも、皆アル様が知らない人。


「アル様、またあした」

「いやいやいや」


 歩いて扉を出ようとすると、アル様に抱き上げられてお布団に連れ戻されてしまった。


「ふぁ?」


 さっきまでお布団から出て来いって言っていたのに。何で今度はお布団の中に入れるの?


「私、熱なんてでない」

「出てるからね?」

「きのせい」

「じゃないよ」


 「ほら」と言いながら私の腕の中にネコのぬいぐるみを置く。これはもう、本当に寝ろって事だよね?


 でも、本当に元気なのに。


 不満げな表情をしていた所で、アラン様がドアをノックして入って来た。


「アラン様、私元気なのにアル様が寝なさいって」


 起き上がってアラン様にアル様の不満をぶつけてみるけれど、アラン様は困った顔で笑うだけだった。


「しんどくはないですか?」

「うん、元気」

「それは良かったです」


 何だかアラン様は私の味方の予感がする。アル様はなんだか困った顔だけれど。


「でも、殿下の言葉に従って布団に横になるなんて、いい子ですね」

「いい子?」

「はい」


 私、いい子?……実はアル様にお布団に入れられただけだけれど。それは内緒。


「私、いい子です」

「はい」

「えへへ」


 ついでに頭を撫でてくれます。あれ、なんだか眠たくなってきた気がします。アラン様の手もなかなかのものです。


「いい子はこのままお休みできますか?」

「…ふぁい」


 いい子だから私は眠れますよ。もう夢の国に旅立ちそうですもん。


「いい子ですね」

「いいこだもん……」

「そうですね。いい子はお休みください」


「うん」と返事をしようとしたけれど、もう眠たくて返事が出来ない。「おやすみ」という二人の声を聞いた気がしたけれど、返事をする元気はもうなかった。










 苦しい。苦しい。


頭が痛い。のどが痛い


 苦しい。





「うぅ…」


 お外も真っ暗。何だか怖い。


「ある、さま?」


 いない。どこにもいない。さっきまで一緒にいたのに。お部屋のどこにもいない。


「あるさま……っ」


 るぅもいない。ディーもいない。あるさまもいない。

知っているお部屋なのに、知らない。


 どうしてこんなに怖いのだろう。


「シルフィー、起きたの?」


 ドアをノックしてアル様が入って来た。「顔が赤いし、熱もひどいね」ってアル様が私のおでこを触るけれど、ぼーっとして何も考えられない。


「シルフィー?」

「……」


 アル様が私の目元と頬を撫でる。もしかしたら、涙が流れているのかもしれない。


「どうしたの?」

「……」

「おいで」


 手を広げてくれているアル様にもたれかかる。そう、温もり。これが欲しかった。


「どうしたの?」


 起きたら苦しいのに、だれもいなかった。るぅもいなかった。ディーもいなかった。


 ……アル様もいなかった。


 普段なら何とも思わないのに、どうしてこんなに寂しいのだろう。


「いっしょにいて」

「シルフィー?」

「さみしいの」

「…っ!」


アル様にお熱が移ったら大変って事は分かっているけれど。でも、一緒に寝てくれる人なんてアル様しかいないのに。


「いっしょがいい」


 苦しい。何もかもが苦しくなる。こんな時、懐かしいものを見たくなる。


「さくら、みたい」

「ごめんね、今は冬だから咲いていないんだ」


 知ってる。知ってるけど、つい口から出てしまった。寂しい時こそ、お父さんとお母さんを感じる事が出来るものが欲しい。寂しくて寂しくて。


「くるしいの…」


 頭がいたい。ぼーっとする。こんなの知らない。多分、もっともっとひどくなる気がする。


「もうすぐ、ソフィア嬢が来るから」

「ソフィア?」


 ソフィアが来るの?どうして?


「シルフィーの体調が悪いことをルートに言ったらソフィア嬢に伝わったんだ。もう来ると思うよ」

「だめ……」


 どうしてソフィアがここに来るのか分かってる。お見舞いの為なんかじゃない。


「会えない!」


 アル様の腕の中から抜け出してベッドを抜け出そうとするけれど、やっぱり力が入らなくて崩れ落ちてしまう。


「シルフィー!」


 でも、それでもだめ。ソフィアには会えない。


「どうしたの、シルフィー。どうして会えないの?」

「だって、友達だから」


 私とソフィアは友達だもん。


「だからだめ!」


 アル様は私の言っていることがよく分からないみたいで、私を布団に戻しながらも頭に疑問を浮かべている。


「私は、ソフィアを利用したくて一緒に居る訳じゃないもん」


 私がそう言った事でアル様はやっと理解したみたい。けれど次の瞬間笑った。


「ソフィア嬢はそんな事気にしないと思うよ?」

「でも、」


 私は気にする。


「それに、友達が苦しんでいる時に何も出来ない方が苦しいと思うよ」

「それは…」


 確かにそうかもしれない。でも、


「殿下の言う通りね」


 ドアのノック音なしで入って来たのは、ルートお兄様とソフィアだった。


「ソフィア」


 ソフィアは大股で私の所まで来て光魔法を使った。早いです。もう少し驚かせてよ。


「どう?」

「痛いの、無くなった」


 すごく、楽になった。でも、苦しいのは無くなっていない。


「……」


 ソフィアを利用したかったわけじゃない。確かにさっきまで喉も頭も痛くて、ぼーっとしていた頭もちゃんと働くようになった。


「ソフィア……」

「私は私が使いたいように魔法を使うわ。だから今回も私が使いたかっただけ」

「でも、」

「でも、じゃないの」


 ぱちんとおでこをはたかれる。


「ふぎゅ」


 痕は絶対に出来ていないけれど地味に痛い。涙目になるのは悪くないと思う。


「いたい……」


 おでこを押さえてソフィアを睨んでみるけれど、ソフィアは気にせずに言葉をつづける。


「次気にしたら、もっと痛くするわよ」

「ひぅ」


 目が本気で怖いのです。痛いのは嫌だ。


「いい?何かあったら私を頼る事。いいわね?」

「……」

「いいわね?」

「はい……」


 私は昔からソフィアに勝てないのですよ。思わすベッドの上で正座になってしまうのです。そこで拍手しているルートお兄様とアル様はソフィアをなだめてくれるとありがたいのですが。特にルートお兄様。

 私の友達は格好良くて強くて優しい。大好き。勿論、ずっと看病してくれたアル様とアラン様も大好き。


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