123、冬は寒いです
「さむいぃ……」
寒くて寒くて寒いです。この寒さはおかしいと思います。今まで何度もこの世界の冬を体験して来たけれど、ここまで寒いのは初めてだと思う。だって、だって。
「ゆきなんてきいてない!」
この世界で雪が降るなんて初めて。……ではないけれど、ぜーったいにこの寒さはおかしい!
お布団から出られない!
ここに来るまでは厚着して来たけれど、もう無理!
「シルフィーがすごく寒いのは分かった」
アル様は私の頭を撫でながらそう言ってくれる。アル様は寒くないんでしょうか?
「寒いのは分かったから…」
「取り敢えず、私の布団から出てこようか」
アル様は額を抑えながら私を布団から出そうとする。
私は今、アル様のお布団の中に居ます。本当はお城の私のお部屋でアル様とお茶会だったのだけれど、寒すぎて無理です!思わず勝手にアル様のお部屋に入ってお布団に飛び込んじゃいました。
どうしてこんなに寒いのですか?!
「アル様」
「ん?」
「この寒さは、神様が私に一日中お布団の中で過ごしなさいって言っているのです」
「……」
なので私は今日、このままアル様のお布団から出ません。さらにお布団にもぐります。
なのに!
「こーら」
「あうぅ~…」
アル様、いじわるです。私をお布団から引っ張り出しました。
「やぁ…」
寒いぃ……。何でこんなに寒いの。冬は冬でもこの寒さは認めない。絶対絶対認めない。
「ほら。温かいココアがあるから」
「ココア!」
……ちょっとだけ。ちょっとだけならお布団から出てあげてもいいのですよ。
「ほかぁ」
あったかい~…。そしてうまうまなのですよ。
だいたい、この格好が寒いのです。女の子は外に出る時は基本ドレスだから足がさむさむなのです。ズボンを要求します。
あ、そうだ。ズボンなら借りればいいよね。
「アル様、ズボンを貸してください。お着替えします」
「だめ」
「!」
まさかの即答ですか?!
「なんでですか?!」
「そもそも身長が違うから、私のズボンがシルフィーに合う訳ないでしょう?裾につまずいて転ぶ未来しか見えないなぁ」
……。
うわぁ。何となく想像出来る…。あ、私が足短いのではなくて、アル様が長いんだよ?私は普通だよ。
「じゃあ、だれにズボンを借りればいいのですか?!」
「着替える選択肢をゴミ箱に捨ててくれ」
「えー…」
アル様は私は凍え死んでもいいのですか?!
アル様は大げさだなぁって言うけれど、冷えは乙女の大敵なのです。
ココアも飲み終わってしまってまた少しずつ身体が冷えていく……。
「ん、しょ」
もう一度お布団の中に入り込むべくベットに登ったけれど
「だーめ」
ってアル様に抱っこして連れ戻されました。
「むぅ…!」
寒い寒い寒い寒い寒い!寒すぎて怒りたくなる。
「アルさま、ぎゅーしてください」
頬を膨らましてアル様に思い切り抱き着くしか温かさを感じる方法はない。だいたい、急に寒くなり過ぎなのですよ。この間まであったかかったのに!
でも、やっぱり足が寒い。今日は少し長めのスカートだから、多少は温かいけれど、どうしても完全には寒さを排除できない。
「冬なんてきらいぃ」
ぐりぐりとアル様の胸に頭を擦りつける。アル様から何かを飲みこむ音がしたけれど、きっと気のせいだ。
「そんなに寒いなら座って毛布を掛けたら?」
うーん…。ソファに座って毛布を掛けてもなんだか寒いんだよね。
「今日はお茶会の予定だからケーキもあるけれど」
「ケーキ!」
……は食べたいけれど。
「いまは。いいです……」
寒くて動きたくない。
「シルフィーが、ケーキを?」
アル様が信じられないような声を出しているけれど、仕方がない。寒くて寒くて寒いもん。
私今日、寒いしか言っていない。でも、仕方がない。寒いもん。
本当は食べたいけれど、でも今はいい。でも食べたい。でも寒い。でも
「うぅ……っ」
本当にこの寒さはなに?
朝起きた時も寒かったからちゃんともこもこの靴下をはいたし、もこもこの靴をはいてきたし、もこもこの帽子もかぶって来たし、もこもこの上着も着てきたし、もこもこ…、間違えた。ほかほかのスープも飲んできたし。
髪の毛だっていつもはくくるけれど、今日は寒かったから降ろしてきたし、丈の長いドレスだって着てきたし、防寒対策ばっちりなのに!
本当に何でこんなに寒いの。ここは外じゃないから、あったかいはずなのに。アル様は寒くないのだろうか。
しかも雪まで降るなんて。いつもなら雪だるまを作るくらいの元気はあるのに!ディーと一緒に雪遊びするのとっても楽しいのに。お兄様とお父様が作ったかまくらに入るの、とっても楽しいのに。
今年はソフィアとかリシューも誘って雪遊びしたかったのに。
「寒い…」
こんな寒さでどうやって雪遊びが出来るというのだろう。
私、ここ数年で一気に年を取ったのだろうか。もう昔みたいに元気に遊べない。年だろうか。……あ、間違えた。私は大人だから。子どもじゃないから元気に遊べなくても仕方がない。
アル様とぎゅーってしていると、少しはあったかいけれど。
あ、そうだ。
そういえば、ソフィアにアル様に頼みなさいって言われていた事があったんだった。
「あのね、アル様」
「ん?」
「お願いがあるの」
アル様の服を掴みながら言うと、アル様は「勿論」と快諾してくれた。でも、こういうのって、お願いの内容を聞いてから言うものではないですか?
私にとってはありがたいですけれど。
「お願い?シルフィーの可愛いお願いなら喜んで聞くよ?」
その言葉、忘れないで下さいね。
「あのね。」
「うん」
「私のお胸大きくしてほしいの」
この間ソフィアのお家に泊まった時、ソフィアは大きくしたいならアル様にお願いしてって言ったもん。きっとアル様は特別な魔法とか使えるんだ。
「シルフィー」
「はい」
何でしょう?アル様のお顔を見てみると
「ひぅ」
思わず悲鳴が漏れてしまいました。だって、だって。アル様のお顔すーっごく怖かったんだもん。
「ある、さま?」
思わず寒さとは別の意味で震えてくる。
「ねぇ、シルフィー」
「はい!」
「私以外の誰かに、同じセリフをいったり、してないよね?」
「い、言ってないです!」
ひえぇ…。怖いのです。笑顔が黒いのです。夢に出てきそう。
「本当?」
「ほんとうです!」
本当の本当に本当だからその黒い何かをしまってください!
「そっか」
あ、何だか、納得してくれたみたい?
「それで?」
「ふぇ?」
まだ、何か?
「誰にそんな事を吹き込まれたの?」
「え…?」
えーっと、ソフィアだけど、ここで名前を出してもいいのだろうか。というか、何で怒られているのだろう?
「え、へへ」
なんだかよく分からないけれど、ここは笑ってごまかします。ついでにぎゅーって抱き着いておきます。そしてさらに頭ぐりぐり。そしてさらに「あるさま、すき」って呟いてみる。
「~~っ! そうすればごまかせると思っているでしょう!」
はい、思ってます!
「はぁ。まぁ、シルフィーが可愛いのは今に始まった事じゃないか」
仕方ないなぁ。って顔で笑っている。アル様のこういう顔、好き。
「ほら、こっち」
アル様は私を抱っこしたままソファに座る。
「うーん」
抱っこされたまま座るのはいいのだけれど、やっぱりなんだか寒い。やっぱり横抱き状態で座るのは少し寒いなぁ。
「よい、しょ…と」
やっぱりこの体勢がいいのですよ。私は今アル様に向き合う形で跨っています。この方がずっとずっとあったかい。
「ふふ」
あったかいなぁ。アル様がゆっくり頭を撫でてくれるの、とっても嬉しいのですよ。しかも、背中もゆっくりゆっくりなでてくれるものですから……。
「くぅ………………」
おやすみなさいませ。
そして結局魔法はかけてくれないんですね?