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120、お迎えに行きます



今日は、学園。ソフィアが光の魔法が使えると世間に知られてから、初めての学園。


「では、行ってきます!」


 今日も家まで迎えに来てくれたリシューと一緒に学園に向かう。


 今日の私は気合ばっちりなのですよ。いつもより早く起きたし、いつもより早く準備が出来た。そして、リシューもいつもより早く迎えに来てくれた。


 いつもよりお早い出発なのですよ。


「ねえ、リシュー」

「なあに?」


 私とリシューが馬車に乗っている間はいつも雑談。悔しいけど、リシューってお兄ちゃんみたいなんだよね。私の方が前世も合わせると年上のはずなのに。とても悔しいです。


「今回課題出てたでしょ、ジェイド先生から」

「あぁ、出てたね」

「もうやった?」

「ううん、まだ。シルフィーは?」

「やったよ。でも難しかった」


 私は答えが出ない問題を考えるのがとても苦手です。今回の課題はちゃんと答えを出す課題じゃなくて、自分なりの考えを出すものだから、少し難しい。


 この世界は、日常の事でも解明されていない事が多い。例えば、どうして雨は降るのか、どうして虹は出来るのか。置いておいたコップの水はどうして時間が経つと減っているのか。前世では理科の授業で当然のように習っていても、この世界では、全て精霊の仕業と考えられている。

 だから、正しい答えを書かないように、それっぽい答えを出す事が難しい。もし、正しい答えを書いても、その後の事を考えると怖い。こういうのは、研究者が長い間考えて答えを探しているものだから、ただの一学生があっさり答えを出すと、あらぬ疑いをかけられる。だから、私はこういう課題をする時は人一倍大変なのだ。まず、どこまで解明されているかを調べないといけない。専門用語を使う時も、どこまでこの世界で用いられているのかを確認しないといけない。そして、調べ終わってからようやく、説を考え始める。正しい答えを知ってる身としては、正しくないけれど、正しそうな考えを出す事は非常に難しい。どうしても正解に考えが引っ張られてしまう。答えが決まっている問題の正解を導きだす方がよっぽど簡単だよ…。時間がかかることを見越していつも早い段階で課題を始めるから、人より終わるのが早いのです。


「シルフィーってこういう課題得意だよね」

「……」


 得意ではありません!取り組むのが早いだけで、いつもわざと絶妙に外してます!


「シルフィーの論文は研究者達も見てるって話だよ?」

「え?!」


 嘘でしょう?そんな話聞いてないよ!


「なんでも、ジェイド先生がフィオーネ公爵に許可をもらって見せているみたい。」

「お父様が?!」


 というか、そう言うのは本人の私の許可をとって下さい!そんな間違っている論文を見られるなんて恥以外の何でもない!


「で、今や、シルフィーのその論文を見る為に、こういう課題が多くなっているという…」

「それこそ初耳だよ?!」


 多いとは思ったよ…?!前は一ヶ月に一度ペースだった課題が、二週間に一度、週に一度と頻度が多くなってきているんだもん!


「ふぇ…」


 なんだか、皆に申し訳ないな…。


「大丈夫、今言った事は僕しか知らないから」


 そこで、なんでリシューは知っているの?って突っ込むのはやめた方がよさそうね。


「というか、シルフィーの課題の論文は凄すぎるよ。」

「え?」


 凄いって何が?私はただ間違った案を長々と書いているだけだよ?


「まず、シルフィーは課題に取り組む前に、他の人の論文も読んでるでしょ?」

「うん」


 だって、そうしないと、この世界ではどこまで解明されているか分からないし。


「普通はそこまでしないんだよ…。といか、時間が無くて出来ない。論文って専門用語が多いでしょ?だから、まずそれを理解する為に、また別の論文を読むことになるからね」

「……?」


 え、でも、それって調べるうえで当たり前じゃないの?分からなければ調べるのは当然でしょ?普通に書くとしても、まずは調べないと書けなくない?自分の頭一つで考えられる人がいたらそれこそ天才だよ。


「……うわあ、本当に分からない顔してる」

「え?」

「……取り敢えず、シルフィーは頑張って課題をしているねって話。」


 えーっと、褒められました?


「もっと褒めてもいいよ!」


 なんだか褒められたのは嬉しくて、腕を組んでリシューにどや顔をしてみる。


「こういう所を見ると、ただの可愛い女の子なんだけどなぁ」

「?」


 えっと、結局褒めてくれないの?


 でも、頭を差し出すとちゃんと頭は撫でてくれたから褒められているのかな?


「でも、リシューが終わっていないなんて珍しいね」


 リシューはしっかりしているから、こういう課題が出ても、いつも私より早く終わらせている。


「うーん、何だか今回は難しくて…」

「だよね…」

「ソフィアはもう終わっているかな?」

「ソフィア…」


 ソフィアは、大丈夫だろうか。緊張していないだろうか。

 ちらりとリシューの顔を見てみる。


 リシューは大丈夫だと思う。リシューは、ソフィアが重要人物になったくらいで、対応を変えるような人じゃない。ちゃんと本人を見てくれる。でも、他の人は?クラスメイトを信用していない訳では無い。

でも、ソフィアを見る目を変えても、私が責める事は出来ない。ソフィアが悲しい思いをしないといいけれど。


もう一度、ちらりとリシューの顔を見てみる。


リシューは穏やかに笑っていた。


恐らくクロード公爵家にもソフィアとルートお兄様の婚約の知らせは届いているだろう。私はてっきり、リシューとソフィアはお互いを好いているのだと思っていた。けれど、ソフィアはルートお兄様を好きだと言っていたし、リシューも全く悲観していない。私の勘は外れたのだろうか。……外れたんだろうね。でも、ソフィアならリシューを幸せに出来ると思っていた。学園でも二人とも気が合っていたし、仲も良かった。クラスメイトや生徒会という事を除いても、特別仲がいいと思っていた。よく私を仲間外れにして二人で何か企んでいたし。

私の大好きな幼馴染のリシューは未だに婚約者を作っていない。リシューが望んだ人と幸せになって欲しいという思いは変わらないけれど、ソフィアとなら幸せな生活を二人で送ることが出来ると思っていた。リシューがソフィアを好きかは分からなかったけれど、二人なら大丈夫だと思っていた。

これから、ソフィアは幸せになれるだろう。本人もルートお兄様との婚約を望んでいたし、幸せになると宣言していた。

けれど、リシューはどうなのだろう。本人は幸せそうに過ごしている。でも、格好良くて性格もとてもいい。しかも公爵家長男。そんなリシューが未だに婚約者を作らないのはおかしいと思う。私達の年齢では、もう結婚する人がいてもおかしくないのに。リシューは、何か結婚する事に嫌な思い出でもあるのだろうか。リシューの気持ちは分からないけれど、本人に聞くことも出来ない。いつか話してくれるといいな。私だと頼りないかもしれないけれど、誰か、リシューにとって頼れる人が出来るといいな。リシューが悩みを打ち明けられて、心から大切に思えるような人が出来るといいな。


でも、今はそれよりもソフィアが心配。


「ねえ、リシュー」

「うん、分かった」


 リシューにお願いをしようと思って声をかけてみるのだけど…。


「あの、お願いが…」

「うん、分かってるよ」


まだ何も言っていないんだけど……。


「えっと、今から…」

「ソフィアの家に行くんでしょ?」

「!」


 君はエスパーですか?


「だから今日、早く出たんでしょ?」


確かに今日は家を出る時間が早かった。いつもより30分も早い。でも、それは本当にたまたまなのですよ?たまたま早く目が覚めて、たまたま早く準備が出来た。

 そして、たまたまリシューが早く迎えに来てくれた。


「シルフィーがソフィアと一緒に行きたいと思って早く迎えに来たつもりだよ?遅くなると、ソフィアがもう出てるかもしれないからね。」

「!」


 本当に、この人は…。私の事を良く分かっている。でも、本当に、ソフィアの家に行こうと思ったのは今だよ?リシューの先を読む思考は凄すぎて言葉も出ない。


「じゃあ、リシュー、お願い」

「うん。といっても、もう着くけど」

「え?!」


 慌ててカーテンを開けて窓の外を見てみると、見覚えのある屋敷が見えた。


「ソフィアのお家だ!」


 多分、リシューは出発した時から学園じゃなくてソフィアの家に向かってくれていたんだろう。

 本当に出来る幼馴染だよ。私の幼馴染だなんて勿体ない。





「あ、あそこ」


 馬車を降りてそのまま歩いて玄関の方に行こうと思ったけれど、リシューの指差す方向を見てみると、丁度ソフィアが馬車に乗ろうとしている所だった。間に合ってよかった。危うくすれ違いになる所だった。


「ソフィア!」


 私が声をかけると、ソフィアは驚いたように馬車に乗る足を止めた。


「シルフィー?!」


 少し遠かったけれど、気が付いてくれた事が嬉しくて、思わず大きく手を振る。リシューの手をとってソフィアの所まで行くと、状況が把握出来ないのか、ソフィアは呆然としていた。


「え、なんでシルフィーが?それにリシュハルト様まで……」


 ソフィアの顔を見てみると、何となく、目元が赤い…?しかも、なんとなくクマが出来ている気が…?


「ソフィア、もしかして寝れなかったの?」

「…!」


 私に気が付かれると思っていなかったのか、驚いたように一歩後ずさった。


「え、あー…」


 やっぱり、今日の事が心配で眠れなかったんだろう。ソフィアは普段しっかりしている分、私には余り弱みを見せない。それを少し悔しいと思うけれど、ソフィアらしいとも感じる。


「ちょっと、ね…」


 困ったように笑うソフィアはやっぱり元気がない。無理もない。いきなり重要人物になったから周りの人の反応が怖いのも当たり前。

 やっぱり、ここに来てよかった。ソフィアはどう思っているのか分からないけれど、私とリシューが一緒に居る事で、少しは気がまぎれるといいけれど。


「ソフィアも乗って」


 リシューは乗って来た馬車のドアを開けながら私、というか、ソフィアに声をかける。


「え?」


 ソフィアはどうしてリシューがそう言っているのか理解できないように疑問を投げかける。


「ソフィアと一緒に学園に行こうと思って迎えに来たの。一緒に行こう?」


 ソフィアの手をとって馬車に乗ろうと声をかけると、一瞬肩を震わせ、その後、力が抜けたように私にもたれかかる。


「ソフィア?」


 私の肩に顔を埋めながら、ソフィアは言葉を紡ぐ。


「……本当は学園に行くのが少し怖かったの。さっきまで、学園に行くのをやめようかと思っていたわ。でも、二人が来てくれて良かった。シルフィーは知っていたけれど、リシュハルト様も、いつもと変わらない態度で、今……、すっごく安心してる」


 ソフィアが泣き言を私に言ってくれるのはすごく珍しい。と同時に少し嬉しい。勿論ソフィアの元気が無くて嬉しい訳では無い。ただ、私がいて良かったと言われた事が嬉しい。


 リシューと目を合わせると、どちらからともなく笑みが零れる。やっぱり、来てよかった。たまたま早く目が覚めて、たまたま早く準備が出来て、たまたまリシューが早く迎えに来てくれた。偶然に偶然が重なった結果だけれど、良かった。


「じゃあ、二人とも乗って」


 ソフィアは今度こそ、リシューの問いかけに頷いて、素直に馬車に乗る。ソフィアはまだ少し緊張している様子だけれど、最初に見た、追い詰められたような表情ではなくなったことに安心した。

 

 




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