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119、連行されています





「お帰り、シルフィー」


 ソフィアの家から帰った私を、お兄様とマリーお姉様が優しい笑顔で出迎えてくれる。その笑顔にほっとする。


「ただいま、かえりました」


 私の居場所はここにもある、と思い出す事が出来る。この世界にだって私の居場所はある。この家と、私の家族と、ソフィアが今の私の居場所。私が守るべき人達。


 今度こそ、大切にしたい。もう、なくしたくないから。思い出も全部、全部大切にしたい。なくしていいものなんて一つもない。悲しさも、寂しさも、嬉しさも、楽しさも、……愛しさも。全部、私の中に押しとどめてしまいたい。貰ったものは全部。私が、誰かにあげられるように、大事にその思いを育てていきたい。たとえ、何年かかったとしても、いつもくれるあの人からの思いに応えたい。


「ん、そのドレスは?」


 お兄様は見た事が無い私のドレスを見て首をかしげる。


「あ、ソフィアが貸してくれたんです。」

「なるほどな。」


 お兄様は私を上から下までじっくり眺める。


「初めて見る系統の服だが、良く似合ってるな」


 流石俺の妹。とお兄様は呟き、マリーお姉様もそれに同意してくれる。


「そうですか…?」


 やっぱり身内の欲目という考えは捨てきれなくて、思わず問いかけてしまう。私としては、胸の無さがより強調されて複雑なのだけど…。


「ああ、可愛いのは当たり前なんだけど、なんていうか…」


 なんていうか…?


「綺麗になったな」


 お兄様は嬉しそうに笑う。それでも、少し寂しそうに私の頭を撫でる。

 綺麗に…。そういう言葉で褒められた事は余りないから、とても嬉しい。ちょっと感動しました。のに、


「あんなに小さかったシルフィーが…、今も小さいけど」

「!」


 最後の一言はとっても余計ではないですか?!せっかく嬉しかったのに!


「小さくないもん!」

「いや、小さな。その小ささが可愛いから今のままでいいんだぞ」

「良くないです!マリーお姉様からもお兄様に何か言ってください!」

「ふふ、そうね。シルフィーは今のままで十分だから、そのままでいいのよ」

「ふぇ…」


2人が意地悪だよぅ…。


 というか、お兄様は私の姿を目に焼き付けるようにじーっと見てくる。正直恥ずかしいのですけど。……あの、まさかとは思いますけれど、この姿を絵に描こうなんて思っていませんよね?


 私が頬を膨らませている間、お兄様はずっと私の頭を撫でていた。


「そういえば、父上と母上がサロンでシルフィーを待っていたぞ」


 お兄様は思いだしたように呟く。


「そうなんですか?なら行ってきます」


 お兄様とマリーお姉様の間をすり抜けてサロンに行こうとすると、両方の手をつかまれた。


「俺達も行くから」

「なら一緒にいきましょ!」


 お兄様とマリーお姉様の手を引っ張って行こうかなって思っていたのだけど。


「あのー…?」


 両方の手をつかまれたままだと進めないのですが。普通につかまれているならいいのですが、私の右手はお兄様の右手に。私の左手はマリーお姉様の左手に掴まれているのです。つまりこのまま進むと、私が後ろ歩き。又はお兄様とマリーお姉様が後ろ歩きになってしまうのです。


「手を離してくれないと歩けないのですが…」


 お兄様とマリーお姉様の顔を覗き込むと、二人は目で会話をし、頷いていた。ってすごいね。目で会話が出来るんですか?夫婦は出来るものなのですか?

 すごいなぁ、って思っていたら、急に浮遊感に襲われた。……浮遊感?


「ふぇ?!」


 私の手をつかんでいた二人の手は、気が付いたら私の腕をつかんでいた。そして、持ち上げられていた。


 お兄様はまだしも、マリーお姉様も力持ちですね?!


「あら、やっぱりシルフィーは軽いのね。もっと食べた方がいいわよ?」

「食べてますよ!」


 ケーキとかお菓子とかケーキとかをいっぱい食べてますよ!


「じゃあ行くぞー」


 お兄様の掛け声と共に、マリーお姉様も歩き出した。…私を抱えたまま。


「え、と。私このままですか?」

「ああ」

「ええ」


 えー…。何だか、連行されているみたいなんだけど。というか、こんな事、前にもあった気がするのは私の気のせいですか?でも、まあ、お兄様とマリーお姉様が楽しそうだからいいのかな?





 そしてサロンに行くと、お父様とお母様がお茶を飲んでいるたい。食器の音がしたから。何となくいい匂いがするからケーキも食べているのかな?でも、もうすぐ夕食だよね?


「お背中から失礼します」

「あら3人ともなんだか楽しそうなことになってるわね」


私達に気がついたお父様とお母様が私達を見て不思議そうな顔をする。


「お父様、2人を止めてください…」


私は未だに足をぷらんぷらんさせている。そしてお兄様とマリーお姉様がお父様とお母様と会話をしているのを聞く。

私はいまだに父様とお母様の顔を見れていない。なぜなら私は抱え上げられたまま後ろを向いているからだ。

 

「まあ、楽しそうだからいいんじゃないか?」


 なんと。お父様もお兄様達の味方でした。


「それよりも、お帰りなさい」

「はい。ただいま戻りました」


 お母様は私にそう言ってくれるのだけれど、私はいまだに後ろを向いたままなのです。お母様達のお顔が見えないのですよ?


「そろそろおろしてあげなさいな。」


 お母様がそう言ってくれたので、お兄様とマリーお姉様はやっと手を離してくれた。すごくしぶしぶな感じではあったけれど。地面に足が付いたことに安心する。


 夕食前ではあるけれど、話があるという事で、皆でお茶を飲みながらまったりする。


「ふぅ…」


座ってお茶を飲むと、急に力が抜けてきた。まったりするなぁ。


 それで、話だが。とお父様が話を始める。手紙を開きながら話すという事は、その手紙の内容を教えてくれるのかな。


「ルートハイン殿下とソフィア嬢の婚約が決まったそうだ」


 でも、お父様が放った言葉は、私がもう知っている内容だった。私は余り驚きが無かったけれど、お兄様とマリーお姉様は驚いたみたいだ。お母様は先に聞いていたのか、あまり驚いていないみたい。


「まあ、そうなるよな」


 でも、お兄様はすぐに納得がいったように頷いた。マリーお姉様も同意するように頷く。


 ソフィアをこの国に留めておくためには婚約が一番早い。他国に取られないためには早めに婚約者を決める必要がある。だからと言って、下級貴族の婚約者になると、ソフィアを守り切れるとは限らない。貴族間のパワーバランスを考えても、ルートお兄様ほどふさわしい人はいない。

 知っている人同士の婚約という所に安心感を抱きつつも、最初はソフィアが好いた人と結ばれる事が出来なくなってしまう事に傷ついた。けれど、ソフィアはルートお兄様が好きだと、幸せになると言った。だからこれ以上私が口をはさむ事ではない。


 ソフィアの幸せを願っている。


「元気そうだったか?」

「え?」


 考え込んでいた私にお父様が言葉を投げかける。


「ソフィア嬢の事だ。今、大変なことになっているだろう?」

「あ…、はい。でも、元気そうでした」


 あれを大変な事ですましてもいいのかは分からないけれど。


「恐らく、ソフィア嬢を見る周りの目も変わって来るだろう。だから、シルフィーは今まで通りでいてあげなさい」


 お父様は、とても優しい顔で、私にそう言った。まるで、『シルフィーなら、出来るだろう』と言われているみたいで。


「はい。大丈夫です。学園でも今まで通りに友達で…」


 あ、そっか。


私はそこで、最後に見たソフィアの不安そうな表情の理由に気が付いた。


 私は今まで通りにソフィアに接するつもりだ。でも、他の生徒は?クラスメイトは?突然重要人物になってしまったソフィアに気にせず今まで通りになんて無理な話だろう。ソフィアもそれを分かっていたんだ。だからこそ、寂しそうだった。

 だからこそ、私はいつも通りでいる必要がある。私がいつも通りでいると、他の人もソフィアはソフィアだと気付いてくれるかもしれない。


「私、頑張ります!」


 胸の前で拳を作って宣言すると、お兄様にその拳をそっとほどかれた……。


「お兄様?」

「張り切りすぎると危険だから、いつも通り、ふんわりで行こか」

「?」


 危険?ふんわり?


 よく分からないけれど、なんだか、失礼な事を言われたことは分かったのですよ?


 文句を言おうとすると、先にお兄様が言葉を放った。


「まあ、このままいけば、シルフィーとソフィア嬢はもっと一緒に居られるようになるかもな」

「え?」

「だって、シルフィーは第二王子と、ソフィア嬢は第三王子と結婚するんだろう?お前たちも義姉妹になるじゃないか」

「!!」


 確かに!そんなことにまで頭が回らなかったよ!


「うわぁ、めっちゃ目が輝いてる」


 だって、だって!


 一緒にお城で過ごす可能性だってあるんですよ?!ずっとずっと一緒なんですよ!


「お兄様、素敵です!」

「嬉しそうだな」


 私が犬だったら、尻尾をぶんぶん振っていると思う。お兄様に頭を撫でられているけれど、それすらも嬉しくて、頭をお兄様の手に擦りつける。

 でも、


「やっぱりまだまだ子どもだな」


 って呟いたお兄様の言葉には異議ありなのですよ。






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