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もう一人のシルフィー



『私の居場所をとらないで。私の愛しい人を私から奪わないで。』





 すべての始まりはこの感情だった。





 『あの子』が光の魔力を持っているから嫉妬をしていた。『あの子』は光の魔力をもっているお陰で色々な人に気にかけて貰えていたから。


 それは私の愛した彼も同じだった。私の愛しい人が『あの子』を気にかけるのが悲しくて。私には見せない笑顔を見せるのが苦しくて。


 初めは出来心だった。ただのいたずら。でも、だんだんと我慢出来なくなっていった。可愛い笑顔で、皆を魅了していく。伯爵令嬢だった『あの子』は社交会にもよく出席していたから友達も多かった。光の魔力に群がっているのなら良かった。でも、そうじゃない。『あの子』傍に人が居るのは肩書なんかじゃなくて『あの子』自身の魅力。それに、


「アルフォンス様の婚約者は『あの子』の方がいいのでは?」

「そうですよね。光の魔力を持つ『あの子』の方が。」


 そういった噂も流れ出した。私になにが足りないの?教養?魔力?


 小さい頃からずっとずっと、遊ぶ暇も惜しんで勉強してきた。いつだって優秀なお兄様とお姉様と比べられてきた。頑張らないと、努力しないとおいていかれてしまう。お父様の期待に応えられなくなってしまう。お母様に呆れられてしまう。


 そして、すべては婚約者の彼の為に。そんな生活を送って来たから友達なんていない。いるのは公爵家という餌によってきた人だけ。『私』を見てくれる人なんていない。


 魔力なんて、自分の努力でどうにかなるものじゃない。光の魔力なんて、望めるのなら私だって欲しかった。そうすれば彼は私を見てくれるだろうから。光の魔力を持った『あの子』はこの国にとって有益で、私なんかとは比べ物にならないほどの価値がある。





 でも、それでも私の居場所を奪った『あの子』が憎くて、私から彼を奪っていく『あの子』が許せなくて。『あの子』への恨みは取り返しのつかない所まで来ていた。







 気付いた時にはすべてが終わっていた。愛しい人に冷たい目で見られて、拘束されて、牢に放り込まれて。







 牢屋に入れられて、尋問されて。冷たい牢屋の中で一人きりで、何もなくて、


 怖い、痛い、苦しい、冷たい、寒い。


 そんな思いをずっと一人で耐えて、耐えて、耐えて……、





『悪は滅するに限る。処刑しろ。』


 私の大好きな、愛しい人が冷たい目でこちらを見てくる。ただ、ずっと一緒に居たかっただけなのに。一番に私を想って欲しい。そう思う事は悪いことなの?

 私が愛を知らなかったら、今も私は笑顔で傍に居られたのだろうか。『あの子』とも一緒に笑っていられたのだろうか。


 剣を持った騎士がこちら歩いてくる。あぁ、嫌だな。死にたくない。でも、そんな事を思っていても遅い。けれど騎士の歩みは途中で止められた。


「私がやろう。」


 そう言ってゆっくりと、ゆっくりと。剣を持った愛しい人が私に近寄ってくる。


 あぁ、だめだ。もう助からない。でも、今だけは愛しい人の視界には私が、私だけが映っている。


 私だけを見て。


 長年の思いがこんな形で叶うなんて。私が望んだのはこんな形ではなかった。私だけを愛して欲しかった。頭を撫でて欲しかった。手を繋いで欲しかった。抱きしめて欲しかった。……一度でいいから「愛してる」って言って欲しかった。


 愛なんてなければ…、知らなければよかった。そうすれば、こんな苦しくて、悲しくて、……幸せなんて感じなかったのに。


 私が彼を愛してしまったことが全ての原因。彼と出会ってしまったことが、彼を目に映してしまったことが……、もう何が悪かったのか思い出せない。


 本当は分かっていた。彼が私を愛してくれない原因が『あの子』ではない事なんて。だって、『あの子』に会う前から彼は私の事なんて見てくれなかった。私が無理やりお願いした婚約だった。私が彼を愛してしまったから始まった関係。始まりはそんな形でも、いつか彼は私を見てくれると思った。私を愛してくれると信じていた。でも、やはりそれは私の願望に過ぎなかった。

『あの子』はいつだって、私に何をされたって笑顔で話しかけてきてくれた。私がやったことを誰にも言わず、そっと心にしまって、……私を守ってくれていた。


 私は馬鹿だった。もっと『あの子』を見ていればよかった。『あの子』はいつだって私に気を使ってくれていた。絶対に彼と二人きりにはならないし、二人で話していても私がくると、会話に混ぜてくれる。私が知らない話題を口にする事はなかったし、私が彼と会話が出来るように配慮をしてくれていた。


 本当に何もかもがもう遅い。


 あぁ、でも。私の命を奪っていくのが彼で良かった。愛した人に殺されるのはとても悲しいけれど、怖いけれど、知らない騎士に殺されるより嬉しい。


 そう思うと力が抜けてきた。


「殿下…。最後に、お願いしてもよろしいでしょうか……」

「……なんだ」


 本当は、頭を撫でて欲しいし、手を繋いで欲しい。抱きしめて「愛してる」って言って欲しい。でも、もう叶わない事だから。こんな汚れた私なんかに触りたいとは思わないだろう。


「『あの子』に……、ソフィア様にごめんなさい、そして、ありがとうとお伝えください」


 眉を寄せて苛立ちを顔いっぱいに表している。恐らく「何を今更」という所だろうか。そう、今更なんですよ。私が気付いたのは。本当に馬鹿。もっと早くに気付いていたら、


 剣がゆっくり振り下ろされてくる。


「…っ!」


 あぁ、もう駄目だな。私はここまで。愛した人に殺される。愛する事がこんなに悲しくて苦しい事だったなんて知らなかった。


 力を入れて体を抱きしめる手に固いものが当たる。

 

 幼い頃、たった一度だけ貰った彼からの贈り物。黒色のペンダント。彼が何を思って送ってくれたのか分からない。もしかしたら、他の人に選ばせたのかもしれない。でも、それでも嬉しかった。思わず涙を流してしまうくらい。彼の色をしたそれはいつだって私を孤独から救ってくれた。


 そのお守りをそっと握る。





 願うなら、愛する気持ちなんて私から消え去って欲しい。

 



『シルフィーは悪役令嬢ですが、何故か溺愛されてます』に感想を書いてくださった方、ありがとうございます!

今、第5章を書いている所です!まだまだ続きます!ですので、申し訳ないのですが、もうしばらくお待ちくださいませ…。

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