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115、ずっと友達です



 私達の叫び声や泣き声が聞こえていたのか、ソフィアのお母様が様子を見に来てくれた。けれど、喧嘩をしている訳では無いと分かると、安心したように笑って、メイドさんにタオルを持ってくるように頼んでくれた。丁度タオルが欲しいと思っていたんです。ありがとうございます。


 ソフィアのお母様は、ソフィアによく似ていた。外見はあんまり似ていないかも。主に雰囲気が似ていた。

 温かくて、優しそうで、でも強そう。そんな感じ。ソフィアが大きくなったらこうなるんだろうな、って感じだった。


「久しぶりにこんなに泣いたわ…」


 恥ずかしい…、とソフィアは呟く。


「私も…」

「いや、シルフィーはよく泣いているじゃない」

「うぐっ」


 痛い所を突かれました。


「「ふふっ」」


 思わず、お互いに顔を合わせ笑う。こんな普通のやり取りも嬉しい。


「これは冷やさないと明日赤くなるわね」

「それは困るなあ…」


 だって、赤くなって腫れたら目を開けにくくなるんだもん。本当に困るのよ!何より目が重くなるし!





 と、ここでメイドさんがタオルを持って来てくれたので、二人そろって目元を冷やす。





 多分、傍から見たら面白い光景だと思う。

 さっきまでとは違い、二人並んでソファに座って、上を向いて目元にタオルを乗せているんだもん。でも、仕方がない。明日の為。


「シルフィーはいつ、記憶を思い出したの?」

「3歳の時。ソフィアは?」

「私も3歳よ」


 一緒なんだ。前世で死んだ時期がバラバラでも、特に関係ないって事かな?


「そういえば、ソフィアはどうして私が桜だって気が付いたの?」


 上を向いて、タオルを乗せたまま質問する。そしてソフィアも、私と同様、上を向いてタオルを乗せたまま言葉を紡ぐ。


「んー、と。私の場合は、街ですれ違った時に、『あ、この子は桜だ』って思ったわ」

「え?」


えー!何ですかそれ!そんな簡単に気付くものですか?!


 私がそう言うと、ソフィアは「シルフィーだって私を見てすぐに気が付いたんでしょう?」と返されました。その通りでございます。


「いつすれ違ったの?」

「3歳の時。でも、シルフィーは誰かと一緒だったから。……今思えば、あれってアルフォンス殿下だったのよね」


 3歳の時…、アル様と一緒…、という事は初めて街に行った時の事かな?でも、


「話しかけてくれてもいいと思う!」

「その時はシルフィーに記憶があるなんて知らなかったし、なにより、傍にいた、うさぎのぬいぐるみを持っている殿下と楽しそうにお話をしていたから」

「あー……」


 確かに、いきなり知らない人に「あなた、桜でしょう?」と聞かれても困る。もし、私に記憶が無かったら「え?」ってなっていると思うし。そう思うと、今この現状は本当に奇跡みたいなものだよね。


「でも、楽しそうだったから安心したわ」

「うん……」


 初めてアル様と出かけた時は本当に緊張していたなぁ。だって将来自分を殺すかもしれない人だよ?緊張しない方がどうかしている。


「まさか、あの時のぬいぐるみを今でも大切に持っているとは思わなかったけれど」

「るぅはかわいいでしょ!」


 私の大好きな、小さな友達だもん。ずっとずっと一緒。アル様がるぅを買ってくれた事で、アル様が怖い人ではない事に気が付いた。優しい人だと分かった。


「ええ、あの子のお陰でいろいろと助かったし」

「?」


 え、っと?


 るぅのお陰で助かった事?ソフィアに関連する事で何かあったかな?


「シルフィーがるぅと一緒に学園祭で生徒会の出し物をしてくれたから、『シルフィー様の笑顔を守り隊』が、更に拡大したの」

「ふぇ?!」


 思わず顔を上げる。その拍子にタオルが落ちたけれど、それどころじゃない。


「か、かくだい?!」

「ええ。あの姿のあなたを見た外部の人も、ちょっとね…」


 その「ちょっとね…」が怖いのですけど!


「そんな事より、」


 全然そんな事じゃないのですが…。


「なあに?」

「今日、泊っていきなさいな」


「え?」


 ソフィアが窓の外を指さす。


 ふと外を見てみると、


「え?真っ暗!?」

「もう夜だもの」


「え?!」


 私が来たのはお昼過ぎてからだけど、そんなに話してたの?!


「まだ話したいこともあるし」


 そんなの、私だって話したいことだらけ。前世の事だってもっと話したい。


「でも、いきなりで迷惑じゃ…」

「うちは大丈夫よ」

「でも…、」

「シルフィー、お泊りよ」


 おとまり……!


 なんて素敵な響き!友達とお泊りなんてした事ない!

 今までのお泊りって、アル様とくらいだもん!何より私、女の子の友達ってソフィアしかいないし……。あ、自分で言っていて寂しい。でもいいもんね。ソフィア大好きだし!


「決定ね」


 友達のお家にお泊りなんて始めてだからどきどき。


「あ、でも、着替えも何もないよ?」

「それくらい貸すわよ。……サイズは合わないかもしれないけど」

「!」


 そ、それって、遠回しに私の事を小さいって言っていますか?!


「だって小さいじゃない」

「!」


 そ、ソフィアが私の心を読んで追い打ちをかけてくる…!確かに、身長も、…お胸もちょーっと小さいかもしれないけど!


「むぅ」

「そんな顔しても可愛いだけよ」


 そう言ってソフィアは私の頬をぐりぐりする。

 ……やっぱり、なんかソフィアの私に対する対応が雑になっている気がする。


「そんな事より、お腹減ったわね」

 

 またそんな事扱い…。

 でも確かに、お腹は減った。


「今日はおやつを食べていないものね」

「うん」


 ぐーーーーー………、


 そのタイミングで私のお腹が鳴る。


「ひぁ」

「ふ、ふふ…っ」


 それを聞いて私はよく分からない悲鳴を、ソフィアは笑い声をあげる。




 ごはんがまちどおしいです。

 



 コンコン


 と、ドアのノック音が聞こえた。


「どうぞ」


 先程まで笑っていたソフィアはいつものソフィアに元通り。


「失礼いたします、お嬢様」


 入って来たのはさっき私にマシュマロココアを入れてくれたメイドさん。


「夕食の準備が整いました。シルフィー様もどうぞ」

「はい!」


 やった、ごはん!


 …………ごはん?

ごはん……、


「あっ!お家にお泊りする事言ってない!」

 

 すっかり忘れていた!もしかしたら、お家でご飯作ってくれているかも。というか、皆私が帰ってこない事心配していないかな?


「あぁ、大丈夫よ。多分、伝わっていると思うから」

「そうなの?」

「ええ」


 なら大丈夫かな。





 二人で食堂に行くと、そこにはソフィアに似た雰囲気を持つ二人の人が居た。一人は先程会ったソフィアのお母様。多分もう一人はソフィアのお父様だと思う。


「はじめまして、シルフィー・ミル・フィオーネと申します。先程はありがとうございました」


 ソフィアのお母様がタオルを頼んでくれたことを思い出し、お礼を言う。


「どういたしまして。ふふ、二人ともまだ目が赤いわね」


 うぅ~……、今更になって私も恥ずかしくなってきたよ。ソフィアも恥ずかしそうに眼をそらしている。


「可愛らしいお客さんだね」


 ソフィアのお父様はソフィアによく似た笑顔で話しかけてくれた。


「あ、ありがとうございます!」


 初対面で可愛いらしいって言われるのは何だか恥ずかしいな。でも嬉しい。


「さあ、座って。食事にしよう」

「はい」





 満腹。大変おいしゅうございました。危うくほっぺが無くなる所でした。





「話したいことがあるんだが、いいかい?」


 食事も終わったので、ソフィアの部屋に戻ろうとすると、ソフィアのお父様が話しかけてきた。


「はい、勿論」


 私に断る選択肢はないと思う。だって、ソフィアのお父様の表情はとても真剣だったから。


 それに、何んとなく、言われることは想像できた。


「シルフィー嬢は昨日のソフィアの事を知っているね」

「はい」


 昨日、と言えば、ソフィアがレオンお兄様を治癒した事しかないだろう。私もその場にいたのだから、知っている。


「恐らく、ソフィアはこれから注目を集める。この国だけではない。他国もソフィアを取込もうとするだろう」

「はい」


 分かっていた。


「ソフィアを利用したいと、多くの人が来ることは間違いない」


 それも分かっていた。


「これから、ソフィアには申し訳ないが、会う人を制限つもりだ」


 そう……、だと思った。


 学園に通っている限り、完全に制限をする事は出来ない。

でも、もし、学園をやめてしまったら?他国に行ってしまったら?


 私はソフィアに会えなくなる。




 やっと、会えたのに。




 嫌だ。もう、離れたくない。




 苦しい。



 私のその気持ちが顔に出ていたのか、ソフィアのお父様は少し驚いた表情をしたけれど、すぐに、笑った。ソフィアと同じ笑顔で。


「変わらずに、うちの娘と仲良くしてやってくれるかい?」


 驚いた。


 てっきり、気軽に会わないようにと言われるものだと。


「だって、こんな悲しい顔をするくらい、うちの娘の事を大切に思ってくれているんだろう?」



 この言葉から、ソフィアが家族に愛されていることが伝わってくる。



「ソフィアは、私の大切な友達です」


 それ以上でも、それ以下でもない。ソフィアが『ヒロイン』である事なんて関係ない。光の魔法を使える事なんて関係ない。


「私は、ソフィアが大好きです」


 ソフィアは、ソフィアだから。私の大好きな、ただ一人の親友だから。


 私がそう言うと、ソフィアのお父様だけでなく、お母様も、そしてソフィアも安心したように微笑んだ。






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