109、私に騎士は難しそうです
お久しぶりです!
お兄様とマリーお姉様の結婚式は本当に素敵だった。私達の出し物も成功したし、お兄様達もとても幸せそうだったし。皆の笑顔はとっても素敵だった。私もあんな幸せな結婚をしたい。アル様となら出来る気がする。このまま、この幸せがずっとずっと続くといいな。
学園祭が終わった事もあり、生徒会の仕事は少ない。校内の見回りを交代で行ってるけれど、書類仕事が少ないからする事も少ない。ありがたいことだけれどね。忙しくないという事は平和な証。このまま平和である事を願います。こういう事を願う時ってだいたい何か起こるんだよね。
それはさておき、今日も楽しい学園生活でした。学園祭が終わってから私達クラスメイトの仲はとても深まったと思う。あんまり話したことが無い人とも良く話すようになったし、仲良しの人とはもっと仲良しになった。でもやっぱり一番仲良しなのはソフィアとリシューだね。ずっと一緒に行動しているし。でもリシューはやっぱり男の子のお友達と行動する事も多い。仲がいいのはいいこと。その代わり、ソフィアは本当にずっと一緒に居てくれる。嬉しい。私が何をしても受け入れてくれるからついつい頼ってしまう。私もソフィアに頼って貰える様にしっかりしたいな。
そしてただいま放課後。アル様が学園の門までお迎えに来てくれていました。今日は私とアル様は放課後デートなのです。私がまたロットに乗りたいと言ったので、アル様は馬でお迎えに来てくれました。まさに白馬の王子様ですね!ロットは黒いけど!
「シルフィー、お待たせ!」
「アル様!」
全然待ってないし遅くなんてありませんよ。アル様は忙しいお仕事の間をぬってきてくれているんですから嬉しいものです。寧ろ、来てくれてありがとうございます。でも無理はしないでね。
アル様が折角時間をとってくれたんだから楽しみますよ。アル様の愛馬のロットでお出かけ、というよりお散歩です。
「やっぱりロット、かっこいいなぁ」
「よろしくね」とロットの体を撫でると、ロットは「ブルル」と鳴く。私も自分だけの愛馬が欲しいけれど、世話をしきれるか自信がないし、ロットだからいいんだもんね。アル様とロットは長年連れ添ってきた夫婦のように息があっている。まだ数年も経っていないのに。…はっ!もしかして私の一番のライバルはロットですか?!…なんてね。ロットなら大歓迎ですよ。私もロットの事大好きですから。
「シルフィーは自分で馬も乗れると思うよ?」
「え、私一人で乗った事ないのですが?」
あー、でもロットだったら乗れる気がする。以前の森でのお散歩でくまさんに出会った時、少しだけ一人でロットの上に乗ってたけど、平気だったもん。でもあの時は私じゃなくてロットが賢かったから出来た。ロット以外の馬で出来る気がしない。
「大丈夫、乗れるよ」
「………」
また出ました。アル様の根拠のない自信。
「いいんです!私はアル様の前にずっと乗るんですから!」
「…ッ!そ、そうだね!私だけの前に乗るんだよ!他の人の前に乗ったらダメだよ」
「はい!」
何だかアル様が元気になりました。
ロットの上にいるアル様が手を差し伸べてくれたので、その手を取って私もロットの上に乗る。私を後ろから抱きしめたアル様はゆっくりとロットに進むように指示する。ロットの上ってやっぱりいいね。背が高くなった気分になる。この調子で背が伸びてくれれば問題は無いのだけど。
今更だけど、近くに生徒がいたから目立ってたね。校門前だから仕方がない。でも、お迎えの生徒とか本当に沢山の人が居たから少し恥ずかしかったかも。皆に、「これからデート」って事を知られるわけだから。
しかも私はロットの上にいるわけだから遠くの方まで皆がよく見える。……ついあれを言いたくなるね。人がごみのようだ!…言わないけどね。流石に公爵令嬢としてアウトだし、第二王子の婚約者としてもアウトすぎる。
「そういえば、アル様はどうするんですか?」
「?」
しまった。質問が抽象的だった。自分の中で自己完結してたよ。
「あ、えっと、レオンお兄様が王位についた時、です」
「あぁ、なるほど」
もしレオンお兄様が王位についたらアル様は王弟になる。公爵となって国に奉仕する方法や、そのまま王弟として城に残る方法もある。アル様はどうするのだろう。王位継承権は放棄するのかな?少なくともレオンお兄様に子どもが生まれたら跡継ぎの心配はなくなるし。
「私は騎士団所属、という形になるかな」
これはまた新しい形ですね。公爵になって領地を持つのかな?という事はお城を出る?
私の疑問に気付いたのかアル様は少し微笑んだ。
「公爵になって領地を持つ事も考えたんだけど、やめたんだ。城にいた方が色々都合がいいからね」
「なるほど?」
都合がいいって何だろう?でもアル様がいいならいいかな。私はアル様について行くだけだし。でもせっかくソフィアと友達になったから、ソフィアと近い所がいいな。それかすぐに遊びに行ける所。
アル様にそういうと、「心配ないよ」と言ってくれました。また根拠のない自信ですね。でも、今回は本当に信用してもいい気がする。だってアル様は私をぬか喜びさせるような人じゃないもん。多分!
きっとアル様はソフィアのお嫁に行く先を知っているのかな?気になる!けど、聞いたらだめだよね。こういうのはソフィアの口から聞きたいもん。婚約者が出来たら教えて欲しいなぁ。それがソフィア望むものなら全力でお祝いしますよ!でも、ソフィアの事を大切にしない人なら……。ガツンとやりますよ!
おっと、話がそれましたね。
「私は作戦を立てるのに向いているみたいだから参謀、という立ち位置になるかな」
「おお!」
参謀ってあれですよね。もし戦争とかがあった時に作戦を立てる人。アル様は頭がいいから出来そう。きっとシュヴァン様と一緒に戦略を考えるんだろうね。勿論戦争は無いに越したことはないけど。でも、何があるか分からないから、そうなった時の為に少しでも戦力は多い方がいい。
「騎士団長はそのままシュヴァンにしてもらうつもり」
あ、そっか。王子様だから一番上に就くって訳じゃないんですね。確かにシュヴァン様は騎士団の人に慕われているもんね。勿論アル様が慕われていないとかじゃなくて、「騎士団長はシュヴァン様」っていう認識が強いんだろうね。私は小説の流れから、その後はトーリお兄様が継ぐって思っているけれど、そこはどうなんだろう?そもそも小説では今の時点でトーリお兄様が継いでいるんだよね。不思議。
「勿論、皆と同じように騎士の訓練は参加するよ。いざ戦えなかったら困るからね。あと、レオン兄上の補佐はルートにやってもらうつもり」
なるほど。アル様の剣は強いと聞いているけれど、それでも訓練しておくのと、しておかないのではいざという時に結果に差が出るからね。
兄弟で協力して色んな方面から国を守っていく。とっても素敵。スティラお兄様も宰相として働くようになると思うから、この国の行く先は安泰そうだね。私には何が出来るのかな?やっぱり社交界で情報集め?女性の噂話って意外と油断ならないんだよね。どこに情報が眠っているか分からないから。少しでもアル様の役に立てる様な事が出来たらいいな。
「私も騎士団に所属して…」
そうすればアル様とずっと一緒に居られる、と思ったけど、やっぱり訓練についていける気がしない。しかも、私否定する前に
「危ないからだめ!」
とアル様に拒否されました。
「ですよねー…」
私もそう思う。私が女性だからとかではなく、普通に私に出来る気がしない。大切な所でミスをする気がする。
「あ、アル様、お使いを頼まれたので、少しだけお店に寄ってもいいですか?」
「うん、勿論」
危ない。すっかり忘れていた。
「何を買いに行くの?」
「えーっと、光るインクとメモ帳です」
「あー…、ジェイド先生だね」
「そうです」
私が言うまでもなく、誰からのお使いか察しています。
「アル様もお使いを頼まれたことがあるんですか?」
「いや、私は頼まれなかったよ」
な、なるほど。私達の場合は『生徒会』に頼まれているから、誰が行ってもいいんだよね。今日は私がアル様と街を通るからお使いを頼まれたけれど。
「その代わり毎回スティラが頼まれていたね」
「お兄様が…」
お兄様、自分から買いに行くって言いそう。お兄様はさらっと人の為になる行動をするもん。面倒くさがりって思われそうだけれど、ちゃんと行動する人。私はお兄様を尊敬している。だからお兄様が後を継ぐフィオーネ公爵家に対して何の心配もしていない。
「あと、スティラがいけない時は、ノアが行っていたな」
「…ノア様?」
なんか聞いたことのある名前…。誰だったかな?
「生徒会のメンバーで雑務をしてくれていた人だよ」
「…うーん?」
「まあ、シルフィーは話したことが無いよね?」
「多分…」
……、あ!
「思い出しました!アル様のお嫁さん役の人!」
10歳の時にリシューと一緒に行ったナイア学園祭で見たアル様達生徒会の劇。その時に確か『眠りの森の美女』の様な劇をやったんだった。で、アル様が王子様でお姫様がノア様!
「うっ…」
アル様?胸元を押さえてどうしたんですか?
「それはあんまり出さないで…、シルフィーには本当に申し訳ないと思っていたんだ…」
「?」
「とっても素敵な劇でしたよ?」
「……、褒めてくれるのは嬉しいのだけれど、何だか複雑…」
「?」
だって素敵なものは素敵だったんだもん。私は今回のお兄様の結婚式でやった舞で人前が多少平気になった。来年の生徒会の出し物では劇をやってもいいかも。………、あ、ごめんなさい。嘘です。やっぱり無理です。
そうこうしているうちに、光るインクとメモ帳を売っている文具店につきました。やっぱり馬だと早いね。しかもアル様もそのお店を知っているみたいだから余計に早かった。
預かっているお金でささっと買ってアル様の元に戻ると、アル様は私が持っている紙袋を取り上げた。そしてそれを近くの騎士に渡し、学園に届けるように申し付けてくれた。…居たんだ、護衛騎士の人。全然気が付きませんでした。そうだよね、王子様が護衛なしでうろつく訳ないもんね。こっそりついてきているよね。でも、そう考えると少し緊張するかも。アル様とのデートをずっと監視されているなんて。……今更か。でもありがたい。ずっと袋を持って移動するのも大変だもんね。じゃあ、最後に買えばいいじゃんとか思うけど、忘れたら困る。
「じゃあ、お散歩しましょう!」
「そうだね」
れっつごーと森の方に指を差すと、アル様は笑いながらロットに乗り直し、森へ向かう。
「気持ちいなぁ」
「そうだね」
やっぱりこの森は好きだ。雰囲気とかもそうなんだけど、『森』っていうだけで心が康らぐ。一面緑だから落ち着く色って事もあるかもね。
「…、泉。とっても素敵」
森についてからもロットをしばらく走らせていると目の前に広がったのは泉。この間アル様と一緒に来た所。精霊の住処。
太陽の光が木洩れ日のように差し込んで、所々光っている。キラキラと輝く水面では精霊たちが楽しそうに踊っている。
青、赤、水色、茶色、緑。色んな色の精霊がくるくると回る姿は、遠目から見れば光が飛び交っているよう。
ここは一段と心が安らぐ。
そして私は精霊との親和性が高いから、居心地がいい。帰って来た、と感じる、ここが私の居場所だ、と錯覚する。私の居場所。……本気でここに住みたくなってきたな。お父様たちが寂しがるだろうからしないけれど
「もう夕方だからそんなに長い時間いられないのが残念だね」
「とっても!」
今度泊りがけで来てもいいかも。お泊りセットとかキャンプ道具とかも持って来て、テントに泊ろうかな。でも、公爵令嬢がやってもいいことじゃないし、アル様と結婚してからなら尚更難しい気がする。…そうだ!アル様と喧嘩した時に家出しよう!その時にここに来るのもいいかも!アル様には内緒で!でも怖い生き物とかが出たら困るから、お兄様かトーリお兄様かルークお兄ちゃんを連れていこう。そうしよう。
「……、なんか嫌な予感がしたのは気のせい?」
「き、気のせいですよ?」
アル様は何故か、じとーッとこっちを見ていますけれど、気のせいって事にして下さい。ごまかされて下さい。
「ふふ、シルフィーは本当にここが気に入ったんだね」
「はい!」
よし、ごまかせました!
「何か食べ物でも買って来ればよかったね」
「!」
本当だ。そんな事考えもつかなかったよ。街を通って来たんだからケーキでもお菓子でもデザートでも買っておけばよかったな。え、全部一緒だって?……まあ、そうね。
「あと、シートを持って来ておけばそこに寝転べたかな」
私はこの前みたいに膝枕アル様にしたかったです。でも、
「シートがなくてもここに寝転んだら気持ちがいいですよ」
私が差したのはふわふわの草が敷いてある地面。ここなら痛くなさそう。ここならだれも見ていないから多少はしたない行動しても大丈夫だよね?…見てないよね?護衛の人は………、もし見ていたら知らないふりをして下さい。
「ん、しょ」
地面に座ってみると、ふわっとした感触が伝わってきて全然痛くない。
綺麗な泉と木洩れ日と、森の緑と、楽しそうな精霊。素敵な要素が集まっているこの視界は贅沢だ。一枚の絵に収めるのももったいないくらい。しっかり目に焼き付けないと。残らないものでも残したい。ちゃんと残すんだ、私の中に。
がさ、っと音がした方を見てみると、私の横にアル様も腰かけていた。
「本当だ。ここは気持ちがいいね」
「はい」
私達はずっと座ってぼーっとしていた。会話はなかった。でも、とても穏やかで、心地よくて、沈黙さえ幸せだった。