107、いざ本番です
いつも誤字報告をして下さっている方、本当にありがとうございます!何度見直しても無くならない誤字ですが、これからも指摘していただけると本当に有難いです!
これからもこの小説にお付き合いして頂けると嬉しいです!
「はぁ、どきどきします」
「大丈夫、沢山練習してきたから」
「はい」
私とアル様は披露宴会場のドアの前にいる。アル様と一緒だから大丈夫。ドキドキするけれど、一人じゃないからまだ頑張れる。頑張るしかない。お兄様達をお祝いする為に頑張りますよ。
「遅くなってごめんなさい」
「お待たせ」
「ソフィア、ルートお兄様!」
と、そこにソフィアとルートお兄様が来てくれた。
実は舞の音楽はルートお兄様とソフィアにお願いしました。なんと二人とも楽器経験者だったのです。全然知らなかった。楽器はピアノみたいなのとフルートみたいなの。『みたいなの』って言うのは何だか似ているけど、音が全然違う。だって、音が三味線と尺八みたいなんだもん。……え?音は自由に変更できるって?今日の舞に合うのはこの音だから変更したって?なんですかそのキーボードみたいな機能は……。いいけど。
ソフィアは結婚式には来られなかったけれど、披露宴には来てくれた。結婚式にも招待しようかなと思ったのだけれど、式の時間帯はどうしても予定があって来られなかったみたい。それでも披露宴にはわざわざ来てくれた。嬉しい。
そして二人の衣装もアル様が用意してくれたのです!二人は踊らないから、私達よりふんわりしている。でも演奏するから腕まわりの装飾は少ない。こっちもこっちで可愛いね。ルートお兄様は緑がメイン。ソフィアは黄色がメインの衣装。素敵。戦隊ものみたい。色んな色があってカラフルね。でもどれもそんなに濃い色ではないから目は痛くないね。
「よしっ!」
ソフィアたちも頑張って練習してくれたんだもん。頑張るしかない!私とアル様は息がぴったりだもん。
『それでは、シルフィー様、アルフォンス殿下、お願いします』
「ひぇ!」
よ、呼ばれた!出番ですよ!
「行くわよ」
「う、うん」
ソフィアは緊張しないのだろうか。
「よく言うじゃない。自分より緊張している人を見ると落ち着くって」
私が思ったことを察したようにソフィアは言った。じゃあ、誰か私より緊張してくださいよ!ルートお兄様もアル様の余裕そうな表情をしている!緊張しているの私だけじゃん!そりゃ、ルートお兄様とアル様は王子様って事もあって人前は慣れていると思うけど!
傍にいる騎士がドアを開けてくれているので四人そろって中に入る。さっきまでと同様に沢山の人達が私達の方を見ている。でも皆の前だからそわそわなんてしませんよ。しゃんと立っておきます。私達の衣装は珍しい。だから特に女性の目を集める。いつかこの衣装が社交界で流行ったりするのかな?そうだと面白い。そうなればアル様はファッションリーダーだね。
舞台はこの宴会場の中心。周りと比べると少し高くなっている。だからこそ、他の人から見やすい。本当に私達のステージのよう。観客の一番前にはスティラお兄様とマリーお姉様がいる。一番近くで見てくれている。
さあ、出番だ。
私達は四方に分かれて立つ。私は観客から見たら一番前の真ん中。アル様は後ろ。ソフィアは右。ルートお兄様は左。それぞれが舞台の端っこに立っているから、私は本当に観客の目の前にいる。
ルートお兄様は用意してあったピアノの前に。ソフィアは手に持っていたフルートを構える。
私もアル様も跪いて、曲の始まりを待つ。
その瞬間、この会場中の音が無くなったように感じた。
~♪
一音、ルートお兄様がピアノを鳴らした瞬間、私は動いた。私は姫。『ルルの花束』のルル姫。自由で愛らしい姫。
軽やかに、元気にステップを踏む。トントンと裸足で軽やかに跳びはねてくるくる回る。笑顔で。
「あら、かわいらしい!」
観客の女性のそんな声が聞こえる。良かった。ちゃんと表現出来ているんだ。
両手で手をたたいてぱんぱんと音を出すと、その場の空気が明るくなってきたような気がした。ルートお兄様のピアノとソフィアのフルートも飛び跳ねるように軽い音になっている。
とっても楽しい。人前だけど、緊張は全部どっかに行ってしまった。アル様の方をちらっと見ると優しい笑顔で微笑んでいる。これでいいんだ。
くるくる。
裸足だからこそ、より軽やかに動ける。
しかし段々と音楽は軽やかなものから穏やかなもの、というよりは静かなものにかわってくる。
ルルはある人を探していた。自分が心から好きになれる相手を。
ルルは結婚をせかされていた。自分で結婚相手を決めないと王様が決めた人と結婚をする事になっている。けれど、ルルはどうしても見つけることが出来なかった。
私はなにかを探しているように踊る。でも追い求めても探してもそれをつかむことは出来ない。悲しい。けれど、自分が何をつかもうとしているのか分からず、苦しい。そんな複雑な感情が渦巻く。
結局『私』は王様が決めた人と結婚する事になった。愛しいと思う人を見つけることが出来なかったからだ。
ここでようやく、『王子』が動き出す。ゆったりとした音楽と共に王子は私の所にまでやってきて私に剣を捧げる。私は王子から剣を受け取った。
この時ようやっと私の手元に剣がやって来た。あの飾り剣が。
「まるで求婚みたいね…」
そう、呟いたのが聞こえた。
その通り。
私は王子から剣を受け取った。すなわち王子からの求婚を受け取った。私は王子と結婚した。王子は王様が決めた結婚相手だった。私と王子は初めて会った日に結婚した。この結婚は良縁だった。お互いがお互いの事を尊重し、楽しい日々を過ごしていた。
王子は私を好きになった。
私も王子を好きになった。
私と王子は踊る。二人で手を取り合って。剣をもって軽やかに。同じステップで。
トントン、シャッ
足が地面を踏みしめる音と、剣を振るう音、そして演奏者による音楽が響く。剣を振り回して楽しそうに、軽やかに踊る。笑顔で。
お互いの距離は近かった。でもその距離は手が届きそうで届かない距離だった。
王子は私が好き。
私も王子が好き。
私と王子は再び最初にいたところまで離れ、思い切り空中に、お互いの方に向けて剣を投げる。その剣は空中でぶつかり、私が持っていた剣は私の右手に、王子が持っていた剣は私の左手に収まる。
「でも、不思議ね。同じ振付をしているのに、何だか……」
バラバラみたい。
そうつぶやいた声が聞こえた。
王子は姫の事が好き。恋をしていた。
姫も王子の事が好き。でも、それは恋では無かった。
姫は恋が分からなかった。人を愛おしく思う気持ちをどうしても感じることが出来なかった。
王子は姫を見つめながら舞を踊っていた。けれど、姫はどこか、遠くを見つめていた。それは演奏者であったり、観客であったり、空であったり。
私が恋を分からない理由は、私の「心」は神にとらわれているから。
私は悲しかった。王子が私にくれる気持ちと同じものを返すことが出来ないから。この剣のように、私は王子から貰ってばかり。
私は神に願った。「心」が欲しい。私も自分の「心」で王子に同じものを返したい。一緒に居るだけじゃなくて、もっと「心」と触れ合いたい。寄り添いたい。
誰かを愛する気持ちを知りたい。
そう強く願った。祈るように二つの剣を天に捧げる。
途端に、様々な感情が流れ込んできた。
苦しくて、辛くて、温かくて、………幸せな気持ち。恋は綺麗な気持ちだけじゃない。嫉妬や苛立ち、そんな負の感情が沢山渦巻く中で見つけた小さな幸せ。
「舞が、ルルが幸せそう……」
「ああ…」
マリーお姉様がぽつんと呟き、スティラお兄様もそれに同調する。
王子は姫の事が好き。恋をしていた。
姫も王子の事が好き。でも、それは恋では無かった。けれど、それは恋になった。
ゆったりと、ゆったりと流れるように舞う。王子が姫を包み込むように。姫もそれに応えるように。私達は段々と近くに行きながら舞う。その途中で、「私」の剣を投げて王子に返す。王子は大切そうにそれを受け取った。包み込むように、愛おしそうに、嬉しそうに、泣きそうに、……幸せそうに。
私はようやっと、王子に返すことが出来た。王子と同じ思いを。
私は幸せ。
幸せな気持ちを込めて私は舞う。だって私は幸せだから。やっと見つけた幸せ。
二人は見つめ合って、幸せそうに、お互いを大切そうに、愛おしそうに想いながら舞う。手を繋いで、反対の手で剣を手元で回すと綺麗な鈴の音が鳴り響く。
リン、リン
シャッ、
トントン、
聞こえる音は無機質だけど、鳴り響く音楽と、王子と姫の姿は軽やかで明るく、とても、幸せだった。