105、お兄様達の結婚式です
そしてとうとうお兄様とマリーお姉様の結婚式がやってきました!結婚式は教会でやるみたい。家でやってもいいんだけど、なんかお兄様とマリーお姉様は教会でやりたいんだって。お姉様とトーリお兄様も教会でやったしね。
私はアル様と一緒に出席する事にした。だって、お父様はお母様と、お姉様はトーリお兄様と出席するって言うんだもん。
私のドレスはアル様が用意してくれた。アル様とお揃いで白に緑が差し色として使われている。お嫁さんが白だから白を使うのはどうかなって思ったんだけど、この世界は特に決まりは無いみたい。緑も好きな色だから嬉しいし、アル様は私の好きなものを心得ている。特にデザイン。私の好きなふわふわ感が最大限に活かされております。流石です。
「はあ、ドキドキします」
馬車に乗ってすぐにアル様のお膝の上に乗せられた私はアル様に泣き言を言う。お兄様達の結婚式が始まることにドキドキするって言うのもあるけど、もっと緊張するのが私達の出番。頑張って練習はしたけど、やっぱり人前って緊張するんだよね。
「大丈夫だよ。なんとかなる」
出ました、アル様の根拠のない自信。でも、この自信が少し嬉しい。あ、頭も撫でてくれるんですね。
「ふにゅう……」
気を引き締めないといけないのに、気が緩むぅ。
「かわいいなぁ」
何だか、最近、いつにもましてアル様の溺愛が激しい。自分でいうのもどうかと思うのだけれど、会うたびに「可愛い」「好き」って言ったり、抱きしめたり。いつもの事じゃんって思うよね。でも違うの。目がいつになくとろけている。いや、嬉しいのだけどね。幸せだけどね。でも恥ずかしいのよ。
「日に日に可愛くなっていくなぁ」
「……」
ま、まだ言うのですか?
「はあ、好き」
アル様はそう言って私の額にキスをしたぁ……!
「みぎゃあ!」
な、何をするんですか!逃げようにもアル様に抱きしめられているから逃げれない!
「あ、あるさま!」
「ん?」
アル様はなんてことないように私の頭を撫でている。
「~~っ!」
どう反応すればいいのか分からない。もう黙っています。大人しく頭を撫でられておきます。
「本当にかわいい。可愛すぎて尊い」
「かわいいなあ、早く結婚したいなぁ」
「どうすれば私だけのものになるんだろう」
「……」
アル様、本当にどうしたんだろう。頭大丈夫だろうか。おかしくなってないだろうか?
いや、おかしくなってるからこうなっているんだろうね。なんていうんだろう、アル様はアル様で、そこは変わっていないんだけど、なんか変。私が知っているアル様に間違いはないんだけど、アル様の中の何かが変わったみたい。私を好きって言ってくれることはいつも通りなんだけど、その中に含まれる好きがなんか違う。……もっと深い、というか。よく分からないけど。
そして馬車の中でアル様はずーーっと私を抱っこしていましたとさ。重くないのかな?羽のように軽いって言葉は信用なりませんよ。
馬車に乗ってこんなにぐったりしたのは初めてだと思います。ぐったりしてたらアル様が抱っこして馬車から出ようとしたけど流石に断固拒否です。流石に皆がいるのに恥ずかしい。今日の主役はお兄様とマリーお姉様だもん。私は目立ちたくないです。
教会につくと、そこにはたくさんの人が集まっていた。フィオーネ公爵家とクロード公爵家は勿論、王家の人とか、お兄様達のお友達とか。
「いっぱいですね」
「そうだね」
こんなに沢山、会場に入りきるんだろうか。……入りきるんだから呼んだんだよね。でも、こんなにも沢山の人に祝福される結婚式っていいなあ。私もアル様との結婚式で沢山の人にお祝いされたい。それにしても、お兄様は21歳、マリーお姉様は18歳。もっと早く結婚してもよかったのに、どうして今なんだろう。でも二人が決めた事ならそれでよかったのかな?
「来たか」
到着した私達の元にやって来たのはお父様とお母様。
「はい、遅くなってごめんなさい」
「いや、まだ大丈夫だ」
会場中を見渡してみても黒い服を来た人はいない。この世界でも黒は喪服のイメージがあるのかな?でも、すっごく華やかで皆きらきらしている。
そういえば、どんな感じで始まるのかな?お兄様達の結婚式はお姉様達の結婚式と流れが違うみたいだから、どんな感じだろう。
来てくれたみんなと挨拶をして、お祝いの言葉を沢山貰った。久しぶりに会った人も沢山いて、みんなが心からお兄様達をお祝いしているのが伝わってきて、本当に嬉しかった。この世界は政略結婚が当たり前の世界。だけど、それでも、仲良しでいられたらいい。私とアル様だってそうだ。お兄様とお姉様だって。でも、みんなそれぞれのパートナーと幸せそうにしている。それは当たり前の事ではなく、本当に幸せな事。決められた結婚で愛のない人達だっている。勿論愛が無くてもよいパートナーとしての絆を築いている人もいる。
「揃ったみたいだから、席につこうか」
お父様が私達に声を掛けた後、他の来てくれた人達にも同じように声を掛ける。
案内されてきたところにそれぞれ座る。お兄様の家族とマリーお姉様の家族は前に座るようになっているから、アル様とは別の席。王家の人は別に席が用意されているからね。あ、お姉様はトーリお兄様と座っているよ。お姉様はもうお嫁に行ってしまったからね。だから私の両隣にはお父様とお母様しかいない。
ここは前世と少し似ている。真ん中を花嫁さんが歩いてくるのかな?お姉様の時は二人そろって一緒に登場したからどうだろう。あ、でもマリーお姉様のお父様であるルシファー様がここに座っているから、お兄様と一緒にくると思う。
…………ざっと、200人はいるのかな、いや、もっといる?多すぎる?この世界だと普通なのかな?知っている人も沢山いるし、知らない人も沢山いる。特にお二人のお友達は知らない人が多いね。そしてこの人数が入りきるこの部屋もすごいね。
まだ少しざわざわしているから話しても大丈夫そう。
「もうそろそろですか?」
「恐らくね」
「楽しみだわ」
お父様とお母様に話かけると二人ともすごくわくわくしていた。お姉様の結婚式ではお母様は嬉しそうだったけれど、お父様は泣きそうな顔をしていた。お母様は「可愛い娘がとられて悔しいのよ」って言ってたけど、今回は逆に可愛い娘が増えるだけだもんね。……逆に今回はマリーお姉様のお父様のルシファー様が悔しそうな顔をしている。ルシファー様はディアナお姉様もお嫁に行ってしまったから、さびしいのかな?まだ可愛いリシューがいるのにね。でも大好きなお姉様がお嫁に行っちゃうからリシューも寂しそうにしている。笑顔だけど、寂しそう。そういえばリシューは誰と結婚するんだろう?リシューも幸せな結婚が出来るといいな。
ぼーっと考えていると綺麗な歌声が聞こえてきた。上のほうから歌声から聞こえてきた。聖歌隊かな?子ども達が沢山いる。5歳くらいの子どもから私と同じくらいの年齢の子どももいる。
「きれい…」
「孤児院で生活している子ども達よ」
ぽつんと呟くとお母様が答えてくれた。
「もしかして前に行った孤児院の…?」
でも前に行った時の子ども達はもっと大きくなっているはずだから、新たに入ってきた子かな?私の知らない顔ぶれだ。
「いいえ。そことは別の所の孤児院よ」
なるほど。知らないはずだ。でもどうして孤児院の子ども達が歌ってるのだろう。勿論すごっく綺麗で子どもだからこそ出せる歌声だと思うけれど、こういう時って、楽団とかにお願いするものだと思っていた。
「こういう活動も孤児院の子ども達の収入になるから」
「なるほど」
私の疑問を感じとったようにお母様は答えてくれた。
孤児院は成人するまでしか入れない。つまり16歳になったら出ていかなければならない。それまでに働き口を決めておかなければ、その後の生活が成り立たなくなってしまう。だからこそ、就職支援や職場体験みたいなことも色んな所でやっている。特に、自分が孤児院出身の人達は後輩が仕事に付けるように支援している。学園祭であったルークお兄ちゃんみたいに自分から騎士団の試験を受けている人もいる。そう考えると、ぼんやり生きている私が申し訳なくなってくる。私も何か、出来たらいいのにな。特にアル様と結婚したら城に入って生活する事になっている。何か、出来るかもしれない。私にしかできない事、見つけてみようかな。この国の役に立つことを何か、転生者の私だからこそ気付くこともあるかもしれないから。
音楽に合わせて登場してきたのは本日の主役のお兄様とマリーお姉様。
「マリーお姉様、すっごく綺麗……」
勿論白のタキシード姿のお兄様も格好良かったし、ウェディングドレスを着たマリーお姉様もすっごく綺麗だった。真っ白なドレスはレースがふんだんに使われていて、お姉様の綺麗さを際立たせている。
この世界にカメラがあればいいのに。そうすればこの様子をとって見返せれるのに。
ないものは仕方がないけどね。
結婚式は順調に進んでいった。
誓いの言葉があって、お互いに愛を誓いあう。そして、結婚誓約書にサインをする。結婚式の流れはお姉様達と一緒だった。ここまでは。
「え、ディー?」
リング交換の場面になって、リングを主役の所まで持っていく役割を担ったのはディーだった。お父様もお母様も分かっていたようで、穏やかに笑っている。でも私を含め参加者は知らなかったようで、みんな驚いている。こういうのって小さい子どもが担う者だと思っていたけれど、ディーでもいいんだ。
主役の二人が歩いてきた道をすたすたと歩いてくるんだよね。マリーお姉様がしゃがんでディーを待ち構えている。ディーは賢いからこれくらい余裕だもんね!ちゃんとお兄様達の所まで歩きますよ!
「わん」
一つ鳴いてから口にリングが入った籠を咥えて歩きはじめる。
(か、かわいい!)
さっきまで気が付かなかったけれど、ディーは白のタキシードを着ている!お兄様とお揃い!ディーがスティラお兄様の代わりにマリーお姉様と結婚するのかな?って思っちゃう。
すたすたと歩いているディーは可愛すぎる。まっすぐ歩いているんだけど、ちゃんと一人一人に愛想を振りまいている感じ。可愛すぎて怖い。
ディーはすたすた歩いていたけれど、リシューの横を通り過ぎた時、ディーは一瞬足を緩めた。知っている顔があったから足を緩めたのかな?ディーとリシューは仲良しだから。リシューはマリーお姉様に会いに家に来ることがある。その時にディーとも沢山遊んでいるからね。二人の遊ぶ様子は面白い。リシューはディーと会話をしているみたいに話すんだもん。遊んでいる二人は可愛いけどね。
「ありがとう、ディーア」
ディーからリングを受け取ったマリーお姉様はディーにお礼を言う。そしてお兄様から頭を撫でられたディーはそのままもう一度すたすたと歩いて、リシューの所に行ったぁ?!
え、そこは私の所じゃないんですか?!リシューはよくやったとでも言うようにディーの頭を撫でている。
そ、それは私の役目!
「むぅ…」
でも今日はおめでたい結婚式。むくれてなんていられない。多分、事前の打ち合わせでリシューの所に行くように言ったんだよね、きっと。そうだと言って。
お兄様達のリング交換は順調進んだ。左手の薬指にお互いにリングをつけ合う。そして、次は一番大切な場面。永遠の愛を誓いあう口づけ。
お兄様がマリーお姉様のベールをとる。マリーお姉様の顔があらわになった。いつも綺麗なマリーお姉様だけど、今日はいつもより何倍も綺麗。お兄様も表情もいつもよりずっとずっと優しい。
お兄様の顔がマリーお姉様に少しずつ近づいていき、自然とお互いの目が閉じていく。
口づけを終えた二人の表情はとても嬉しそうで、幸せそうで。永遠を誓い合った二人はお互いを愛おしそうに見つめていた。
ふたりは凄く、すごく幸せそうで、私はそんな二人が少し、羨ましかった。