104、練習です
数日が経つとアル様はすっかり元気になった。そして今日、アル様と初めての練習です。お兄様とマリーお姉様に出し物をしたいから時間をとって欲しいというと、快くプログラムに組み込んでくれました。でも何をするかはまだ内緒ですよ。当日にびっくりさせるんだから!
「アル様、こんにちは。今日はよろしくお願いします!」
「うん、こちらこそ」
私達はダンスホールを貸し切っています。舞うだけなら問題は無いんだけど、剣は危ないからメイドさん達にも皆出ていってもらっている。正真正銘二人きり。何かあって剣を人に刺したら犯罪だからね。いくら飾り剣と言っても危ないものは危ない。
「最初は剣なしでダンスだけ練習するんですよね」
こういうのって段階を踏んでから練習するものだよね。どんな踊りなんだろう。見た事もない踊りはイメージが掴みにくいから難しい。アル様が最初に踊ってくれたら何となくイメージがつかめるんだと思うのだけれど。
「ううん、剣をもって動いてみよう」
「え…?」
踊りだけを最初に覚えるのではなく?
「最初からですか?」
「うん」
え、大丈夫?ひょっとして、アル様って教える才能がない……?いやいや、そんなことないよね。アル様の事だから考えがあるんだよね。きっと。
「大丈夫、剣を持って」
「はい」
アル様が私に差し出してきた剣は綺麗な飾りがついた剣。持ち手の所からぶら下がっているのは何だか不思議な飾り。どこかの民族が使っていそうな刺繍。大きさはあんまり大きくない。短剣よりは長いけど、長剣よりは短い。多分、この舞の為だけに作られた剣だ。だってこんな長さは実践では役に立たない。
「この飾りって…?」
「これは昔のフロイアン王国でお守りとして使われていたんだ」
「へー…」
お守り?何だかお守りって神社とかでよく見る四角みたいな形のイメージがあるけれど、この飾りはなんていうんだろう。丸い拳サイズの刺繍の下に糸が沢山ぶら下がっている。
「これって本番でも使う剣ですか?」
「うん」
「練習は本番用のは使わずに練習用のを使うと思ってました」
「そうすると、本番で感覚が違うかもしれないからね。出来るだけ本番と同じ状態で」
「なるほど」
確かに本番でこの飾りがいきなりついてたら難しいかも。間違えて飾りをつかんだりしないようにしないと。
「あ、ドレスは待ってね。今大急ぎで作らせているから。何せ、普通のドレスと全く型が違うから少し手間取りそうでね」
デザインもアル様がしたみたいなんだけど、私にはデザインは見せてくれなかった。見てからのお楽しみだって。でもまだデザインしてから数日しか経っていないのに、完成していたら驚き。今日はアル様に動きやすい服を借りたからズボン。新鮮だけど、これなら下着が見える心配はないもんね。
「じゃあ、踊ってみようか」
「はい」
「好きに動いて見て」
「……え?」
いきなり私が動くのですか?アル様の踊りを見てから踊るのではなく?
「大丈夫だよ。体を動かしていたら勝手に動くと思うから」
「えー……」
そんな無茶な…
「シルフィーの動きに合わせて私も動くから」
何だかアル様無茶振りが過ぎません?いつもならこんなに無茶振りをする事はないのに。何だか今日のアル様は不思議。熱を出しておかしくなっちゃったのかな?
でもまあ、アル様がそういうならやってみよう。じゃあ、舞い方なんて知らないから、剣を振るうみたいに動いてもいいかな?
でも、それでも舞っぽく。
トン、トンと軽く飛び跳ねる。剣を見てみるととても綺麗。軽く手元で回してみる。しゃらしゃらと飾りが回ってて綺麗。
よし。
うーん、舞って確かこうやって……、足を動かして……?
違う。舞なんて難しく考えているからダメなんだ。自分の思うままに。普通のダンスみたいにしてみればいいのかな?
思い切り助走をつけて剣を上に放り投げてキャッチ。出来た!あ、剣に鈴が付いているのかな?シャンシャンと音がする気がする。
楽しい。
右足、左足と順にステップを踏んで、剣も右手から左手にぽんと持ち替えて。くるくる回って。思うままに体を動かす。出来るだけ、剣の飾りと鈴の音が目立つように。
「うーん、」
なんか違う。何か違和感がある。何だろう。なんか………、あぁ、そうか。足が違うんだ。靴を履いているから違和感があるんだ。
「これ、いらない」
ぽい、ぽいと靴を放り投げる。
裸足でぺたぺたと歩く。
「あぁ、これだ」
トン、トンと再び軽く飛び跳ねる。
ポンと上に剣を放り投げる。剣がくるくる回っているだけじゃなく、飾りもくるくる回っているからとっても綺麗。
ここで取るだけなら普通の剣だよね。ダンスっぽくするなら…、そうだ。新体操の人達がやっていたようなやつ。
前方回転っていうのかな?くるって回ってみる。あ、出来た。私ってこんなに身体柔らかかったんだね。
あ、そうそう。剣をキャッチしないと。
「よいしょ」
キャッチ。
裸足だとさっきまでの感覚と全く違う。ここが綺麗な床で良かった。もし石とかがあったら間違いなく怪我をしていた。
でもすごく動きやすい。足の指で床を踏みしめている感じがする。
でも、剣を投げたりするだけが舞じゃないよね。剣を持ったまま綺麗に見える様な舞もやってみないと。
えーっと、普通の舞ってどんなのだっけ?そもそも私は舞をよく知らないや。やっぱり自分の好きなように動いてみようかな。
と、そういえばアル様は?ちらっとアル様を見てみるとこちらに歩いてきている所だった。アル様も裸足?やっと一緒に踊ってくれるのかな?
「シルフィー、今みたいな感じで」
「はーい!」
アル様が今みたいな感じでって言ったって事はこれでいいんだ。そもそも、元の踊りを知らないから違うって言われても分からないけれど。
トントン、とステップを踏む。やっぱりこの感じ好き。裸足だから床の冷たさとか摩擦の無さとかが直接伝わってくる。
「シルフィー」
「はい!」
アル様は私の名前を呼んだだけだけど、何を求めているのかが分かる。
二人で息をそろえて剣を上に放り投げる。で、私はアル様の剣をキャッチ。アル様は私の剣をキャッチ。
アル様の剣を持って思ったけれど、軽さとか大きさとか全く同じ。飾りの色が少し違うくらい。剣の重さが飾りを含めて全く同じなんて凄い。剣の重さはどれもほんの少しずつ違う。例え同じ大きさでも。それなのにこの剣はさっきまで私が持っていた剣と寸分違わない。作った人の腕がおそろしい。
その後もアル様と一緒に色んな技を練習した。こんなに思いきり体を動かす機会なんて全然ないから、本当に楽しかった。でも、アル様の言う通り、本当に思った通りに体が動いたよ。
それから当日の流れの打ち合わせもした。流れはお話にそって踊るみたい。お話にそって舞を考えるなんてアル様はすごい。でも、一回通してみて思った。私達息がぴったり!私が流れを忘れて動きが分からなくなったところ以外、失敗しなかったもん!アル様と練習する時間はあんまり取れないから後は個人練習。ぶっつけ本番でもなんとかなる気がする。お兄様達の為にがんばろー。おー。