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103、病み上がりは大人しくするべきです

 翌朝、アル様の部屋に行ってみると、アル様は体調不良の「た」の字も感じさせないほど元気になっていた。けれど、まだ安静にという事からベッドから出ないように医師から言われていた。


 でもアル様は「ベッドから出なければいいんでしょ?」と言って大量の書類を持ち込んでいた。


「アル様、寝てください!」

「えー」

「えーじゃないです!」


 そしてこの言い合いです。

 なんでそんなに仕事をしたがるんですか!ワーカーホリックですか?!病み上がりが一番安静にしてないとダメなんですよ!


「シルフィー、本当に母上みたいだね」

「……そう言ってごまかすつもりですね」

「ばれたか」

「もう!」


 本当にもう休みたくないんですね。元気になったなら良かったです。

 でも仕方ないか。今は朝だし、昨日はずっと寝てたもんね。流石に眠気も来ないか。


「子守唄はもうだめそうだし、膝枕しか方法はないかな」

「……シルフィーの膝枕は大変魅力的だけど、今ベッドの上でするのはだめかな」


 だめだ。アル様はもう寝てくれそうにないね。


「寝かすのは諦めました。でもお仕事はだめです」


 アル様のベッドに散らかっている書類を回収する。アル様は不満気たったけどね。でも、「私がいるのにお仕事するんですか…?」ってしょぼんとしながら聞いたらすぐに書類を片付けてくれました。それをアラン様に渡したら頭を撫でて褒められました。初めてアラン様に頭を撫でられてちょっと嬉しかったです。なんでも、「休んで下さい」進言するアラン様に書類を持ってこいと脅しをかけたらしい。休むという言葉を知らないのだろうか。知ってるけど受け入れてないんだろうね。





「はあ、早く結婚したい」


 アラン様の所からアル様の所にもどるとアル様にそう言われました。


「急ですね」


 私がそういうとアル様は不満げに口を尖らせた。何だか可愛い。


「急でも何でもないよ。ずっと思ってたんだから」

「?」


 そう言いながらアル様はソファに移動して、その膝の上に私を乗せる。私的にはベッドでゆっくり休んで欲しいのですが……。


「出会った時から結婚したいなってずっと思ってたんだよ?」


 な、なんでそんな恥ずかしい事を堂々と言うのだろう。いくら私達二人しかいないと言っても恥ずかしいものは恥ずかしい。しかもアル様は私の目をじーっと見てくるし。近いです。

 あと、出会った時って、私3歳と、アル様8歳ですよね?冷静に考えたらろりこん…。いや違う。きっとアル様は幼女じゃなくて私を好きになってくれたんだよね?……だよね?


「だって私達は5歳も離れてるんだよ?正直シルフィーを野放しにしておくのは不安しかない」

「野放しって…」


 私は危険人物ですか?


「だって、シルフィーは可愛いから歩くだけでその辺の男がほいほい釣れるんでよ?」

「いや、釣れませんからね?」

「『シルフィー様の笑顔を守り隊』ってシルフィーが特に何もしてなくても男女問わずシルフィーに釣られた集団でしょう?」

「…………」


 そうなんですか?!いや、私は自分のファンクラブの設立背景まで知りませんよ?


「一応シルフィーが学園を卒業するまで待つつもりだったけど、よく考えたら、待たなくてもいいんだもんね。シルフィー、結婚しようか」

「……本当に急ですね?!」


 いや、私的には全然いいんですよ?結婚した方が私の処刑エンドはなくなるし。というか、この調子だと、小説の処刑エンドは間違いなくない。起こるはずがない。ソフィアともアル様とも仲良しだもん。例え喧嘩したとしても、処刑エンドはぜーったいにない!

 結婚はいずれするものだし、それが早くなる分には困らない。でも私まだ15歳だからもう少し待ってください。この世界は成人しないと結婚出来ないんですから。それに公爵令嬢と第二王子の結婚式ってそんなにすぐ出来るものじゃないと思うな。そこのところは丸投げだからよく分からないけど。


 でもそう考えるとアル様はもう結婚出来る。アル様は20歳だもんね。私と5歳も年が離れている。でも、アル様は私が成人するまで結婚をするのを待ってくれている。流石に卒業するまで待ってはくれないみたいだけれど。いや、なんだかんだ待ってくれるのかな?そこは私達次第だよね。学生結婚になる可能性あり。

 でも、ずーっと待っていてくれるアル様に申し訳ないという気持ちがわいてくる。私以外の婚約者を探して早く結婚する選択肢だって王子様のアル様にはある。でもアル様はずっと私が大きくなるのを待ってくれていた。そう思うと、申し訳ない以上の嬉しさが湧き上がってくる。


「本当にありがとうございます」


 アル様の膝に横向きで座っていた私はアル様をまたぐようにアル様の方を向いて座る体勢になる。


「アル様、大好きです」


 それで感謝の気持ちを込めてアル様の頬に口づけをしてみます。


 自分でやっておいてあれだけど、ちょっと恥ずかしくなってきたので、アル様の胸に顔を埋めます。なお、この時の私はアル様が病み上がりだという事を忘れて遠慮なく抱き着いていました。


「がまんだ。今信頼を崩したらこれまでの努力が…。」

「もう少し、シルフィーと結婚するまで我慢だ」

「我慢……、あー、早く結婚したい」


 そしてアル様はいつものごとくずっと一人でぶつぶつ言ってました。





 アル様に抱き着いている私の頭を撫でていたアル様は、思い出したように私に話しかけてきた。


「そういえばシルフィーはスティラ達の結婚式に何をするか決めたの?」

「あ……」


 そういえば最近アル様の事しか考えていないから忘れていた。ごめんなさいお兄様。


「まだ、です…」


 でもそろそろ決めないとやばいかも。場合によってはプログラムに組み込んでいかないといけないものもあるから…。


「うーん、私が出来そうな事」


 私に出来ることなんて限られてくる。私に出来る事と言えば、


「お菓子…」

「シルフィー、お菓子の時間はもう少し待ってね」


 アル様は申し訳なさそうに断ってくるけど違いますよ?!今、別にお腹空いてるんじゃないんですからね!……まあ、目の前にお菓子を持ってこられれば食べますけれど。


「当日私が作ったお菓子を出すのはどうかなって」

「あぁ、なるほどね。いいんじゃない?」


 ですよね、と同意を求めようとするけれど、留まる。


「あ、でも」

「どうしたの?」

「それだとあんまりいつもと変わらないなって。折角だからお兄様とマリーお姉様をぐっと驚かせたいです」

「ふふ、シルフィーらしいね」


 でもそうなると私に出来ることって少ないんだよね。私に出来て皆がそれを知らない事……。ないね。となると新しいことをしてみたいけれど、問題はこの短時間で何が出来るかって事だよね。


「ものじゃなくてもいいの?」

「はい。それでお姉様の結婚式でも桜の花びらを散らせましたから」

「あぁ、そうだったね」


 アル様はなにかを思いついたようにこちらを見た。


「なら、舞を披露するのはどうだろう?」

「……舞?」


 舞ってダンスだよね。綺麗な衣装を着て踊るやつ。踊り子さんとかがやってるイメージがある。でも難しそう。舞踏会とかで踊るやつとは別ものだもんね。


「私、舞なんてできませんよ?」

「大丈夫だよ」


そんな緊張する事をするの?でもアル様は私が出来ると確信しているような目で見てきた。大丈夫って何ですか?それは私が舞を踊ったのを見たことがある人がいう言葉です!


「昔、王族や貴族が踊る舞があったんだけど、その舞なら踊れると思うよ」

「へ―…」


 昔ってどれくらい昔なんだろう?歴史の勉強の時には流石に舞についてまでは習わなかったな。高貴な人が踊る踊りなら、歴史に少しくらい残っていてもおかしくないのに。というか踊った事が無いのに、「踊れると思う」って何だろう。


「今はもうそんな伝統が廃れているから、その舞を知っている人はいないんだ。だから少しくらい変えてもいいんだよ」


 えー、いいの?というか知っている人がいないなんて教えられる人もいないんじゃ…。


「で、昔の人は剣をもって踊っていたみたいでね」

「ふえぇ………」


 そ、そんな危険なことを昔の人はやっていたのですか?ますます出来そうにない…。


「だからね、剣をもって舞ってみない?」

「剣…?!」


 わ、私がやるのですか??そんな難しいことできませんよ!


「危なくないですか?!」

「勿論本物の剣じゃないよ。舞用に飾られた剣だよ」


 でも、そんな高度な事…


「でもでも、私にそんな難しいことできませんよ?舞を踊りながら剣を持つなんて…」

「大丈夫だよ。シルフィーがいつもやっているような事だから、それに踊ってたら身体が動くと思うよ」

「え、と?」


 よく分からないけど、アル様は根拠のない自信で私が踊れると信じていることが分かりました。


「その、もしですよ?私が本当に踊ることになったら誰が教えてくれるんですか…?」


 というかアル様の中で私が踊ることはもう決定事項になっていません?


「それは私が教えるよ」

「アル様が?忙しいんじゃないですか?」

「大丈夫。寧ろ私しか教えれないから」

「え?アル様にその踊りを教えてくれた人なら私に教えられるんじゃないですか?」

「え、あー。えーと…、あ、その人忙しいから!」


 何だかアル様慌ててる?

 

「?でも一応お願いだけしてみたいです。その人のお名前だけ教えて貰ってもいいですか?」

「え、な、名前?わ、忘れちゃったな―……」


 アル様が目をそらしているけど、忘れるなんて珍しいこともあるものですね?


「義父様だったら名前知ってますか?ちょっと聞いてきます」

「だ、だめ!」


 アル様は私をぎゅーと抱きしめて私を膝の上から離さないようにする。


「アル様?」


 どうしてそこまで?アル様が教えたいだけ?


「私が教えるから!私も一緒に出るから!」

「アル様も一緒に踊ってくれるんですか?」


 そ、それならやってもいいかな…!他に何かいいものも思いつかないし。


「じゃあ、いいです」


 私がそういうとアル様は安心したように息を吐いた。


「でも練習大変そうです…」

「大丈夫だよ。私とシルフィーの剣なら気が合うから」

「?」


 だからアル様の根拠のない自信は何なんでしょう?


「じゃあさっそく」


 アル様は私を抱き上げて、メイドさんの中に放り込んだぁ?!


「あ、アル様?」

「シルフィーは採寸ね」

「え?」

「衣装のデザインは任せて」

「え?」

「あ、剣も用意しておくね?」

「え?」

「じゃあ、がんばろうね」

「えー……」


 な、流れが急すぎて。アル様は病み上がり…、なんて突っ込みはもう出来る雰囲気じゃない。というか、アル様デザイン出来るですね。メイドさんも準備良くないですか?アル様はこうなることを予知していたんですか?




 

 …そうして私は、いい笑顔を浮かべているメイドさんに身を任せるのだった。









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