アルフォンスpart9
今日も疲れた。でも、昨日一日シルフィーと一緒に居られたからやる気は満ちている。それにしても昨日のシルフィーは本当に可愛かったなぁ。でもそんな可愛いシルフィーを皆に見せびらかしていくのは少し嫌だった。と同時にシルフィーが私のものって言いふらしているみたいで楽しかった。抱っこしたままシルフィーを連れ歩くのなんて本当に楽しかったなぁ。あのあわあわしたシルフィーとか、皆に見られて恥ずかしがっているシルフィーは見ていておもし……、可愛かったなぁ。
そして私が何よりやる気を出して仕事にのぞめる要因は…。
「正直ドン引きですよ」
「失礼だぞ、アラン」
執務を手伝ってくれている側近の一人のアランが失礼な事を言う。
「でも、まあ、それでやる気を出してくれるならいいですよ」
そう、察している人もいるかもしれないが、私がやる気を出している要因はシルフィー…、の絵姿。『シルフィー様の笑顔を守り隊によるシルフィー様の成長記録』に展示されていたシルフィーの絵姿をルートに頼んで全て持ち帰らせてもらった。私のシルフィーの絵姿が他人の手のうちにあるなんて耐えられない。でも、ルートに頼んだ時、あっさりと許可が出たんだよね。もともと私が持って帰る事を予想していたみたいな……。我が弟ながら怖い。何でもかんでも予知されているみたい。
でもそのお陰で、私の執務室にはシルフィーの絵姿が並んでいる。流石に全部を飾る事は出来ないから、日替わりで。
最初はちょっと困ったけれど、『シルフィー様の笑顔を守り隊』もたまにはいいことをするじゃないか。それに、ファンクラブがあるという事は、シルフィーを守る為の手札がより多くなるという事だ。これからも私にいい影響を及ぼしてくれ。
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
何はともあれ、今日はもう終わりにしよう。まだ夕方だけれど、たまにはいいかな。アランも昨日は学園祭に行っている私の代わりに頑張ってくれていたし。
食事の前に風呂にでも入ろうかな。なんだか今日はそんな気分。いつもは部屋でごろごろするんだけど、今日は何だかもうさっぱりしたい。
と思ったのだけれど。
部屋の前で立ち止まる。
「…………」
何だか違和感がある。私の部屋のはずなのに、私の部屋ではないような違和感。
「誰かいる…?」
いつもの掃除をしてくれているメイドじゃない。何か、もっとこう、知っているような。親しいような……。
そーっ…とドアを開ける。部屋を見渡してみるけど、違和感があるのは…、布団?
布団に誰かいる…?曲者?もしかしてあれかな、私のお手付きを狙って、シルフィーの立場になり替わろうとする女。たまにいるんだよね。でも、そうなってからは私に害を与えようとする者は入る事が出来ないように結界を張ってある。それを通り抜けているという事は少なくとも私に害を与えるものではないという事になる。
でも、この感じ…、害を加えるとかそんなんじゃなくて、もっとこう……。ふわふわした感じの…。
そっと布団に近寄っていく。布団は規則正しく上下している。…ん?この感じは…、
「寝ている……?」
え、えーっと?
そっと布団をめくってみると、私の大好きな可愛い子がお馴染みのうさぎのぬいぐるみを抱きしめたまま眠っていた。
「シルフィー!?」
「んにゅう…?」
あ、やばい、起こしちゃった…?いや、起こしてもいいんだよね?そろーりと目を開けたシルフィーは私を目に留めるとふにゃりと笑った。……眠そうな目で。
か、可愛すぎる!
「あ、ありゅしゃま…、おはよーご、じゃいます……」
「えーと、いや、うん。今は夕方だけど…?」
シルフィーはベッドの上にちょこんと座る。
可愛い可愛い。ぐしぐしと目元をこする姿も何だか子どもを見ているみたいで可愛い。可愛いからシルフィーを子ども扱いするのをやめられないんだよね。あぁ、いや、実際に子どもだと思っているわけではないんだけれどね。シルフィーは私の可愛い婚約者だから。
シルフィーをぎゅっと抱きしめると小さな手で私の服をつかむ。
「ん~…?」
眠そうにこくりこくりしている姿だって可愛い。こんな姿を誰にも見せたくないな。
「ゆうがた…」
ゆうがた…?と何度もその単語を呟いている。本当に眠そうだね。昨日まで本当に頑張ってたもんね。学園祭が終わったから気が抜けたのかな?
「というか、なんでここに…?」
まずはこれ。どうしてここにいるんだろう?今日は約束していなかったはずだけれど。でも私的には可愛いシルフィーに会えたから満足かな。
眠そうなシルフィーは目を閉じたまま、「あのね…」と話し始めた。
「ほんよんでて、あったかくて、ねむたくて…。でもあるさまとおやくそくだったから…」
そう言ってシルフィーは再び眠ってしまった。私に抱き着いたまま。
「えー……」
っとどうしよう…。何一つよく分からなかった。
でも多分、シルフィーの言っていたお約束は寝る時は私の部屋でって言った事だよね。確かに言い出したのは私だよ?小さいシルフィーがお昼寝をするときに私の部屋で寝てくれていた方が私も愛でやす……、んん゛、シルフィーも安全だと思うし。私の部屋には結界が施してあるからね。
でも、今は違うでしょう!シルフィーが成長した今は、城でお昼寝をする事もなくなったから特に何も言わなかったけれど、今、私の布団で寝るのはだめでしょう?!襲うよ?!私が理性をもう少し働かせていなかったらシルフィーは襲われているよ?!
「はぁ……」
幸せそうに私の腕の中で寝ているシルフィーが恨めしい。流石に寝ている可愛い婚約者を襲うなんて真似はしないけど、少しくらいのいたずらは許されるんじゃないだろうか…。でもそんなことをすれば公爵家の面々がおそろしい。
というか、私はもう唇への口づけをしてもいいのではないのだろうか。父上はシルフィーが学園に入学するまでは我慢しろって言っていたけれど、もうその時はとっくに過ぎている。してもいいだろうか…?いやでも、出来ればシルフィーが起きている時に…。
しかも、今やったら確実にヤバイ。だって布団の上だよ?それ以上に手を出したくなる。私も男だよ。でもなぁ…。
腕の中にいるシルフィーを見る。安心しきったようにくうくう寝ている。可愛い。……ってそうじゃない。そんな無防備に安心しきっているシルフィーに手を出すなんてできない。
というか、どうしよう、この状況…。
起こしてもいいものか…。小さい頃なら泊って一緒に寝ても問題ないんだけれど。今すると、世間体がね。………いや、気にしなくてもいいのか?だってシルフィーは私と結婚するんだよ?既成事実があっても問題はない。
……いやいや、冷静になれ私。流石にそれはやばい。主に私の命がヤバイ。物理的に殺される。シルフィーの家族又は親衛隊に。
「どうしようかなぁ」
「殿下、今よろしいですか?」
「あぁ」
っ!
いや良くない!いつもの調子で返事をしてしまったけれど良くない!
「まっ!」
私が止める間もなくドアを開ける音が響いた。入って来たのはアランだ。
「殿下、このー………」
アランが言い終わる前に目が合ってしまう。書類をもったアランと、寝ているシルフィーと抱きしめ合っている私が。
分かる。アランが目で何を言っているのか分かるが誤解だ。
「……殿下、犯罪は流石に擁護できませんよ」
「違う!」
シルフィーを起こしてはいけないと思って小さく叫ぶ。
「私が部屋に戻ったときにはもういたんだ」
わたしがそう弁護すると、アランは「あぁ、」と何かを思い出したような思案顔になった。
「あぁ、そういえば、シルフィー嬢が来ていると報告がありましたね」
「え?!」
な、なんだって?!
「何で私の所に報告が来ないの?!」
あくまでも小さく叫ぶ。
「だって、殿下、シルフィー嬢が来ているって分かったら執務に集中できないでしょう?」
「そう、だけど!」
いや、間違っていないけれど!
「どうしましょうかね」
「うーん」
腕の中で眠っているシルフィーに目を向ける。
「ふふ、可愛らしいですね。すっかり安心しきっていますよ」
「可愛いだろう、私の婚約者は」
「はい」
アランからの同意も得られた事だし、シルフィーをゆっくり撫でる。あぁ、可愛い。
「公爵様にはシルフィー嬢が来ている事は伝わっているので、帰りは大丈夫だと思うのですが…」
「そうか」
本当に私にだけ連絡が来ていなかったんだな…。なんだか寂しい。
「そろそろ公爵も仕事が終わるよな?」
「はい、そのはずです」
「起こすのも可哀想だし連れていこうか」
「えぇ、その方がいいでしょう」
公爵にここまで来てもらってもいいけど、私の布団で寝ているシルフィーを見たら公爵の反応が……、あ、鳥肌が立った。
そっとシルフィーを抱き上げる。起こさないようにそっと。るぅはアランに抱き上げてもらう。
「軽いな」
軽い。シルフィーは軽い。私の手元から消えていってしまいそうなくらい軽い。抱きしめていても不安になる。
「行きましょうか」
「あぁ」
私が父上の執務室に向かった時に、丁度公爵は執務を終えたようで、部屋から出て歩いていた。
「公爵」
丁度良かった。
「殿下、と、シルフィー?」
公爵は不思議そうな顔をしたけれど、シルフィーが城に来たことを思い出したのか「あぁ」と呟いた。
「公爵を待っている間に寝てしまったみたいで、連れて帰ってあげてくれ」
「はい」
公爵はシルフィーを起こさないように、大切なものを受け取る様に優しくシルフィーを私の腕から抱き上げる。シルフィーは起きる様子もなく、すやすやと寝ている。アランが寝ているシルフィーの上にそっとるぅを乗せると寝ているにも関わらず、ぎゅうっと抱きしめる。
本当に可愛いな。
「殿下、ありがとうございます」
「え?」
公爵にお礼を言われるような事があっただろうか?
「シルフィーは殿下の話をする時、とても楽しそうなんです。最近は仲の良い友達が出来たようですが、それでも殿下が一緒に居てくれることが何より嬉しいようですよ」
「…そうか」
私の顔は緩んでいないだろうか…。
そうか、シルフィーは私の話もしてくれているのか。シルフィーは私の事を好いてくれている。でも、やっぱり、それは私がシルフィーに向けるものとは大きく異なる。私がシルフィーに向けるこの感情は何も綺麗なものばかりじゃない。それでも、お互いが一緒に居たいと思っている限りは一緒に居られる。いや、シルフィーが私の事を拒否しても私はシルフィーから離れるつもりはない。
多分、公爵は歪んだ私の気持ちに気付いているだろう。
シルフィーを離したくない。何があっても。
私の魂がシルフィーを求めている。何を言ってるのだろうと思うけれど、本当にそんな感じがするのだ。時が経つにつれその思いは強くなっている。まるで生まれる前からシルフィーを求めていたようで、シルフィーに出会うために生まれてきたようで。
「私はこの先もシルフィーと一緒に居るつもりです。何があっても」
「そうですか」
公爵は安心したように息を吐いた。