094、才能の無駄遣いだと思います
「ここ、ですか?」
「そう、みたいだね」
この展示の場所は、私達がお化け屋敷に行く前に通った場所だった。多分、気が付かないうちに素通りしてたんだね。それか、脳が拒否していた。
教室の入り口にはでかでかとした看板があった。
『シルフィー様の笑顔を守り隊によるシルフィー様の成長記録』
……『シルフィー様の笑顔を守り隊』の方々は私の親ですか?成長記録って何ですか?私子どもじゃないので、そんなすぐには成長しませんよ?
というか、どうやって成長記録を展示しているんでしょう?身長なら入学してから全然伸びていないし……、もし身長の事なら私拗ねますよ?体重なんて論外。
ルートお兄様が指導しているなら常識あるものになっているよね。
「はぁ~」
ドキドキするぅ。
「あ、開けますよ…?」
「うん」
「ほ、本当に開けますよ?」
「うん」
「……」
どきどき。
「やっぱり、別の場所を見てからにしませんか?」
やっぱり何となく恥ずかしくて先延ばしを要求してみる。せめてどんなものが展示されているか分かったら心構え出来たのに…。
「シルフィー、後に引きのばしても結果は変わらないよ?」
そう言ってアル様は扉を開けてしまった。
「あー……」
先延ばしは通用しませんでした。
そして私の視界に飛び込んできた光景に衝撃を受けました。
「~~っ!」
ぶわーって顔が真っ赤になるのが分かる。
だって、教室一面に私の絵姿が飾ってあるんだもん!!
「ふぇ」
こんなに恥ずかしすぎる。
「へえ」
アル様は感心したような声をあげて、目をキラキラさせている。
展示されている絵姿は非常に多い。私の授業風景やお散歩風景だけではない。いや、それも十分問題なんだけれど。
でも、他にも身に覚えのあるものばかり。
リシューとソフィアに仲間外れにされて拗ねている顔とか、ソフィアにやらされた猫のポーズとか、私がアル様に抱き着いている瞬間とか、リシューのデザートを狙っている瞬間とか、ソフィアにぎゅーっと抱き着いている姿とか、その他もろもろ…。
ていうか、何で今日の接客の様子の絵姿があるんですか、クレープを食べ歩いていた時の絵姿があるんですか、トーリお兄様達と話している時の絵姿があるんですか、アル様に抱っこされていた時の絵姿があるんですか?!
更に疑問なのが生徒会とアル様が並んで、今着ている衣装をまとっている姿が描かれている事。これに至っては本当に今ですよね?!しかも絵の私の手の中にはちゃんとるぅがいる。おかしいですよね?写真じゃないんだからこんな短時間で出来る訳が無い。
今日の事ですよね?!さっきのことですよね?!この絵姿って、こんな短時間で掛ける様なものではないですよね?!
あと、この世界って、ストーカーって犯罪ではないんですか?肖像権って言う者はないんですか?私訴えてもおかしくないと思う。
絵は本当に上手。それが私の絵姿でなければ。才能の無駄遣いだと思う。というか、本当に私を監視していたんですね…。今日の光景を短時間でよくこれだけ描けますね。ちゃんと色付きだし。
もしかして魔法…?
……なんていうか、もっとまともなのないんですか?!
恥ずかしくなってアル様の胸に顔を埋める。ここは学園内。当然生徒やその保護者など多くの人が居る。加えて今は生徒会の出し物中だから多くの人が私達に注目している。冷静になったら抱き着いている状況の方が恥ずかしいって分かるんだけれど、今はそんなことを考えている余裕はない。皆が私達を見て微笑ましい顔をしているけれど、今の私はそんなの気になりません。そんな目線より、目の前の絵姿の方が恥ずかしすぎる!
「あ、アル様、出よ?」
「うーん、私はもう少しみたいな」
「ふぇ~、だって、こんなにいっぱいの絵姿、恥ずかしいです!」
「うーん、今この状況の方が恥ずかしいと思うけれど?」
「ふぇ…?」
今この状況?私がアル様に抱き着いているこの状況?何が恥ずかしいのですか?いつもの事じゃないですか?何度も言います、……冷静になったら恥ずかしいって事が分かるけれど、今の私は冷静じゃないのです。
「でも私は普段の学園生活をしているシルフィーを知らないから、この機会にじっくり見ておきたいと思ったのだけれど…、だめ?」
「~~っ!」
わ、私がその困り顔に弱いことを知ってやっていますか?!そうですよね、アル様ですもんね。分かっててやってますよね!
「へえ、可愛いな」
「このシルフィーは何をしているの?」
「ねえ、この猫の真似、今やってほしいな」
「ふふ、拗ねてるシルフィーも可愛い」
「シルフィーは普段からこんなに可愛さを振りまいているんだね…」
「後で全部私の執務室に飾りたいな。譲って貰える様にルートに交渉してみよう」
や、やめてください!執務室って色んな人が出入りするところじゃないですか!というか、私の羞恥心をあおるような事ばかりいうのやめてください!
え、私?私はその間、ずっとアル様に抱き着いていましたよ?だって顔をあげるのも恥ずかしいんですもん。
そして、アル様はなかなか教室を出ようとしませんでした。ちなみに私達がこの絵を見ている間にも、何人かにハンコをねだられました。それはちゃんと押しましたよ?お仕事ですから。
「アル様、もう…」
「えー、もうちょっと」
「……」
もうこのくだりは5回ですよ…。
「まだ…?」
「もう少し…」
6回目。
何周も何周も絵を見て回る。一つの絵にものすごい時間をかけて。恥ずかしいし、恥ずかしいし、恥ずかしい。
もう帰ろうよ…。
そして何よりつまらないのが、
「アル様の傍には本物の私がいるのに…」
絵ばっかり見て…。アル様に抱き着いている私をまるっと無視したようにアル様はずっと絵の私を見つめている。
そう、私は拗ねているのです。
「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ」
アル様は慌てたように抱き着いていた私をさらに抱きしめる。
「ただ、普段見れないシルフィーがいるって思ったら、悔しくて。これは目に焼き付けておかないといけないと思って…」
「…」
だ、だから、どうしてそんなに羞恥をあおるような事を言うんですか?!アル様がこの教室を出るまで口をきいてあげないんだから!
アル様はやっとあの教室から出てきてくれました。私は何だかぐったりしています。何だか気疲れしました。だからアル様が抱っこしてくれています。……「だから」がどう繋がってくるのか分からないけれど、でも抱っこされています。これはこれで恥ずかしいけれど、何だか疲れて身体から力が抜けてきているから仕方がない。
「そういえば、アル様、さっきソフィアと会いましたよね?」
「え、うん」
私が急に話題を出したからきょとんとした顔を向けてきた。
「どうでした?」
「どうだった、とは?」
あ、質問が曖昧だったかな?
「かわいいなあとか、一目ぼれしたとか、好きになったとか」
「…」
え、あれ?アル様の笑顔が段々と怖く…?
「私がシルフィーの事をどれだけ好きか伝わっていない、という事かな?」
「つ、伝わってます!!」
そんなのはちゃんと伝わっている。だって普段の関わりとか、さっきもペンダントをくれた時の思いとか聞いたもん。ただ、ヒロインと第二王子の出会いを終えたから、小説の強制力とかないのかなって…。ちょっと、心配に、なっただけだもん…。
「私とアル様は大好き同士です!」
ちゃんとわかってますよ!って感じでどや顔をしてみる。アル様の腕の抱っこをされている状況だから格好はつかないけれど!
そして私はさっきのセリフを思わず大声で言ってしまったわけです。当然、他の人が沢山見ていますよね。
「…っ!」
や、やってしまった!恥ずかしくて再びアル様の胸に顔を埋める。……埋めていた私はアル様が顔を赤くして悶えている事に気が付かなかった。
そしてそのアル様の顔が赤くなった姿で私を抱っこしている姿が絵になって『シルフィー様の笑顔を守り隊によるシルフィー様の成長記録』に飾られていたとか。
そして今度こそ目的地もなくぶらぶらです。今はちゃんと歩いていますよ?降りる時に少しアル様は寂しそうにしていたけれど。
ん?何だか見覚えのある後ろ姿…。え、あれって!
「お兄様!」
やっと会えた!お兄様の名前を呼ぶと同時にジャンピングぎゅーをかまします!
「うおっ!」
お兄様は振り向きざまに驚きながらもちゃんと私を抱きしめてくれる。
「びっくりするだ、ろ…」
お兄様が私を見た途端、言葉を詰まらせる。
「な、なんという恐ろしいことをしてくれたんだ…!」
「お兄様?」
「可愛すぎる!小悪魔、再来!」
…?
よく分からないけれど、お兄様が楽しそうでよかったです。
「シルフィー…」
「ふぇ?!」
そ、そうだった!アル様の前でアル様以外の人を抱きしめたらいけないんだった!
「ど、どうしよう…!」
「シルフィー…、こうしたらいいよ」
「!」
お兄様が私の耳元で助言をしてくれる。
よ、よし!私はお兄様の事を信じます!
「アル様…」
私の最大限のあざとさを総動員!正面からアル様にぎゅーって抱き着きます。もちろん上目遣い!
「アル様、ごめんね?」
ポイントは首を少しかしげて涙目にするところ。涙目は難しいと思ったけれど、アル様の黒い笑顔が怖くて勝手に涙目になっちゃった。
アル様は顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせています。……お魚さんみたいですよ?
で、時々お兄様を睨んでいる。
結果は私の勝ち、かな?勝負はしていないけれど。でもアル様のご機嫌が直ったからいいかな?
そんなことを考えているうちに、お兄様が私に紙を差し出してきた。
「じゃあ、可愛い小悪魔のシルフィーさんにハンコを貰おうかな?」
「!」
あ、お兄様が私にハンコをねだっている!『本物』の私に!
「でも、私は『偽物』かもしれないですよ?」
さっきリシューとリリーお姉様に会ったけれど、本当に区別がつかなかった。だからお兄様も私を見分けるのは難しいはず!
「…、俺が可愛い妹のシルフィーが分からないはずがないだろう?」
「!」
流石お兄様です!だ…、きつきたいけど、アル様に怒られちゃう!今度アル様がいない所でぎゅーっとして貰おう。
「さっき、偽物のシルフィーにもあったんだが…」
「!」
あ、お兄様、私の偽物にあったんだ!実は私も自分の偽物には会っていない。どんな感じなんだろう?でも、リシュー達の偽物と接した感じからすると、相当似ているんだよね?
「結構可愛かったぞ」
「!」
……なんだろう。ちょっとしゅん。
私の偽物の事まで可愛いって言ってくれるのは嬉しいんだけど……。でもなんか…、
「でも、やっぱり、シルフィーは本物が一番可愛いな。なんて言ったって、長年一緒に過ごしてきた可愛い妹だからな」
「!」
お兄様、好き!!
「えへへ」
嬉しくって思わず顔をるぅの後ろに隠す。でも、嬉しさは隠しきれない。
「私もお兄様、大好き」
「~~っ!可愛すぎる!」
お兄様と私は両想いですね!
「お兄様、お姉様は?」
「ん?あぁ、シリアならさっき、」
お兄様が言い終わる前に
「シルフィー!」
と私の名前を呼ぶお姉様の声が聞こえました。
「お姉様!」
ぎゅーっ、です!お姉様は女の子だからアル様にも怒られないもんね!
「可愛いわ、私の妹は!」
「お姉様も素敵です!」
「はあ、可愛すぎて持って帰りたい…。持って帰ろうかしら」
「あぁ、いいな。そうしよう」
あれ、あれあれ?
私はお姉様に抱っこされて…、お姉様力持ちですね?!
「スティラ行くわよ」
「おう」
そのまま私を抱っこしてお家まで…。
いやいやいや。ダメですよ?!
「お姉様、お兄様、だめですよ?!」
「「えー…」」
二人ともがっかりした顔をしないでください!ちゃんと毎日お家に帰っているんですから、お兄様には毎日会えるでしょう!お姉様はお嫁に行ってしまったから毎日は会えないけれど、これからは頻繁にお姉様に会いに行きますね。
そしてお姉様にもハンコをねだられ、また少しうろうろしてから生徒会の出し物が終わりました。景品の贈呈は後日です。
私は結局、計24人の生徒にハンコを押しました。多分、皆、勘で私達にハンコをねだったんだと思う。だって偽物と本当にそっくりだったんだもん。でも、私にハンコをねだった人は必ず私と一緒に居るアル様にもハンコをねだっていた。
景品は誰に当たるかなぁ?
そして学園祭も無事終わり、再び日常が戻ってきました。
もし、少しでもこの小説をいいなぁって感じたら、☆☆☆☆☆を★★★★★にしてもらてると、すっごく嬉しいです!