093、区別がつきません
食べ終わったので、混む前にどこか別の場所に行こうと思って私とアル様は席を立った。……、んだけど。
「あ…、れ?」
あそこにいるのって、
「ソフィア…?」
本物の私だからこそ分かる。あのソフィアは本物だ!私達と同じように、『森のうさぎカフェ』でお茶をしてたなんて!ぜんっぜん気が付かなかった!ソフィアも話しかけてくれればいいのに…。
と、そのソフィアの前の席で一緒にケーキを食べていたのが、
「ルートお兄様…?」
え、あのルートお兄様も本物だよ?!こ、この教室に本物が4人もいる…?!
「ソ、むぐっ」
ソフィアの名前を呼ぼうとした瞬間、私の口をアル様が手でふさぐ。
「むごむご(アル様…?)」
??
えーと???
「…ぷはっ」
あ、やっと離してくれました。
「アル様?」
「ダメだよ。名前呼んだらお互いが本物だって周りにばれるかもしれないよ?」
「!!」
だ、だめ!
思わず、私は自分の口を手でふさぐ。
「静かにします」
「よし」
よしって言われました。犬にでもなったみたい。わん。
アル様の犬にならなってもいいかも。甘やかしてくれそうで、一生いい生活が出来そう。食べ物にも困らないだろうしね。でも、一番かわいい犬はディーだもんね。はっ、私が犬になったら、ディーと犬語で会話が出来るかもしれないって事?……魅力的!
犬になってもいいかも。わんわん。
「じゃあ、行こうか」
「は、い…?」
教室を出て別の場所に行くのかと思えば、アル様はソフィアとルートお兄様の方に足を進めた。
「…?!」
え?!いいんですか?大丈夫ですか?私達が接触しても大丈夫ですか?
でも、アル様は全然気に留めてもいないようで。
「やあ」
「あ、アル兄上」
「こんにちは、殿下」
普通に挨拶しているぅ。
「あら、シルフィー。どうしたの?」
「本当だ。何でそんなに困った表情をしているの?」
「あ、うー。ん、えっと」
なんて言えばいいんだろう?ここで『本物』とか『偽物』って単語を出す訳にはいかないし…。
アル様は戸惑っている私の耳元でこそこそと呟く。
「シルフィー。こういう時は堂々としているといいよ」
どうどうと…。どうどう。
ど、堂々ね!
「おふたりともお疲れ様です!」
「お疲れ様」
「うん、お疲れ。もうハンコ押した?」
「まだ一人です!」
私とアル様はお互いまだ一人の女子生徒にしかハンコを押していない。その女子生徒は私にハンコをねだった後、アル様にもハンコをねだった。
「ルートお兄様とソフィアはハンコを押したんですか?」
「僕は5人」
「私は7人よ」
ふへぇ。二人とも沢山ハンコをねだられたんだね。でも、私達が押したのは沢山いる生徒の中からたった1人だから、偽物の私達がその分沢山押したのかな。
でも、まだ始まったばかりだからここから沢山ハンコをねだられるかな?
「そういえば、さっき、スティラ様とシリア様にお会いしたわよ」
「!」
な、なんと!ソフィアもお兄様、お姉様にあったんですか?!
「とても素敵なお兄様とお姉様ね」
「っ!そうなんです!とっても素敵です!」
友達に自分の家族を褒められるのってすっごく嬉しい!
「そしてハンコをお求めになられたから会長と一緒におしてきたわ」
お兄様とお姉様の勘は素晴らしいです!ルートお兄様とスティラお兄様、シリアお姉様は顔みしりだから『本物』と分かっても不思議じゃないのに、ソフィアの事も『本物』と見抜くなんて!というか、生徒以外も参加していいんですね。
「お二人ともシルフィーを探していたわ」
「私もお兄様とお姉様に会いたいけど、見つからないの」
「二人ともハンコを集めて回っていたから、もしかしたらシルフィーにもハンコを求めに来るかもね。偽物のシルフィーにハンコをねだらなければ、だけど」
「!!」
わ、私はお兄様とお姉様を信じています。『本物』の私を見つけてくれるって信じていますよ!
「次はあっちを歩いてみましょう!」
「うん、いいよ」
アル様とぶらぶらと校内を歩いています。やっぱりこのお祭りという雰囲気が楽しいよね。
美味しいものにやっぱり目が行くなあ。そして今回もあっちへふらふら~。こっちへふらふら~。とする私をアル様が手を引張って行ってくれます。そんな子どもをみる目で見ないでください。
「あ、あそこにリシューとリリーお姉様がいますよ!」
「あぁ、本当だ。でも、あれは…」
「はい。『偽物』ですよね?」
流石に大きな声で『偽物』とは言えないから、今回もアル様の耳元でこそこそと話す。
「うん。私もそう思う」
『偽物』ってどういう感じなんだろう?
「シルフィー、『本物』の二人にあった時みたいに接するのがいいんじゃない?」
「あ、そうですね」
そうだよね。ここで話しかけなかったり、いつも通りに二人に接しなければ、どちらかが『偽物』とばれてしまうかもしれない。
そうと決まれば、
「リリーお姉様、リシュー!」
手を振って名前を呼べば、二人とも振り返ってくれた。
「あら、シルフィー。ちゃんと殿下と一緒なのね。良かったわ」
「僕はそこは心配してませんでしたよ。少なくとも、アルにぃがシルフィーの事を離す訳が無いからね」
「…!」
え、っと?『偽物』と『本物』って何が違うのでしょうか?
だって、リリーお姉様の優しそうな目とか、リシューの呆れたような顔とか、もうそのままなんだもん!
「アルにぃ、シルフィーと一緒に行動するのは大変でしょう?」
「え?」
リシューなんてこというんですか。私は普通にアル様と一緒に歩いているだけですよ?というか、本当に『偽物』ですか?
「手を繋いでても興味のあるものを見つけると、ふらふら~とあちこちに行ってしまうから」
なっ、リシューなんてこというんですか?!
「あー…」
アル様も心覚えがあるような、納得したような顔をしないでください!
「ふふ、本当に仲がいいのね」
リリーお姉様はいつも通り「あらあら」って笑ってます。
ますます『偽物』と『本物』の違いが分からないのですが…?私が二人を『偽物』って分かったのはこれもまた直感。でも、私達以外に二人を偽物って気付く人は少ないと思うな。
「お二人は、どこに行くんですか?」
「私達は目的地もなくふらふらしていただけよ。別々で行動していたのだけれど、たまたま出会って一緒に歩いていたの」
「そうなんですね」
二人がどこか目的地を決めていたのなら、私達もついていってもいいと思ったけれど…。
「うーん」
やっぱりこの後どうしよう。流石にずっと歩き回っているのも疲れるし…。
「そういえば、先程、スティラ様とシリア様にお会いしましたわ」
「…!」
「勿論、私が偽物だと気付いておられましたけれどね」
リリーお姉様も会ったんだ…。いいなぁ。私も会いたい。そしてやっぱり私のお兄様とお姉様は直感が鋭い。
「久しぶりでしたので、会話に花がさきましたわ」
そっか、リリーお姉様は偽物だったとしても、本物のリリーお姉様と同じような考えをしているんだもんね。私だってさっき偽物のリシューに昔の事を掘り起こされたもん。
「あ、僕も会ったよ」
「え、リシューも!?」
ずるいぃ。
「まぁ、僕の事も『偽物』だと見抜いていたけどね」
……なんか、お兄様とお姉様が怖いです。鋭すぎて怖いです。でも素敵で流石です、お二人とも。
「シルフィーの事探してたよ」
それはソフィアに聞いたのです。
「今どこにいるのかな…?」
場所が分かれば私達から探しに行ったのに…。
「じゃあね、リシュー、リリーお姉様。私達はこのあたりを探索してくるね」
そう言ってリシューとリリーお姉様と別れようとしたのだけれど、
「あ、そういえば『シルフィー様の笑顔を守り隊』の展示があるから後でアルにぃと見てみたら?」
というリシューの言葉に足が止まりました。
「?!」
何ですかそれ!なんてことをしてくれているんですか『シルフィー様の笑顔を守り隊』の皆さん!筆頭は『シルフィー様の笑顔を守り隊』会長のルートお兄様と、副会長のリリーお姉様だと思うけれど!
「え、な…」
「勿論、生徒会のメンバー全員が手を入れているよ」
「!」
な、なんですと。
「生徒会でふつうに話題に出してたでしょう?」
「……っ?」
え、知らない!そんなの聞いていない!聞いていたら絶対この展示は却下したもん!
「あー、そっか。シルフィーはその時、ケーキ食べててふにゃけてたっけ」
「!」
ケーキを食べている時にその話題を出すのはずるいと思います!ケーキを食べだしたら、ケーキにしか目がいかなくなってしまうんです!
今度から企画書はきちんと目を通しましょう…。多分今回は、目を通したけれど、関係ないと思って脳が拒否していたんだと思う。出来れば行きたくない。見るのが怖いです。これはいかないという選択肢はありですか?
「シルフィー」
「…はい」
「行こうか」
「…はい」
あ、なしなんですね?
言うと思いました!アル様は行く気満々ですね。出来れば行きたくない!
あー、でも、アル様はリシューに場所を聞いている。…、行くしかないね。
もし、少しでもこの小説をいいなぁって感じたら、☆☆☆☆☆を★★★★★にしてもらてると、すっごく嬉しいです!