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089、恥ずかしさで公開処刑です


 私が気を失ってから起きるまでにはそんなに時間は経っていなかったみたい。良かった。私が気を失っている間に生徒会の出し物が終わっていた…、なんてことにはなっていないみたいだ。

 生徒会の出し物に私が出るかどうかでアル様と揉めたけど、最終的にはアル様は私の意見を尊重してくれました。アル様は私の体を心配して休むように言ってくれたけど、別に体調が悪い訳じゃないし、何より責任を放棄できない。


「じゃあ、私はそろそろ行きますけど、アル様はどうします?」


 もうすぐ生徒会の出し物の時間だから、そろそろ医務室を出ないと間に合わない。


 アル様はどうするんだろう?この後は王子様として学園内を探索するのかな?


 私がアル様に声を掛けると、アル様はきょとんとした顔をした後、少し悩んでいる様だった。アル様のきょとんとした顔、なんだか可愛い。

 アル様を誘ってみたけど、私的にはアル様も一緒でも大丈夫だと思う。ルートお兄様のお兄さんだし、王子様だし、元生徒会だし、知っている人ばかりだし。……、あれ、リリーお姉様とアル様って面識あったっけ?あぁ、でもお茶会とかがあるから多分顔は知っているよね。私は全然参加させてもらえなかったお茶会で知り合っているはずだよね。


「じゃあ、一緒に行こうかな。私がいたら迷惑になるかもしれないけど。あと、問題なかったとはいえ、倒れたから心配だし」

「アル様……」


 優しすぎません?私が気を失ったのだってアル様に全く責はないのに。私はただアル様と一緒に居たかったから誘っただけなのに、そんなところまで考えてくれていたなんて……。迷惑な訳ないのに。

 え、アル様を私の婚約者にしておくのは勿体なくないですか?婚約破棄します?アル様ならもっといい人が見つかりますよ?

 私なんかより、可愛くて優しくておしとやかな素晴らしい令嬢なんて沢山いますよ?私のお姉様なんてどうですか?可愛くて優しくておしとやかで、その上綺麗で素晴らしい。ほら完璧。…、あ、だめだ。お姉様はもう人妻。ごめんねアル様。お姉様はトーリお兄様の物だからあげられないよ。

 じゃあ、リリーお姉様?リリーお姉様も素晴らしい人ですよ。生徒会として一緒に長い期間過ごしてきたからね。なんといっても、私が欲しい時に紅茶とケーキを出してくれる素晴らしい先輩で、優しいお姉様なのです。……先輩に何をさせているんだ、と突っ込みたいと思うけれど、リリーお姉様がしたいと言ってしてくれるんだもの。それにリリーお姉様の接待を受けているのは私だけじゃないのよ?リシューも私と一緒で、美味しくケーキをいただいているのよ。


 あぁ、リリーお姉様が用意をしてくれるケーキを思い出したらよだれが出そう…。あ、本当には出しませんよ?これでも私は令嬢だし、アル様の前だからね。


「ところで、生徒会の出し物は何をするの?」

「えーと、それが私も分からないんです。アル様はルートお兄様から聞いていないんですか?」

「それが、当日のお楽しみという事で教えてくれないんだ」

「私もです」

「でも、シルフィーが知らないとなると劇ではなさそうだね。練習が必要だろうし」

「はい」


 劇は嫌だ……。アル様達の劇を見た時は私もやってみてたいな、って気軽に思っていたけど、無理。絶対緊張する。皆の前で間違ったら、転んだら、セリフを噛んだら…。想像するだけでぶわーって汗が出そうになる。でもアル様と結婚するとなるとそれに慣れないといけないんだよね。いつまでも緊張するって言って逃げているわけにはいかない。


 そして今思ったのだけれど。私の人見知りって、私と他人と交流させようとしなかった周りに原因があるのではないのでしょうか?いや、分かっているのよ?人のせいにするのはいけないって。でもね、小さい頃からもっといろんな人と関わる機会があったら、もっと社交的な私に育ったのではないのでしょうか?そこまで緊張しない私が出来上がっていたのではないのでしょうか。


 まあ、今更思ったって後のお祭り。私は出来る限りで頑張るしかない。


「アル様、私、頑張るね」

「うん?」


 あ、ごめんなさい。急に話しかけたから何の事か分からないよね。気にしないで下さい。ただの決意表明です。





 本当にそろそろ行かないと間に合いそうにない時間になって来た。


「アル様、そろそろ行きましょうか?」

「そうだね」


 そう言いながらアル様は私の方に向かって両手を広げてきた。これはぎゅーの合図ですね!


「ぎゅー!」


 なんていうかもう、条件反射。


「ふにゅう」


 そして腑抜けた声が出るのも条件反射。なんていうか、躾けられている……。


「はあ、シルフィーは何でこんなにかわいいの…」


 なんて、アル様の口から恥ずかしい言葉が漏れるのもいつも通りです。もう!行くって言っているのに、どうして行く気のなくなるような事をするんですか!


「じゃあ、心配だから抱っこして連れていってもいい?」

「?!」


 いや、良い訳ないですよね?!なんですか、その公開処刑!しかも、「じゃあ」って何ですか?前後の繋がりが全く分からないのですが!


「やっ!です!」

「えー、」


 何でそんなに残念そうなんですか?!ここから生徒会までどれだけ距離が離れていると思っているんです?元学園生徒で生徒会のアル様が知らない訳ないですよね?


「えー、せっかくシルフィーとぎゅっとできたのに」

「そんなのいつでも出来るじゃないですか!」

「そうだけど…」


 わざわざ抱っこをして連れていく意味が分かりません!


「シルフィーは私のって皆に見せつけられるのに…」

「見せつけなくても、私はアル様のものなのに」


 あ、でも。皆の前で私とアル様が仲良くするって事は、逆に言えば、アル様は私のものって皆に知らせることができるって事?何だか面白そう。いいかも。……いや、良くない!手を繋ぐならまだしも、抱っこはだめ!だって私15歳!子どもじゃないもん!抱っこなんてそんな恥ずかしいことダメ!


「しかも重たいのに!」

「え?何言ってるの?シルフィーは重たくないよ」

「そっ……」


 そんなわけないじゃないですか!


 そう言おうと思っていたのに、アル様は私が何を言っているのは心底分かっていない様子で。


 確かに女の子に体重が重たいなんて言えませんよね。でも、アル様は心から私の事を軽いって思っているみたいに言っている。流石にそれは無いと思うな。3歳や5歳の頃の私ならまだしも、今は15歳。流石に重たいと思います。アル様は力があるから、今の私でも軽々抱っこ出来るって知ってはいるけど、でも、重たいことに変わりはないと思う。


 って、こんな事で言い争っている場合じゃない!


「アル様、もう行きましょ!」

「うん……」


 アル様は寂しそうに返事をして立ち上がる。何だか、悪いことをしたかな…。


 ……いやいや、私は悪くないよね!私は正しいことしか言っていないのに!何だかアル様のこの顔には弱いんだよね…。

 なんて少し後悔してたんだけど、


「よいしょ」

「ふにゃあ!」


 び、びっくりしたぁ。アル様、いきなり抱っこするんだもん。…何で抱っこしてるんですか!


「アル様?!」

「ちょっとだけ、ちょっとだけ」


 ちょっとだけと言いながら私を抱き上げたまま、医務室をでたぁ?!


「お、おろして、ください!」

「あ、こら。あばれないの」


 私が降ろして貰おうとして暴れると、アル様はもっとぎゅっと抱きしめる。


「ご、ごめんなさ、」


 ってだから私は悪くないですよね?!





「お、おろして!」

「だーめ」


 私達は今、生徒会室へ向かっています。アル様に抱っこされたまま。すると当然、他の生徒の目に触れる。


「やっ、アル様、おろして!」

「こら、じっとしてて」


 だから、どうして私が悪いみたいになるんですか?!


「だって、皆見てます!」

「そうだね」

「は、恥ずかしいです!」


 本当に皆が見てるんですよ?!行く先々で!ほら、生徒の目線を見て下さい!「15歳にもなって歩いて移動しないなんて………」って呆れた目で見て……、ない?!何で微笑ましい目で見てるんですか?!

 誰かアル様を止めてくれませんか?!



「ふふ、シルフィー様よかったですわね」



 そんなときに話しかけてくれたのは、クラスメイトの衣装班のリーダーだった女子生徒。た、助けが来た?!と、思ったのだけど、「よかった」って何がでしょう?


「だって、シルフィー様、最近忙しいみたいで殿下に会えなくて、『アル様に会いたい……』って言っていましたものね」

「みぎゃあ!」


 そ、それ、内緒のやつ!!ていうか、こそっとぼやいたのを聞いていたの?!


「シルフィー、本当?」


 アル様が嬉しそうな顔で私の顔を覗き込んでくる。


「ふぇ…、えっと」

「ん?」


 あ、これ否定したらだめなやつ!だってアル様が期待した目で見てるんだもん。


「あ、えっと、ほんとう。です」

「シルフィー!」

「ふぎゅうっ…」


 く、苦しい…。アル様がもっとぎゅって抱きしめてきた。ちょ、本当に苦しいのですが…。

 はぅー……、



 きゅーー………


 シルフィー様、ご臨終のお知らせー……。




「うわぁ、ごめん!あまりに感動して」

 

 私がぐったりと力をなくしていくのを感じてアル様は慌てて力を緩めてくれました。本当に死んじゃう所でした。


 そしてこの場面も皆に見られていた事が何よりも恥ずかしい。めっちゃ注目集めていますが…。


「恥ずかしいなら、ほら。るぅを抱きしめていて」

「るぅ!」


 可愛い、私の大好きなるぅが目の前に出されたなら抱きしめる以外の選択肢はないですよね!

 って、何でるぅがここにあるんですか?!何でアル様が持っているのですか?!さっきまで持っていなかったのに!


 でも、恥ずかしいから、思い切りるぅに顔を埋める。


「むぅ」


 はぁ、安心する。るぅを抱いていると、何だかお家に帰って来たみたい。


「やっぱり機嫌が直ったね。流石るぅ」

「!」


 ま、まさか、私の機嫌をとる為だけにるぅを連れてきていたんですか?!

 

「ふふ、可愛いなぁ。やっぱり、シルフィーはるぅと一緒に居るともっと可愛くなるね。後でこの姿を画家に描いて貰おうね」

「!」


 やめてください!そんな恥ずかしい事したくないです!




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