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088、嘘のつき方には気をつけましょう

 目を開けると、白い天井が映った。ここは、医務室かな?あぁ、そっか。気を失ったんだね。何だか気を失う事に慣れてきた気がする。いや、良くない事なんだけどね。


 はぁ、こんな時に倒れちゃうなんて…。色んな人に迷惑かけたよね…。特にアル様。目の前で倒れちゃったから。


 それにしても、どれくらいの間寝てたんだろう。もしかしたら今日の学園祭、もう終わっちゃった、なんてことはないよね…?そうだったらどうしよう…。

 顔がさーっと青くなる。だって私は生徒会。学園祭の事後処理だってあるし、何より生徒会の出し物を何もやっていない。私自身まだ何をするか知らないけれど、何もしないのはやばい…。


 がばっとベッドから起きようとした時、ベッドサイドで椅子に座っている人が視界に入った。


「ある、さま?」


 拳を握ってうつむいていたアル様は、私の声でハッと顔をあげた。


「シルフィー、気が付いたの?」

「はい」


 アル様は後悔に押しつぶされそうな、苦しそうな表情をしている。そして、目が赤い?アル様、泣いたの?やっぱり、心配、掛けたんだろうな。


「もう大丈夫なの?」

「はい!」

 

 私がもうなんともないのを確認すると、少し安心した表情になるけれど、でもやっぱり暗い表情は変わらない。


「ごめん、シルフィー」

「アル様、ごめんなさい」


 二人の謝罪のタイミングが重なってしまった。

 でもアル様は、私が謝ると、より一層後悔につぶされて、泣きそうな表情になってしまった。


「なんで、シルフィーが謝るの…」


 え?だって。


「だって、心配かけたから…」


 私が倒れなければ、アル様はこんなに後悔することはなかった。


「違うでしょう?私がここに行きたいなんて言わなければシルフィーがこんな状態にならなかった」

「でも、それは」

「ごめん、配慮が足りなかった」


 私が何を言ってもアル様は謝り続ける。


「あの時、シルフィーに何が起こったか知っていたのに」


 あの時…、言わずもがな、誘拐もどきのあの事件の事だろう。あの時は本当に怖かった。暗くて痛くて、……一人だった。


「アル様のせいじゃないです」

「ごめん」


 本当に、気にしていないのに……。でも、アル様の中で私を失う恐怖は、私が思うより大きかったのかもしれない。


「あのね、アル様」

「……なに?」


 私が呼びかけると、ゆっくりと私の顔を見てくれた。


「お化け屋敷は怖いです」

「……うん」

「でも、それは当たり前の事なんです」

「え?」


 あ、やっとアル様の顔が悲しみ以外の顔になった。お化け屋敷が怖いのは当たり前。『お化け屋敷』だからこそ、一層怖く感じる。ただの暗い教室なら何とも思わない。


「私がお化け屋敷を極度に怖がり過ぎてしまっただけです」


 アル様は悪くありませんって言ったところで、アル様は納得しないんだろうね。


「お化け屋敷が、ううん、暗い所が怖いって分かる時に、一人じゃなかったから。アル様が一緒に居てくれたからいいんです」


 お化け屋敷に入る時、私はそこが怖いという事を知らなかった。お化け屋敷ではなくても、暗い所が怖いと分かる時に、もし、一人だったら…。そう思うと恐ろしい。でも、今回はアル様と一緒だったから大丈夫だった。

 今回は、お化けという恐怖に暗闇と水の矢が重なってあんな状態になっただけ。だって、もう一人ではない事を知っているから。


「それにね、もう本当に大丈夫なんです」


 そう。もう大丈夫。


「だって、アル様がいるから」


 いてくれるって分かったから。


「私が怖い時、アル様いつもそばにいてくれるから」


 私が、『私』である限りは、一緒だから。


「もし、怖かったとしても、本当にもう大丈夫なんです」


 だから、お願いです。そんなに苦しそうな表情をしないで。アル様が苦しいと、私も苦しい。胸が締め付けられるように痛い。


 アル様の顔に少し穏やかな表情が戻った。


「だからね、もし、もしね。アル様に他に好きなひとが出来ても…」

「そんなことはあり得ない」


 アル様は即答してくれるけれど、でも、『もし』はあり得ることだから。

 

「でも!もし、もしそういう事があったらね、私の事を嫌いにならないで。そばにいて…、」


 他の人を好きになっても、私の事を嫌いにならないで欲しいなんて、都合のいい我儘かもしれない。


「ならないよ」

「……アル様」

「ならない」


 アル様は断言して、私の首に下げている黒のペンダントに触れる。それは初めてのお出かけの時にお揃いで買ってもらったペンダント。私が持つのはアル様の瞳の色。


「アル様?」


「私はずっと一緒にいたいという意味を込めてシルフィーにこれを贈ったんだ。シルフィーを手放すつもりはないよ」


 アル様の表情は、先程までとは変わり、穏やかで優しい。でも固い決意が込められている。


 そっか。そんなに前からそう思ってくれていたんだ。婚約をしていない時から、ずっと私を思ってくれている。


 凄く、すごく幸せな事だ。


「だったら、私はこの先、怖いことがあっても大丈夫です。アル様がいてくれるから」

「……今度こそ、シルフィーを守るよ。絶対とは言い切れない。でも、シルフィーを傷つけないように」


 アル様はいつも、守ってくれているよ。私の『心』を守ってくれている。アル様がいるから、アル様がアル様であるから、私は私でいられる。


 だから、本当にアル様と出会えてよかった。……転生して良かった。





 アル様も何とか元気になりました。良かったです。でも、


「ルートお兄様にも迷惑を掛けちゃいました…」


 ルートお兄様だけじゃない。『お化け屋敷』をしているルートお兄様のクラスの皆さんに迷惑をかけた。私が倒れた事で評判に悪影響を与えていたらどうしよう。これでお客さんが来なくなった…、なんてことになったら…。私はそうやってお詫びをしたらいいんだろう?お詫びなんかじゃ到底謝罪しきれない。だって、最高学年で最後の学園祭を台無しにしたことになるんだよ?………私なら許せない。という事は私を恨んでいる三年生は沢山いるよね……。明日から学園に行くのが怖くなりそう…。

 

「あぁ、それなら大丈夫だよ。寧ろ宣伝になったかな」


 ん?


「宣伝?」

「流石に倒れただけだと、シルフィーが病弱とか、『お化け屋敷』に問題があると捉えられるといけないからね」


 良かった。ちゃんと対処してくれていたんだ。ルートお兄様のクラスメイトさん達を傷つける結果になっていないなら良かった。しかも、私の評判の事まで考えてくれていたなんて。本当にありがとうございます。


「今頃こういう噂が立っているはずだよ。『第二王子が絶賛』とか、『第二王子の婚約者のシルフィーが倒れるほど怖い、本格的なお化け屋敷』ってね」

「……」


 えーと、それは良かった…、のかな?どういう反応が正解なんだろう?結局私が倒れたって事は伝わっちゃうよね?でも、多分私をここまで運ぶ過程で多くの人に見られているから、隠す方が問題がある様に思われるもんね。そして、怖くて倒れたって言うのは、何ひとつ間違いがないもんね。


 でも、これなら『お化け屋敷』のクオリティが凄いっていう感じに伝わりそう。良かった。

 嘘をつき過ぎず、かつ本当の事を交えている。


 そういえば、誰かが言ってたな。嘘をつくときは、本当の事と嘘を織り交ぜると信じられやすいって。流石、王子様。綺麗事だけじゃやっていけないもんね。


 あと、嘘をつく時はおずおずとじゃなくて堂々と。そうすれば信じて貰いやすいんだって。






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