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05 ネバ―・ダイアー 死なない死者



 地下三階に降りたリュックは、新たなエリアのマッピングに成功した。


 それは起点としていたオフィスエリアから外縁側に行ったところにあり、一般的で見慣れた冬眠エリアともオフィスとも違う謎の場所。


 解明までに時間と考察を費やしそうなリュックにしてみれば皆目見当がつかない施設であり、何に使っていたのかさっぱり分からない機材が積み上げられていた。

 中には手術台にも見えるようなベッドも遺棄されていた事から、病院施設だったのかとも推察したがそれ以上考えたところで明確な答えが出ないのはリュックが一番知っている。

 モヤモヤは脳裏から廃して物色を重ねたリュックは、友人のチャドのためにと使えそうなコンピュータの基盤やボルトとナットを鞄に詰めて帰路に着く。


 地下三階から二階に通じる昇降フロアはやはりリュック以外に利用した者はおらず、扉のロックの上にそっと置いた鉄片はそのまま。扉を動かした形跡は一切見当たらない。

 それでも足音を立てず慎重に階段を昇りやがて二階層へ。おなじみの見慣れた暗闇にたどり着きホッとする。


 ーー酸素ボンベ山の近くで廃棄冬眠ポッドを漁ろうか? いや、チャドへのお土産は充分確保出来たから寄り道しないで帰るか。


 いつも通りの通路を、いつも通り身を屈めながら壁に沿って歩き出すのだが、この後彼は突然の恐怖に総毛立つ事になる。

 昇降階段に通じる気密扉を隠すように積まれた機材の山を越えて、十分ほど歩いたところで彼の足がピタリと止まったのである。


 “いる! ”


 行きにはいなかったのに、気配や奴らの蠢く音など感じなかったのに、何故か帰り際にバタリと遭遇したのだーーあのネバー・ダイアーに



 地下に潜って貴重品を漁るようになってから、リュックは何度かダイアーに遭遇しているのだが、もちろん戦闘を行ってダイアーを倒した事は無い。

 痛みを感じる事の無い心臓が止まった化け物と、鉄くずの切れ端が指に軽く刺さっただけで痛い思いをするリュックとでは比較するのも笑えるほど。

 勝ち目のない戦いである事は自明である事から、リュックはとにかく危ない橋を渡らず静かに退散する事で命の危機から逃れていた。


 だから今回も静かに逃げ出すしか方法は無いのだが、リュックはその場から動けなかった。

 たった一本の逃げ道の真ん中、廃棄機材で狭まった通路を塞ぐようにダイアーが立っており、脇をすり抜ける事すら困難になっていたのだ。


 ーーまずい、これじゃどんなに頑張っても通り抜けられない。通路が完全に塞がれてる。最悪下がって昇降フロアで時間を潰しても良いんだけど


 夜目を凝らして良く見れば、ダイアーは背中の曲がり始めた老婆。見た目だけで判断するならばすり抜けて逃げる事も出来そうなのだが、それでもダイアーである事に変わりは無い。


 その老婆は皮膚癒着を防止する冬眠用のスーツを着込んではいるが、冬眠中にポッドをこじ開けられて襲われたのか、咬み傷で首筋がぽっかりと穴を開けており、おびただしい出血の跡が見える。

 

 ーーやり過ごすしかないよね。一か八かの冒険はやめよう


 その場で膝を落としたリュックは、息を殺しながらダイアーの様子を伺い、立ち去るのを待つ事にした。


 暗闇の中では時間の経過も遅く感じるもの

 たかが十分二十分であっても、永遠に感じてしまうのはしょうがない。はやる気持ちを抑えながらも“早く立ち去れ”と祈るだけ。

 しかしダイアーは緩慢な動きで辺りを見回しているだけで一向に移動しない。嗅覚が生きていてリュックの存在に気付いている訳でも無さそうなのだが、一歩としてそこから動こうとしないのだ。


 ーー地下三階に戻って別ルートを探ろうか……いや、それこそ危険だよ


 グアアァァァ、ゴアアアァァと続く気味の悪い唸り声に恐れを覚えたのか、リュックは目の前の危険から逃れるために更に危険な賭けを行う事すら思い描き始める。


 だがそんな愚かしい発想は脳裏に浮かんだだけで済んだ。

 通路の奥の奥になんと、ライトの強い輝きが浮かび上がったのだ。


 ーー誰か、誰かがいる? だけどそれはそれでマズイぞ! ここにはダイアーがいるんだ


 ライトの灯りとはもちろん、そこにカンペールの住人がいる事を意味しており、慌てた様子も感じられないその緩やかな光源の動きはダイアーに気付いていない事も意味している。


 自分の身を危険に晒しても、ダイアーの存在を知らせるべきかどうか……

 リュックは熟考では手遅れになる判断を突き付けられたのである。




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