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03 リュックの秘密



 大勢の手配師とそれに群がるように集まっていた住民たちの喧騒で賑やかだった中央広場が、たった一人の男の登場で劇的に空気が変わる。

 誰が言い出したのかまでは分からないが、ジェイコブの名前を口に出した途端、緊張と畏敬の念を多分に含んだ静寂に包まれたのだ。


「……ジェイコブ……」

「要塞のジェイコブ」

「広場で求人なんかしない人なのに、何故だ? 」


 広場外縁に現れたのは黒いビーニー帽を被り、黒いガスマスクで顔を隠した戦闘服姿の男性。

 見た目だけでは誰も見分けが付かないはずなのだが、胸のホルスターと左手に持った大ハンマー、そして一センチメートルの厚みの鉄板から切り出した彼専用の“撲殺剣”がトレードマークとなっており、人々は顔を見ずとも伝説の名前を口々にしているのだ。


 だが、広場に集まった人々は次々に彼の名前を口にするも決して近寄ったりはせず、逆に距離を置こうと身を引き始める。

 ーー普段は広場になど出て来ない彼が現れると言う事は、何かしら波乱があると踏んだのだ。

 結果彼は、海が左右に割れて出来た道を進む聖者のように広場の中央へ悠々と足を進め、とある男の目の前に立つ。


「よ、ようジェイコブ。こんな所に顔を出すなんてお前にしちゃあ珍しいな」


 引きつった笑顔でジェイコブを迎えたのはガストン・ザ・“ピラニア”

 本人がそれを名乗った事は無いのだが、えげつない程に何でも食い散らかす仕事スタイルと残虐な性格から影でそう呼ばれている。


 ガストンもエクスルーダーとしての実績を評価されて、上級管理者から拳銃の支給を受けた数少ない一人なのだが、やはりジェイコブを前にすれば格の違いは一目瞭然。腰が引けている姿勢を見れば、背中が冷や汗でびっしょりになっているのが容易く想像出来た。


「ガストン、先週地下三階エリアCのマッピングに出て、死者を出したそうだな」

「あ、ああ……。あれは残念な事故だった、俺がもうちょっとパーティ全体に気を配ってりゃ良かったと後悔してる」


 この地下都市エターナルは全二十階層で構成されており、地上から下がった五階層にこのカンペールの街がある。全てが地下にある施設ではあるのだが、街の人々は自分たちの居場所を基準として階下の冬眠エリアを地下と呼んでいるのだ。


「あれは残念な事故だった……残念な事故だったと? 」


 一歩二歩ガストンに近付いたジェイコブはガスマスクを外す。マスクの中から現れたのは黒人男性の顔、眉間に皺を寄せて瞳は怒りに満ちている。


「突然現れたダイアー二体に驚いて、仲間を見捨てて逃げ出したと聞いたぞ」

「だっ、誰がそんな事言ったんだ! そりゃあ濡れ衣だぞ! 」

「マッピングパーティ六名の内、生還はお前を含めて三名だったな。だがな、昨日俺が地下三階エリアCで倒れてる奴を一人助けたよ。全部話してくれたぞ」

「そんな……そんな馬鹿な話は無え! ダイアーに襲われた時に奴らはやられたはずだ」

「先頭のシーカー(探索者)が逆に奥地に逃げ込んで助かったんだよ」


 悪役らしく「うぐぐ」唸り、ジリジリと後ろへ下がるガストン。

 ジェイコブは胸のホルスターを大事そうに撫でながら、言い返せないガストンに向かってトドメの一言を放った。


「俺の仲間や契約してる連中を高値で引き抜く事には文句言わん、だが使い捨てにするなら話は別だ。ビジネスパートナーがこれからもどんどん天国に行くより、お前が天国行った方が平和だって考えるヤツがいる事……忘れるなよ」


 その迫力に身の危険を感じたのか、ガストンは怯えて身体を小さく震わせている


「分かった、肝に命じとくよ。あんたのそのマークⅢドミニオンで頭を撃ち抜かれたくは無えからな……」


 ジェイコブはそれだけ言うと踵を返して帰って行く。

 ガストンに警告する事だけが目的だったのか、仕事仲間やパーティなどハナから興味など無いと背中が語っていた。



「……ねえリュック、あの人帰っちゃったよ」


人だかりの壁に阻まれてジェイコブの姿が見えないからと、リュックとマーチャは慌てて階段を駆け上がり中二階の通路から眺めていたのだ。


「元々広場には来ない人だからね。会えただけでも幸せだよ」

「あれがリュックの憧れの人か。でも身体つきが全然違うから……リュックなんて相手して貰えないんじゃないの? 」


 身長が二メートルはあるのではと、大人たちが見上げるほどのジェイコブに対して、比べる事自体が笑い話になりそうな身長のリュック。

 華奢で小柄なマーチャと視線の高さが同じなら、あえて身長を計らずとも結論が見えて来る。


 だがリュックは失礼だと顔を真っ赤に抗議するのではなく、まあ当然そう言う評価は出て来るだろうねと涼しげな表情。痛いところを突かれても余裕でいられるのその理由をマーチャに説明する。


「ダイアーは光に敏感でライトの灯りを嫌う。マーチャ、僕は夜目が利くだろ? だから小柄でもパーティにはどうしても必要な存在になる。皆が皆力任せのパーティじゃ戦ってばかりで奥地には進めないからね」


 ふ〜ん……と 鼻息と声を吐き出しながらそれでも釈然としないマーチャに対し、リュックは「それにね」と付け加えながらハッとした表情でおし黙る。彼女に打ち明けようとした内容まさに、誰にも明かせない自分だけの重要な秘密であったからだ。



 “地下三階でまだ誰もマッピング出来ていないエリアを知ってる。その先の通路と案内表示で秘密の地下四階特別エリアに降りれる事も”


 夜目が利く事、そしてリュックだけが知る重要な情報。この二つを持って彼は戦士の仲間入りを果たそうと考えていたのである。




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