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14 “第四次清掃作業”



「驚いた。こんなところがあったなんて……知らなかったな」


 カンペールの街の下、地下二階の暗闇と静寂に包まれた空間を携帯ライトの心細い明かりが進んで行く。


 左右に冬眠ポッドがズラリと並ぶ安置エリアを幾重にも通り抜け、やがて冬眠ポッドが一つも存在しない謎のエリアへ。

 なるほど、廃材が積み重なっていればここに扉があるなんて誰も気付かないよなと納得しながらそこをくぐったのはチャド・ヘックス。


 地下に潜って行方不明になったリュックを助けるため、そして地下都市エターナルの秘密を解き明かすために、上級管理者から情報を得て自ら単独で地下に赴いたのである。



 上級管理者からチャドの元に来た情報提供とはこれ。

 『七階層、カンペール基準で地下二階と呼ばれる場所の一角に、地下都市エターナルの旧管理棟 (エリア)がある。リュック・ドゥシャンはその施設に潜入して地下三階に降りた形跡を発見した』

 『その廃棄施設には未だに稼働可能な端末が現存しており、チャド・ヘックスから問い合わせのあったオペレーション・オプティミゼーションとエターナル開発事業団に対しての回答が得られる可能性が高い』


 ーー地下二階の指定の場所に行けばリュックの現在の居場所が分かるし、チャドが質問して来た疑問の答えにも近付ける。

 ソフトウェア・テクニカルとしてほとんど地下に潜った事の無かったチャドであったが、リュックに対する責任と自己の知識欲に背中を押され、闇の深淵にライトを照らしながら足を進めていたのである。



「G1エリアからG3まで奥に進み、区画扉にたどり着いたら扉を開けずに右折……ひたすら進んで壁にぶつかると管理用作業通路の入り口がある」


 何度も何度も左手のメモ用紙をライトで照らしては呟き、今までとは違う空気に反応したのか肌がチリチリと警告を発して来た。


「作業区画の奥の奥、この先に放棄された管理事務所が……」


 ……あった

ライトの先に扉が照らし出され、その横のプレートには管理事務所と刻印が打たれていたのだ。


 重くて分厚い完全気密扉のロックを外し、ギイイイと金属のきしむ不快な音を響かせつつ室内へ。ライトを左右に振りながら空間を確認すると、チャドは驚きと羨望のため息を吐き出す。

 大して大きな空間ではなく、学校の教室程度の広さなのだが、そこにはオフィス机が整然と並び、その机の一つ一つに豪華なコンピュータが鎮座していたのだ。


「これは! 俺が一生をかけても手に入れられない量の……」


 よだれが垂れそうなほどの緩い顔で感動に打ち震えるチャドなのだが、突如身体をビクリと揺らす。目の前にズラリと並んだコンピュータの中で一台が勝手に起動を始め、モニターの灯りで煌々と部屋を照らし始めたのだ。


「な、何だ? 勝手に動き始めたぞ」


 不審に思いながら恐る恐るそのコンピュータの前へ。すると起動が完了したモニター画面が何かを表示したのか、チャドは腰を抜かさんばかりに驚く。


「おい、何で動き出したんだ? どこかで見てるのか? どう言う事だよ“リュック・ドゥシャンの侵入経路”って! 」


 腹立ち紛れにチャドが叫ぶ中、まるで犯罪者と決めつけたかのような「リュック・ドゥシャンの侵入経路」と題されたファイルは、どんどんとスクロールを始めてその中の記事をチャドに強引に読ませて行く。



 『ケース1、ID 5484◯◯◯……リュック・ドゥシャン 五階層通称カンペールの住人でワーカー。 十一月四日に八階層に移動、休止中のオペレーション・オプティミゼーション実験区画に侵入し研究施設の再稼働事故を発生させる』


「オペレーション・オプティミゼーションだと! 」


 『現在実験区画は閉鎖中もリュック・ドゥシャンは空気正常化施設を経由して十階層へと逃走。現在貨物管理棟に籠城中』


 ーー十階層と言う事はカンペールの住民基準で言うところの地下五階。まだ地下三階すらまともにマッピング出来る奴はいないと言うのに、良くもまあそこまで潜ったなと感心する。

 だがしかし、リュックの生存に喜ぶのもつかの間、次のファイル記事がスクロールを始めた途端、チャドは完全に言葉を失ってしまったのだ。


 『ケース2、ID 5466◯◯◯……チャド・ヘックス 五階層通称カンペールの住人でテクニカル。 クラウド端末を使用して以下の単語を検索する。一つ、オペレーション・オプティミゼーション。二つ、エターナル開発事業団。一及び二は情報保護規約に抵触する禁止キーワードであり、五階層住民に対して情報漏洩阻止作戦を発動させる根拠となるAクラス機密である』


 チャドの顔がどんどんと蒼ざめる……興奮もどこへやら、自分とリュックが今どう言う立場にあるのかが薄々見えて来たのだ。


 上級管理者からこの場所に来れば謎がとけると連絡を受けた。だから今自分はここにいる。

 しかしいざ赴いてみれば、自分を待ち受けていたかのように勝手に端末が一台稼働を始め、そしてリュックと自分を触れてはいけない事柄に触れた犯罪者のように断罪する。


 “騙された、俺は上級管理者におびき出されたんだ! 連中は最初から情報を知っていて、探るヤツを狩ってたんだ”


 チャドはそう気付いて怒りに打ち震えるのだが時すでに遅し。上級管理者側からのメッセージとも受け止められるモニター画面の文字列は、最後の文言を表示し終えてスクロールを止めた。


 『ケース1、リュック・ドゥシャンによる不法侵入 ケース2、チャド・ヘックスによる情報漏洩 更にリュック・ドゥシャン救出にジェイコブ・アイヒェルホイス含むエクスルーダー四名が向かった事から秘匿情報の保護は無理と判断。エターナル開発事業団はカンペール住民に対して“第四次清掃作業”を開始する』


「上級管理者……お前らがエターナル開発事業団そのものだったのか! 」


 これは自分とリュックの身に迫る危険ではない。それどころでは無くカンペールの街全体にも危険が及んでいる事を肌で感じたチャドは、自分の知識欲を呪いながら慌てて管理事務所を飛び出し、来た道を全力疾走で駆け始めた。


 ーー途中で枝分かれしていたあの、ボンベが山積みになった“ボンベ山”を真っ直ぐ行けばリュックが潜って行った方向だ。今ジェイコブたちもそこを通過したとモニターがセンサー表示していた。

 リュックを今すぐ救出するのは難しいとしても、ジェイコブに街の危険を知らせる事が出来る。今なら間に合うかも!


 ところが、チャドが全力で闇を駆け抜ける視線の先の先……果てしなく続く通路の奥で「キン!」と天井の照明が点灯したのである。


 異変に気付きピタリと足を止めるチャド

 今このエリアには自分一人しかいないし、ジェイコブたちがボンベ山を通過したとしても、ルートが違うからやって来る事はまず無い。そもそも地下探索者は照明を点けるような自殺行為はしない。


 異変は嫌な予感にとって代わり、チャドはワナワナと身体を震わせる。額と背中は嫌な汗でびっしょりだ。


 そして通路の彼方で点灯した照明は「キン」「キン」「キン」とチャドに向かって次々と点灯し始め、続いて通路の空気を振動させるような重苦しい唸り声が響いて来たのだ。


「……ダイアーだ……。ハメられた、ハメられちまった」


 振り返れば後ろの通路も煌々と天井の照明が照らしており、まるで照明がダイアーを誘っているかのようだ。


「嫌だ、嫌だ……。まだ、まだ死にたくない」


 両手や膝をガグガクと揺らして怯えるチャド。通路の進行方向も後ろ側にも奥から迫りつつあるダイアーの群れを肉眼で視認し、泣きそうな顔で助かる術を模索する。

 だが退路は完全に塞がれており、逃げ道は一切無い。前後から襲って来るダイアーと立ち向かって戦い抜く事も不可能だ。


 ……ううううう……

 ……ぐああああ……


 光に誘導されたダイアーの群れはいよいよチャドを視認したのか、その足取りに迷いは無くなった。


「嫌だ、嫌だあっ! 」


 パニック寸前のチャドは慌てて身を翻して管理事務所に逆戻り。間一髪で事務所の重い扉を閉めたのだ。


 無数のダイアーに囲まれたチャド・ヘックス

 管理事務所に閉じ込められた彼は、逃げ出す事もままならず完全な持久戦を強いられる事となる。

 しかし食べ物も飲み物も用意しておらず、管理事務所施設に空腹をしのぐようなものは何も無い。


 もちろんチャドの消息不明に気付く者は街にもいるだろうが、気付いたとして救助隊など出してくれる余裕などない。何故ならば上級管理者こと「エターナル開発事業団」は、カンペール住民に対して“第四次清掃作業”と言う名の作戦を発動させたのだから。


 つまり……


 ーーこのままここにいれば餓死、我慢出来ずに扉を開ければダイアーに食われて死亡ーー

 もはやチャドには死に方の二択しか残されていなかったのだ。




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