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13 ジェイコブ・アイヒェルホイスの本質



 最強との誉れ高きエクスルーダー、その名も“要塞のジェイコブ”は、元々がエクスルーダーを目指して生きて来た訳ではない。

 孤児だった彼は幼少時代に神の教えに目覚め神学者を目指していた。カンペールの街にただ一つだけ存在する教会の神父になる事を夢見て、勉学と祈りの日々を重ねていたのである。


 だが十五年前、ジェイコブが二十歳を迎えようとしていた時に彼を根本から変える出来事が起きた。

 『地下二階の冬眠ポッド、一区画五十人分の移動』……上級管理者からの依頼の元、久々のビッグビジネスは街を上げてお祭り騒ぎだったのだがそこで予期せぬ悲劇が起きた。

 作業中の大規模パーティーに対してあり得ない数のネバー・ダイアーが襲いかかり、死傷者二十八名を出したのた。


 その被害者の中には当時ジェイコブの親代わりとなりながら神学を教えていた心の師、ブルーノ・モンタルチーニ神父もいた。

 ネバー・ダイアーと言う忌むべき存在から街の人々を守るため、神の奇跡を祈るための“従軍司祭”としてジェイコブと一緒に大勢の作業団に付き従ったのである。


 だが結果として神の奇跡は起きる事無く、大勢の人々がネバー・ダイアーの餌食にかかってしまった。身体のほとんどを食い散らかされた者はその場で絶命し、運良く逃げ出せた場合であっても、傷付いた者たちは次々と体調を崩した挙句にネバー・ダイアーとなって生者を襲い始めたのだ。


 襲撃された際の死傷者は二十八名、街に逃げ帰った負傷者が発症し、ダイアーとなって街の人々を襲った二次災害も含めると、死者六十三人と言う大変痛ましい結果となってしまったのである。


 この十五年前の悲劇、神父を目指していたジェイコブにとって最大の転換点は犠牲者の中にブルーノ神父がいた事。

 傷を負いながらカンペールの街まで逃げ帰る事は出来たのだが、もちろんダイアーに咬まれたり爪で引っ掻かれて生き残った者はいない。感染した者は一度苦しみ抜いて死んだ後にネバー・ダイアーに生まれ変わる運命しか待っていないのだ。


 ブルーノ神父は傷付いた身体をベッドに横たえながらこうジェイコブに指示したーー私は死ぬ、自殺は禁じられているから全てを受け入れるしか無い。お前を襲いたくないから私をがんじがらめに縛れ と


「ジェイコブ頼む、私の心臓が止まったら構う事は無いから身体を粉砕してくれ。ネバー・ダイアーにだけは生まれ変わりたくないんだ……」


 聖職者としての人生を全うして終わりたい。ダイアーに生まれ変わって人々を襲い、大いなる父に背く道は歩きたくない……。そんなブルーノ神父の最後の願いをジェイコブは叶えてやった。死体損壊と言う罪の意識を抱きながら。


 そこで彼の神職者への道は終わったのである。

 かざす十字架を鉄板から切り出した“撲殺剣”に変え、掲げる聖書を44マグナム弾使用のジェイコブオリジナル銃“マークⅢドミニオン”に変えた。

 詰襟の神父服キャソックの詰襟を引きちぎり、タクティカルベストをその上から羽織り、ガスマスクを装着してビーニー帽をかぶった。

 大いなる父に仕える事を夢見た青年は、ネバー・ダイアーを排除するエクスルーダーの道を選んだのである。


 だがそれでも、彼は身も心も復讐の鬼に染まる事はなかった。 ブルーノ神父の教えは「復讐」よりも「赦し」により重みを置いており、またジェイコブ自身も復讐のためにダイアーを狩り続ける無情さを知っていた。

 神学を通じて勉学に秀でていたジェイコブは、彼なりの深い知識と着眼点を持って、この地下都市エターナルを疑問の目で見続けていたのである。


 ーー世界全面核戦争が起きて、そこから逃げるように約五万人の人間がこの地下都市エターナルに逃げ込んだ。それから五百年が経過していると聞くのに、全二十階層のエターナルにおいて何故カンペールに住む我々は地下二階(地下七階層)までしか制覇出来ていないのか? 進捗率が遅過ぎやしないか?


 ーーカンペールより下の全十四階層は無菌室だと聞く。雑菌や腐敗菌が生きられない環境だからダイアーは腐らずにいつまでも彷徨い続けると上級管理者は言う。

 しかし、各階層が完全気密状態ではない事は確かだ。それが証拠に地下一階であっても二階であってもダイアーは上がって来るし、各階層を通過した際に気圧の変化は感じられない。

 つまり大気の質はカンペールも階下も同じ。無菌室などではなく、実はダイアー自体が腐敗しない細胞構造になっているのでは?


 要塞のジェイコブ……

 ジェイコブ・アイヒェルホイスは、ダイアーを屠るために地下に立つのではない。自ら抱いた疑問を解き明かすために、行く道を阻むダイアーを粉砕していたのだ。つまり彼は最強のエクスルーダーではなく、最高の冒険者・探求者なのである。



 そのジェイコブの居室、無骨なソファとテーブルだけが置かれた無機質で殺風景な薄暗い部屋に、今複数の男女が集まりながら無言の時間を費やしている。

 無言と言っても無為の時間を過ごしている訳ではなく、彼らの眼力にただならぬ力が込められているのには理由がある。

 テーブルとは別に据えられた机、ジェイコブのビジネスパートナーのケイリー・ロゼターがその机に向き合っているのだが、その机上には何と、チャド・ヘックスの自作コンピュータがモニターを煌々と光を放っていたのである。


 リュックが地下に潜って行方不明になったのが二日前、そしてリュックの後を追うようにチャドが潜ったの昨日。昨晩ケイリーの元を一人の少女が訪れて、チャドのコンピュータを託されていたのだ。


 『チャドからの伝言です。リュックが地下で拾ったこのデータに、エターナルの秘密が隠されているそうです』


 少女は手渡した物についての説明を終えた後もケイリーの元を立ち去らず、今にも泣き出しそうな顔でこう言ったのだーーリュックを助けてくれ、チャドを助けてくれ と


「解析は終わりそうもないか」


 数字とアルファベットが無秩序にスクロールするだけの画面を見ながら、ジェイコブはケイリーの背中に声をかける。

 昨晩の内にコンピューターを持ってジェイコブ宅を訪れたケイリーの説明を受け、暗号解読終了を興味深く待ちながらも少女の切なる願いに耳を傾けるべく仲間を集めたジェイコブ。

 そろそろタイムリミットだと覚悟を決めた瞬間である。


「私の知る限りチャド・ヘックスは最高のソフトウェア・テクニカルよ。彼のソフトがこれだけ苦戦していると言う事は、それだけ他人に見せられない重要な情報が眠っている事の裏返し。私は信じるわ」


 「分かった」ーーそう言いながらジェイコブが立ち上がると、それを待っていたかのようにジェイコブを囲んでいた三人の男女もスッと立ち上がったではないか


「ケイリー、君はこのままここにいろ。俺たちは二人を助けに行く」

「えっ、私は行かなくて良いの?」

「エクスルーダーが四人もいれば充分だ。地下三階どころか四階に下ってもどうって事はない」


 ジェイコブが集った仲間たちの顔を一通り眺める……


 そこには、長身から繰り出すメイスでダイアーを一撃の元に屠るルーサー“ミンチング・マシーン”ギブソン。

 ナイフと小型自動拳銃を組み合わせた華麗な体術でダイアーを殲滅するロザンナ・ボリツコヴァ。

 常にチームの先頭に立ち、得意のナタでバッサバッサとダイアーを薙ぎ倒すディートリク“紳士”ゾンダッハ。

 三人ともやっと自分の出番が来たかとニヤリ顔、それをもってジェイコブに出発を促した。


「最高のテクニカルがダイアーの餌食になるのは惜しい。しかしそれ以上に、この地下世界に探求心を捧げるあの少年の存在は貴重と言える。さあ、行くぞ」


 こうしてエクスルーダー四人による、チャドとリュックの救出作戦が始まったのだ。




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