その6
日曜日の午前11時。
しょうたろーが指定した場所は、学校近くの繁華街にある、ゲームセンターやカラオケ、ボウリング場がひとつの建物に詰まった複合施設だった。
昨日の練習中に名簿を見て他の1年生の名前を覚えようとしたけど、残念ながらまだ名前と顔が一致するか自信がない。
こんな私の激励会をしてくれるのだから、しょうたろーはいい人なんだろうなと思った。施設の入り口で待っていると、私の顔を見て何かに気づいた様子の同い年ぐらいの男の子が近づいてきた。3人のうちの誰かだ、誰だ。
「おはよう、赤羽さん」
「お、おはよう」
笑顔で挨拶したつもりだけど、口のあたりがムズムズする。顔が引きつっているのが自分で分かった。名前分からなくてごめんと、心の中で謝る。
程なくして続々と今日のメンバーが私たちのもとに集まる。名前が分からないから、見た目で特徴づけるしかない。最初に来たのが色黒小顔。次にシンプル眼鏡、3人目はゆるパーマの計3人。長距離を走っているからみんなスリムだ。
ケイは最後に来た。ジャージの半ズボンにシンプルな薄手のパーカー。眠そうな顔をゴシゴシとこすっている。ケイだけ結構ラフな格好だ。
「赤羽おはよう」
ケイは私のそばにいる男子3人組を、まるで視界に入っていないようにスルーして私に挨拶する。
「おはよケイ」
ちらりと横の男子を見ると、ポカンとケイのことを見ていた。
ケイは気にせず続ける。
「で、今日来る男子って、もう来て……」
そこまで言って、ハッと私の横で立ち尽くす3人組を見る。そして明らかに気まずそうな顔になった。
「なんちゃって」
サーっと私の後ろに隠れて、ブラウスの裾を掴む。
色黒小顔が、仕切って声を出してくれる。
「それじゃ、ボウリング行こう」
おそらく彼が「しょうたろー」なのだろう。はきはきとして、ケイが自分たちの顔も覚えていないという「やらかし」にも動じず進めてくれた。
―――
ボウリングでは、男子3人と私はいいスコアを獲ったらハイタッチをしたり、ガーターになると「あー!」と落ち込んで、和やかにプレイした。
普段の練習では会話することはなくても、こういう機会をどうにか自分たちで作って、「仲良くなった感」とか「仲間意識」が形成されていく。そのことを悪いとは思わないし、むしろとても良いことだと思う。少しずつお互いの接点を増やして、陸上部のただの同級生という枠を超えて、目に見えない絆というものが育まれていく。
ただ、こんな風に冷めた視点で物事を見てしまう自分が少し惨めに感じた。そして、もう一つ悩み事がある。その元凶である彼女は、私の横の席を確保してぴったりと離れない。ケイはほとんど男子とは喋らず、ぼんやりとした表情のまま固まっていた。
頭上の電光スコアボードに「ケンイチ」と書かれている男子が、ボールを投げ終えてこちらに戻ってくる。
「次、伊藤さんだよ」
「あ、うん」
名前を呼ばれて意識が戻り、速足でレーンへ向かう。いつにも増してクール、というかむしろ、やる気がないとも取れるほどの淡泊さだった。
力なく投げたボールは、右端のピン3本だけ倒して奥へ吸い込まれていった。二投目は左に逸れてガーターになった。落ち込むことも照れ笑いもせず、無表情でソファに戻ってくる。
あまりの生気のなさに、さすがに心配になって声をかける。
「ケイ、しんどいの?」
「ううん大丈夫。んっ」
声色は普段通りだけど、念のためケイのおでこに手を当てて、熱っぽくないか調べる。至って平熱だった。
こんなに人見知りだったっけと思いつつ、それ以上は言えなかった。
最初は隣で座っているだけだったけど、時間が経つにつれ段々と私の方にもたれかかってきて、最後の方は半分寝ていた。
ケイが私の横で無防備になっているという高揚よりも、せっかく誘ってもらった会なのにケイが無愛想にしている居たたまれなさが勝る。それなりに参加している私は気にしなくてもいいはずだけど、本人に声をかけたのは私だから、変に負い目を感じた。
今のケイは何を見て、何を考えているのだろう。