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告白

作者: カトユー

ども、最近、短編小説を書くタイプになろうかなと真剣に考えているカトユーです。


いつもながら支離滅裂な話だと思うので適当に読み流しちゃってください。

「まさか、リアルでこんな事が起こるなんて思いもしなかった!」

                 ――大路良文



 俺は大路良文。地方の自称進学校で、数学を教えて3年目になる若手の教員だ。生徒の皆からは、名字を弄って「おじちゃん」と呼ばれたり、名前から「ヨッシー」とか「フミちゃん」と呼ばれたりしている。三十路手前なのにおじちゃん呼びされるとは思ってなかった……

 それはともかく、教師として上手くやってると思うし、今年からはクラス担任を任されるようになった。教師としてまさにこれからというときに、とてつもなく大きな事件が起こった。



 俺はいつものように教職員会議を終えて、副担任の先輩教師と共に、自分のクラスである2年9組に向かった。ちなみに、9組は文型クラスだ。何故、数学科の俺がこのクラスの担任になったのか…?

 教師のドアを開けるとまだクラスはザワザワとしていた。「そろそろ席につけ〜」と言って教壇に立ち、生徒が座るのを待った。しばらくして、生徒全員が着席したのを確認して、「室長、挨拶」と声をかけて、いつも通りやる気のない朝の挨拶をする。ここまでは今までの日々と一切変わらなかった。

 再び生徒全員が座るのを確認した俺は、教卓の上に置いてある、名簿表を開いた。すると、開いた中からはらりと一つの封筒が落ちてきた。俺の前に座っていた筈の、早川さんが慌てて拾い、俺に渡してくれた。めちゃくちゃ顔を真っ赤にして。

 何だろう?と思いつつ、今は朝のHR。健康観察やら連絡やら、提出書類の回収などやるべきことはたくさんある。急ぎ目でHRを終わらせた頃には封筒の存在など、忘却の彼方に消え去っていた。



 2時限目はうちのクラスでの授業だった。俺の授業は普通、最初の5分は適当な雑談、中30分は教科書の内容を進める。具体的に言うと、まず例題を説明したあと、練習問題を解かせる。丸付けはクラス全体でする。残り15分は自習。数学に限り、生徒達には自由に勉強してもらう。勿論、この時間は生徒からの質問も受け付ける。大体、質問してくる生徒は限られているけどね。


「先生」


「ちょっと待っててくれ、早川」


「わかりました」


俺は練習問題で躓いていた生徒に解説をして、早川さんの席に向かった。


「今日は何処だ?」


「453の(6)です」


「また、すごい問題解いてるな……」


 早川望海は文型クラスに居るのが惜しいくらい数学が良く出来る生徒だ。アベレージが30点を下回るようなテストでも、80点台後半を叩き出したり、模試でも全国順位一桁だったりと無双状態。ちなみに、文型科目はそれを上回っていたり。当然、模試は全国1位だった。なんでこの学校に来た??

 そんな彼女は今、文型ではやらない筈の数Ⅲの問題、しかも応用問題を前に唸っていた。ちなみに、今日習ったところは、板書を写しながら解かれていた。聞かれたからには答えまで説明してあげるけど、彼女は一体どこまで勉強し続けるのだろう?

 ほんのちょっとだけアドバイスしただけで、彼女は答えまでの道筋が見えたようで、ぱぱっと答えに辿り着いてしまった。


「今日もありがとうございました」


と、彼女は心から嬉しそうに感謝の念を毎回伝えてくるのであった。

 彼女の席から離れて、他の生徒の様子を確認していると、


「ヨッシー!ここ教えて〜」


と、大きな声で呼ばれた。毎度のこととは言え、大声でヨッシーと呼ばれるのは中々に、辛いものである。


「今行くから静かにしてくれ…」


 呼んできたのは小平翠。所謂、ギャルである。校則を守っているとは思えない、スカートの丈の短さや金髪。お調子者に近く、俺のことを「おじちゃん」と呼び始めたのも彼女だ。お蔭で、学年全体におじちゃん呼びが広まってしまった。彼女には、土下座しかねない勢いで懇願し、おじちゃん呼びは取り消されたが、代わりに「ヨッシー」と呼ばれるようになってしまった。

 そんな彼女は、派手な見た目通り(?)勉強は苦手だ。この前、偶々「課題出しときゃ、赤点連発しても進級出来るんだよねw」って言葉を聞いた時には我が耳を疑った。気になったので、その日の夜、彼女の成績を見てみると、数学はⅠ、Ⅱ、A、B全てのテストが赤点だった。というか、他の科目も赤点が量産されていた。


「で、小平は何処がわからないんだ?」


「ここ!」


 そう言って彼女が指差したのは、教科書12ページの問1だった。


「本気で言ってるのか??」


「アタシが嘘言ってると思う〜?」


「ああ、すべてを察した」


驚いたことに、本当に教科書最初の問題が解けなかったのだ。というか、基本となる公式全ても覚えていなかった。


「今までどうやって来たんだ……」


「記号問題ならアタシでも満点取れる自身があるよ〜w」


「まさか、お前……。今まで記号問題だけで点数を稼いできたのか?」


「勿論!」


花が咲いたような笑みで最悪なことを肯定しやがった。次のテストでは1問も記号問題を作らないでおこう、そう心に誓った。


「小平。今日の放課後、時間があるよな?な?」


「あるけど……まさか、デートのお誘い!?」


 彼女が斜め上過ぎる発言をすると、一部の生徒がガタガタっと椅子からずり落ちた。


「ちげーよ、補習だ補習」


「うへ〜……」


「ちなみに来なかったら、問答無用で今期の成績は1にしてやろう。冬休みの補習は確定だな(笑)」


 そう言うと、彼女は顔を青ざめて、「絶対に、行くから!」とすがりついてきた。はいはいと適当にあしらいつつ、彼女から離れる。


「先生」


「ん?また早川か?」


小平から開放されると、今度呼んできたのは早川だった。なんか表情固くね?と思いつつ、彼女の元へと向かうと、


「私も今日の補習に参加してもよろしいですか?」


「早川が、か?」


「はい。私も先生にもっと教えてもらいたいですから」


 向上心が凄まじいな。どっかの小平(アホ)にも爪の垢を煎じて、大量に飲ませてやりたいくらいだ。


「まあ、小平が参加したいなら別に参加してもいいぞ」


そう言うと、聞き耳を立てていたクラスメイト達が、「私も!」、「ウチも!」と声をあげ始めた。その時、授業の終わりを告げるチャイムが鳴ったので、


「放課後。補習に参加したい者は教室に残ってくれ」


 そう言って、教室を出ていった。



 空きコマに、次の授業用に雑談ネタを考えていると、ふと今日の朝見た封筒の存在を思い出した。

 職員室の自分の机を漁ると、すぐに出てきた。控えめな装飾の付いた白い封筒だった。中身を確認するため開くと、一枚の便箋が落ちてきた。それを読んだ俺は驚愕した。


「大路先生へ

 今日の昼、大切な話があります。昼放課に駐

 輪場まで来てください。」


 呼び出しの手紙だった。一瞬、告白か!?と思ったけど、俺に告白しそうな人は居ないし、何より呼び出しが駐輪場て……。確かに、昼なら人は居ないだろうけど、なんか決闘っぽく思えてしまう。ただ、この文字、誰かに似てるんだよな〜

 謎が深まってしまったが、俺はそれを机の引き出しに再びしまって、雑談用のネタ探しに戻った。



 結局、ネタ探しに苦労して4限目の授業が終わるチャイムがなってしまった。

 いつも通り、飯を食おうかと弁当を出した時、またしても封筒の事が頭を過ぎった。

 人間、好奇心には勝てないもので、広げた飯も食べずに駐輪場へと向かった。


 駐輪場に向かうと一人の女子生徒が目に入った。告白じゃないなとすぐに判断し、女子生徒の元へと小走りで向かった。


「すまない、遅れた…」


「いえ、私も今来たばかりですから」


 どこかデートの決まり文句のようなことをしながら、女子生徒の声を聞いて俺の疑問はさらに深まってしまった。何故なら、呼び出してきたのが、早川さんだったからだ。


「えっと…早川さん、どうして俺を呼んだのかな?」


「それは…その……」


 どこか恥じらうような仕草をしたあと、俺を見据えて、


「前から好きでした!私と付き合って下さいっ!」


と一息で言い切った。

当然、俺は困惑した。何せ、教え子に告白されるなんて夢にも思わなかったからだ。そりゃあ、俺だって男だし、彼女欲しいな〜なんて思ったりするけど、流石に教え子はない。そもそも、ダメでしょ。


「な、なんで俺なんだ?」


辛うじて口から出たのは、当然の疑問だった。俺は彼女に好かれるようなことを何かしたのか??


「入試の面接で先生が、私を助けてくれたこととか優しい所です……」


 ああ、そんなこともあったな……。と顔を覆いたくなってしまった。面接の時、というのも、まだ俺が教師歴1年目でめちゃくちゃ張り切っていた時のこと。面接でガチガチになって上手く話せないでいた彼女を見かねた俺が、緊張を解そうと焦って彼女に、「今日の天気は晴れですよね??」と言ってしまったのだ。他の教師は爆笑し、つられて早川さんの表情も和やらいでいた。その結果、彼女は面接もなんとかクリアして合格することが出来たのだ。ちなみに俺は、その日の夜に学年主任にめっちゃ叱られた。


「なるほど…」


「返事は…どうですか?」


 彼女は今にも泣きそうな表情でこちらを見てきた。相手が誠意を見せてきたなら、こっちもそれ相応の対応をしなければならない。

 俺は彼女の目を見てはっきりと伝えた、「ごめんなさい」と。


 返事を聞いた彼女は堪えきれず、涙を流していた。俺はただ、呆然と見ていることしか出来なかった。


「私のこの想いだけでも先生が覚えてくれれば嬉しいです……」


 そう言って、彼女は涙を拭いながら足早に去っていった。

 忘れる筈がない初めての告白だった。それはとても苦いものであった。



 俺は駐輪場に佇んでいた。昼放課の終わりを告げるチャイムはとうの昔に鳴っている。今日の午後は、授業が無いので何時までもこうしていたかった。

 何十分、何時間経ったのだろうか。昼間は空高く輝いていた太陽がいつしか雲に隠れ、辺りは暗くなっていた。

 そろそろ、雨でも降ってくるのだろうか?そう思いつつ、疲れているわけでもないのに、やたらと重い足を引きずるようにゆっくりとした足取りで校舎に戻った。

 6限目の終了を告げるチャイムが鳴った。俺は、帰りのHRの為に教室に向かわないといけない。ただ、早川とどう向き合えば良いのかわからず、職員室の椅子に座っていた。

 教室に来ないことを不思議に思った副担任が、俺を呼びに来たので「今行きます」と言って、重い腰を上げ、教室の方へと歩き始めた。

 廊下は不思議なほど、静まりかえっていた。窓の外を見れば、ポツポツと雨が振り始めていた。暗く長い渡り廊下を過ぎ、階段を上り始めた。

 一段また一段と上る度に、身体が重くなっていく気がした。

 そして、あと一段、というところで俺は踏み外した。身体がよろけ、宙に舞った。あっ、と思った時には既に遅く俺の意識はそこで無くなった。



「救急車を呼べっ!」「先生っ!」「起きてよ先生!」


 私の目の前では、大勢の人が混乱状態にあった。かく言う私もその中の一人だ。

 さっき、中々来ない良文先生に腹を立てた副担が呼びにいったら、なんと階段の踊り場に良文先生が倒れていたと言うのだ。

 すぐさま、クラスメイト達は先生の元へと走っていった。

 そこで目にしたのは、あまりにもショッキング過ぎる、非現実的な光景だった。

 仰向けのまま、白い顔の先生がいた。目立った外傷は無いが、意識は無いしなんなら呼吸もしていなかった。

 そこからは、恐慌状態。スマホで救急車を呼ぶ人ー中には慌てすぎて海上保安庁にかける人もいたー、泣き出してしまう者。阿鼻叫喚と言っても過言ではなかった。そして私はと言うと…罪悪感、後悔等々色々な感情がごちゃ混ぜになっていた。

 「あの時、告白しなければ?」、「先生を殺したのは私だ」、「先生に迷惑をかけてしまった」一つ一つ言ってってたらキリがないほどたくさんのネガティブな思考が頭を埋め尽くした。

 そのうち、クラスメイトの誰かが読んだのであろう、救急車が駆けつけた。

 だが、彼らはなんの意味もなかった。 

 駆けつけた救急隊員は、先生を見るなり「もはや手遅れです。我々は何もすることが出来ません」といった。

 先生は死んだ。これはもう、覆らない事実だった。

 救急隊員の、事務的で無感情な「男性の死亡を確認」という言葉は、私達の心にグサリと刺さった。


 私はそっとその場から離れた。あのまま、無くなった先生を見続けていると罪悪感で気がおかしくなってしまいそうだったからだ。

 どれくらい歩いたんだろう?私は、学校を出た後、アテもなくゾンビのように歩き回っていた。今更だが、校舎用のスリッパのまま、街を彷徨っていた。

 ふと、視線の先に小さな公園があった。私は真っ直ぐ公園に向かい、近くにあったベンチに座った。

 しばらくは、心ここにあらずといった感じでぼーっとしてたけど、気づけば涙が止まらなくなっていた。そしてまた、「私が先生を殺したんだ」という、暗い感情がドロドロとココロの中を満たしていった。「違う!そんなことない!」と否定出来ればどれだけ良かったか。私にはそんな事を言う資格すら無いように感じられた。

 日が暮れて、街灯に明るく私を照らし出した。私はある決心をした。先生がどこか遠い所へ行ってしまったなら、私は先生を追いかけて同じ場所に行くべきだ、と。傍から見たら、気が狂ったとしか思えないよな考えであっても、私は自分の考えがとても素晴らしく、そしてひどく常識的な考え方のように思われた。先生が居ない世界に私は居ても居なくても変わらない。それが私の出した結論だった。



 翌日は休校となった。私自身、泣き疲れて寝てしまったし、皆も似た感じだったんだろう。

 休校明けの学校は、本当につまらなかった。チープな言い方かもしれないけど、世の中から太陽が失われたような雰囲気だった。

 副担任もどこか老けたように見え、誰もが生気を失っていた。



 先生の死から数日。私は、クラスメイトの小平さんに呼ばれた。何故、呼ばれたのかわからなかったが、指定の場所に行くと小平さんを含め、四人の女子生徒がいた。

 彼女は開口一番に衝撃的なことを告げた。


「アタシ達、先生のお葬式の日に自殺しようと思うの」


 私は困惑して彼女達の表情を見た。それは、あの日の私と全く変わらない、ある種の決意を決めた哀しくも凛々しい表情だった。


「早川も同じでしょ?」


 小平さんは確認するかのように聞いてきた。なんだ、仲間はこんなにいたのか。私はなぜか、気持ちが軽くなっていくのを感じた。


「勿論」



 それからの日々は、早送りのように過ぎていった。新しい数学の先生がキモい親父だったのもお構いなしに、私はその日を待ち続けた。

 その日の連絡が来たのは、なんと先生が亡くなって1週間も過ぎた時のことだった。

 先生の実家が遠くにあるらしくどこで葬式をやるのか、モメたそうだけど、結局先生が最後に住んでいたアパートの近くで行われることとなった。


 当日、ラインで連絡を取り合っていた私達は朝から一緒に行動した。皆、口数は少なかったし、表情も強張ってた。けど、先生の遺体を前にしたときだけは感情豊かに泣いていた。


 葬式を終えた私達は電車に乗り、海へと向かった。5人のJKが静かにそして物凄いオーラを出しながら歩いていく姿は、多くの人の目を引いた。

 やがて、私達は海岸沿いの崖の上に着いた。辺りには、道路も無ければ、畑もない。鬱蒼とした森が広がっているだけだ。

 そこで最後に私達は、思い思いにメッセージを友人や親に遺した。元々、遺書を書いてきて為、書くことがなく困ってしまった。

 結局私が最期に書いたのは、「迷惑をかけて、ごめんなさい。」だった。勿論、誰宛だったのかは言うまでもない。

 スマホを地面に置き、私達は眼下に広がる青い海を眺めた。


「綺麗だね……」


 誰かが呟いた一言がずっと耳に残った。


 暫く海を眺めた後、小平さんが立ち上がり、「そろそろ行こっか!」と、何でも無いように言った。まるで、今から遊びに行くかのように……


「「うん」」


 それが私達が発した最後の言葉だった。

 誰から行ったのかはわからない。最後に見えたのは、恐ろしいくらい青く透き通っている水面だった。


 そして私達は先生に出会った。異世界で。





 海に飛び込んだ私が目を覚ましたのは、さっきまでいた鬱蒼とした森だった。前と違うのは目の前に小路があることくらい……

 あれ?赤ちゃんになってない??見れば、プニプニした手足、視線もだいぶ低い気がする。

 寝返りもうてず、首を動かしてみると4人の赤ちゃんが目に入った。あ、やっぱり赤ちゃんになってるね……

 私は呆然とした。先生に会うために覚悟を決めて、飛び込んだのに赤ちゃんになって、更に棄てられている。


 他の子も目が覚めたようで、起きた直後に自分の体を見て、「あうぅ?」と、声にならない叫びをあげていた。会話をしようにも、「あ〜」だとか「う〜」で成り立たない。

 暫く唸っているとガサガサという音が、後ろから聞こえてきた。

 恐る恐る後ろを振り向くと……


 先生が立っていた。

 生きていた頃より少し若返ったように見える先生は、私達を見るなり、「子供?」と首を傾げていた。

 私は歓喜のあまり叫ぼうとしたけど、遂には言葉にならなかった。やっぱり「うぅ〜」という、声(?)しか出なかった。

 それでも先生は私達に近寄って、「辛かっただろ〜?」、「大変だったな〜」と声をかけてくれた。

 そのうちに先生は、風呂敷のような布を取り出し私達を、背負い歩き始めた。

 私はどんな所に住んでるんだろう?と思う傍ら、ここは天国なのか?と思ったりもした。


 先生が連れてってくれたのは、森の中にポツンと建っている一軒家だった。それも、歴史の教科書で見るような石や草(?)を使って建てられたようなものだった。

 困惑する私を余所に先生は家のドアを開けて中に入った。靴は脱がないらしい。

 大きな部屋と寝室、キッチンがある構造で、大きな部屋はテーブルやベッド等生活に必要な物だけを並べた、シンプルな部屋だった。

 先生はホットミルクを作って私達に飲ませてくれた。温かく少し甘いホットミルクは私の心をも温めてくれたような気がした。

 

 その日の夜、先生と私達は寝る場所に困った。何せ、ここは一人暮らし用の家だからベッドが一つしか無いのだから。結局、先生は床にあぐらをかいて寝て、私達5人でベッドを使わせてもらった。先生の匂いが染み付いたベッドを嗅いでしまったのは、ここだけの秘密。

 翌朝、日が昇ると同時に先生は何処かへと行ってしまった。

 手持ち無沙汰な私達はすることもなくぼーっとしていた。

 結局、先生が帰ってきたのは日が暮れる直前だった。なんと先生は、私達用のベビーベッドを買って来てくれたのだ。ベビーベッドは、大きな部屋に置かれ、夜は先生と離れ離れになってしまった。



7ヶ月程経ったある日、先生は私達が話すのを期待してか、「パパだよ〜」と日に何度も言ってくるようになった。

 私としては複雑な気持ちだ。確かに、先生の義理の娘になることにも惹かれるけど、やっぱり出来るなら隣に立ちたい。それでも、それを邪魔するように「なんでお前なんかが…」という気持ちもあった。


 色んな葛藤がある中で、私は毎日「パパ」と呼べるように努力していた。それでも、努力だけではどうしようなく、自分が成長するのを待つばかりだった。


 数日後、私は初めて先生のことを「パパ」と呼べた。先生は飛び上がるように驚き、そして喜びを全身で表現しだした。他の子も、「パパ」、「パパ」と声に出して言えるようになった。

 そして、先生は私の頭を撫でてくれた。不意打ち攻撃に私はビックリして「あぅ…」としか言えなかったけど、こうして撫でられるのはとても気持ち良かった。

 他の子も私も私も!と言わんばかりに、「パパ」と言って先生を喜ばせていた。



 月日は流れ、私達は2才になった。

 誕生日が過ぎたある日、あるとてつもなく大きな事件が起こった。というのも、先生が結婚するというのだ。

 事の始まりはこうだった。

 普段通り、先生が買い出しに行ったと思ってたら、なんと女性を連れてきたのだ。しかも、とても美人の!

 その女性は、サリーというらしい。彼女は見るからに、先生に惚れていた。

 彼女は家に着くなり私達を見て、「かわい〜!」と言って抱きかかえてきた。私にとって、これほど屈辱的なことはなかった。彼女の邪魔を皆したいと思ってるけど、何も出来ない。この時ほど、自らが幼かったことを恨んだことはないね。

 結局、彼女は料理も上手く、男飯しか出ない我が家に初めて彩りというものが添えられた。

 ご飯を食べ終わってさあ寝ようかっていう時に、突然サリーが


「ねぇ?私達、結婚しない??」


と言ってきた!

 先生は少し躊躇したのに、承諾しちゃうしでもう怒りを抑えるので限界だった。

 その夜、寝静まったと思ったら、寝室はギシギシとベッドが軋む音が聞こえてきた。何やってるかなんて、容易に想像がついた。私達は泣きながら寝ることになった。



 私は膨らんでいくサリーのお腹を毎日、忌々しそうに睨んでいた。

 そして、先生とサリーの子供は、最悪なことに元気に生まれてきてしまった。私はどうしても彼女の子供を受け入れる事が出来なかった。子に罪はないという意識もあるため、微妙な思いの狭間にして、余計イライラが溜まってしまった。



 私達は順調に成長して8才になった。先生は、数学教師だったためか、九九とか必死に思させようとしてきた。まあ、皆脳みそは高校レベルだったから覚えるまでもなかったんだけどね。

 ちなみに、予想通りここは異世界らしい。



 私達は12才になった。今日から、王都にある学校に行くらしい。

 ただ、学校とは言え何も面白いことはなかった。私が通うべきなのは、大路先生が働いている学校だけなんだ。



 16歳になった。そこで私は一つ、決心をした。

 それはまた、告白するというものである。以前は、告白後に色々あって、罪悪感に苛まれたが、今回は条件が違う。ただ、妻がいるってのは引っかかるけど。でも、私は決心した!


 全寮制の学校なので、先生の元に帰れるのは年に二度あるかないかくらいだ。

 私はそのタイミングで告白することにした。


 帰省する時が来た。私は、今までにないくらい軽い足取りで家へと帰った。先生が出迎えてくれて、家へと入る。

 どうやら、サリーは居ないようだ。

 私は意を決して、告白する。


()()。ずーっと好きでした。私と付き合ってください」

どうでも良いですけど、この話は宮沢賢治の「永訣の朝」、「赤穂事件」から微妙な着想を得ています。んなもん知らんがなって方は、両方ググって見てください。

他にも小説書いてるんで、ぜひ読んでみてください〜

刺さる人いるか知らんけども。

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