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41 決戦! クレイ・ニアヴェルディー2

 時刻は変わらず真夜中。静寂と闇に包まれている王都で、ただ一か所だけ――絢爛な炎が燃え盛る広場があった。

 ああ――とても綺麗な光景だけど、建物を燃やしてしまわないように注意しないと。

 そんなことを思いながら、クレイは、開いた口が塞がらずに茫然としているゴルビーの目の前で軽く手を振る。


「ねぇ? ゴルビー? どうしたの? ジーッと私を見ていないで何か言いなさいよ。喋れないほど傷が痛むの? この程度の怪我、昔はしょっちゅうしてたじゃない」

「……しょっちゅうはしてねぇよ。……それより、てめぇ本当にクレイか?」

「?」


 意図の分からないゴルビーの質問にクレイは首を傾げ「当たり前でしょ」と返した。

 しかし、ゴルビーは納得がいっていないのか、


「どうして……てめぇがインフェルノを使えてるんだ? 以前はロクに扱えなかったじゃねぇか」


 そう訊く。


「フフ、たった数日でも女は変わるのよ。ゴルビー」

「それじゃ答えになってねぇ」

「いちいち説明するのは面倒なの。あなただっていつの間にかボロボロになってるじゃない。それと一緒よ」

「いや違ぇだろ! これは単純に戦いに負けただけだ!」

「まったく――たった一人で私たちを助けに来たりするからそうなるのよ」


 クレイは言った。


「あなたの戦闘スタイルは本来、大量の配下を使役しての乱戦でしょ? それができなかったから追い詰められてしまったのよね。だから言ってしまえば、まあ、その怪我は全面的に私たちの責任ということになるわ」

「……あ? その話……誰から聞いた?」

「自分で察したの。あの時、ゴルビーが私にハッキリ「お前を助けに来たんだよ」と言っていれば、こんなややこしいことにはならなかったのよ」

「そりゃ無理だ。あの場には勇者の野郎もいたじゃねえか。俺がそんなことを言ったらあいつは絶対てめぇを離さなかったぜ。だから仕方なくてめぇには興味のない振りをしたんじゃねぇか。……まあ、流石に泣くとは思わなかったけどな」

「うるさいわね。ずっと気にしてたことだったのよ。それをあんなズケズケと……」

「だが、てめぇも割とひどいことを言ってたぞ。俺に人望がないとかよぉ」

「あー……そうね。ごめんなさい」


 でも事実でしょ――と言いかけたが、余計な火種が生まれてしまいそうなのでクレイは口をつぐんだ。


「……ま、こんな話はあとでいくらでもすればいいわ。それより今は――」


 クレイは視線をゴルビーから、こちらを遠巻きに眺めている二人の人間へと移した。

 そして長髪の剣士を指さし、


「あなたがクターニーで――」


 言いつつ、今度は指を長身の軽薄そうな男に向け、


「あなたがカサマね。クターニーは髪をセットしていないから分かりづらいわ」


 と、改めて確認した。

 クターニーはそれを無視し、クレイを睨み付ける。


「お前は……ああ、あの時の魔族か。そこのオークと一緒に来て、俺たちが到着する前にこの場を離れていた、と。……なんにせよ、再びヤツを捕らえるいい機会だ。やるぞカサマ、援護は必要ない。お前はオークに睨みを利かせておけ。あの魔族の相手は俺だけで十分だ」

「そうかい? じゃあ任せるよ」


 カサマがそう返事をすると、クターニーはクレイに向かって駆けだした。

 猛然と迫って来るクターニに焦るゴルビー。


「おいクレイ! 分かってると思うが、てめぇじゃアイツには勝てねぇ! ここはなんとかして一旦退くぞ!」

「退かないわ」

「ハァ!? てめぇがあのロン毛に勝てるわけねぇだろ!」

「勝つわよ。勝てるかどうかは分からないけど――勝つわ」

「なに言ってんだ!? インフェルノが使えても戦闘経験がロクにないんじゃ勝負に――」

「戦闘経験なら、あるにはあるわ。この数日間みっちり鍛えられたから、ここで尻尾を巻いて逃げ出すよりかはマシな選択のはずよ。それに、あなたは今カサマに狙われているんだから、下手に動けば撃たれるわ。以上の理由を以て――私は戦いに赴きます。分かったらここでジッとしてなさい!」

「待てよ! 鍛えられたって誰に――おい!」


 ゴルビーの元を離れたクレイに、その声は届かない。カサマに弓を向けられている以上、彼は魔力渦を使っての加勢も、撤退もできない。見ていることしか、できない。

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