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27 クターニーとカサマ

「さあ、準備はいい?」


 六路騎士団の団長であるラミス姉さんが待つ王都の中心地――大城。その門の前でエリティアは立ち止まった。


「なんか緊張してきちゃった。憧れのラミス団長に会えるのは嬉しいけど、まさかこんな形でなんて……」

「そういやファンだって言ってたな。だけどあまり期待しない方が……いや、やっぱりなんでもない」


 いくらあの人でも流石に仕事中ならボロは出さないだろう。エリティアの思い描く「騎士の鑑」として振る舞ってくれることを願うばかりだ。


「極力援護はする。ただ、俺はここから先は殆ど喋らないからな」

「了解。じゃあ行こっか、ダメーナ」

「……待て。なんでお前がその名前を知っているんだ」


 さあ、どうしてかな、とはぐらかし城門に向かって歩き出すエリティアの後に、俺も渋々続く。

 出発前にクレイがエリティアに耳打ちするのを目撃していたが、これを伝えていたのか……。いくつか他の名前を考えていたというのに、その出番はないらしい。

 エリティアと俺が城門の前に着くと、門の両端に立っていた兵士に止められ、声を掛けられた


「こんにちは。エリティア様。お話は伺っております。ただ一応形だけ、お手数ですが用件をお願いします」

「本日はラミス団長に召喚されたので参りました。先日の襲撃事件についての意見交換を行えればと」

「かしこまりました。失礼ですが後ろの方はどういったご関係で?」


 と、兵士は顔を兜で隠している俺に目を向ける。

 うん、この恰好は見るからに怪しいもんな。エリティアと一緒にいるからといって素通りはできないらしい。仕事のできる兵士だ。

 そんな問いかけに対し、毅然とした態度でエリティアは言う。


「この方は私の従者です。身辺警護のために雇っています」

「ああ、そうでしたか。これは失礼しました。どうぞお通りください」

「ありがとう。いつもご苦労様です」


 兵士に軽く会釈をして門をくぐるエリティア。俺も同じように頭を下げつつ彼女についていく。

 今度は城内への大扉。このやり取りをもう一度繰り返し、俺とエリティアは城に入った。


「ラミス団長が待ってるのはあっちの部屋だね。ちょっと早めに着いちゃったけど、待たせるよりは――あ」


 城に入ってすぐの場所は大広間になっていて、そこから五方向に分かれている。エリティアが示したのは右の方向だったが、正面からやって来た人影が視界に入ると、彼女は途中で言葉を切った。

 正面の方から出口に向かって歩いてくる人間が二人――クターニーとカサマだった。カサマはエリティアに気付き手を振っているが、クターニーはその横に立っている俺に視線を向けていた。


「ど、どうしようセラク……じゃなかった、ダメーナ!」

「落ち着け。どこかに出掛けようとしているようだし、挨拶だけで済む」

「うん……」


 至近距離となったエリティアに、クターニーとカサマは意外そうに喋りかけた。


「よぉ、どうしたんだエリティア。城になにか用か?」


 まだ眠気が抜けていないのか、その長身に見合った長い首をコキコキと鳴らしながら、カサマは言った。


「今日はね、この間の件について話を聞きたいって六路騎士団の団長さんに呼ばれたから、休日返上で来たの」

「そうか、そうか。俺らもだよ。あの戦闘に出れなかったからって、最近は毎日王都周辺の見回りをやらされてんだ」

「それは感心だけど……カサマ、まだお酒の匂いがする。飲み過ぎはよくないよ?」

「はは、分かってる。だがやっぱり――」

「――そんなことより。エリティア、お前が人を連れているのは珍しいな」


 カサマの言葉を遮り、クターニーは刺々しい髪の隙間から鋭い眼光を光らせる。


「六路騎士団の長と会う場に他人を巻き込むのは感心しない。礼節の面でも、情報管理の面でもな」


 正論に次ぐ正論。本人が腰に差している長刀と同じくらい、クターニーは昔から頭のキレる奴だった。

 ただ、変にごまかす必要はない。ここでは動揺さえしなければいい。


「えっと……この人は私のボディーガードなの。ダメーナっていうんだ」

「そうか。顔を隠しているのは何故だ?」

「恥ずかしがり屋だから……かな」

「だが、我々の前では兜を取るのが礼儀だろう」

「そんなお堅いこと言わないの。元はといえば、この前二人が戦場に来てくれなかったから、私はこうして護衛を付けるハメになったんだよ?」

「そうなのか。それはすまないな。しかし最近雇ったとなると、本当に信用できる人物なのかまだ分からないだろう。六路騎士団との会合に連れていくには――」

「まぁまぁ、別にいいじゃねぇか。俺たちがとやかく言うことじゃない。駄目だったら団長さんが断るだろうよ」

 と、カサマが二人の間に割って入り仲裁する。パーティ最年長の風格は伊達ではない。

 ちなみに、俺が二十二でエリティアが二十一。クターニが二十四でカサマが二十六だ。


「……ダメーナとやら、気分を害してしまっただろう。すまなかった。俺としたことが、最近は少し気が立っていてな」


 俺は謝罪するクターニーに首を振り「気にしていない」とジェスチャーで示す。

 それを見て吹き出すカサマ。


「ハハ、なんだ、顔も隠して喋りもしねぇのか? いいねぇ、エリティア、お前は面白い奴を見つけてきたな。もし実力が伴っているなら新しい勇者パーティに推薦したらどうだ? セラクがいなくなって寂しくなったしな。王都が近々新しいメンバーを選別するらしいぜ」

「そうなの? じゃあ考えておこうかな」

「俺としては、そいつにセラクの代わりが務まるとは思えないがな。セラクは甘い奴だが実力はあった。まあもっとも、それが仇になって落命したという前例ができてしまった以上、能力ではセラクに劣っていても精神面が良ければ通るかもしれないが」


 そんなクターニーに、エリティアは呆れたように言う。


「もう、とことん感情論とはかけ離れた場所にいるよね、クターニーは。合理的に考えすぎなんだよ」

「それでいいんだ。俺はセラクのようにはなれないし――ならない」


 平坦な口調でそう言いつつ、クターニーは止めていた足を再び踏み出す。


「引き止めて悪かったなエリティア。……行くぞ、カサマ」

「おう……あ、そうだ。エリティア。たまには俺の酒の相手をしてくれ。クターニーはいくら呑ませても酔わないからつまらないし、よく俺の話を聞いてくれてたセラクもいなくなっちまったしよぉ」


 ……そんなことを思ってくれていたのか、ちょっと意外だ。


「うーん、私はお酒に弱いから遠慮しておく。でもランチならいつでも付き合うよ」

「ツレないねぇ。酔いやすいのは良いことなのに。ま、いいや。それじゃ二人ともまたな」


 城から出ていくクターニーとカサマを見送ったあと、エリティアは大きなため息をついて歩き出す。


「……ふぅ。なんとかなったね。さ、私たちも行こうか。団長さんを待たせちゃ悪いし」

「まあ、いい前練習になったんじゃないか」

「そうだね。動揺しない訓練にはなったと思う。これならいけそう」

「それはなによりだ」


 と、無難にエリティアを肯定してはみたものの、ラミス姉さんはあの二人とは色んな意味で桁違いな人だ。やはり一定の不安が残る。

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