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21 服を買いに行こう

「あー……背中が痛ぇ……」


 たくさんの衣服に囲まれながら、一着、一着、楽しそうに物色するクレイを見守りつつ、俺は誰に言うでもなく呟く。


 分かり切っていた事実だが、硬い場所で寝ると疲れが取れない。

 今日、せめて毛布だけでも買って帰ろうと決意して、ぎこちなく背筋を伸ばす。

 さっきから服屋の店員さんの懐疑的な目が痛い。

 ……というのも。


 本日、俺は頭に、顔が全て隠れるタイプの仰々しい兜を被っていた。

 勇者セラク・ラーミックは死亡したことになっているので、俺は街中で顔を晒して歩けない。必然的に、こういう物を被ることになる。

 戦闘時に装備するような兜を街中で着用している男が服屋に少女を連れてきたのだから、店としては困惑するのも無理はない。

 おまけに名前も――。


「セラミック! この服はどうかしら?」

「……ん、ああ、なんだ?」

「この服、さっき選んだスカートに合うと思うんだけど。どっちがいいと思う? 両方捨てがたいのよね」


 と、クレイは両手に一着ずつ服を持ち、俺に意見を求める。

 比較的フォーマルなデザインのノースリーブのブラウス。それの白と黒の色違いで悩んでいるらしい。


「よく分からないけど、さっきの黒いスカートに合わせるなら白い方がいいんじゃないか? モノクロのコントラストがこう、なんかいい感じに作用したりして」

「フワフワした言い回しではあるけど、言いたいことは分かるわ。それも勿論いいんだけど、ただ私としては、黒のスカートに黒のブラウスを合わせることによって発生する、凛とした統一感も素敵だと思うの」

「ああ、なるほどな。確かに甲乙つけがたい。まあ、クレイの好きな方にしたらいい」


 うーん、悩むわね……と、服を交互に見比べるクレイ。彼女は、別に俺の名前を間違えているわけではない。

 今朝のことだ、俺はいつもより早く起きて……起こされて、食欲旺盛な魔族に催促されて朝食を用意し、それを済ませた。それから、埃まみれになっていた兜を軽く手入れして、さあ出掛けるかというところで、街中でのお互いの呼び方を決めていなかったことに気付いた。

 クレイは人間側に名前がバレていないのでそのままでも構わないが、俺はそうはいかない。それを2人で相談した結果、俺は人前では「セラミック」でいくことになった。

 他の候補として「ダメーナ・ユーシャ」や「武骨ヘルメット」などがあったが、断固拒否した。後者に至っては名前ですらない。

 いずれにせよ、たった今クレイに呼ばれた時のように、慣れるまでは反応が遅れてしまうのだろうが。


「……クレイ、まだ他のお客さんは来ていないとはいえ、遠巻きに見てくる店員さんの目が痛い。そろそろ行くぞ」

「分かったわ。さて、どっちにしようかしら……あ、白いスカートに黒いブラウスもありよね。だとすると白いスカートに白いブラウスというのも選択肢に入ってくるわけで……うぅ、試着ができればいいんだけど……」


 もどかしそうに唸るクレイ。まあ、できないわけではないが、彼女なりに、リスクのある行動はやめておいた方がいいと判断したのだろう。 

 クレイを魔族たらしめる身体的特徴。角と尻尾。一目見られれば一発で人間ではないとバレる。

 しかしそれは、魔力を使用する時以外であれば、角は銀髪に隠れるほどの大きさまで縮小させることができ、尻尾は折り曲げて服の内側に収納できるらしい。

 とはいえ、試着室ではその服を脱ぐのだから、お客さんが着替えている間に中を覗く店員さんがいたら終わりだ。

 ……いるはずないけど。


「ねぇ、両方買っちゃダメ?」

「駄目だ。誰かさんのために夕飯用の食材をたくさん買って帰りたいし、床に敷く毛布も買わなきゃいけない」

「……ダメーナのけち」

「ダメーナって呼ぶな。拗ねても駄目なものは駄目……あ、いや、そうか」


 そうだった。つい普通に服を買いにきた感覚でいたけど、今回は事情が違うんだった。


「クレイ、やっぱり両方買おう」

「……いいの!?」


 パァっと表情を明るくし、クレイは俺を見上げる。

 目が輝いてやがる……。


「それと、白黒のブラウスと対になるように白いスカートも買うといい」

「スカートまで2着!? きゅ、急にどうしたの!?」

「いや、だってさ、上も下も最低2着ずつないと着回せないだろ」

「……あ、確かにそうね。私は今、1着も服を持っていないんだったわ。それじゃあ、他に見たいものもあるし、セラミックは私にお金を預けて外で待ってて。15分くらいで出てくるから」

「なんでだ? 気を遣うなよ。外で待ってても暇なだけだしまだ付き合うぞ」

「気を遣っているわけじゃないわ。……いい? ダメーナ。よく聞いて」

「…………」


 何故かまたダメーナになってしまった俺に――クレイは言った。


「下着も2着ないと着回せないのよ?」

「……ああ、そっか」


 呼称がダメーナになった理由も納得。

 気を遣うべきなのは俺の方だった。

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