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18 魔力障壁ー1

 そして。

 二人してそれを見送ったあと、クレイはおもむろに口を開く。


「……よかったの、セラク? エリティアと離れてしまって」

「どういう意味だ?」

「あんな可愛い女の子との旅を放棄してまで、私に付き合う必要は無いと言っているの」

「いや、お前も可愛い女の子枠だろ」

「……私は真面目な話をしているのよ」


 顔を赤らめつつも、声のトーンを一定に保つクレイ。


「……どうしたんだ、急に?」

「私を縛ってた鎖はエリティアが解いてくれたし、もう自力で飛んで帰れるわ」

「魔王派は本拠地の居城を追放されたってゴルビーが言ってたけど、帰る場所のアテはあるのか?」

「それはないけど……まあ、ひとまずお姉ちゃんたちを捜して合流するつもりよ」

「クレイの姉……アルジーラだったっけ? その人がどこにいるのかの見当は?」

「……ついてないわ」

「じゃあ無謀だろ……」


 まさか、気を遣って――いるのだろうか。

 帰る場所もないのに。

 頼れる知り合いもいないのに。

 そんな自らの不安を押し殺して、俺なんかを気遣っているのか。

 ……まったく、なんて奴だ。端からここで別れるつもりはなかったが、益々放っておけなくなった。


「――さて、ここにいつまでも留まっているわけにもいかないし、もう行くぞ」

「え? ちょっ、ちょっとセラク……!?」


 いきなり会話を切り上げられ戸惑うクレイを横目に、俺は南門に備え付けられた兵士用の扉の取っ手に手を掛け、開ける。その先は4、5メートルほどの、外へと続く簡易的な通路になっていた。

 俺は先に中へと入り、クレイに呼びかける。


「ほら、早くこないと置いてくぞ」

「で、でも、セラクが私と一緒にいる理由はもう……」

「何言ってんだ。ゴルビーを倒すために、魔力の扱い方を教えてやるって言っただろ」

「……魔族と人間が一緒にいたんじゃ、お互い、どこにも居場所なんてないわよ」

「だったら作ればいい」

「……作る?」

「そうだ。俺は魔王から、お前宛に伝言を預かってる。初めてあの館で会った時にも言ったんだが、お前は聞く耳を持たなかったからな。だから改めて伝える」


 ――我がいなくなった以上、誰かが後を継がねばならん。自分の身をないがしろにして仇を討とうとするくらいなら、お前が我の意思を継げ。


 一語一句違えず、俺はクレイにそう伝えた。


「お父さんがそんなことを……でも、私なんかよりお姉ちゃんの方が……」

「すぐに答えを出す必要は無い。焦らずじっくり考えろよ。そのあとで、クレイがそう思っているなら、それでもいいと俺は思う。ただ、お前が今決断すべきことは、俺と一緒に来るのか来ないのかだ」

「……それは私のセリフでしょ! 私は当然ここから出ていくけど、それにセラクを巻き込みたくはないの!」

「巻き込まれたくなかったら、俺は端からお前を助けてない。今日、地下牢に向かった時点で既に覚悟はできてた」

「……不自由な旅になるわよ。2人とも周りに正体を隠して生活しないといけないし、セラクが全力を出して怪我をしても、傍には治してくれる人もいない。仲間というより道連れよ。それでもいいの?」

「ああ、もちろんだ」


 少しの間も作らず、俺は頷いた。


「そう……お人好しなのね」

「お前に言われたくはない」

「フフッ。それじゃあ付き合ってもらおうかしら。あとで後悔しても知らないわよ」


 と、こちらに向かってクレイは足を踏み出す。

 なにか吹っ切れたような、軽快な足取りで彼女は歩く。

 そして、王都の外へ出るための通路に入っ――


 ゴン。


「きゃうっ!」


 通路に入ろうかというところで、クレイは突然何かにぶつかり、小動物のような声をあげて倒れた。


「クレイ? どうしたんだ?」

「……よく分からないけど、なにか、壁みたいなものに激突して……」


 クレイは鼻を抑えながらフラフラと立ち上がり、通路の入り口にゆっくりと手を伸ばす。その手は、ちょうど王都と通路の境目の辺り、なにもないはずの空間で「コツン」と止まった。

 そこから手を横にずらし、通路の入り口全体を確認すると――


「セラク。ここに透明な壁があるわ」


 と、いたって真面目な顔でクレイは言った。

 傍から見ていれば器用にパントマイムをやっているようにしか見えないが、どうやら本当に通れないらしい。


「俺は普通に通れたけどな……」


 クレイが壁だと認識している辺りで、自分の手を押したり引いたりしてみるが、やはりなんの引っかかりもない。


「壁……壁かぁ……あ!」

「どうしたの、セラク?」


 ……魔力障壁だ、これ。

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