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赤目製薬の人々 人工電脳・天才少女

 「私たちの仕事は本社内のシステム管理と設備のメンテナンス。それに一部備品の製作もやってるよぉ」

『と、口では言ってますけど仕事は殆ど115に丸投げして、博士は普段遊んでるだけです。』

「体力の温存だよぉ。ほら、115と違って私はか弱い生身の女の子だし」

『営業課と防衛隊を兼業しているレコメンド嬢の前でよく言えますね・・・』

2人の掛け合いを聞き、サンビタリアは思わずクスリと笑みをこぼす。

普段の態度を窘める115と、「レコちゃんはレコちゃん、私は私~」と苦言を飄々と躱すモリアーティ。その姿は機械とエンジニアというよりは、世話焼きの母親とマイペースな娘のように見えた。

「おっ?お嫁ちゃん楽しそうだねぇ~」

「ご、ごめんなさい。お二人があんまり仲がいいのでつい・・・」

『仲良し・・・・・・まぁ、そうですね。今の博士はグータラではありますが、115がまだ作られたての無知なAIだった頃は本当に良くして下さって・・・・・・学習したデータをデリートすれば昔に戻るでしょうか?』

「そ、それは流石にどうかと思うぞ」

苦笑いでやんわりと制止するガーネットに115は『失礼しました。AIジョークです』と返し、サンビタリアとガーネットは呆れると同時にジョークを言える115の性能の高さに感心した。

(115様のような高度なAIによりシステム制御された巨大地下施設・・・・・・帝国で聞いていたお噂以上です。若くしてこれだけの大企業の社長を立派に勤め上げ、社員の皆様にも認められていらっしゃるなんて・・・ぴぃつぅ様は一体何者なのでしょうか?)

そんなサンビタリアの心を見透かし、何を思ったのか、モリアーティは片目を閉じて考えを巡らせた。


 「ねぇ?」

先程までと同じ気怠げで眠たげな表情はそのままに、薄らと怒気をはらんだ脅しつけるような問いかけに、ガーネットは反射的にサンビタリアの前に立ち塞がり、レコメンドは迷い無くクロスボウに矢を番え構えた。

ただ一人敵意への態勢が薄く、第一皇子からの婚約破棄というトラウマが記憶に新しいサンビタリアは、ブルブルと身体を震わせながら「嫌・・・嫌・・・」と言葉にならない声を漏らすしかなかった、

「おいおい、声を掛けただけだろぉ?レコちゃん、物騒なのこっちに向けないでよぉ」

ガシュッ!っと大きな音が風を切ると同時に、杭状の金属の矢がモリアーティの足元に突き刺さった。

「今の私のは社長の命により奥様方を御守りすることです。モリアーティ、奥様方に危害を加えるのであれば、私は職務に従い貴女を撃たなければならない。・・・次は当てます。」

「流石はレコちゃん、大した忠誠心だねぇ。子鬼から子犬に転職したら?ワンワンってさ」

「私を子鬼とッ!?」

激高し、我を忘れて引き金を引こうとするレコメンドに黒い塊が高速でタックルを繰り出してくる。

それは制御中心区をキュラキュラと走る、長いアームのロボットだった。

「貴方もですか!?115ッ!!」

突き飛ばされたレコメンドは空中で器用に体制を立て直し、愛弓に矢を番え、引き金を引く。

ガシュッ!と、矢が放たれ、115と呼ばれたロボットのキャタピラの履帯に突き刺さった。

『成程、確かにキャタピラ部分の装甲は薄いです。ですが、115の作業用車にはアームがあります。』

115のアームがアームを伸ばし、ガーネットが拳を構える。その瞬間、爆音が鳴り響いた。

『時限爆弾・・・ッ!?これがレコメンド様の115対策ですか!?』

履帯に突き刺さった矢が爆発し、その火力が金属の塊である作業用車を押し上げ、ひっくり返す。

レコメンドはその様子を見届けながら新しい矢を番え、空中から降り立つと、また愛弓を構えた。


 「ヒュウッ!」と、モリアーティは感心したように口笛を鳴らし、パチパチと手を叩いた。

「いやぁ、素晴らしいものを見せて貰ったよぉ。昔は子鬼って呼んだら我を忘れて大変だったけど、今は怒りながらも仕事を忘れてない。真っ先に私を狙わなかったのがその証、成長したねぇ。」

「賞賛よりも説明をして貰えますか?モリアーティ」

「私が発端だから文句は言わないけどねぇ・・・・・・もうちょっと仲間を信頼して欲しいなぁ」

『博士、やはり有無を言わせず奇襲したのが間違いだったんですよ。』

「仕方ないでしょぉ?防衛隊相手に真っ当にやったって勝ち目は無いんだからさぁ・・・」

ガシュッ!

モリアーティの頬が薄く切れツーっと血が流れ出す。レコメンドが撃ったのだ。

「説明を」

愛弓を構えたまま新しい矢を番えて、レコメンドは淡々と説明を求めた。脅迫である。

「ねぇ?お嫁ちゃんに従者ちゃん?」

矢が掠めたばかりだというのに、モリアーティはニコニコ笑みを貼り付けて訊ねる。

「社長の為に死ねる?」


 「それは・・・・・・一体どういう・・・?」

「まぁ、来たばかりだしそうなるよねぇ。分かってたけど」

いきなりのことに困惑する2人の姿に、「仕方ない仕方ない」と繰り返すモリアーティ。

レコメンドもその真意が分からず、弓を構えながら眉を歪めて、疑問に思考を巡らせていた。

「私たちは死ねるんだぁ。レコちゃんも、私も、115も、他のみんなも、社長と会社の為に命を使える。従者ちゃんならちょっと分かるんじゃないかなぁ?主人は違うけど根っこは同類みないだしぃ」

『115は人工的に作られたAIですから命の概念は薄いですがね。バックアップもありますし』

否定出来なかった。事実、ガーネットはサンビタリアに付き添って流刑地である亡骸島まで来ている。

(自分がお嬢様に捧げている忠誠を、赤目製薬の社員たちも自らの社長に向けているのであれば、成程、確かに同類と言って差し支えない。だが、それとお嬢様を襲うことに一体何の関係があるというのだ?)自分よりも主人を優先する感情は理解出来る。だからこそ、ガーネットにはモリアーティの心が分からなかった。

「まぁ、だからってぇ、「社長の為に命使えないヤツは要らない」なんて過激なことを言うつもりは無いよぉ?だけどぉ、君を迎えることで社長と会社に何の利益があるのぉ?」

「それ・・・は・・・」

みんなが当たり前のように迎え入れてくれるから、サンビタリアは忘れてしまっていた。

元貴族令嬢と言っても今のサンビタリアはただの罪人でしかなく、サンビタリアを抱えることは負債以外の何物でも無い。そんな彼女を全ての社員が無条件に受け入れてくれるなど、そんなに上手いな話は無かった。

「まぁ経歴は確認してるからさぁ、サファイアちゃんの時みたいに心の傷が癒えるまでゆっくり療養させてあげても良かったんだけどぉ・・・・・・・・ちょーっと、その余裕もなくなっちゃいそうかなって。」

「防衛隊のレコちゃんはよーく知ってるでしょぉ?あのテロリストども・・・黄金族の大活躍をさ」

 人物情報記録 モリアーティ(第一項)

性別:女 年齢:156年齢

身長:140cm 体重:乙女に聞くことじゃないよぉ?

種族:えぇ?書かかきゃダメぇ?ん……エルフゥ 所属:制御中心区

 赤目製薬最高の技術者であり、仕事が出来る有能な怠け者。

長命種のエルフ族だが、エルフ族が嫌いで普段は髪で耳を隠している。


 人物情報記録 CG―115(第一項)

性別:115はAIなので性別の括りはありません 

年齢:最も古い稼働データは5年前のものです

身長・体重:データの塊なので身長や体重の類はありません

 モリアーティが作り上げた高性能AI。

赤目製薬のシステム制御を担っており、専用の作業用車を遠隔操作することで技術者として働くこともある。


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