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レコメンド

 二日目

 「…きて……起きて…起きてください!」

「ふぇ…、もう朝なのガーネット?」

「もう朝なのは確かですが、私はガーネットさんではありませんよ。」

身体をユサユサと揺さぶられて、半分閉じたままの目をこすりながらサンビタリアは起き上がった。

起こしてくれたであろう昔からの従者に礼を言うが、帰って来たのは否定の言葉。寝惚けた頭に?が浮かび上がり、だんだん意識が覚醒してくると自分が晒している醜態にも気が付き、羞恥の色に顔を染めた。

「ご、ごめんなさい!私ったら寝惚けてとんだ醜態を……!」

「いえ、気にしないでください。社長からは奥様方の好きなようにさせてあげて欲しいと聞いていますし、奥様は長旅で疲れているでしょうから仕方ありません。寝かせたままにしておくことも考えましたが、食堂と大浴場は利用可能時間が決まっていますので…」

「お気遣い頂きありがとうございます……」

「嫁入り早々恥をさらしてしまいました………」と、サンビタリアは内心に自責の念が湧き上がる。

「態々起こしに来てくれた社員さんにも感謝しなければ」と思い、改めて目の前の社員をよく見ると、そこには見覚えのある顔があった。

昨日と違って片手にボウガンを握った彼女は、子どもかと錯覚するほどの小さな身体とその身体にピッタリな童顔をしており、青々と茂る新緑のように電灯の灯りにキラキラと輝く、首の付け根ほどまで伸びだポニーテール。昨日は気が付かなかったが、黄金の瞳の上、額には小さな突起が2つあった。

「ゴブリン…」

「よく知ってますね。ゴブリン族が大粛清から亡骸島に逃れたのは100年以上も前なのに…」

『大粛清』。それは現在の天華帝国の土台を作り上げた三代前の皇帝により行われた、共存不可能な13の種族の殲滅計画のことを指す。ゴブリン族もその13の種族の一つで、「醜悪かつ下品、男女ともに姦淫に忠実な緑の小鬼」と、サンダリアは実家で教えられていた。

しかし、目の前にいる青いジャケットの社員レコメンドは醜悪どころか愛らしい姿で、下品な振る舞いもしていない。これではまるで……

「ただの女の子みたいに見える。ですか?」

「…もしかして、よく言われるの?」

「はい、よく言われます。そしてその度にこう答えます。」

「私は二十歳です」


 サンビタリアと同じように起こされたガーネットはレコメンドがゴブリンであることことを知り、口元をへの字に曲げて見るからに不服そうな顔をしたが、流石に言葉には出さなかった。レコメンドの方もガーネットのような態度を取られるのは慣れているらしく、3人は何の諍いも起こすこと無く、レコメンドの護衛と案内で平和的に食堂にやって来た。

「食堂は健康栄養食品部が運営していて、日替わりでメニューが決まります。 試作品のテストも兼ねているので若干の当たり外れがありますが、どれも美味しいですよ。」

レコメンドはそう説明しながら名簿に3人分の名前を記入し、席に案内する。そうすると名簿を見た社員が人数分の食事を持って来てくれるらしい。今日のメニューはイォウという川魚を揚げた料理、その定食だ。

「試作品のテストだと・・・?ようは実験台ではないか」

「心配しなくても健康に害があるようなものは入ってませんよ。何なら毒味しましょうか?」

ガーネットはこれ幸いとばかりに嫌味を口にするがレコメンドは意にも介さず、それが余計にガーネットの機嫌を損ねた。が、言い返す言葉は出ずに口を閉じた。


 「そういえば他の方はどうされました?確か、防衛第二小隊?の方が護衛について下さるのですよね?」

「あー・・・それ何ですが、まだ現場から帰って来てないみたいです。なのでナズナ隊長たちが帰還するまでは、別の仕事で本社に残っていた私1人での護衛になります。社長が後始末と迎えに行ったので1週間もしない内に戻ってくるかと・・・」

「あっ、ぴぃつぅ様もいらっしゃらないのですね・・・」

安心したような、落胆したような、サンビタリアは色んな感情が複雑に入り交じった溜息を漏らした。

(ぴぃつぅ様・・・・・・態々迎えに来て下さったのは、多少なりとも私を気に掛けて下さったからではないのでしょうか?それとも、実際の私を見てガッカリさせてしまったのでしょうか・・・?)

慣れない場所に送り込まれて、良く知らない男と結婚させられて、夫になる男に会ったと思ったら次は1週間後と言われたのである。サンビタリアが不安に思うのは仕方の無いことだった。

「奥様、そんなに心配する必要りませんよ。」

そんなサンビタリアの心を察してか、レコメンドは硝子製のコップを並べてピッチャー冷水を注ぎながら、如何にも気楽そうにあっけらかんと喋り始めた。

「社長は種族や立場で相手を差別しません。社長はあれでゴブリン族なんてのを受け入れる程度にはお人好しですから、没落した貴族令嬢の1人や2人何でもありませんよ。亡骸島には前科持ちも山ほど居ますしね。」

「レコメンド様・・・」

その話に込められた想いを感じ取ることが出来ないほど、サンビタリアは鈍感では無い。

帝国そのものに「存在が悪」と断じられたゴブリン族、生まれた時から母国を敵に回していたレコメンドは、一体どれほどの苦難と苦痛の果てにここに居るのだろう?貴族令嬢として望まれて生まれ育ったサンビタリアには想像することしか出来ない。1つだけ分かることは、赤目製薬は彼女にとって職場である以上に居場所だということだった。


 

 


 人物情報記録 レコメンド(弟1項)

 レコメンド (第一項)

性別:女性 年齢:20歳

身長:125cm 体重:40kg

種族:ゴブリン  所属 赤目製薬防衛第二小隊 赤目製薬営業課


 赤目製薬防衛第二小隊の射撃手兼渉外役。

営業課との兼業であり、時折、営業の仕事のために部隊の任務から外れることがある。

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