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2度も捨てられるのは

サンビタリアちゃんの内心やいかに

 褐色の男性社員こと、社長秘書のカッタッパに案内されてサンビタリアとガーネットは赤目製薬本社内の通路を歩いていた。地上にある廃墟としか形容しようのないボロボロの建物とは打って変わり、地下の赤目製薬本社内はピカピカの一色で、導入された最新設備によって扉は全て自動で開き、飲料を売る自販機を更に発展させた店員の居ない機械仕掛けの商店が、移動が億劫にならない一定の間隔で設置されていて、道行く社員は高級品であるはずの携帯端末を1人1つは必ず携帯していた。

「どうですか奥様、我が赤目製薬の本社は。貴族家出身の奥様にもきっと気に入って頂けると思いますよ。」

人当たりの良い柔らかな笑みで対応するカッタッパだが、2人の顔色は浮かないものだった。

「・・・私、お邪魔でしょうか?」

ふと、サンビタリアがポツリと掠れるようなか細い声を漏らした。

「そんなことありません!お嬢様は社長であるP2・・・様に正式に嫁入りしているのです!それを邪魔だなどと・・・「でも」」

一瞬で顔色を変え、必死になって主をフォローするガーネットだったが、その慰めの言葉は主自身によって妨げられた。

「でも、これは皇帝陛下の命令で決まった結婚です。ぴぃつぅ様が望んだものではありません。お仕事は仕方がありませんが、車の中でもずっと黙っておいででしたし・・・・・・」

今にも泣き出しそうな顔で、苦しいもの痛いものが何もかも漏れ出していくように、一言また一言とサンビタリアから弱音が出て行く。後の方になると、抑えきれなくなった大粒の涙がボロボロと流れ出していた。


 「あっはっはっはっは!!」

暗い雰囲気も涙混じりの弱音も何のその、真面目な仕事モードから一転、カッタッパは明朗快活な大笑いをあげた。すれ違う青ジャケットの女性社員が何事かと呆けた顔をカッタッパに向けると、サンビタリアとガーネットの2人も同じような顔をしていた。

「い、一体どうしたんですかカッタッパさん?それに其方のお二人は社長の奥様と従者の方ですよね?社長はどうしたんですか?」

「ああ、レコメンドさん。社長は急な仕事が入ったので、私が代わりにご案内していたのですが・・・・・・奥様が「お邪魔でしょうか?」と・・・」

「ああ、それは・・・・・・まぁ、ウチに限っては要らない心配ですね。」

カッタッパの説明を聞き、レコメンドと呼ばれた女性社員は無理矢理貼り付けたような苦笑いを浮かべ、

納得の声を上げる。

一方、当事者の筈のサンビタリアたちはいきなりのことで混乱し、まだ思考が停止していた。

「あ、あの、それは一体どういう・・・?」

何とか意識を現実に引き戻したガーネットが未だ困惑する頭を強引に働かせて訊ねると、レコメンドは苦しい笑みから一転、大輪の華が咲いたような満面の笑みで答えた。

「社長は・・・・・・赤目製薬はお二人を歓迎してるってことですよ!」


 仕事中だったレコメンドと別れ、カッタッパは本社の案内を再開した。

サンビタリアの顔色は先程に比べて柔らかく落ち着いた様子で、全てでは無いが背負っていた荷が降りたかのように見える。カッタッパの大笑いとレコメンドの笑みが効いたらしい。

「本社は広いですし、お二人も長旅でお疲れでしょう。一先ず居住区の案内を致しますので、今日のところはゆっくりお休みください。歓迎会を兼ねた披露宴は明日以降に・・・・・・」

「披露宴・・・・・・そうですよね、私、結婚したんですよね。」

カッタッパが語った今後の予定の披露宴という言葉に、サンビタリアは今更ながら自分が結婚したとのだという実感が出てきて、頬を真っ赤に染め上げた。

事実、サンビタリアとP2の結婚までの過程は急速にして激動だった。

冤罪により第一皇子から断罪を受け、婚約を破棄され罪人として刑を待つばかりであったサンビタアの運命を決定したのは、貴族である妹を生かすために死刑に猛反対し、死刑よりも思い刑罰とされる亡骸島への流刑罪を提案したサンビタリアの実の姉であった。彼女は亡骸島を出入りする船や人の公式記記録を徹底的に調べ上げ、その果てにP2という男を見つけ出し妹に宛がい、現在に到る。サンビタリアの姉君が赤目製薬本社のことまで知っていたかどうかは本人のみぞ知るところだ。

そういった経緯があった為、サンビタリアとP2は公式には1週間も前から結婚しているが会ったのは今日が初めてという奇妙奇天烈な状態にある。今まで結婚の実感が湧かなかったのも無理ないことだった。

「心配は要りませんよ。社長は仕事ならキッチリ出来るのですが、プライベートとなると途端に無口なポンコツになる質でして・・・・・・。会ったばかりではありますが奥様のことはとても大切になされてます。でなければ、防衛第二小隊を部隊ごと護衛に回したりしません。」

確かに、何やら失態を犯したらしいとはいえ、一個人の護衛に小隊を派遣するのは少し大仰だ。

貴族であるサンビタリアはもっと大勢の護衛に囲まれた経験があるが、それは催事などの特別な時だけのことであり普段の護衛は侍従のガーネット1人だけだった。なのに大手とはいえ一企業の社長夫人でしかない自分を守る為、普段から1部隊を護衛に回すというのは、見ようによっては過保護を通り越して一種の束縛にさえ見えるかも知れない。

「そ、そうですか・・・・・・ぴぃつぅ様が私のことを・・・」

が、サンビタリアはそんなこと考えもせずに無邪気に喜んだ。


 「ガーネット、今夜はもう寝ましょう?色々あって少し疲れちゃったわ。」

夜、サンビタリアとガーネットは宛がわれた地下十二階の自室で今日一日を振り返っていた。

「今、空いてる部屋で1番にいい部屋」と、カッタッパが胸を張ってプレゼンしただけあってサンビタリアたちの部屋はかなり広く設備も充実しており、地下六階に食堂と大浴場がある為キッチンや風呂は無いし、大きな冷蔵庫や最新式の空調機が設置されている。今日来たばかりなので当たり前だが、家具の類いはまだ彼女たちの好みのものを購入しておらず、代わりにモノクロ調のシンプルだが良質な家具が置かれていた。更に、透明な硝子窓の向こうは海中になっており、魚たちがユラユラと身体を揺らし踊る自然の芸術を何時でも観賞することが出来た。

お陰で2人は事前に予想していたよりもずっとずっと素敵で快適な部屋で、仲良く並んだシングルベッドに腰掛けてゆっくりとリラックスすることが出来ていた。

「いえ、私は護衛に着きますので・・・」

「護衛なら防衛第二小隊のみなさんが居るでしょう?」

「お言葉ですがお嬢様、防衛第二小隊の主はお嬢様ではなく・・・」

「ええ、私の夫の部下よ。それがどうかして?」

「確かにこの巨大地下施設には驚きましたがそれだけです。あの男は信を置くに足る要素を何も見せていません。寝ている隙に何をするか分かったものでは・・・「それ、寝ている隙を伺う必要はあるの?」」

ガーネットは言葉に詰まった。目の前の主の言葉は全くもって正しかったのだ。

今のサンビタリアは他に行くところも頼れる相手も居らず、残った財産は生まれ持った身体と身につけた服、そして今も自分を心配してくれている忠臣1人だけだ。赤目製薬という巨大組織を擁するP2が本気でサンビタリアを襲おうと思えば、隙を伺うなんて狡っ辛い真似をする必要は無い。ただ、圧倒的な経済力と武力で強引にことを運べばいい。

「どうせ抗う力なんて無いんだから、ただ何も考えず流されるより信じて身を任せる方が建設的よ・・・・・・。なんて、私もちゃんと信じられる自信は無いのだけどね。でも、頑張って信じてみるわ。」

「2度も捨てられるのはゴメンだもの」。その一言をサンビタリアは呑み込んだ。

 赤い目のマーク……赤目製薬のシンボルマーク。

キャッチコピーは「赤い瞳で希望を見据える」

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