桜守 9話
「ペタルでいい。カレンだな。わかった。ではニクを食べていいか?」
「そういえば持って来たままだったな。どうぞ遠慮なく食べてくれ。」
「あら?食事中だったの?待たせてしまってごめんなさい。っと、私達の夕食も用意しなくちゃね。」
カレンは夕食を用意するために調理場へと向かう。
「追加でペタルの分も用意してくれ。ペタルも食べるって。俺も手伝うよ。」
「でもあのお肉は?」
「あれはおやつだってさ。」
「そうなの?流石魔獣、高魔獣ね?」
ヒガンもカレンと会話をしながら夕食の準備を手伝うために調理場へと入っていった。
「じゃあわんちゃん、ぺたるちゃん?ここにすわって、めしあがれ?」
いつの間にか目が覚めてハキハキと動けるようになったヨシノが、テーブルに置かれたニクに一番近い椅子へと促してくる。
「オレはユカのほうがいいのだがな……」
「おぎょうきがわるいわよ!」
カレンにでも言われてるのだろうか、床という言葉に反応して、ヨシノが頬を膨らましてオレの発言に抗議する。
「ワカッタワカッタ。」
大人しくヨシノの言う通りに促された椅子へと登る。
「いいこね?」
ヨシノはオレの隣に座り、オレの身体を撫でて満足したように頷く。
「デハ頂くとするか。」
これでようやくニクを食べれる。ヒガンが持ってきてからずっと匂いだけ嗅いでいたんだ。
オレは少しだけ冷めたニクを頬張る。
少々硬いが、むしろ噛みごたえがあってこれはこれで旨い。焼いたことによりさらに身が縮み、旨味が凝縮している気がする。
元々オレが食べ残した部位が焼かれているわけで、硬い腱近くの部分や骨の近くのニクが殆どではあるが、ニクは骨の近くのほうが旨いと知っている。
知ってはいるが、苦労して骨近くのニクだけ削ぐように食べても少量しか食べれないし、必要になれば骨ごと噛み砕いて食べはするが、その時は味云々なんて言っていられない。
ニクだけを食べられるように加工をしてこそ、その旨さは感じられるのだ。
そして何よりも、この焼いたニクには塩がかけられている。
かけられた量はほんの少しではあるが、この塩気がニクの旨味を何倍にもしてくれていた。
自然に生きていても、岩塩や岩を舐めて塩気を摂ることはあるが、当然、ニクとは別々に摂ることになる。
このように人の手によって調理された『料理』としてニクと一緒に食べることで、食べ物をより美味しく食べることが出来る。
久しく食べていなかった『料理』を噛み締めて、頬を緩ませている自分に気づいた。
「……ウマいな。」
自然に声が出てしまった。ヒガンの家に来てから気が緩み過ぎているな。
「よかったね?」
ヨシノがオレの呟きを聞いて、笑顔を向けてくる。
やはり親子ということか。その笑顔にはどことなくヒガンの面影が見えた。
「アア、ウマいぞ。リョウリを食べたのは久しぶりだ。」
「そうかい、そいつは良かった。ただ適当に肉を焼いただけなんだがな。」
ヨシノに向けて返した言葉だったのだが、調理場からヒガンが出てきながら会話に入ってきた。
「ム。早かったな。」
「野菜切るくらいしか手伝うことないしね。あ、器並べるのもあるか。」
そう言って手に持っていた器を並べていく。
「いつも通りのパンとスープの夕食だが、それでもいいのか?」
「アア。オレにとってはフダン食べられないモノだ。むしろ楽しみだ。」
「そうか。ならスープが出来上がるまでもう少し待っててくれ。っと、そうだ。」
おもむろにヒガンが戸棚へ向かい、赤い液体で満たされた瓶とグラスを持ってきた。
「お望みのモノだ。俺はグラスだが……ヒガンは深皿でいいのかな?」
「サケかっ!それはワインだな?」
ヒガンは笑顔でオレの前に置かれた木の深皿にワインを注いで、自分のグラスにも注いでいく。
「安酒だよ。よし、乾杯しよう。俺とペタルの出会いに。」
ヒガンがグラスを俺の方に向けて掲げる。
「オレは持てないがな。ヒガンとの出会いに。」
オレもヒガンに習い、言葉と共にワインの入った器を少しだけ奥へとずらす。
さて、久しぶりのサケだ。オレは喉を鳴らして深皿に満たされたワインを飲む。
鼻へ抜けるブドウの甘い香りと同時に皮の渋さも感じる。喉を通ると酒精が身体を熱くする。
一息に注がれたワインを飲み干して、満足した息を吐く。
ウマい。やはりサケは良い。
サケを飲むと気分が上がり、高揚した感覚を味わえる。それがとても気持ちがよく、なんともいえないのだ。
「いい飲みっぷりだな。久しぶりなんだろ?あまり急いで飲むなよ。」
ヒガンもグラスに注がれたワインを飲み干している。
「やはりサケはウマいな。オレは酔いはするが、どんな飲み方をしても酔いつぶれることはないから安心しろ。」
「それはそれで恐ろしい発言だな。酒の在庫はあまりないから程々で頼むよ。」
「ムウ。仕方ないか。まだ取引も終わってないしな。」
少し残念だが、今日はヒガンの奢りのようなものだ。無理は言えない。
「取引がうまくいったら、しっかりサケを頼むぞ?」
「はいよ。今回のイノシシは恐らく結構な額になるだろう。すぐには無理だが、期待しててくれ。」
ヒガンは腕の良い狩人でもある。部位の価値はわかってるだろうし、商人の真似事もしていると言っていた気がするので、うまくやってくれるだろう。
「アア。タノシミにしてる。」
ヒガンがまたワインを注いでくれていたので、今度はゆっくり楽しむことにしよう。
ヒガンはワインを、オレは焼いたニクとワインを楽しんだ。
それをヨシノが楽しそうに見つめている。「おさけくさーい」とも言ってはいるが、本気で嫌ってる感じではない。
「おまたせ、あら、もう随分楽しそうにしてるわね?って、ペタルちゃん、お酒飲んでいいの!?」
カレンがスープの鍋を持って調理場から出てきた。オレがサケを飲んでることに驚いているらしい。
「モンダイ無いぞ。動物とは違うからな。」
「そう……ならいいけど、具合が悪くなったらちゃんと言ってね?あ、あなた、パン取ってね。」
慣れた手つきで鍋からスープを各々の皿によそっていく。
少量のニクと数種の野菜が刻まれて入っている簡単なスープで、ジャガイモが入っているからだろうか、少しとろみのついたスープだった。
「ペタルちゃんも食べるって聞いたけど、いつもと変わらない粗末な食事よ?本当に食べる?」
「アア。頂こう。俺にとっては火が入ってるだけで普段食べられないゴチソウだ。」
「ごちそうだなんて言われると恥ずかしいけど、そういうことなら遠慮なく食べてね。」
ワインとは違う深皿にスープをよそって貰い、ヒガンの取ったパンがテーブルの真ん中に置かれる。
「ありがとうカレン。じゃあ、頂くとしようか。ヨシノもしっかり食べるんだよ。頂きます。」
ヒガンが簡単な食前の言葉を口にして、目の前で手を合わせる。
「頂きます。」
「いただきまーす!」
それに続いてカレンとヨシノが手を合わせる。ヨシノは手を合わせてるかどうか分からないくらいの速さで既にスープに手をつけ始めている。
「イタダキマス。」
オレも習って食前の言葉を言う。
そして早速、目の前に置かれているスープを口にする。
これもウマい。先程の焼いたニクのようにシンプルな旨さではなく、ニクや様々な野菜のエキスがスープに溶けて、深い旨味を出している。
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