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桜守  作者: 阿達 麻夜
桜守という男
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桜守  3話



「構わん。森を見張ると約束したしな。ソレニ、オレにとっては食料を手に入れるついでのようなものだ。」


「森の中で生活してたらそりゃそうか。なんでも自給自足だもんな。……そういえば確かにちゃんと見たらアンタの身体に所々汚れが目立つな。ちゃんと洗ってんのかい?」


「ム?しっかり水浴びをしてから来たんだがな。まだ汚れが取れてなかったか。これではイカン。」


 オレは自分の腕をさする。


「水浴びねぇ……森の中じゃそりゃ風呂もないか。」


「そんなものは無い。というか、他人との交流を捨てて生きるようになってからは偶然見つけた入れる温泉にしか入っていないな。」


 以前、他の者と行動を一緒にしていた時代には温かい湯が湧き出る温泉近くに集落を作っていたので、湯を使っていた。あのときはとても快適だった。


 この森に住処を作って辺りを見て回ったときに温泉の類は見つかられなかったので、当然この森に住み着いてからは近くに流れる川で水浴びするだけで、温かい湯には入っていない。


「そうだよなぁ……普通は。 よし!いいことを思いついた。ペタルには森の用心棒やらで色々世話になるだろうし、俺からの礼だ。コイツの世話が終わったら俺の家に来いよ!」


 いつもの笑顔で楽しそうにオレを見る。


「ハァ?別にオレがオマエの家に行く理由なんてな───」


 オレが言い終わる前に食い気味でヒガンが続ける。


「風呂!あるぞ!」


「オ、オゥ、ソウカ。」


 ヒガンの勢いに何を言っていいのかわからず、こう言うしか無かった。








「さて、今日のお勤めも終わったかな」


 ヒガンが大桜の掃除を終え、枝を調べてメモを取った後、大桜を見上げて一息つく。


「よし、じゃあ行くか。」


「本当にいくのか?オレはベツにフロはいいぞ?」


 ヒガンがオレを家に招待して以降、とても上機嫌で作業をしていたので、断ることも出来ず、声をかけることも出来ずにこの時間まで放置してしまった。


「いいことを思いついたんだぞ?もっと喜んでくれてもいいと思うんだがなぁ。」


「ではその内容を話せ。フロがあるぞだけじゃ何もわからん。」


「教えたら面白く無いじゃないか。それに、風呂があるって言ってるじゃないか。それが全てでもある。」


「ムウ」


 どうやらこうなってしまったヒガンはとても面倒くさいようだ。


「それに……俺がペタルに声をかけたとき、覚えてるか?」


「アァ。覚えているぞ。オレは茂みに隠れていたつもりだったが、そういえばあのとき、何故オレがいるとわかったんだ?」


 そう尋ねると、ヒガンが少し申し訳なさそうに続ける。


「実は前々から何かがこの辺に来ているのは何となくわかってたんだ。……その……なんていうか……独特の匂いが残っててな。」


「なんっ!? オレがクサイってことかっ!!」


「いやそこまでは言ってないだろ?香ばしいというか、太陽の匂いを強くしたというか。」


「もういいもういいヤメロ!!」


 正直にいえば、冷たい水はあまり好きではないのだが、だからといって身体の汚れをそのままにしているということは断じて無く、むしろ自然の中で行う狩りのために匂いに関しては注意していた。決して汚れて臭いということは無いはずだ。


 流石に毎日水浴びしていた、とは言えないのは確かだが、狩りをした後は必ず水浴びをしに川まで行っていたし、少し本気で動いたときにも行くようにしていた。むしろキレイ好きといってもいいように思える。


 しかし、オレの匂いはヒガンが感じられるほどの匂いを出しているということになる。オレの体臭が……


「このオレが……クサイのか……クサかったのか……」


 オレは力なくうなだれるように身体を倒して全身を地面に預けた。


「いやいやだから別に臭いとは言ってないだろ?独特の匂いがしたって。」


「それがもうクサイと言っているようなものだとわからないか?」


「うーん……俺は嫌いでは無い匂いではあるんだがなぁ……」


「オマエの特殊な性癖で慰めてもらわなくてもいい。ソウカ……」


 他の者と交流しなくなってからというもの、今までは匂いなんて水浴びすれば大丈夫だろうと特に気にしていなかったし、狩りにも日常生活にも不便に感じたことは無かった。


 だが、今まさにヒガンと関わっているわけだし、これからはそんなことも言っていられない。というか、オレが知ってしまったし、オレ自身がこのままにするのを許せない。


「……ヨシ。オマエの家に行くぞ。フロに入らせろ。直ぐにだ。」


 オレは身体を起こし、ヒガンの目の前まで顔を近づけて言った。


「お、おぅ、行こう、か。」


 ヒガンはペタルの勢いに負けたように身体を少しだけ引いた。









 それからオレとヒガンは、ヒガンの家へと向かっていた。


 森の中を通るのだが、道と言える道は無く、とても進み辛い。


「オイ。どうしてこんな場所を通るんだ?オマエは少なくないヒンドで大桜の所へ行っているだろう。道は無いのか?」


「道は作って無いなぁ。というか道を作らないように何度も同じ道を通らないとか、色々工夫をしてるくらいだ。一応大桜は俺の一族が守ってる宝ってのもある。まあ別に隠してるってわけでも無いんだが、あまり知られて周辺が知らん奴らに荒らされるのも気分が悪いしな。」


「ナルホド。確かに大桜を荒らされるのは不快だ。多数の人間同士で暮らすと便利ではあるが厄介事が多い。賢明な判断だな。」


 オレもそういう類で他者との交流を止めた側面もある。


「まあ、大桜に続く獣道くらいなら作ってもいいと思ってるよ。そこまで警戒しなくても、俺が暮らしてる場所はそこまで人数がいるってわけじゃないし、そもそも────」


 ヒガンが話している途中に突然背中に担いでいたロングボウを手に取ると、素早く矢をつがえ、前方の茂みに向かって射る。


 素早く流れるような動き。幾度となく繰り返しているのだろう。あれは身体に染み付いてる動きだ。


 ヒガンが先程矢を放った茂みに近づき、見事に仕留めた小型のモグラのようなウサギを手に戻って来る。


「言ったろ?そもそも、この森って結構危ないんだよ。油断してるといくつ命があっても足りない。普通に暮らしてる人はほとんど入らないんだ。」


 手に持ったウサギは、通常のウサギと比べて前歯は太く長いし、特筆すべきは前足が大きく成長しているところだ。


 これは、このウサギが土を掘って移動し、住処にすることから強靱に発達したのだろう。


 当然その強靱な前足は土を掘ることだけではなく、身の危険を感じたときに土を掘って逃げる以外に、相手に攻撃するときにも使われる。


 大きく発達した前足とその先にある鋭い爪での攻撃は、まともに食らってしまうと作りの甘い革鎧程度なら簡単に引き裂いてしまうだろう。


 前歯が長く、前足が大きい。とてもウサギには見えない容姿のように思えるが、これがウサギと言われている所以が、ウサギ然とした大きな耳の存在である。


 その耳は細長く、茎を包むように生えている葉のように縦に少し丸まっている。


 その耳で周囲を警戒し、逃げるときは土を掘って逃げ、襲撃するときは発達した前足で襲いかかる。戦い方を知らない普通の村人では出会ってしまったら太刀打ち出来ないだろう。


「フム、一撃か。オマエは弱いと思っていたが、中々腕が立つようだな。」




一話3000字程度

週2回更新予定です。


次回は02/01(金)朝6時に更新予定です。

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