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僕と白猫とときどき魔術  作者: 藤ミサ
3/3

聖なる光

 遥か昔。それはまだこの地球上に人の姿がなかった頃の時代。当時、この世界は一つの大陸となっていた。その名は、超大陸パンゲア。勿論、バルドルが生ける三日月島もその一部であった。

 そして、そこに存在する4つの生命は後に獣、天使、悪魔、妖魔と呼ばれた。そして、とある日を境にパンゲアは崩壊し、散り散りとなった。

 後のアメリカ大陸には悪魔。後のヨーロッパには天使。後の日本という島国には妖魔。そして後の三日月島には獣が存在した。

 こうして離ればなれとなった4つの生命はそこで自らの文明作り、繁栄し始めた。だが、そこから、領土拡大を狙った争いの時代へと発展していってしまう。。。






 突如発せられた白光はクローブを包んだあと漸減していった。

「………あれ。」

 クローブの攻撃こ何らかの衝撃を想定していたバルドルが不思議に目を開く。そこには、

「よ……くも。」

 剥がれた大地に、四つん這いで息を切らした一人の男。眼にかかった割れた眼鏡からクローブだとわかった。

「なんで、クローブが……倒れているんだ?」

 光景に理解できないバルドルが首をかしげる。だが、もうクローブは苦しげに地面に突っ伏していた。

「……この勝負、レン・バルドルの勝利……。」

 ポカンとしていた教師がハッとしてジャッジをする。少し認めたくないようだったがこれだけの人数をまえに勝利を収めた以上口出しはできなかった。

 こうしてバルドルは思わぬ形で退学を免れた。





「はぁ。」

 ここ最近続く戦いの疲れによってか、あるいは現在進行形で向けられている周りからの視線からか、バルドルは溜め息を吐いた。

 先程の戦いによって無事、退学を免れたが、αがδを打ち破った衝撃はかなり大きく、瞬く間に噂として広まっていた。

 ガラガラ

 ドアを開け、講義室のような教室の机に荷物を下ろす。クローブとの退学をかけた戦いが長引いたのかクラスメートの大半が教室にいた。

(ここでもみんなに見られているような...)

 噂は人を介してここまで広まっていた。

「とりあえず用具をとりださないと...ってえぇ!?」

 時間もギリギリだったため、慌てて用具を取り出そうとしたときだった。羽ペンや革のノート共になにか見覚えのある物体が。

 まさかと思い再度確認するもそれは確信と言う名の諦めに繋がるだけであった。

「どうしたバルドル?」

「ひゃっ!」

「なんだよ変な声だして。」

 突然肩に手を置かれ、驚き振り返ると金髪で整った眉毛をした青年がいた。勿論身に付けているのは白色のローブである。

「な、なんだレッカか...あはは。」

「いや、毎日ってくらい顔合わせてるんだからそこまで驚くことないだろ?」

「と、ところでなんのよう?」

「いや、とくに。ていうかお前なんか隠し事でもあるんか?露骨なほど目が泳いでるぞ――――」

「またあとで!」

 レッカと呼ばれた青年がバルドルを訝しげに覗きこんだのに危機感を感じて、会話を切り上げたバルドルは授業間近なのにも関わらず逸走した。なぜか鞄を持って。

「なんなんだよ、まったく。」

 一人残されたレッカは思案顔でそう呟くのだった。





「はぁ、はぁ、ここまで来れば大丈夫かな?」

 鞄を抱えたまま全力疾走したバルドルが最終的に行き着いたのは男子トイレの個室だった。

 そして、息を落ち着かせて唾液を飲み込み

「で、なんで君がいるの?」

 と抱えていた開きかけの鞄に話しかける。否、正式には鞄の中に住み着いていた純白な猫なのだが。

 鞄の中が気に入ったのか、それは満更でもなさそうな表情でうたた寝をしていた。

「全くもう、留守番できなかったのかい?」

 問いかけに答えることなく、まだ気持ちよさそうに寝ている猫、もといネムに吐息混じりに二つ目の質問を投げ掛ける。

 すると、むくりと起き上がったと思うと猫らしく伸びをし、

「バルごめん。我慢できずに付いてきちゃった。」

 と言った。

「今回は運よく正体がばれなかったけど、もしばれていたら君は今頃殺されていたんだ。だから今度からは気を付けるんだよ。」

 バルドルは叱ることを好まない。それは師匠からよく

「叱ったり、怒鳴ったりするのは大切な物を奪われた時だけでいいんだ。それ以外ではしてはいけない。」

 と言われていたからだ。だからバルドルは叱ることなく反省を促すだけにした。

「わかった。気をつける。でも今日でわかったことがある。この学園は危険。私がいなかったらバルは退学になっていた。」

 小さな子猫の眼からは強く訴えていることがわかった。

「私がいなかったらって....まさか!クローブを倒したのはネム!君だったのかい?」

 ネムがコクりと頷く。

 獣人の魔力は人を凌駕しているというのはどうやら本当らしい。

 バルドルは自分の傍に置かれた猫が如何に未知の存在なのかを痛感し、溜め息をつく。

「バル?」

「あー、うん、なんでもないよ。」

 溜め息に反応したのかと思い慌てて返答する。

「いや、そうじゃない。」

 だが、ネムは不満そうな表情を浮かべ俯く。

「ん?どうしたんだい?」

「言いにくいんだけど、漏れそう。」

「え?えぇぇぇぇ!」

 ネムの口からでた言葉を瞬間的に疑うもバルドルは驚愕した。

「だからバル、元に戻りたい。」

「え、我慢できないの?!」

「まずいかも。」

 心なしかネムの表情が青ざめているような。なんで早く言わなかったんだ。

「わ、わかった。とりあえず外に出るから――――」

「やっべぇー、さっき行くの忘れてたわー。」

バルドルが扉の取っ手に手をかけた瞬間、どこかで聞いた陽気な声が聞こえてきた。

「こんなときに、レッカか。」

恨めしそうに吐き捨て、鞄を覗きこむ。

「バル、もう、、、無理。」

生まれたての小鹿のように身体を震わすネムがいた。

「どうすれば、、、、わかった。扉のほうを向いてるからはやく済ませて。」

悩んだ末、バルドルは顔を赤らめネムにそう伝えた。

「わかった。いまから戻る。」

変身の際光を放つが、余程我慢していたのかレッカは気づいていない。

だが、

ムニッ

なにか柔らかい感触が背中に。同時にバルドルが声を上げそうになる。

「バル、、、狭くてできない、、、、。」

「この男子トイレ狭すぎるよ。このままじゃ。」

ネムの体温が伝わり更に体が暑くなる。乾いたはずの汗がまた吹き出してくるのがわかった。体の水分の流れが皮膚を伝うのさえも。

(こんなところレッカに見られたらまずい!)

「バル、、、もう、、、げん、かい、かも。」

「も、もう少しだよ!」

口調からも更なる危機を感じてバルドルが振り返ると。

ヒャン!

「バル!そこはダメっ!動いちゃ、、やん!」

「ご、ごめん!てかなんで裸なの?!」

振り向いた瞬間に肌色が視界に広がりバルドルは早急に視界を戻した。ネムの震えがバルドルの身体に伝わる。

(レッカのやつ遅い!はやく!)

ハァハァっ

ネムの生暖かい吐息が耳に触れる。ネムの身体が徐々に凭れかかるのがわかる。さっき動いたせいで変な刺激が入ってしまったのかもしれない。

だが、用をたせたのか洗浄水の音が聞こえる。

「あと少しだよ。」

小声で語りかける。

そして人気が去るのがわかった。

「もうだめぇ。」

「ま、まって!今すぐ出るから!」

そしてバルドルが今度こそ扉を開ける....はずだった。

「お前らここでなにやってんだ。」

そこには汗を浮かべたレッカその人が立っていた。















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