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神に愛された異世界転移  作者: 筧 麟太朗
9/16

八話

 遅くなりまして申し訳ないです。


 さて、一悶着ありまして。

 ――あんなに騒がしかった妖精は大人しくなって俺の肩の上に腰を下ろしていた。


「なぁ、そろそろ帰ってくれてもいいんだぞ?」


「え、そんなの嫌ッじゃなくて! 私を引き留めていたのはあなたの方でしょ、あんなに頑張って引き留めるからここにいてあげてるだけよ。なんか文句ある!?」


「最初に引き留めていた、というか閉じ込めたのは確かに俺なんだけど……」


「ならばこの妖精の里の長、シルヴィアに感謝こそすれ、文句を言う筋合いはあなたにないわ!」


 キャラ崩壊しちゃってるな、こいつ。


「長って言ったって次期、だろ? しかも交代までにはあと百年近くあるとか」


「まあ人間と違って寿命はないから」


「しかもその長も日直みたいなもので、里の民全員に順番に回ってくるしなぁ?」


「う、別にだからと言って権力者には変わりないわよ!」


「次期、だけどな」


「この馬鹿! 駄目人間! アホ!」


「駄目人間は傷つくんでやめてください」


 何故こんなに妖精、シルヴィアと仲良くなったか。それはついさっきの出来事だった。







「離しなさいよ! この馬鹿!」


「うっせ! チビ! 立場分かってんのか!」


 俺とシルヴィアの口喧嘩は途轍もなくヒートアップしていた。

 手の中でもがく妖精とそれを怒鳴る人間、酷い絵面だな。

 そんな中、廊下をどたばたと走る音が聞こえる。

 あ、これはマズいな。咄嗟にそう感じて騒ぐ妖精を布団の中に押し込めると、


「どうした! 何かあったか!」

 

 鬼のような形相のブコツが部屋に飛び込んできた。

 あー、既視感。


「い、いや、何も……無いですよ?」


 額には汗をかきあからさまに布団を気にするように目を逸らす俺。

 そんな様子を見たブコツは勘のいいことに――いや、俺の嘘がポンコツ過ぎただけか……。


「いや、怒鳴り声が聞こえてきたんだ、――まさかとは思うがあのマミルクがまだ生きていてこの家に!?」


「いやいやいやいや。落ち着いてください、ブコツさん。あいつはシャルルを残して跡形もなく消え去ったのを見たでしょう? まさか生きてるなんて」


「ならば、お前がさっきから気にしているその布団の中を見せて貰おうか?」


「え?」


「まさかダメなわけ無いよな?」


 近寄ってきて凄むブコツ。駄目だ、鬼に凄まれたらちびりそう。どっかに替えの鬼のパンツとか落ちてないだろうか。そしたら俺もビビらなくなるかもしれない。でもブコツのパンツは吐きたくないな……。


「え、ええ。もちろん平気ですよ」


 俺は布団から退くと同時にシルヴィアを自分の服の中に詰める。


「な、何をする! 止めろー!」


 シルヴィアが何か言っていた気がするけど気にしない。死ぬよりましだ。


「なんもねえな、疑ってすまなかった」


 しばらくして布団を調べ切ったブコツが申し訳なさそうに言った。


「大丈夫ですよ、ブコツさんは俺のことを心配して来てくれたんですから」


「そうか、それならよかった」


「そういえばシャルルとエアリエルは?」


「ああ、あの娘たちなら昏睡状態の村人を介抱してくれてるよ、俺も手伝ってやりたかったが――もっとつらい仕事が残ってるからな……」


 恐らく殺されてしまった村人のことだろう、どこかに埋めたのだろうか。

 悲しそうにうつむいたブコツに俺は何も声をかけることが出来なかった。


「おい、お前まで悲しい顔すんな。お前は俺たちを救ってくれたんだ、何も気に病むことは無い。胸を張れ」


「うん、ありがとう。ブコツさん……」


「いいんだ、気にするな。それともう動けるならシャルルとエアリエルのところに顔出してやってくれ、場所は村の会議場だ。この家を出て右へまっすぐ行けば着くからな。」


「はい、分かりました」


 沈痛な面持ちのまま俺が頷くと、


「――あの娘たちのこと、頼んだぞ」


 ブコツにすれ違いざまにそう言われた。


 バタンと玄関の扉が閉められる音がして、それから俺にできることは無いか、暫くそう考えていると、


「はぁ、良い匂い……」


「腹がしゃべった!」


 じゃなくて。

 ブコツが出て行ったというのに妖精はまだそこにいた。

 

「何してるんだ?」


 気になって服の胸元から覗くと、


「ふわぁー」


 と酔っ払いのように気の抜けた表情で服の裾に掴まって匂いを嗅いでいるセクハラ妖精がそこにいた。


「おい、何してんだ」


 そういって洋服の外側からつついてみる。


「えー? なにぃ? 今いいところだから邪魔しないで」


「お前人の腹の上で何してやがる」


 妖精を捕まえて引きずりだすと、


「しょうがないじゃない! 良い匂いだったんだもん!」


 変態が開き直りやがった。


「今失礼なこと考えたでしょ!」


「いや? ごく普通に変態妖精が変ないいわけしてるなって」


「それが失礼っていうのよ!」


「人のにおいで発情してるチビに言われたくないな!」


「なんですって! これにはれっきとした理由があるのよ、認めたくないけどね」


「理由?」


「そう、あなたがあのエネルギーを異常なスピードで吸収している時にもしやとは思ったけれど」


「あの植物の……? それが何か関係あるのか?」


「はぁ、無知な人間ね。いいわ、一から説明してあげる」


「無知って……」


「はん! 事実でしょ、いい加減認めなさい。この馬鹿」


「何を! また服の中に詰め込んでやろうか!」


「それはむしろ嬉しッ――じゃなくて! 聞きなさいよ、話を!」


「お前が無駄にからかってきたからだろうが!」


「はいはい、ゴメンナサイ。これでいい?」


 チッ、こいつずっとおちょくってきやがる。いつの間にか敬語、というかお嬢様キャラどっか行ってるし……。


「はぁ、分かったよ。それでいいから教えてくれ」


「そもそも妖精は自然エネルギーから出来ているのよ」


「え、それってこの綺麗な石と同じ?」


 俺はポケットからエメラルドに輝く石をシルヴィアに見せる。


「そう、ただそれは妖精の成り損ないね。それは主に一つの種類の樹木からできた結晶体よ。私たち妖精は最低でも二種類以上の樹木の掛け合わせから出来ているの」


「ほお。有精卵と無精卵みたいなもん?」


「そうね、考え方は間違っていないわ」


「それで? シルヴィアが俺の体臭をクンカクンカする理由は?」


「ムカつくわね、その言い方!」


 小さい頬っぺたに精一杯空気を入れて「この馬鹿!」と叫んでいる。こう何回も繰り返しているともはや実家のような安心感があるな。


「それでね。妖精は基本的に森に棲んで森から自然エネルギーを取り込むことによって半永久的に生き続けることが出来るのだけど、稀に外の世界を夢見て森から出て行っちゃう子たちがいるのよ」


「おい、それ大丈夫なのか?」


「いいえ。大丈夫じゃないわ。私たち妖精は森の中でしか生きていけない。この森から出れば少なくとも一年以内には自然エネルギーが切れて、存在が消滅するわ」


「そんなに外の世界に……」


「まあ無限の生を授かっているのにも関わらず一生森の中だから……。そういう行動に出るのも共感できるわね」


 俯いてそう語るシルヴィア。


「――」


 そんな彼女を前に俺は何も言えなかった。


「それで本題のあなたの匂いについて……なんだけど」


「お、おう」


「あなたからは強い森のにおいがするの」


「森の匂い?」


「ええ、おそらくあなたは伝説の『妖精を統べるもの』なのだと思う」


「『妖精を統べるもの』?」


「ええ、数百年に一人自然エネルギーを体内に完全に取り込んで消費することなく、自分のものとして循環させることが出来る人間が生まれると言われているの」


「そ、それが俺だって?」


 少しニヤついてしまう。『妖精を統べるもの』何という主人公属性の強そうな名前なんだろう! かっこよすぎる!


「だからシルヴィアは俺の匂いが好きなわけか」


 嬉々とした感情を押し殺してあくまで冷静に対応する。


「そう。そして『妖精を統べるもの』にはもう一つ大きな特徴があるの」


「大きな特徴?」


「ええ、それは妖精を外に連れていけるというもの」


「だから『妖精を統べるもの』なのか!」


「妖精は数百年に一度、しかも自分の森に訪れる可能性はごく僅かの『妖精を統べるもの』を見つけると大勢で付いていったそうよ。その様子をたまたま見た旅人が妖精を統べていると勘違いして付けたみたい」


「成る程な。要するに俺は数百年に一度の逸材ってわけか!」


 フンスッと、勢いのいい鼻息を漏らしながら今世紀最大のどや顔をして見せる。


「悔しいけどその通りね、あなたは逸材よ」


「へへへ、ありがとな」


「本気で照れんなこの馬鹿!」


 いつも通りのやり取りを終えてお互い見合って笑いあった。

 さっき会ったばかりなのに旧友のようだ。


「いろいろ教えてくれてありがとうな、助かったわ」


「いえ、こちらこそ久々に人間と話すことが出来て楽しかったですわ」


「正直言ってそのキャラ、キツイからやめた方がいいぞ?」


「うっさい、この馬鹿!」


「でも久々ってどういうことだ? 俺以外には見えないのか? でも確かに初めて会った時も見えないのを前提で行動してたような」


「……昔はみんなと話すことが出来たわ。でも最近は森の自然エネルギーが弱まってきてあなたのように素質のある人間しか目視できないの」


「それ駄目なやつじゃないか! シルヴィア消えちゃうのか!?」


「フフッ、なんで知り合ったばかりのあなたが心配するのよ。大丈夫これでもあと三百余年は生きていけるわ」


「ひえっ、おばあちゃん――」


「次言ったら殺す」


 シルヴィアから鋭い殺気が……。こわっ。


「それに最近は黒の獣使い達がこの森を闊歩しているから住ずらいしね……。誰か退治してくれないかしら」


「あ、それなら俺が倒したぞ」


「は? いまなんて?」


「だからその黒の獣使い? の長は俺が倒したって――」


「はぁ、いくら妖精を統べるものだからって、出来ることとできないことがあるわ。弁えて」


「あ、すいません」


 なんで倒したのに俺が説教されなければならないのか……。まあラッキーパンチというかラッキー威圧のおかげで勝てたようなものだから自慢するようなことでもないのか……。


「まあ、とりあえずシルヴィアは森に帰っていいぞ。知りたいことも知れたし。ありがとうな」


「え?」



 と、やっとここで最初に戻るわけだ。長い長い回想だった……。


「でもついてきてくれるなら好都合かもしれない」


「ほら! 私死ぬほど役に立つんだから!」


「お前一体どこまでついてくるつもりなんだ……」


「それはもちろん外の――」


「やっぱりか」


「――いいじゃない! 私だって外の世界を見て回りたいのよ!」


「別に駄目なんて言ってないよ。最初からそう言ってくれればいいのに」


「だって、バカ人間に頭を下げるなんて私のプライドが……」


「今すぐ里に帰れ。そして二度と姿を見せるな」


「ゴメンナサイ。連れて行ってください」


「はぁ……」


 意外なところで仲間を見つけてしまった。しかし最初の仲間がこのシルヴィアか……。でも妖精という点で言えば意外といいスタートかもしれないな、性格を除けば。


「いまなんか失礼なこと考えたでしょ、この馬鹿」


「いい加減口悪いな!」


「べー」


 俺に向かって憎たらしい顔であっかんべーしてやがる。握りつぶしてやろうか。


「はぁ……。とりあえず森に行くから道案内してくれ」


「任せなさい! 森のことなら隅々まで分かるわよ!」


「頼んだ」


 シャルルとエアリエルにはもう少し待っていてもらおう。もしかしたらマミルク率いる黒の獣使いがこの村に起こした惨劇を無かったことにできるかもしれない。

 俺はある人物に望みを託して、森に落とし物を探しに行ったのだった。


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