六話
更新遅れて申し訳ありません。
そもお詫びと言っては何ですが、今回の更新では四話分ほど文章を詰め込みました!やったね!
嘘です、切りのいいところまで書こうとしたら終わりませんでした、申し訳ありません。
読みづらいと思いますので次回からはしっかり区切って書きます。
出来ればね!
二人の少女とたわいもない話をしながらしばらく歩くと山道が現れ人工的に木々が切り開かれていく。
とうとう木でできた村の入り口、二メートルほどの高さの門が現れた。
そして無精ひげを蓄えたいかにも武骨そうな男が一人門の傍で槍を持って立っている。
「やっと帰ってきたか、エアリエルにシャルル。いくら弓の扱いが上手いからと言ってあまり遠くまで行くなと――! 誰だッ、その男は!」
「ゴメンナサイ!」
急に怒鳴られて槍を向けられたせいで反射で謝ってしまった、恥ずかしい、死にたい。
「待って待って! この人は森でグレイフットに襲われてて助けた? 人だから安心して、敵じゃないわ」
急な出来事にエアリエルがおっさんと俺の間に割って入ってくれる。
「何!? グレイフットだとぉ!? そんな凶暴な化け物がなんでこんな辺境の地に」
シャルルはおっさんをなだめるように冷静に憶測を語る。
「それは分からないわ、もしかしたら集落の少ないこのあたりで『黒の獣使い』が何か企んでいるのかもしれない。グレイフットがしかも単体でこんな人里離れた村に来るわけないからね」
「ならば、その後ろにいる男もそうなのではないか? 着ているものも黒ずくめだ、怪しすぎるだろ!」
「あー、ね。それは私たちも考えたんだけどこの人グレイフットに捕食されかけてたのよ。黒の獣使い達がそんなへまするわけないでしょう? まあ詳しいことは家で話すからとりあえず通してあげてくれない、お父さん?」
「父さん!?」
「「何!?」」
女子二人に守られてずっと押し黙っていた俺が急に声を上げたせいでエアリエルとシャルルを驚かせてしまった。
「そうだ、俺の名前はブコツ、シャルルは俺の愛娘だ」
真剣な表情だから嘘ではないのだろう。それにしてもブコツ! まんまかよ! てか近くで見るとほんとに熊みたいだなー、さっき襲われた化け物よりも迫力あるもん、うん。
「なんだ、俺の顔をジロジロ見おって。もしや何かしらの攻撃でも仕掛けようとしてるのか! くそ、この卑怯者めッ、成敗してくれるわ!」
再び槍を構えるブコツ。
「いやいやいやいや、違いますって! とりあえず槍下ろして、槍!」
しかし、懇願届かず一向に怪訝な目でブコツはこちらを見つめている。マズい、非常にマズい。このまま街に入れなければ最悪今日が命日なんてこともあり得るぞ、とにかくこのおっさんの機嫌を良くしなければッ……。
「あの――」
「なんだ! 黒ずくめのガキ!」
あーこれやばい。今俺の目の前にはおっさんの形をした死がある、うん。ていうか黒ずくめのガキってちょっとカッコよくない? ねえ、ジンとかバーボンとか、え? 著作権? 何言ってんの君、お酒の名前連ねただけでしょ――って、そろそろやめとこう。
「何ニヤニヤしてやがる、やんのか?」
もうヤンキーじゃーん! やっべえ向こうから明らかに柄柄の洋服着たヤンキー来るじゃん、避けようと思ってチラッとそいつの進行方向見た時に「何ガンくれてんだ、オラァ!」とかいってめっちゃ絡んでくるヤンキーじゃん! え? 妙に想像がリアルなのはまあ……人間誰しもいくばくかの心の傷を抱えながら生きて行くもんさ。
「やるなんてそんな物騒な」
しかしどうしよう……。チラッといつの間にか後退したシャルルに「救出求ム」と視線で訴えて見たが首を振るばかり。
エアリエル、助けてぇ! そのままの流れでエアリエルを見るとパクパクと口を開けたり閉じたりしている。何してるんだ? 少し凝視していると同じ口の動きを繰り返していることに気が付いた。
なんて言ってるんだ、お、や、――ば、か?
「親バカ」か! そうかそうかこのブコツとかいうおっさん親バカなのか、そうとすれば話が早い。しかし口の動きを日本語のまま受け取ったが本当に合っているのだろうか。神の力で俺の脳みそがこの世界に最適化したのだろうか?
そうなるとそもそも俺が話しているのは日本語? ウィンズ語? え、待って待って混乱してきた――
「おい、ガキ! 何難しい顔してやがる。言いたいことがあるなら早く言いやがれ」
ブコツはこちらを睨みながら槍を上段に構え、今にも突撃してきそうだ。そうだ、今は言語の心配をしている場合じゃない。自分の命を心配すべきだ。それに異世界転生もので言語のことやトイレとかにいちゃもんつけるのはタブーだしな!
俺は緊張しつつも大きく深呼吸をして「親バカ」というヒントを頼りに会話を始めた。
「もう一度お伺いしますが、その――シャルルさんのお父さんなんですよね?」
「そうだ、あと貴様にお義父さんと呼ばれる筋合いは無い!」
えええ、そこに反応する!? これは想像以上だぞ。でも俺にとっては好都合だな。
「すみませんブコツさん。他意は無いんですが。それにしてもお嬢さんとてもブコツさんに似てらっしゃいますね! 目鼻立ちとかもう瓜二つですよ!」
「そうか……」
そう言うとブコツは構えてた槍を下げそれと共に俯いた。
見たか! これが俺の褒め褒め作戦!親バカはとりあえず子供と親を同時に褒めてやれば大体機嫌がよくなるんだ! これが俺が小学生の時一切学校に来ない奴の家にプリントとかを届ける際に発見した技だ! あそこの母親本当に話が長かったなぁ……。娘さんは可愛かったけど。
俺はニヤ付きながら俯いたブコツにいけしゃあしゃあと声をかける。
「どうしました? ブコツさん」
「いやな、お前が相当なホラ吹きなのがイラついているところだ」
「ええ! なんで!?」
「いいか、よく聞け。俺とシャルルは親子だが血は繋がっていない。両親はシャルルが五歳の時にグレイフットに襲われて死んだんだ。それ以来シャルルの両親と仲の良かった俺がシャルルを引き取って父親代わりをしているってわけだ」
サーッと、全身の血の気が引いていくのが分かった。よく見るとブコツの槍を握る手は強すぎて震えている。
「だから俺はなぁ、その似ているだの似ていないだので親子を判別する輩が大嫌いなんだよ――」
顔を上げたブコツは人の顔をしていなかった。
「オラァ!」
途端怒りで満ちたブコツが俺に向かって襲い掛かってくる。
聞いてないよ! なんだよ、途中からシリアスな流れに持っていきやがって! エアリエルも! 親バカだって言ったじゃないかぁ!
咄嗟にエアリエルの方を見るとやっちまったな見たいな顔して首振ってやがった。許さん。てか俺が許されない。
そして異変に気付く。今までエアリエルの隣にいたシャルルが居なくなっているのだ。一体この短い間でどこへ? しかしブコツは考える暇を与えてはくれない。
「うわぁ!」
ブコツの槍をすんでのところで躱し尻もちをつくと、槍が股の間の地面に突き刺さっている。
「チッ、外したか。だが次は確実に息の根を止める」
その筋骨隆々な腕でズボッと槍を引き抜くと刃を俺の首に突き付けた。
絶体絶命――が、幸か不幸か背後から掛かったとある人物からの声で九死に一生を得た。
「人間同士の争いですか。いつになっても人間というのは全く醜い――」
「誰だ!」
その声にいち早く反応したのはブコツだった。
そしてエアリエル俺という順にその場の全員が後ろを振り向くと、そこには黒い外套に身を包み黒いハットを目深に被った男が立っていた。
「ひっ!」
思わず悲鳴を上げてしまった。何故ならその男は身長はゆうに二メートルを超え、顔は包帯でグルグル巻きになっていたからだ。よく見れば顔だけではない、普通なら肌が露出しているであろう場所はすべて包帯が巻かれている。
「誰だと聞いている!」
その声量に驚いてブコツを見ればターゲットは既に黒づくめの包帯男にシフトしているようだ、槍の切っ先が包帯男にまっすぐ向いている。
「そこまで大きな声を出さなくても聞こえていますよ。私は黒の獣使い所属、『マミルク』という者です、今後ともよろしく――いや、私が来た以上あなたたちに今後などありませんね、失礼しました」
マミルクと名乗った男は「フフフ」と不気味な笑みを浮かべながら名乗った。
「黒の獣使い!? なんで!?」
それまで硬直していたエアリエルは当然の疑問を口にする。
「それは勿論この地域一帯を我々が占拠するからですよ。そんなことも分からないとは人間とはやはり愚かだ」
「占拠だと!?」
あのブコツが先程とは違う意味で手を震わせている。そんなにやばい奴らなのか、しかし最も重要な質問をまだしていない。
「シャルルをどうした」
マミルクから発せられる威圧で声を掠れさせながら言う。
「ああ、そこにいた金髪の少女ですか。誘拐させてもらいましたよ。いや帰る場所であるあなた達がここでいなくなるので孤児を拾ったとでも言いましょうか」
「誘拐だと? シャルルを返せ!」
ブコツはマミルクと対角線にいる俺を上手く飛び超えると力任せにマミルクに槍を突き出した。
ドスッという不快な音共にマミルクにそれは貫通する。
「よし、黒の獣使いと言ってもこの程度か。やってやれないことは無いわ!」
やや緊張が解けたのだろうか。
あまりにもあっさり攻撃を食らったマミルクから槍を思い切り引き抜くと、
「無駄な抵抗は止めなさい」
心臓にぽかんと開いた風穴を摩りながら、致命傷を負ったはずのマミルクが何食わぬ顔で倒れるでもなくよろめくでも無く立っていた。
「な、何故! 確実に心臓を捉えたはず!」
「フフフ、私はね、人間。もう死んでいるんですよ」
「なっ、そんなはず!」
次にエアリエルが距離を取りながら矢を顔と鳩尾に打ち込む。
それをマミルクは避けようともせず敢えて食らって見せた。
「これで少しは信じる気になりましたか? まあ信じてくれなくてもどうせここで死ぬんですからどちらでもいいことですけどね、フフフ」
マミルクはゆっくり二本の矢を引き抜く。すると先程胸に開いた穴と同時に弓の傷がみるみるうちに塞がっていき、とうとう残るのは服と包帯に開いた穴だけになってしまった。
「なんなんだ、これは」
ブコツもエアリエルも戦意を喪失して武器を構えるのも忘れてしまっている。
これはマズいことになった。突然現れた黒の獣使いという謎の組織。そしてあのブコツやエアリエルですら敵わない強敵。すぐさま逃げ出したい。しかし命の恩人であるシャルルのことが気がかりだ。
そうだ、このマミルクという男にシャルルはどうなるか聞いて、それでもし命まで取られなければ逃げ出そう!
「なあ、少しいいか、マミルクとやら」
「ああ、次はあなたの番ですか。どうぞ、冥途の土産です。お好きに攻撃しなさい」
「いや、俺にそんな力は無い」
「ならばなんですか? 戦いもしないで死を受け入れるということですか? まあ無抵抗なら一瞬で殺してあげましょう」
「ふざけるな、まだ死にたくない。抵抗しないから生かしてくれ」
「フフフ、面白い冗談ですね。ですがもしここであなたを逃がしたとしてもすぐに私の部下たちに蹂躙されることになるのでここで死ぬのが最も最適な選択かと」
「確かに」
これで逃げてもしょうがないことが分かった。さっきのグレイフットとやらに次会ったらもう終わりだ。
それにこの口ぶりだと獣使いというくらいだからあいつを操れる者が相当数いるんだろう、逃げの目は完全に潰えてしまった――。
とか冷静でかっこよく分析してる場合じゃないって、俺! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ! やばくない、災難過ぎない、運悪すぎない!? 逃げの目が潰えたじゃないんだよ! 戦えもしないくせに何を偉そうに!
頭の中でパニックを起こしていると、
「聞きたいことはそれだけですか。ならばそろそろ――」
「待って待って! もう一つ、もう一つある!」
「はぁ、しょうがないですね、本当に最後ですよ?」
「そいつはありがたい、じゃあ最後の質問だ。何故シャルルだけを誘拐した?」
「ああ、そのことですか。いいでしょう、たいしたことではないので答えてあげます。あの人間の少女、シャルルとやらを誘拐したのは我々の眷属を増やすためです」
「眷属?」
「そもそも私も元は人間なのですよ。黒の獣使いは主に喰種といわれる種が所属しています。そしてその喰種は元が人間で、とある儀式を用いて人間を喰種に変貌させるのです」
「シャルルを喰種にするつもりか!」
ブコツが再び戦意に火を着ける。一方、エアリエルは未だ精神的に復活できていないようだ。
「だけど、なんでシャルルを」
「それは純粋に彼女がタイプだったからですよ、彼女を喰種にしたらどれだけ美しいか! 喰種になった暁には私の専属の秘書にでもしましょうかねぇ、ゆくゆくは夜伽も――」
「させるかぁ!」
自分の義娘が辿るあまりにひどい仕打ちにブコツは怒りを全面に出し、再び槍を突き出そうとした、その時だった。
「もうお遊びは終了です。彼女を喰種にしなければいけない故時間がない」
マミルクは右手を前に出すとそこから包帯が徐々に解けていき、まるで意志を包帯が意志を持っているかのようにブコツの槍を絡めとってしまった。
「何!?」
そのまま包帯で槍を操りその槍はブコツの足に貫通する。
「ッぐあああ!」
ブコツはその場に倒れると俺の腕を掴み、
「逃げろ、クソガキ。俺が囮になる。お前はエアリエルを連れてここを今すぐ離れるんだ!」
「どうして! ブコツさんは俺を敵だと思っていたんじゃないんですか!?」
「最初はな。だが、俺が槍で攻撃しようとした時お前は全く動けていなかった。俺が槍の軌道を変えなければ死んでいたからな、お前は良くも悪くも戦えないということで敵ではないことを証明したのだ。いいか、分かったら早く逃げろ!」
そういうと貫通した槍を勢いよく引き抜き、「うおおおおお!」と雄たけびを上げながら槍を支えに立ち上がった。
「ダメだ、おっさんもシャルルも置いて行けない!」
「フフフ、そもそも君たちを逃がす気は微塵もありませんよ」
不気味な笑いと共にマミルクの右手の包帯は今度は剣のように鋭く変化し、ようやく立ち上がったブコツのもう片方の足を貫いた。
「ああああ!」
「クソッ、おっさん!」
「俺のことはいい、早くエアリエルを連れて――」
「できるわけ無い!」
エアリエルが叫ぶ。
「ブコツさんはあたしにとってもお父さんみたいな存在だった! それに親友のシャルルを捨てて私だけ逃げるなんてできない!」
涙ぐみながらこちらに駆け寄ってきたエアリエル。
「し、しかし!」
「逃げるならシンジ、あなただけでも逃げて」
「どうして!?」
「あなたはこの件には全く無関係だわ。それにあたしたちと知り合ってまだそんなに時間もたっていないでしょう? どうかシンジ。あなただけでも!」
「ダメだ、逃げるならエアリエルも――」
『パンパン』と手を叩く音で俺たちの会話は遮られる。
「もういいですよ、そういう古臭いちんけな人情劇。この村で何度もそういう景色を見てきましたから」
「まさか! 村の人間もすでに殺して――!」
「ああ、うるさい奴らは殺しましたが、如何せん死んだ人間の肉はマズいのでね。女子供には眠ってもらってますよ」
「貴様――! 絶対に許さない!」
ブコツが叫ぶがマミルクは笑って受け流す。
「そうだ、そんなにみんな一緒がいいならまとめて殺してあげましょう」
そして今度は両手を前に出し指を広げる。するとそこから合わせて十本の包帯が現れ俺たちを包むように広がっていく。
「圧死に決めましたよ」
徐々に包帯は球状になり俺たちを完全に包み込んでしまった。
「もう終わりか」
ブコツは諦めたように呟く。
「すまんな、クソガキ。最終的にここまでお前を巻き込んじまった、包帯だけにな」
「カッハッハッ」とブコツの乾いた笑いが包帯の中で響く。
「シャルルッ!」
エアリエルは悔しそうにシャルルの名前を叫ぶ。
これが俺があんなにしてまで行きたかった異世界なのか。つい四、五時間前、神と会話している時までは夢だらけの世界だと思っていたのに。
「畜生ッ!」
隣ではブコツが叫び、
「グスッ、ごめんね。シャルル――」
さらにその隣ではエアリエルが泣いている。
違う違う、こんなんじゃない。俺が求めた異世界生活は。こんなに悲しみに満ちたものじゃない!
「諦めちゃだめだ」
「諦めるなって言ったって! この状況で一体何ができる!? 一人娘は攫われエアリエルも俺もあまつさえお前も包帯の中に閉じ込められたんだ、もうおしまいだ!」
暗くて表情が見えないが恐らくブコツは怒っているんだろう、マミルクでも包帯でもなく、何もできない自分自身に対して。
「包帯が近づいてきた! もうダメ!」
エアリエルは出会った時では考えられないくらい弱気になってしまっている。
「ああ、もう駄目だ」
俺は誰に言うでもなく一人呟いた。
「なんだとクソガキ! さっきと言ってることが違うじゃねえか!」
「もう駄目だ、我慢が出来ない」
「何を――」
エアリエルが二の句を継ごうとした時に自分の中の栓のようなものがポンッと抜けた気がした。
不意に身体から力が溢れてくる。許せない。俺みたいなやつに逃げろと言ってくれた人たちを殺そうとするなんて。命の恩人を、シャルルを喰種になんてさせない――。
「許さないぞ、絶対に」
「お、おい! なんだ、何が!?」
「し、シンジから凄いプレッシャーを感じる――」
「ウオオオオオオ!」
もう既に直径一メートルほどの狭さになった球体に内側から両腕で押し込む。
「おい、クソガキ。何を!」
「ガアアアアアア!」
さらに力を籠めようと踏ん張った瞬間。
『バリィンッ』
俺たちを包んでいた球体の包帯はそんな音を立ててビリビリに破けて空に舞った。
「なッ! そんな馬鹿な! 私の包帯が破られただと!」
マミルクは明らかに動揺している。
俺は茫然としている二人とマミルクの間に入る。
「どうやった! 私の包帯は絶対だ! 貴様ごときに破られるものでは――」
「許さないぞ、マミルク。今すぐシャルルを返せ」
思い切りマミルクを睨みつける。するとそのまま数歩下がってマミルクは腰を抜かしてしまった。
「な、なんだ。なんなんだ、こいつはァ!」
紳士的な態度が一変し声の限り叫ぶマミルク。
「今からお前を倒す闇野深時という人間だ。覚えておけ」
今ならなぜか力の使い方が手に取るように分かる。マミルクを睨みつけたまま全身に力を込めて威圧を放つ。
「ひいい!」
マミルクは包帯を壁状に変化させて身体を守ろうとするが、
「無駄だ」
発した威圧は包帯をすり抜けてマミルクに直撃する。
「わ、分かった! 女は返す! だから声押さないでくれ!」
「命乞いか、無駄だよ。言っただろう? 許さない――と」
その時自分の中の威圧の質が何か変化した気がした。
徐々に自分の中のエネルギーと意志が統一されてまとまっていくのが分かる。ふと後ろを振り向くと、
半透明な黄色い虎がいた。その虎は明らかに俺の威圧が意志によって変化したものだ。虎の顔を見つめると無言で頷いてきた。そうか、お前もあいつが許せないか。
「ならば行け! あいつを二度と世に放たないように!」
『グルゥアアッ』
虎は俺の身体を離れマミルクに向かっていく。
「な、なんなんだ、その虎はァ! こ、こっちに来るな! 止まれッ、とまれぇー!」
そのままマミルクはは虎の形をした威圧に飲み込まれ、俺の下に帰ってきたときそこには、
「シャルル! よかった、無事で――」
目を瞑って動かないが息はしているようだからとりあえず安心だ。
そう思うと突然体の力が抜けて膝をつく。
「クソガキ! 大丈夫か!?」
「シンジ、怪我は!?」
後ろからは匍匐前進で進みながらもこちらを心配してくれるブコツと駆け寄ってきてくれるエアリエルの姿があった。
「どうやら守れたみたい……だね」
「シンジ!」
「クソガキ!」
そして俺は三度意識を失ったのであった。
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「凄いですね、彼」
「ああ、本当にな」
画面をジッと見つめていたメイズとヴィスクは一安心、と言ってディスプレイを消す。
「しかし、相手が悪すぎて死ぬかと思いましたよ……。笛を吹いてくれればいつでも助けに行ったというのに」
「笛、落としてたぞ」
「え」
「笛、落としてた」
「えええええー!」
こうして辛くも強敵を何とか打ち取ったシンジであった。