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神に愛された異世界転移  作者: 筧 麟太朗
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五話

遅くなり、申し訳ございません。

 

 深時の目の前で先程まで死の危険に晒されていた少女、シャルルは腰を抜かす。すると男はいや、男というには些か幼く見えるその容姿をもつ少年は、可愛らしい笑みを浮かべながら「大丈夫?」と言いながらこちらに手を差し伸べて来る。

 一体この少年は何者なのだろうか、とシャルルは少し不安になる。エアリエルと私が駆け付けた時には死にかけていたというのに。元々私は見捨てるつもりだった、正義感が人一倍強いエアリエルさえ説得できればさっさとトンずらしてしまおうと思っていた。

 その思惑は結局失敗したのだが。

 勿論、普通の熊程度ならば怯みはしない。一対一でも余裕で勝てるだろう、しかしあいつは違う。フッと倒れているやたら狂暴そうな熊を見る。

 あの熊は魔王ギデオンが力を授けた魔物の一種で、普通の熊とは比べ物にならない程強力な力を持っている上に、性格は凶暴でとても手が付けられない、遭遇したらまず逃げることが最善の相手だ。

 それを倒してしまった、手も使わずに。

 噂に聞く『威圧』というものだろうか。森の中にある集落から出たことのないシャルルにとっては最早都市

 伝説のような存在であり、A級以上の冒険者なら敵を一瞬怯ませる位なら使えるのだと聞いたことがある。

 ということはこの少年はそれ以上の実力をもった冒険者ということなのだろうか、とここまで考えてから一向に返事をしないシャルルに対して少年が不思議そうな顔をしてこちらを見ていることに気が付く。


「あのー、本当に大丈夫?」


「え、ええ! 大丈夫! 助けてくれてありがとう」


「ううん、俺の方も助かったよ。こちらこそ本当にありがとう」


 そう言いながら少年はもう一度手を差し伸べてきた。少し迷ったが、掴んだその手はあれほど迫力があって強力な魔物を打倒したのと同じ人間とは思えない程華奢で、暖かくそしてとても優しいものだった。


「大丈夫、シャルル!?」


 少年の後ろからは他に魔物がいないか調べてくれていたエアリエルが走ってくる。


「うん、この人のお陰で何とか」


「良かったー、そういえば! あなた一体何者!? あんなに強力なグレイフットを倒すなんてただ者じゃないわ!」


 思い出したと言わんばかりに少年を責めるエアリエルを見てクスッと笑ってしまう。さっきまで相当緊張していたのだろう、堰を切ったかのように質問攻めにする。


「名前は!?」


「し、シンジ――」


「歳は!?」


「じゅ、十七歳でー―」


「出身地!」


「あ、えーと……」


「まあまあ、ちょっと落ち着いて、エアリエル」


「でも――!」


「気持ちは分るけど。見て、少年、じゃなくてシンジ? が怯えてる」


 流れでシンジの胸倉を掴んで質問していたエアリエルはスッと胸倉をつかんでいた手を緩める。


「ゴホッコホッ、く、苦しかった」


 首元を抑えながら荒い呼吸を繰り返すシンジ。


「ご、ゴメンナサイ。ちょっと興奮しちゃって」


「い、いや大丈夫だよ、少しびっくりしただけだから」


 笑顔を見せたシンジにエアリエルは安堵した表情になると、


「それにしてもさっきのグレイフットを倒した技は何? 見たこともないものだったけど……」


「あ、あれは威圧?」


「何で疑問形なのよ……」


 呆れ顔のシャルル。


「でもでも、威圧だとしたら凄い威力よ! あんなに強い威圧は見たことも聞いたこともない!」


 相変わらずエアリエルは興奮気味のようだ。


「本当に威圧なの?」


「本当だよ! 今やって見せ――」


「え、できるの!? やって! 見せて!」


 今度はシャルルが、エアリエルを窘めていたとは思えないほど食い気味で答える。


「私も見たい!」


「分かった、やるから落ち着いて……。行くよ?」


 不快深呼吸をしながら先程の巨大な熊を思い浮かべる。が、一向に威圧が発現する気配はない。


「あれおかしいな? もう一回!」


 もう一度、より鮮明に熊を思い浮かべて、殺されそうになったことを思い浮かべるが、まったくと言っていい程威圧は発現しない。


「んん? どうしてだろう?」


「やっぱり嘘ついてたんじゃないの?」


 いぶかしげな表情でシンジをの横顔を覗き込みながらシャルルは疑問を口にする。


「もしかしてと思ったけど流石にそんなことは無かったかー」


 意外とあっさり諦めてしまうエアリエル。


「ちょ、ちょっと待ってよ! さっきは本当にできたんだってば!


やはりあのヴィスクとかいう神様が言っていた通り人を助ける時にしか発動しないのだろうか……。


「ま、いいわ。その様子じゃどうせ止まる場所なんてないんでしょ? 私の家に空き部屋があるから止めてあげるわ」


 そういってそっぽを向くシャルル。


「それはありがたい! 実はここに来たばっかりで先立つものも知識もないんだ」


「来たばっかり? うちの村に来るには一番近くの村からでも最低二日はかかるんだけど」


 エアリアルは不思議そうな顔をするが、


「いや、細かいことは気にしないで! さ、早く二人の村に行こうよ。楽しみだなぁー」


 誤魔化せた、のだろうか。幸い二人は不思議そうではあるものの怪しんではいないようだ。


「うちの村なんて辺境だから何もないと思うけどなー」


 シャルルとエアリアルは俺の前を迷いなく歩いていく。

 さあやっと異世界初の村だ! どんな感じなんだろうなぁ!

 そんな期待に胸を馳せながら急ぎ足で二人の後に続くのだった。







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