一話
本日序章に続き第一話です。
序章をまだお読みでない方は出来れば読んで頂けると嬉しいです。
宇宙のような空間に浮かぶ神殿、聖ヴィスク神殿。そこには人間が好きなヴィスクという神が存在する。
彼は四六時中人間界を監視し面白い人間を常に探し続けている。荘厳な雰囲気が漂う神殿内で玉座のようなものに座り、目の前には映画館のスクリーンのような大きいパネルが浮いており、そこには一人の少年が映し出されていた。
夜の街を颯爽と走る少年、闇野深時である。顎を手に載せてニヤつきながらその映像を見ていると途端、少年は死角から出てきた車に跳ね飛ばされて絶命した。しかしヴィスクは声を上げるどころか驚きもせず、ただ一言、
「面白い」
と、言った。
彼は事故が起きることは分かっていた。理由は神だからの他に無いだろう。そして深時の最後の言葉を彼は聞き逃さなかった。
「異世界だったら、か。面白い、そこまで異世界に執着する貴様を本当に異世界に送ったらどうなるのだろうな。おい、メイズ。彼を、闇野深時をここに連れてこい」
ヴィスクは何も無い空間に向かって声を掛けた。すると、どこからともなく容姿端麗な美青年が現れる。
「お言葉ですがヴィスク様、彼の者は聖フィア様の担当している世界の人間です。どのような理由があろうと他の神の世界の人間を手に入れるというのは……」
軽くウェーブのかかった髪を携えて呼び出されたメイズは至極まっとうな意見を口にする。
この神の世界には十人の神が存在しており、十柱と呼ばれて彼らは一人ひとり自分の世界を所持している。そして神同士、それぞれの世界へは不干渉を貫いていた。
「そうか、あの嬢ちゃんの世界の人間か。確か地球と言ったな」
「ええ、そうですが。それがなにか?」
「いや? その地球とやらこの間第七柱神が欲しがっていたなと、思ってな」
「そうなのですか!? いえ、しかしそれぞれ世界には干渉しないというルールがある限り大丈夫でしょう」
「そうでもないぞ、そのようなルールはあくまで暗黙のものだ。誰一人そのようなことは口にしていない」
「で、ですが! だからといってヴィスク様が地球に手を出していいわけではありません!」
声を張り上げて否定するメイズ。
メイズの反応を横目で見てフッと笑い、ヴィスクは続ける。
「誰が地球に手を出すと言った。話を最後まで聞け」
「では、一体どういうことでしょうか」
「簡潔に言うと、あのお嬢ちゃんを守ってあげるんだよ」
「守る?」
「ああ、第七柱神ゲエズからな。そもそも俺たち十柱が何故お互いに不干渉を貫いているか知っているか、メイズよ」
「すみません、最近召喚されたばかりなので……」
メイズは申し訳なさそうに頭を下げる。
「ならばよい機会だ、教えてやろう。俺たち神にたった一つだけある絶対不可侵の掟。これを犯せば争いになる。するとどうなる? 俺たち神が戦えば必ずどちらかが消えることになるんだよ、確実にな」
「消える……」
「そうだ、消える。存在も記憶も。永遠の命をもつ俺たちは人間のように輪廻転生などできない。文字通り消えるのさ」
「だからお互いに争いの種を作らない様に……」
「そういうことだ。しかしこ今回は少し状況が異なる。お嬢ちゃん、聖フィアは顕現してからまだ日が浅い。対して第七柱神のゲエズは共に数え切れない年月を共に過ごしてきた。今ゲエズが地球を乗っ取ろうとお嬢ちゃんのところに攻め込んだらどうなると思う?」
「……」
全てを理解したメイズは黙って俯く他ない。
それを確認してヴィスクは、こう言い放つ。
「お嬢ちゃんのところに伝言を。『闇野深時をこちらに引き渡せば第一柱神であるこのヴィスクが地球を守ってやる』とな」
メイズが伝言を伝えてからは速かった。トントン拍子で話が進み、闇野深時を第一世界別名『ウィンズ』へ転生させるのは容易であった。そもそも神の中で最も変わり者であり、最強である第一柱神、ヴィスクが第十柱神のフィアに頼み事、など最早脅し以外の何物でもない。しかし、彼女にとってもいい取引だったはずだ。なにせ人間を一人引き渡すだけでヴィスクの庇護下に入れるのだ。そんなことを考えながら玉座に座るヴィスクの横で剣を持ち鎧を着て立つメイズ。
ヴィスクの眼前には仰向けで倒れる闇野深時がいる。何故か。どうしても目が覚める瞬間が見たいとヴィスクが言ったからである。メイズはほとほと変神に仕えてしまったようだ、と後悔をしていると、
「う、うう……」
闇野深時が目を覚ました。